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王太子コクトーの弟王子リデルの恋
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東の宮殿でコクトーと新婚生活することに慣れてきた少年花嫁ナナの様子をモモから報告された王婿ミモザ殿下は妻であり偉大なる女王陛下であるダイアナに、こう提案した。
「姉上、コクトーとナナがお互いの存在に慣れて、距離が縮んできたので好機です。顔合わせを延期していたリデルたちに会わせましょう」
王太子コクトーには年子の弟リデルを始め、5人の弟妹がいる。
上から次男リデル14歳、長女ファナ12歳、双子のモニエ&ルクレール9歳、そして、末娘のリラ5歳のコクトー含めてダイアナとミモザは4男2女の6人の子の親であった。ダイアナ17歳、ミモザ15歳で結婚して約15年でかなりのハイペース子作り&出産である。
コクトーはナナと王太子専用の東の宮殿であるいわゆる『東宮』で暮らしているが、それ以外の弟妹は女王ダイアナと王婿ミモザ殿下が住まう王宮の別棟にそれぞれ居室を与えられ、生活している。王家ともなると立場の違いで家族全員が同じ空間で生活を共になどしないのだ。
国政は主に女王陛下であるダイアナが舵取りして、それをシルバー家当主であるモモが補佐しているという体裁だが、モモの背後には王婿ミモザ殿下の存在がある。ミモザ殿下は直接国政に参加しないが、女王ダイアナが頭を悩ませる問題には必ずミモザがモモを介して助言するというシステムが構築されているのだ。
しかし、ミモザ殿下はよほどのことではない限り政治に関与しないでもっぱら6人いる子どもたちの養育に専念する。要は嫁が主力で働くのでその他を全力で補佐する超有能なアラサーイクメンであった。
「リデルは早くコクトー兄上の花嫁さんにお会いしたいと楽しみにしております」
リデル・ミケロット王子は王太子コクトーのすぐ下の弟で母である女王ダイアナによく似た才気ある明朗快活な次男坊である。ヘタレな兄とは異なりハキハキした活発な性格だが、兄コクトーへの敬意も忘れないできた弟だ。
「一気に5人全員と会わせるとナナが混乱すると思うので次男のリデルがまずは弟妹代表として東の宮殿に挨拶に行くというシナリオは如何ですか?」
ミモザの言葉に女王ダイアナも手を打って賛成した。
「それは名案ね! リデルはコクトーのことを心配してナナにも会いたがっていたから! あの子とならナナも仲良くするわ」
「では、早速ですがモモに伝えてリデルを東宮に寄越しましょう。リデルも喜びます」
微笑んでいるミモザに対してダイアナはリデルに関しての懸念事項を思い出した。
「リデルは快活な子だけれど、あの子だけで東宮に行かせて大丈夫かしら?」
ダイアナが案じている意味を予め察知していたミモザは優しい笑みで、「モモはそれが楽しみなようです」と付け加えた。
果たしてドヘタレな王太子コクトーに反して明朗快活で才気ある次男王子のリデルが東宮に行くとなんの問題があるのか?
女王ダイアナの心配とはなんなのかはすぐに明らかとなる。
東の宮殿に使者が訪れ、近々第2王子であるリデル・ミケロットが婚礼の挨拶に来ると知らされたコクトー王太子は久々に会える弟の来訪を素直に喜んでいた。
「ナナ、弟のリデルが東宮に来るよ。君と同い年で14歳。仲良くしてね」
リデル・ミケロット第2王子は王太子コクトーより格段に優秀で、王家らしい凛々しさと母親譲りのキラキラした金髪の美少年とのことなので、ナナはコクトーがそんな弟に劣等感を抱いているものと思っていたが、普通に仲良さそうで拍子抜けした。
「弟王子は超優秀なんだろ? コクトー、自分の立場を脅かす存在とか思わないのか?」
普通は自分より優秀な弟がいれば王太子の身分を奪われないか警戒しそうなものだとナナは思うが、コクトーはキョトンとしている。
「僕が王太子失格以前に人間失格なレベルのヘタレでもリデルは大切な弟だよ?」
「人間失格までは言ってない! 自虐もいい加減にしろ! コクトー、お前は俺が考えている王家の王太子とは全然違うが少なくとも人間失格じゃない! 実のところ、かなりの美形だし、自信をもてよ!」
自分の夫が王族以前に人間失格だと自虐したら、いくら気が強いナナでも必死でフォローしてしまう。コクトーは武術はからきしだが、人柄は優しく、東の宮殿に仕えてくれる使用人総てに対して寛容で感謝する気持ちを忘れない心映え豊かなヤツだとナナにも少しづつわかってきた。
教育係のモモにどつかれながらも勉学は優秀で、なによりモモは辛辣ながらもコクトーに深い愛情を注いでいる。そんなモモの気持ちをコクトーは無意識に理解しているから逆らわないのだ。
