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負け犬のような動きをする政信に対して、珠緒の口から切実な要請が飛ぶ。
「はい、じゃないでしょ! ちゃんと止めなさよい」
「やはりカタクラは、わらわだけいればいいと理解しているのですね。よろしい。脂肪がついていることだけが自慢の女など、見捨てておしまいなさい」
お嬢様として振舞うカタリンの命令は、政信にとって無視しづらいものだった。
だが同時に、偉そうにされると、どうしようもなく頭にくる政信だった。
「ムーナちゃん。タマは特殊な能力を持ってる。役に立つし金になる。間違いない。賭けてもいい」
「では、命を賭けられますか」
「それは――」
嫌だ、御免だと言いそうになる。しかし、珠緒の親に縋り付く幼児のような目と、カタリンの示すハイエルフの令嬢らしい冷たい視線が、政信に決意させた。
少年漫画の主人公のように、自らの意思を口にする。
「わかった。賭けるよ」
「な、カタクラ! 泥棒猫をかばうとは、裏切る気ですか」
「俺は古い友人を裏切らないんだ」
言い切る政信に、カタリンは不満そうに口を結んだ。
「いいでしょう。では、期日を決めませんとね。珠ちゃんさん?」
「十日もいただければ返せますから。アテはあるんです。本当です」
初めての法廷に臨む新人弁護士よりも必死な珠緒を、政信も援護する。
「俺が責任を持って支払いをさせるから、今度こそ信用してくれ」
「その言葉、信じますよ。じゃあご飯にしましょうか。皆さんの分もありますよ。今日はもう遅いので、食べ終わったらゆっくり休んでくださいね。明日から忙しくなるわけですから」
「そういえば、わらわも空腹ですし。いただきましょうか」
「助かったの?」
他人事のように夕食を喜ぶカタリンと、激戦地から帰還を果たしたばかりの兵士が浮かべるような珠緒の表情は、好対照だった。
政信は息を吐いて緊張を解き、椅子に座った。
「って、お父さん、夕食前にお酒飲みすぎよ」
「酒でも飲んでないと、やってられんわい。金もないがな。ガハハハッ」
「もーお父さんたらしょうがないだから」
笑いながら麦酒を意に流し込むジグソンに対し、ムーナはわずかに眉を寄せるだけだった。
政信がテーラー親子のやり取りを、何気なく横目で見ていると、カタリンの不快そうな顔が目についた。
カタリンは、悪ガキの顔をして、吐き捨てる。
「金もないのに酒を飲んで、なんで怒られないんすかね」
「余計なことを言うな」
「日本にいたころのクズ親を思い出して、ムカつくんすよ。給食費払わないのに酒とタバコは買うんすよね」
政信は、カタリンがまだ村田ミズキとして日本で暮らしていたころを思い出した。
初めて出会ったのは、オリスト・カタリンが村田ミズキと名乗っていた只人だった。
ミズキがまだ中学に入りたてのころで、汚れた格好をして、繁華街で所在なげにうろついていた。
ハイエルフに転生した今ほどではないが、顔は整っていたので、ケバいお姉さんや少年趣味の親父に声をかけられてもいた。
政信とカタリンが育った地域は、家に居場所がないタイプの少年少女は珍しくなかった。行く当てのない子供がチンピラに絡まれたり、食い物にしようとする筋者に話しかけられたりするような光景は、珍しくもなかった。
だから大抵はスルーするのだが、なぜか政信――当時は片倉政信ではなく新田政信だった――は、酔った中年オヤジに肩を抱かれているカタリン――当時のミズキ――を、助けてやった。
以来つるむようになり、酷すぎるカタリンの親をぶん殴ってやったり、イジメてくる同級生を、やはりぶん殴ってやったりした。
街での仕事を手伝わせ、危ない目に遭わせながら小銭を稼ぎもさせた。
日本で数年共に過ごしたが、異世界でもすでに十数年行動を共にするようになっていた。
奇縁というか腐れ縁というか、随分と長い付き合いになったものだ。
「なにを笑ってるんすか。キモイっすよ。イタイイタイ、やめるっすよ」
政信は、とカタリンの頭に手刀を何発か叩き込んでやった。
「仲いいのね」
恐怖を乗り切った珠緒が、感情の抜けた顔で呟いた。
「「悪くはない」」
政信とカタリンは、声をそろえた。
「マサありがとう。あなたのお陰で耳なしにならずに済んだわ」
「自分の耳の味付けにも、悩まずに済んだな」
「本当にありがとう」
政信が見たことのない真剣な表情で、珠緒は礼を言った。
「で、アテはあるんだよな。なけりゃ俺が絵を描く。占いは上手くやれば、金になる」
「胡散臭いことしないでも大丈夫、本当にアテはあるの。できれば借金を返したくなかったのと、アテはあっても気が進まないってだけだったのよ」
「タマ、できれば返したくなかったの下りは、ムーナちゃんにいうなよ。今度こそ想像もできないような恐怖と共に葬られるぞ」
「わかってるわ。それよりも手伝ってよね。当ては本当にあるんだから」
「話して御覧なさい」
政信は、偉そうで乗り気なカタリンと共に、珠緒の言うところの〝アテ〟を聴いた。
「私に浮遊霊たちを紹介してくれた人のいるところへ行くのよ」
珠緒は器用にも、得意気にイヤそうな顔をしていた。
