異世界ぎきょうだい不仁義~異世界にダークエルフとして転生したら、再会した弟分がハイエルフの令嬢になっていた~

呉万層

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 緊縛法術にかかった身体のまま、政信は苦労して、アゴをわずかに上下させる。


「なるほど、よく、わかりました」


「それは良かった」


 アンダウルスは、腕を軽く振った。


 目を動かすにもしんどい思いをしていた政信の身体は、あっけなく自由を取りもどした。


「それにしても、青年も中々趣味がいい。彼女は、余の城の中でも美人で知られていてね」


「美人なんですか?」


「うん? 美人だからこそ見初めたのではないのかね」


 マズイと思う前に、政信の舌は良く動いた。


「中身が大事ですから」


「何よりの回答だ。彼女も暇をもてあましていたから、ちょうどよかった」


「腕は確かなように見えましたが」


 美容師が示した、衣装室での仕事ぶりを思い出しながら、政信は首をひねる。あそこまでカタリンの魅力を引き出した美容師は、アビー意外に知らなかった。

「余の頭はこの通りだし、家臣にはワイトやスケルトンが多い。髪のある者は、落ち武者以外はくらいなもので、最近は彼女に仕事がなくてね。君の連れてきてくれたカタリン嬢とその友人たち、さらには自分にも腕を振るって、ご満悦さ」


「女性のアンデットは、他にもいるようですが?」


 政信は、ドレスを翻して踊り狂う女性のアンデットたちを見ながら言った。


「残念だが、彼女の美容師としての腕は認められていても、獣人を嫌う女性も多くてね。ん?青年、花嫁がこっちを見ているぞ」


 言われるままに首を巡らせると、亜麻色の髪をベールで包んだ目の大きい美容師が、顔を上げて小さく手を振ってくれていた。


 彼女は、小さく儚げな顔の上に、はにかみを乗せていた。純粋と無垢をあらわす立像のように、政信は思えた。


 それでいて、性的な魅力にも事欠いていない。背は高く細身だが、体にフィットしたドレスのため、胸が強調されていた。衣裳部屋では気づかなかったが、ムーナよりも豊かだ。


 正直に言って、美容師の彼女――名前はまだ知らされていない――は、政信の好みだった。と、いうよりも、異性愛者か幼児性愛者を除いて、彼女を好きにならない男はいないだろう。


 このまま結婚してもいいのではないだろうか? などと、邪まかつ不誠実な考えが政信の脳内で木霊していた。

 あの美容師を人質にしたと分かれば、政信の運命は悲惨極まるものとなる。だが、結婚すれば、アンダウルスの親戚になるわけだし、借金は何とかしてくれるかもしれない。それに、借金さえチャラにしてもらえれば、あとは知ったことではない。逃げてしまえばいいのだ。


 これは、問題を解決するたった一つの冴えたやり方なのではないだろうか?


 などと、不埒極まる発想をしていると、政信は視線を感じた。


 常夜の邦に相応しい、昏くてネガティブ、廃墟に住まう悪霊のような禍々しさと不吉さが混交してできあがった、おぞましく冒涜的な視線だった。


 神と対決して敗れ、地の底のさらに底へと封印された古代の悪神でも、舞踏会場に紛れ込んでいるのだろうか?


 政信は、美容師に向けていた目を細める。薄暗く不吉な場所にそぐわない、はにかんだ笑みを浮かべていると確認した。


 政信との結婚を嫌がっているわけではないようだ。


 なんだか甘酸っぱい気持ちで、胸がいっぱいになった。逃げるときは、彼女も連れて行こう。仲間が増えるのは慶事だ。きっと、皆も歓迎してくれるだろう。


「美しい花嫁たちだ。ハイエルフにしてはなかなかいい面構えをしている」


 アンダウルスに言われるまま視線を横にずらしたところで、カタリンと目が合う。憎悪と嫉妬の混じった暗い感情が、瞳に宿っていた。


 先ほどの邪眼のような恐ろしい視線は、カタリンからだったようだ。
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