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115 変化

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 修羅場としか言いようのない闘技場の情景を、政信は他人事のように眺めていた。


 気を取り直し、とりあえず情報収集に入る。


「そういえば、赤い憤怒は?」


「あのチンチクリンが、肉片にしちゃった。追加分も含めてね」


「追加分ってことは、赤い憤怒のおかわりがあったのか」


「最初の一体が電撃で吹っ飛んでから、赤いヤツとはまた違う混沌のアクマが三体も追加されたんよ。マジでコージンはロクでもないわ。こんな街中の闘技場で大雷術を使ったチンチクリンも大概だけどさー」


 おどけつつも、アビーは顔を青白くして教えてくれた。


 アビーの言うように、血と肉片は飛び散り、骨も散乱している。血と肉と骨、瓦礫の混合物の山も築かれていた。


 いくら帯電術を強化しても、これほどの損害は起こせない。カタリンは本当に大雷術を使ったらしい。混沌の悪魔を追加しただけあって、肉の量も多相当なものだった。


 まだはっきりとしない頭のまま政信は周囲を見渡す。


「大活躍だな。で、大功の主は、どこにいるんだ?」


「チンチクリンなら。目の前にいるじゃん」


 アビーが指をさす方向に目を向けるが、血と肉と骨でできた山があるだけだった。


「おい、まさか、あれか?」


「あれなんよね~」


 政信とアビーが顔を見合わせると同時に、肉塊の山が動き、中腹が盛り上がった。


 血と肉でコーティングされたカタリンの顔が、青白い雷電と共に現れた。


 ローマの観光名所「真実の口」に悪夢のスパイスを加えたような風情のカタリンから、普段よりやや無機質な声が漏れる。


「……また、いちゃついてるんすカ?」
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