「はい、じゃないでしょ! ちゃんと止めなさよい」
「やはりカタクラは、わらわだけいればいいと理解しているのですね。よろしい。脂肪がついていることだけが自慢の女など、見捨てておしまいなさい」
お嬢様として振舞うカタリンの命令は、政信にとって無視しづらいものだった。
だが同時に、偉そうにされると、どうしようもなく頭にくる政信だった。
「ムーナちゃん。タマは特殊な能力を持ってる。役に立つし金になる。間違いない。賭けてもいい」
「では、命を賭けられますか」
「それは――」
嫌だ、御免だと言いそうになる。しかし、珠緒の親に縋り付く幼児のような目と、カタリンの示すハイエルフの令嬢らしい冷たい視線が、政信に決意させた。
少年漫画の主人公のように、自らの意思を口にする。
「わかった。賭けるよ」
「な、カタクラ! 泥棒猫をかばうとは、裏切る気ですか」
「俺は古い友人を裏切らないんだ」
言い切る政信に、カタリンは不満そうに口を結んだ。
「いいでしょう。では、期日を決めませんとね。珠ちゃんさん?」
「十日もいただければ返せますから。アテはあるんです。本当です」
初めての法廷に臨む新人弁護士よりも必死な珠緒を、政信も援護する。
「俺が責任を持って支払いをさせるから、今度こそ信用してくれ」
「その言葉、信じますよ。じゃあご飯にしましょうか。皆さんの分もありますよ。今日はもう遅いので、食べ終わったらゆっくり休んでくださいね。明日から忙しくなるわけですから」
「そういえば、わらわも空腹ですし。いただきましょうか」
「助かったの?」
他人事のように夕食を喜ぶカタリンと、激戦地から帰還を果たしたばかりの兵士が浮かべるような珠緒の表情は、好対照だった。
政信は息を吐いて緊張を解き、椅子に座った。
「って、お父さん、夕食前にお酒飲みすぎよ」
「酒でも飲んでないと、やってられんわい。金もないがな。ガハハハッ」
「もーお父さんたらしょうがないだから」
笑いながら麦酒を意に流し込むジグソンに対し、ムーナはわずかに眉を寄せるだけだった。
政信がテーラー親子のやり取りを、何気なく横目で見ていると、カタリンの不快そうな顔が目についた。
カタリンは、悪ガキの顔をして、吐き捨てる。
「金もないのに酒を飲んで、なんで怒られないんすかね」
「余計なことを言うな」
「日本にいたころのクズ親を思い出して、ムカつくんすよ。給食費払わないのに酒とタバコは買うんすよね」
政信は、カタリンがまだ村田ミズキとして日本で暮らしていたころを思い出した。
初めて出会ったのは、オリスト・カタリンが村田ミズキと名乗っていた只人だった。
ミズキがまだ中学に入りたてのころで、汚れた格好をして、繁華街で所在なげにうろついていた。
ハイエルフに転生した今ほどではないが、顔は整っていたので、ケバいお姉さんや少年趣味の親父に声をかけられてもいた。
政信とカタリンが育った地域は、家に居場所がないタイプの少年少女は珍しくなかった。行く当てのない子供がチンピラに絡まれたり、食い物にしようとする筋者に話しかけられたりするような光景は、珍しくもなかった。
だから大抵はスルーするのだが、なぜか政信――当時は片倉政信ではなく新田政信だった――は、酔った中年オヤジに肩を抱かれているカタリン――当時のミズキ――を、助けてやった。
以来つるむようになり、酷すぎるカタリンの親をぶん殴ってやったり、イジメてくる同級生を、やはりぶん殴ってやったりした。
街での仕事を手伝わせ、危ない目に遭わせながら小銭を稼ぎもさせた。
日本で数年共に過ごしたが、異世界でもすでに十数年行動を共にするようになっていた。
奇縁というか腐れ縁というか、随分と長い付き合いになったものだ。
「なにを笑ってるんすか。キモイっすよ。イタイイタイ、やめるっすよ」
政信は、とカタリンの頭に手刀を何発か叩き込んでやった。
「仲いいのね」
恐怖を乗り切った珠緒が、感情の抜けた顔で呟いた。
「「悪くはない」」
政信とカタリンは、声をそろえた。
「マサありがとう。あなたのお陰で耳なしにならずに済んだわ」
「自分の耳の味付けにも、悩まずに済んだな」
「本当にありがとう」
政信が見たことのない真剣な表情で、珠緒は礼を言った。
「で、アテはあるんだよな。なけりゃ俺が絵を描く。占いは上手くやれば、金になる」
「胡散臭いことしないでも大丈夫、本当にアテはあるの。できれば借金を返したくなかったのと、アテはあっても気が進まないってだけだったのよ」
「タマ、できれば返したくなかったの下りは、ムーナちゃんにいうなよ。今度こそ想像もできないような恐怖と共に葬られるぞ」
「わかってるわ。それよりも手伝ってよね。当ては本当にあるんだから」
「話して御覧なさい」
政信は、偉そうで乗り気なカタリンと共に、珠緒の言うところの〝アテ〟を聴いた。
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珠緒は器用にも、得意気にイヤそうな顔をしていた。
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