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70 差し出口
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恥知らずな主張をするため、政信は一度鼻から息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
「太守閣下のおっしゃる通り、俺は大したことはありません。しかし、ハイエルフのお嬢様は違うのです。檄を飛ばせば、西王国の残党が集まるし、後ろ盾になっていた桑弓からの支援を受けられる。それに、ハイエルフの法術士は、世界最強です。とくにカタリンの雷法術は大したものですよ。一発で数百人を吹き飛ばせる大雷法術を連発できるのです。北の岬では、俺の指示で混沌の怪物どもを一網打尽にしていたものです」
「最後は余計ですが、カタクラもわかってきたようですね。そうなのです。わらわは美しく麗しく可愛らしい生ける美の化身ですが、それだけではないのです。高貴な血筋と最強の法術を持つ地上で最も完璧な生物こそ、わらわなのですわ。カタクラもようやくわらわの価値の一端の切れ端ほどは理解できるようになったのですね。これからは心を入れ替えて、わらわに永久の忠誠を――なにを、はなしなさい。人前ですよ」
顔を上気させたカタリンが、自らの外見やら能力やら血筋やらを自慢しはじめたので、政信は手のひらで口をふさぎ強引に打ち切った。
暴れるカタリンを関節技で抑えつつ、珠緒とムーナを呼ぶ。
「それと、そこの二人、ちょっとこっちへ来てくれよ」
「ちょっとマサ、私たち食事中よ」
「まだ、お肉を食べ終わっていないのですけど」
食事しながら婚礼ショーを見物するつもりだったらしく、珠緒もムーナもご立腹だ。
ちなみに、珠緒は魚介類を中心に野菜、果物、焼き菓子、酒類など幅広く摂取していた。花嫁の後ろについてきていた子供の浮遊霊に給仕させながらだったので、絵面的に問題があった。
ムーナは肉ばかりを、食べるというより流し込むようにして、お代わりを続けていた。テーブルに届かない低身長を補うために、畜獣の肉をアンデットのウエイターに持ってこさせていた。
空になった皿が、さながら暴食を司る神を祭るトーテムのように、積み上げられていた。
二人の貪欲さに呆れつつ、政信は手招きする。
「がっつくな。後で好きなだけ食わせてやる」
「マサの奢りってわけでもないでしょうに」
「図々しい人ですね」
口のはしから文句とソースを漏らしつつも、珠緒とムーナは政信の元へやってきてくれた。
「新婦友人の御婦人方がどうかしたかね。まさか、新婦候補だとでも?」
「残念ながら、太守閣下に相応しいとは言えない者たちです。あちらのダークエルフは、巫女で死霊術の使い手である結城珠緒。結城氏は、オルスト家と同じく西王国建国に関わった名家の一つで、軍事と政治で影響力を持ってる」
「ああ、自らハイエルフであることを捨てた氏族だな。好感を持っておるよ」
アンダウルスの反応は好意的だった。
常夜の邦を治める太守、に氏族を褒められた珠緒は、誇らし気に礼をする。
「恐れ入ります」
伸ばした背筋と、微笑をたたえた顔は、育ちの良さを示していた。これで口の端にソースが付いていなければ、完璧だっただろう。空気を読んで、指摘する者はいなかった。
「あの女、口の端に食べカスつけていながら、カッコつけてますわね」
ただし、カタリンを除いて。
「太守閣下のおっしゃる通り、俺は大したことはありません。しかし、ハイエルフのお嬢様は違うのです。檄を飛ばせば、西王国の残党が集まるし、後ろ盾になっていた桑弓からの支援を受けられる。それに、ハイエルフの法術士は、世界最強です。とくにカタリンの雷法術は大したものですよ。一発で数百人を吹き飛ばせる大雷法術を連発できるのです。北の岬では、俺の指示で混沌の怪物どもを一網打尽にしていたものです」
「最後は余計ですが、カタクラもわかってきたようですね。そうなのです。わらわは美しく麗しく可愛らしい生ける美の化身ですが、それだけではないのです。高貴な血筋と最強の法術を持つ地上で最も完璧な生物こそ、わらわなのですわ。カタクラもようやくわらわの価値の一端の切れ端ほどは理解できるようになったのですね。これからは心を入れ替えて、わらわに永久の忠誠を――なにを、はなしなさい。人前ですよ」
顔を上気させたカタリンが、自らの外見やら能力やら血筋やらを自慢しはじめたので、政信は手のひらで口をふさぎ強引に打ち切った。
暴れるカタリンを関節技で抑えつつ、珠緒とムーナを呼ぶ。
「それと、そこの二人、ちょっとこっちへ来てくれよ」
「ちょっとマサ、私たち食事中よ」
「まだ、お肉を食べ終わっていないのですけど」
食事しながら婚礼ショーを見物するつもりだったらしく、珠緒もムーナもご立腹だ。
ちなみに、珠緒は魚介類を中心に野菜、果物、焼き菓子、酒類など幅広く摂取していた。花嫁の後ろについてきていた子供の浮遊霊に給仕させながらだったので、絵面的に問題があった。
ムーナは肉ばかりを、食べるというより流し込むようにして、お代わりを続けていた。テーブルに届かない低身長を補うために、畜獣の肉をアンデットのウエイターに持ってこさせていた。
空になった皿が、さながら暴食を司る神を祭るトーテムのように、積み上げられていた。
二人の貪欲さに呆れつつ、政信は手招きする。
「がっつくな。後で好きなだけ食わせてやる」
「マサの奢りってわけでもないでしょうに」
「図々しい人ですね」
口のはしから文句とソースを漏らしつつも、珠緒とムーナは政信の元へやってきてくれた。
「新婦友人の御婦人方がどうかしたかね。まさか、新婦候補だとでも?」
「残念ながら、太守閣下に相応しいとは言えない者たちです。あちらのダークエルフは、巫女で死霊術の使い手である結城珠緒。結城氏は、オルスト家と同じく西王国建国に関わった名家の一つで、軍事と政治で影響力を持ってる」
「ああ、自らハイエルフであることを捨てた氏族だな。好感を持っておるよ」
アンダウルスの反応は好意的だった。
常夜の邦を治める太守、に氏族を褒められた珠緒は、誇らし気に礼をする。
「恐れ入ります」
伸ばした背筋と、微笑をたたえた顔は、育ちの良さを示していた。これで口の端にソースが付いていなければ、完璧だっただろう。空気を読んで、指摘する者はいなかった。
「あの女、口の端に食べカスつけていながら、カッコつけてますわね」
ただし、カタリンを除いて。
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