異世界ぎきょうだい不仁義~異世界にダークエルフとして転生したら、再会した弟分がハイエルフの令嬢になっていた~

呉万層

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39 ダークエルフ、キレる

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「もう駄目っす! 次も、こんなに可憐できれいで美しい生き物に転生できるとは限らないのに! せっかく転生ガチャで勝ったのに、台無しっすよ! ママー、日本のパチンコ狂いじゃなくてこの世界の厳しめだけどキレイなママー、助けてー。気が向いたらいい子にするからー」


「馬鹿言ってないで伏せろ!」


 錯乱するカタリンを床に押し倒し、様子を窺うが、馬の様子に変化はない。


「この薬、賞味期限切れか?」


「それをいうなら、消費期限ではありませんか?」


 などと、政信とムーナが顔を突き合わせたところで、馬車が跳ね、急激に加速を始めた。


 馬の様子を窺う。狂ったように首を振りながら、疾走していた。
 狂騒薬の効果は、まだ残っていたようだ。


 政信が胸を撫で下ろしていると、馬車が大きく跳ねる。慌てて荷台内の出っ張った部分を掴む。


「捕まれ、振り落とされるぞ」


 上下左右に激しく揺れながらも、馬車は城下町の目貫通りを、城門目掛けてまっすぐに駆け抜ける。
 追いすがるスケルトン・チャリオットもスケルトン・スティードも、落ち武者の乗る首なし馬たちも、さらに空を行く大カラスたちも、後方へ消えていった。


「やった大成功だ。俺の見込んだ通り。ざまあみろ」


「いや、出たとこ勝負だったすよね」


「勝ちは勝ちだろ。イエーイ」


「まあそうっすね。いえーい」


 政信とカタリンは手のひらを打ち付け合った。


「あの楽しそうにしているところ悪いのだけど、この子たち止まらないんだけど」


「大丈夫ですよ。アタマスグクルウXは、鎮静と解毒の作用のあるアタマナオールCと抱き合わせで販売されているはずですから」


「え? そうなの」


「もってないのですか。どうやってアタマスグクルウXの成分を抜いていたのです」


「薄い塩水ガブ飲みして寝てた」


「へー、それで薬って抜けるんですね」


「死んだ戦友もいたから、迷信だったかもしれない」


 現実から逃避するためにムーナとの会話を楽しんでいると、御者台の珠緒から、何度目かの悲鳴が上がる。


「暢気に話している場合! スピード落ちないから、このままだと城門に激突しちゃう」


 数百メートル先の巨大な扉は分厚く、要所を鉄で補強されていると、遠くからでもわかった。


 突っ込めば、馬も馬車も荷台も、乗っている政信たちもバラバラになるだろう。

 
 狂騒薬を飲んだばかり馬たちに、止まる気配はない。ならば、やることは一つだ。


「しかたない。ミズキ」


「ミズキじゃなくてカタリンっす」


「雷の法術を使え。もちろん大雷術だ。城を門ごと吹き飛ばせ」


「やっちゃって、いいんすか?」


 カタリンは、拳銃を持った戦後の広島ヤクザがするような、どう猛な顔をしていた。
 政信は、カタリンの態度に応えて、武闘派の親分のように命令する。


「良くはない。だがやれ」


「了解っす」


 樫の杖を頭上にかざして集中するカタリンの周囲に、先ほどまでとは比べ物にならない雷の閃光が瞬き始めた。

 
「駄目、駄目よ。敵対行動だって見なされる。仕事の紹介どころじゃなくなるわ。そうなったら、返済期日に間に合わない」


「大丈夫だ。期日なんてスライム見たいに伸びる。心配するな」


「伸びません。心配しましょう。主に債権者のタマちゃんさんが」


「酷い」


「タマ、切り替えが肝心だ」


「何かいい手があるの?」


「もちろんだ。ムーナちゃん、この辺りに生命保険を扱ってるところってある?」


「互助組合が扱ってますけど、地元民しか加入できません。冒険者組合員なら生命保険も傷病保険も入れますけど、一定以上の等級にならないと、掛け金ばかり高くなっちゃいます。ある程度地元で働いて、信用を得てから互助組合に加入したほうは良いと思いますよ」


「ちょっと待って、この状況で生命保険の話はやめてくれる。冗談でも怖いから」


 御者台から振り返る珠緒の顔は、ダークエルフにもかかわらず蒼白になっていた。

 
「冗談? なんのことだホワイトエルフ」


「暗黒教団の司祭を務めている父の知り合いが、動物の内臓を欲しがっていました」


「ねえムーナちゃん。なんでそんな話をするの? ていうか、なんでジグソンさんに暗黒教団? の知り合いがいるの?」


「幼馴染なんだそうです。生き物の内臓をえぐり取ったり、いけにえを捧げる儀式を取り仕切っているとき以外は、良い人だそうですよ」


「なにのその、人を殺さなければいい人、みたいな矛盾。凄く怖いのだけど」


「怖くなるのは、これからだ」


 政信は、弔辞でも読むような調子で呟いた。


 悪質な冗談のつもりだったが、馬車内に重い沈黙が下りた。


 重苦しさの主原因は、無論、珠緒だ。


 手綱を掴んだまま、揺れる馬車の荷台で体を震わせていた。


 少し脅かし過ぎたか。珠緒に冗談だとしらせて、安心させてやろうとした次の瞬間、珠緒の小さな声が、耳に滑り込んできた。


「……やる」


「なにをだ」


「突っ込んでやんよ」


 珠緒は、キレていた。
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