ヘタレ王太子と人質花嫁

寿里~kotori ~

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王子は14で嫁にいき

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 ナナ・スカーレットは北の大国の第4王子という立場で、肌は雪のように白く、日光に乏しい北国では珍しい黒髪と黒檀のような瞳を持つ麗しい美少年であった。

 容姿端麗で武術の腕はなみの将軍ならば裸で逃げ出す……もとい、裸足で逃げ出すような天才であり、戦略も兼ね備えていて、父王のおぼえもめでたく、将来的には北の大国の軍事を司るとされていた。……少なくとも、ナナの理想では。

「嫁にいけ」

 この父王のひと声で、ナナは14歳という年端もいかぬうちに、ライバル国とされるチャラい国家の王太子コクトーの許に嫁がされてしまったのである。ライバル国に攻め入るではなく、輿入れさせられるなんて想定外であった。

「ふざけるな……。なんで、こんな顔面だけしか取り柄のない暗愚王太子の嫁なんかに!」

 初夜の寝室で唇から血が滲むレベルに悔しがるナナ・スカーレットを前に王太子のコクトー・アガートは完全にビビっている。

「ナナ……殿? 僕は貴殿の言うように、賢い父上なんかとは、月とすっぽんぽんなみに劣ったゴミムシだけれど、顔だけは褒めてくれて嬉しい……かな?」

 この自虐的なコクトーの台詞に、ただでさえ不機嫌マックスなナナは更にキレた。

「お前、死ね。これ以上クソみたいな口を動かしたら舌を切り裂く。牛タンみたいに!」

 このナナの威嚇でコクトーは完全に恐怖して、性欲どころか命の危機さえ感じている。しかし、初夜の床で殺気を撒き散らかすナナを牽制する声が聞こえてきた。

「あまり強いお言葉は妃殿下を逆に弱者にさせますよ?」

 声を掛けたのは栗色の髪のスラリとした美青年である。屈強ではないがおそらく軍人だとナナは察した。栗毛の美青年はクスクス笑うと、ブルブル震えてナナに怯えるコクトーに対して爽やかに告げたのだ。

「王太子コクトー殿下。ナナ妃殿下がこれ以上無礼な口を利いたら、この近衛隊長のマックス・ケリー・シルバーが斬り殺します。だから、ご安心を!」

 マックス・ケリー・シルバーと名のる栗毛の美青年は王立士官学校を首席で卒業した軍人であり、コクトーの武術の先生であり、コクトーの父ミモザのマブダチ兼側近であるモモと非常に親しい間柄でもあった。少年期にモモと共にシルバー家という王家ともゆかりある大貴族の屋敷で育った。いわゆる、モモの息がかかった忠実な後輩である。マックスはコクトー&ナナの初夜の監視とナナがコクトーに危害を加えたら容赦なくナナを斬り殺せとモモに命令されているのだ。

 スラリと長身で明らかに強そうなマックスに笑顔で脅されてナナは危険を感じたが、負けずに言い返した。

「俺を殺してみろ! そうなったら戦争になる。お前は北の大国の第4王子を殺した罪で処刑だ!」

 強国の王子だと主張するナナに対してマックスは面倒そうに眉をひそめた。

「モモ様とミモザ殿下のお考えはわからない。こんな、ヴァカなガキを大切なコクトー王太子の嫁に迎えるなんて。北で日光を浴びないと脳ミソまでヴァカになるのか? ステフに研究してほしいところだ」

「貴様! いま完全に俺を愚弄したな!? ヴァカって馬鹿のことだろ? 近衛の長でもそんな無礼! 許されるわけない! ついでに、ステフって誰だよ!?」

 ナナがコクトーなんて他所にマックスに反発するとマックスは心底哀れんだ視線を向けてきたのだ。そして、不意に帯刀していた太刀を抜いてナナの首筋に突きつけた。

「ステフは俺の弟のようなヤツだ。ヴァカなお前より数億倍賢くて、可愛い。別に、この場で妃殿下……お前の首を斬っても北の大国は動かない。お前は交渉材料にすらされていない。そんなことも理解できないのか?」

 マックスの太刀は冗談でなく、本気でナナをとらえている。これ以上、ナナがコクトーを侮辱したりヤンチャしたら容赦なく首をはねる気まんまんだ。現にマックスの太刀はナナの頸動脈寸前のところで止まっている。

「俺が殺されても父上たちが動かないってどういうことだ!?」

 首を斬られる寸前なのに気丈にも詰問するナナにマックスは幼い子に言い聞かせるように妙に優しく答える。しかし、容赦ない!

