異世界ぎきょうだい不仁義~異世界にダークエルフとして転生したら、再会した弟分がハイエルフの令嬢になっていた~

呉万層

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25 思い出

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 ジグソンが祈りだす。


「竜を討ち、悪魔を退けたテーラー家の偉大なる祖先たちよ。恐れに打ち勝つ力を我に与えよ」


 政信は皮肉気に笑う。


「胸の大きな死神になら、いつでも歓迎するってもんだ。鎌を振り下ろす前に組み伏せて――冗談だ。ついカっとなって言った。今は反省してます。もうしわけありません」


 カタリンとムーナが、殺人の指令を出す悪党の首領じみた笑顔を浮かべるや、政信は逮捕された少年犯罪者のように謝罪した。


 今も最も危険な位置にいる珠緒の謝罪は、より切実だった。


「ごめんなさい! 借金は、働いて必ずお返ししますから。占いとか死霊術で稼ぎますから。今回ばかりは、お見逃しください」


 珠緒は床に転がりながら、器用に頭を下げ続けた。


「すげえな。ハリウッド映画の日本人ビジネスマンでも、ここまで頭を下げないぞ」


「はりうっど? にほんじんびじねすまん? なんじゃいそりゃ」


「こっちの話だ。気にしないでくれ」


「映画、また観たいっすね。もう無理だってわかってはいるんすけど」


 日本の話を聞くや、お嬢様風のから悪ガキ風に話し方をチェンジしたカタリンは、肩を落とした。
 カタリンは俯き、裾を握りしめていた。


「今度、観劇にでも連れてってやるよ。栄えたところなら劇場くらいあるだろ」


「映画が良いっすよ。昔アニキに連れて行ってもらったところが」


「この世界にはないぞ」


 床に寝そべりながら、政信は冷静に返事をした。
 同時に、映画と聞いて、懐かしさが胸に溢れた。


 日本での生活を思い出し、目が潤みだす。縛られて床に転がされているので、泣いてもいい状況のような気もする。だが政信は、男は泣かないものだという昭和的な価値観に毒されていたので、涙を流さぬよう我慢した。


「またアニキと一緒に見たいっすね。走るタイプのゾンビ映画」


「あ、そうだな」


 懐かしさはあっても、感動や郷愁を誘う映画を観た例はなかった。それに、日本でいい生活を送れていたわけでもなかった。むしろすさんだ生活であったと思い返し、政信は涙を引っ込めることに成功した。


「でもゾンビはこの世界にもいるみたいっすから、ありがたみもないっすね」


「そもそもゾンビに、ありがたみもなにもないだろ」


「そっすねー」


 政信とカタリンは、朗らかに笑い合った。


「ところで、そろそろ縄を解いてくれないか」


「ダメですわ。わらわとカタクラどちらが生物として優位か、そろそろ理解していただくといたしましょう」


 お嬢様風の話し方をするカタリンは、いつもより冷徹だ。しかし、よくもまあコロコロと話し方の切り替えができるものだ。
 感心しつつも、政信は交渉を続ける。


「いやいや、そろそろあっちがシャレにならないことになりそうだから。止めたいんだが」


 政信はムーナと珠緒のいるほうに、顎をしゃくった。
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