51 / 144
50 揉めごと
しおりを挟む
俺は何を言って、なにをやっているのだろう。いや、いたのだろう。カタリンがここ最近の放浪生活とは違う衣装と装飾品で彩られていたせいか、敬うべき淑女として扱ってしまった。
言動を顧みた政信の体温は、高度経済成長期の物価のように、急上昇していると自覚した。
政信はダークエルフのため、目の前のカタリンほどは紅くなっていないはずだが、紅黒くはなっているだろう。政信は、いかにカタリンが見目麗しとはいえ、口説くような真似をするとは、思ってもみなかったのだ。
日本人としての記憶が戻ってから初めて、あるいは改めて、政信はカタリンを女性として認識した。
超美人で可愛いじゃん、俺の弟分。などと、女性として意識していた。
恥ずかしさのあまり、顔を覆って、床の上を転げまわりたくなる衝動に駆られる。インフルエンザや落ち武者の与える熱病にかかっても、ここまで紅くはなるまい、と、いうくらい顔をリンゴのようにしているカタリンも、同じような心情に違いなかった。
政信とカタリンは、顔を背けて押し黙るしかなかった。
「二人とも冷静になった? だとしたら助かるわね。部屋が地獄の釜みたいに暑くなっちゃって、こまっていたのよー」
ヤレヤレとばかりに、半笑いの顔で、珠緒は首を振った。
アメリカ製のカートゥーンに出てくる、嫌われ者のクラスメートがするような、鬱陶しい仕草だった。
だが、政信とカタリンの間に流れる、砂糖をハチミツ漬けにした上に、ミルクチョコレートとホワイトチョコレートをかけて煮しめたような空気を変える効果はあった。
珠緒の態度に、複雑な感謝の気持ちを乗せた罵声が、政信とカタリンから飛ぶ。
「うるせえな。タマ、元々お前が余計なことを言うからこんなことになったんだろ」
「そうっすよ。アンタがボクを売ろうとしたから、こんな格好をしてるんすよ。うらぎりもの!」
カタリンのいう通りだった。
なぜカタリンがウェディング・ドレスを着ているかと言えば、珠緒が苦し紛れに出したロクでもない提案――人身売買――のせいだからだ。
珠緒は、カタリンを嫁としてアンダウルスに紹介することで、報酬を得ようとした。
恐るべきことに、アンダウルスは興味を示した。お陰で、今カタリンは、ウェディング・ドレス姿となっていたのだ。
「売ったとは人聞きが悪いわね。地位も資産もある優良な結婚相手を紹介してあげただけじゃない。感謝して欲しいくらいだわ」
「太守閣下は、貴顕で資産もお持ちです。しかし、アンデットの首領です。結婚生活は危険で悲惨なものになりかねないではありませんの。仲間を売っておいて、感謝しろとはいかがかと思います。最高の淑女であるわらわも、感情的になりそうでしてよ。なんなら、頭からカジリつくっすよ!」
前半はお嬢様風にしゃべり、最後に悪ガキ風に変ずるとは、器用な奴だ。
感心しつつも、野犬のように牙をむくカタリンが飛び掛かる前に、政信は珠緒に詰め寄る。
「北の岬で流れた結城氏の評判が噂通りなのか? 仲間を売ったというか、背中から仲間を撃ったとかいわれてたけど」
「マサ、ここでそれを言う?」
「いいタイミングだろ。タマが脱走した理由も、ハッキリしそうだしな」
「わたしの誠意を疑っているの?」
珠緒は、打ちひしがれたかのように、顔を俯けた。
言動を顧みた政信の体温は、高度経済成長期の物価のように、急上昇していると自覚した。
政信はダークエルフのため、目の前のカタリンほどは紅くなっていないはずだが、紅黒くはなっているだろう。政信は、いかにカタリンが見目麗しとはいえ、口説くような真似をするとは、思ってもみなかったのだ。
日本人としての記憶が戻ってから初めて、あるいは改めて、政信はカタリンを女性として認識した。
超美人で可愛いじゃん、俺の弟分。などと、女性として意識していた。
恥ずかしさのあまり、顔を覆って、床の上を転げまわりたくなる衝動に駆られる。インフルエンザや落ち武者の与える熱病にかかっても、ここまで紅くはなるまい、と、いうくらい顔をリンゴのようにしているカタリンも、同じような心情に違いなかった。
政信とカタリンは、顔を背けて押し黙るしかなかった。
「二人とも冷静になった? だとしたら助かるわね。部屋が地獄の釜みたいに暑くなっちゃって、こまっていたのよー」
ヤレヤレとばかりに、半笑いの顔で、珠緒は首を振った。
アメリカ製のカートゥーンに出てくる、嫌われ者のクラスメートがするような、鬱陶しい仕草だった。
だが、政信とカタリンの間に流れる、砂糖をハチミツ漬けにした上に、ミルクチョコレートとホワイトチョコレートをかけて煮しめたような空気を変える効果はあった。
珠緒の態度に、複雑な感謝の気持ちを乗せた罵声が、政信とカタリンから飛ぶ。
「うるせえな。タマ、元々お前が余計なことを言うからこんなことになったんだろ」
「そうっすよ。アンタがボクを売ろうとしたから、こんな格好をしてるんすよ。うらぎりもの!」
カタリンのいう通りだった。
なぜカタリンがウェディング・ドレスを着ているかと言えば、珠緒が苦し紛れに出したロクでもない提案――人身売買――のせいだからだ。
珠緒は、カタリンを嫁としてアンダウルスに紹介することで、報酬を得ようとした。
恐るべきことに、アンダウルスは興味を示した。お陰で、今カタリンは、ウェディング・ドレス姿となっていたのだ。
「売ったとは人聞きが悪いわね。地位も資産もある優良な結婚相手を紹介してあげただけじゃない。感謝して欲しいくらいだわ」
「太守閣下は、貴顕で資産もお持ちです。しかし、アンデットの首領です。結婚生活は危険で悲惨なものになりかねないではありませんの。仲間を売っておいて、感謝しろとはいかがかと思います。最高の淑女であるわらわも、感情的になりそうでしてよ。なんなら、頭からカジリつくっすよ!」
前半はお嬢様風にしゃべり、最後に悪ガキ風に変ずるとは、器用な奴だ。
感心しつつも、野犬のように牙をむくカタリンが飛び掛かる前に、政信は珠緒に詰め寄る。
「北の岬で流れた結城氏の評判が噂通りなのか? 仲間を売ったというか、背中から仲間を撃ったとかいわれてたけど」
「マサ、ここでそれを言う?」
「いいタイミングだろ。タマが脱走した理由も、ハッキリしそうだしな」
「わたしの誠意を疑っているの?」
珠緒は、打ちひしがれたかのように、顔を俯けた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる