異世界ぎきょうだい不仁義~異世界にダークエルフとして転生したら、再会した弟分がハイエルフの令嬢になっていた~

呉万層

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55 冷却

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 カタリンは、なにかに耐えるかのように、両拳の握りしめた。


「それは……そうかもですけど、しかし」


「お前も俺も、家庭に恵まれていたか? 逆だろ。俺は、権威主義でモラハラクソ野郎の父親を憎んでいたし、過干渉で感情的な母親を軽蔑していた。お前の両親だって、ロクなもんじゃなかった。だから俺達は町でチンピラをしていたんじゃないか。結婚や家庭に、幻想を抱けるわけがないだろ! だから振ってやったんだよ」


 日本での子供時代を思い出した政信は、激情のままに叫んだ。


 それでも、カタリンの言葉遣いは、悪ガキ風に戻らない。


「でも、でも。ここでは、いい家族に出会えたのです。だから」


 カタリンは、日本の悪童ではなく、異世界のハイエルフであると、態度で示しているようだ。


「だからなんだ! こっちの世界なんて関係ない。俺たちを形作ったのは、あくまで日本での人生だ。日本での生活を思い出した俺たちは、その記憶や経験から逃れられない。それに、今の俺たちも、長くないかもしれん」


 吐き捨てる政信に、カタリンは追いすがる。


「わらわたちエルフ族には、千年の寿命があるではありませんの」


「西王国は滅ぼされた。混沌の軍勢によってな。東王国はハイエルフと精霊の支配する領域だ。混沌の軍勢といえども、返り討ちできるだろう。だが、西王国から南には、混沌と戦える軍を持っている国はない。南下されれば、止められないぞ。それに――」


 黙っていられないとばかりに、ムーナが口を挟む。


「ちょっと待ってください片倉さん。前にも言いましたよね。わたしたちドワーフを統べる鉱人王様の元には精鋭が集まっています。大砲だって銃だって沢山あります。混沌の軍なんかには負けません」


 話を途中で遮られる経験は、日本のおける政信の母親が良くしていたものだ。ちょっとしたことだが、政信にとってはストレスだった。


 感情が爆発する。親の仇――概念として――を見るかのような目で、ムーナに対峙した。


「栄養が胸にしか言っていないのか、チンチクリンの馬鹿女め。お前たち横幅ばかりデカい鉱人族のチビが、連射が利かず煙で味方の視界を遮る火砲を揃えたところで、正面から突破されるのがオチだ。混沌に従う蛮族どもは、狂信的で獰猛だ。混沌の怪物や戦士たちは人知を超えた存在だ。混沌の軍との戦い方を習得していないと、一方的に打ち破られるぞ。この程度のこともわからない奴が、差し出口を挟むな。ドワーフの娘なら、大人しく鉱石でも尻で掘ってやがれ。ツルハシでな。得意だろ」


「マサったらキレちゃてまー、兵隊時代を思い出すわー。ムーナちゃん流れ弾ね」


「他人事みたいに言ってないで、慰めてくださいよ。わたし、傷つきました。ここまでの悪口雑言を投げつけられたのは、初めての経験です」


「ガラの悪い地域とか軍とかの言葉遣いに比べれば、まだマシな言い方なんだけどね」


「この経験は、石に刻みます」


 ムーナの瞳には、アンデットで死霊術師の珠緒よりも、深い暗闇が伺えた。


 取り返しのつかないことをしでかしてしまったが、ヤケになりつつある政信は止まらない。


「比較的まとまった戦力のある鉱人族が駄目だが、南のリザートマンは強いが数が少ない。南東部の人族は知らんが、鉱人族ほど火力もないだろうからやっぱり駄目。竜骨大陸は、ハイエルフの東王国と、竜骨山脈に籠城できる洞窟ゴブリンしか残らないだろうな。つまり、俺たちは助からない。今は、どこに逃げるかを考えるときだ。そんな非常時に、結婚だと?」


「いつするかなぞ、関係ありません。する気があるかどうか問題なのです」


 なおもお嬢様として対峙するカタリンに、怒りが募る。


「時期は関係あるし、結婚なんぞする気はない」


「カタクラの強情! 分からず屋! 目つき悪い!」


「俺は強情でもわからず屋でもない。目つきについては言うな。人の身体的特徴をあげつらうのは、良くないぞ」


 政信が最後に放った言葉によって、ヒートアップしていた空気が、一瞬で冷えた。
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