「ナナ妃殿下。貴殿は北の大国でも持て余された。貴方のお父上は貴方を殺したところで刺客1匹も寄越さない。そんな自分の立ち位置すら理解できないのですか?」

「う、嘘だ! 父上は……俺を秘蔵っ子と可愛がってくれた。期待しているって口癖のように!」

 ナナが半分泣きながら反論していると、ずうっと成り行きを震えながらみていたコクトーがおそるおそる口を開いた。

「……ナナ殿。それは、悪いお父様の常套手段だよ? 目障りな子ほど面倒だから言葉巧みに騙す。ミモザ父上もそんな感じだから」

 コクトーの言葉にナナは咄嗟に言葉が出なかったが、たしかに王太子という世継ぎに男子の花嫁をあてがうのはいくらなんでも不自然だった。

「つまり……お前も俺も親に期待されてない者どうし?」

「多分、そうだよ。王太子だけれど父上は僕に世継ぎなんて期待していない。だから……適当にナナ殿を妃殿下に選んだ」

 僕はお飾りで、もっと相応しい世継ぎは弟妹にしたいか、弟妹の子に求めているだけ、とコクトーが話すのを聞いて、ナナは思わず泣き出してしまった。自分は厄介払いされた挙げ句、王太子なのに1ミリも期待されていない弱虫コクトーに嫁がされたのだ。悔しくてポロポロ涙をこぼすナナに対してマックスも流石に可哀想に思ったのか、太刀を鞘に仕舞った。

「貴方は表向きは王太子コクトー殿下の嫁です。潔くこの国で長生きする道を模索してくださいね?」

 頭の悪い生徒に言い聞かすような口調のマックスに対してナナが食って掛かろうと拳を握った瞬間に手を掴まれた。隙のないマックスがナナの腕をヘシ折ろうと力を入れたところでコクトーがあわてて止めにかかってきた。

「マックス! 僕の花嫁に乱暴しないで! モモの命令でもナナを傷つけないで! お願いだから!」

 コクトーの必死の嘆願でマックスは力をゆるめてナナの腕を離すと先ほどとは打って変わった穏やかな声色で笑顔になった。

「流石は王太子コクトー殿下です。こんな、ヴァカで礼儀知らずな花嫁を体張って守るとは。このマックス、王太子がご立派になられて嬉しゅう存じます」

「ありがとう。マックス、ナナが怖がるから出ていって。王太子の命令だよ?」

「御意。扉の外で待機しております」

 マックスが退出するとコクトーは悔し泣きしているナナの顔をみたが掛ける言葉が見つからない。

「余りもの同士で仲良くしてね? 僕をズタボロに殴ってもいいけれど、ナナに帰る場所はないんだ。……ごめんね」

「うるさい! 謝罪すんな! ……余計、惨めになる……」

 号泣するナナの背中を擦ってあげることも、臆病なコクトーには出来ず、初夜はお互いに地獄で幕を閉じた。

 部屋を出たマックスは泣いているナナの顔を思い出して、深く息を吐いていた。

「ミシェル様ならば、もっと優しく王太子妃と話しただろう。でも、それではダメだ」

 ドン底だった自分や仲間を救ってくれたミシェルという存在は、もうこの世にいない。己も尊敬するモモと運命を共にしよう、そうすることで、亡きミシェルの遺志を引き継ごうと決意してマックスは外で待機していた。

 初夜の床は、泣きつかれて眠ってしまったナナの美しい顔をコクトーがハンカチで拭いて同じベッドで寝て、無事成立とあいなったのである。


【続く!】

 


 
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