そんなモモの不器用な愛情を一身にうけた弊害でコクトーは自虐的なのだが、護衛で武術指南のマックスもコクトーをボロクソにディスるわりに親身に世話をして見守っている。
女王陛下であるダイアナと王婿ミモザ殿下が王太子であるコクトーの周辺には選りすぐりの人材を登用しているのは明白だった。
「コクトーは愛されているな。そのうえ、弟とも仲良しなんて贅沢だ。そう思うだろ? マックス?」
ナナが何気なく訊ねるとマックスがいつもの冷静なのに優しい笑みはどこへやら、何故かテンション下げた表情をしている。
「お前、どうした? またストレス抱えてんのかよ?」
「違います。コクトー王太子はナナ妃殿下が輿入れしてから格段に王太子としてご成長しました。問題はリデル王子の来訪です」
「は? コクトーの弟王子が挨拶に来るだけの話だろ? できたヤツみたいだし? なにがそんな憂鬱なんだ?」
怪訝となるナナに対してマックスは無言だったが、様子を伺っていたモモが茶化すように教えてくれた。
「リデル王子はコクトーとナナに挨拶なんて表向きの理由で、本当はマックスに逢いたくて来るんだよ! リデル王子はマックスにぞっこん惚れてるからな!」
ケラケラ笑っているモモに対してマックスは真面目な顔で抗議している。
「あの子、執拗に手紙寄越したりストーカー気質なんですよ! 俺はコクトー王太子に仕える身であり、命を救ってくれたシルバー家の前当主ミシェル様に美少年だからと拾われた孤児だと説明しても引かないのです!」
マジで迷惑がっているマックスにナナは掛ける言葉がなかったが、元の身分がどうであろうと優秀な軍人であり容姿も心もイケメンなマックスは老若男女問わず全方向からモテモテらしい。
「つまり、リデルってコクトーの弟は兄夫婦に挨拶は口実で、実際はマックス目当てで東宮に来ると? コクトー、弟がそんなんでいいのか?」
ナナが疑問を呈するとコクトーは気弱な笑顔で、「リデルは本当にいい子だから、マックス1筋で自分も軍人になるって。マックスの1番の部下になりたいって」と、とんでもないこと言ってのけている。
仮にも第2王子が14歳も歳上の、更に兄である王太子専属のイケメン護衛を追っかけて部下になろうとするなんて異常だと、ナナはマックスが本気でリデルを嫌がる理由がわかった気がした。
「俺が風邪とか嘘ついてリデルってストーカー弟王子を遠ざけるか?」
ナナがダメ元で提案するとマックスに少し笑顔が戻りはしたが、首を横に振った。
「ナナ妃殿下が風邪でも危篤でもリデル王子は東宮に来ます。1度決めたら引かない子なので。あのストーカー気質、誰に似たんだよ?」
14歳でそこまで重度なストーカー気質を持っているヤツが義弟なのはナナも嫌になってきたが、モモは珍しくコクトーと真顔で顔を見合せ、頷き合っている。
「エドガーだよね? モモ?」
「そうだな。傍流だが、シルバー家は王家の親戚だ。ありゃ完璧にエドガー様譲り」
王太子コクトーとその教育係のモモはお互いに頷き合っているが、マックスは本気で、「それ、言わないでください!」と拒絶している。
エドガーって誰だよ、とナナは首を傾げていたが、そんなやりとりをしている間にリデル王子来訪の日は来てしまった。
東宮に参内した第2王子リデル・ミケロットは礼儀正しく、兄である王太子コクトーと王太子妃であるナナに向かってお祝いと挨拶をするため跪いている。
「お久しゅう存じます兄上。そして、ご結婚、誠におめでとうございます。ナナ妃殿下、ご挨拶が遅れ申し訳ございません。王太子コクトーが弟で第2王子リデルでございます。以後、お見知り置きを」
凛々しく、煌めくばかりの美少年であるリデルはナナから見ても圧倒的な華がある。更に王家の王子らしく優雅で、それでいて謙虚であった。
どこをどうとっても優等生な雰囲気のリデルがそんなにヤバいのかとナナは今更ながら不思議に思ったが、そんなナナの隣で王太子コクトーは笑顔で応じた。
「久しぶり、リデル! 元気そうでよかった。丁寧な挨拶は抜きにして本音を聞かせて?」
「流石は、お優しきコクトー兄上! あの、マックスはどこです? 私が毎日10通も手紙を東宮に送っているのに照れているのか返事を全く寄越しませぬ! マックスは恥ずかしがり屋ですから。そこがたまらず愛おしく、大好きです! 尊い!」
「あっ、コイツ、普通にヤバいな」
思わず口を滑らせたナナだが、リデルには聞こえておらず、ひたすらマックスの所在をコクトーに訊ねていた。
「マックスはモモと共にミモザ父上に呼ばれていないよ? なにか言伝てはあるかい?」
ミモザ殿下はマックスが心底嫌がるので、適当な理由をつけて東宮から避難させていた。それを知ると第2王子リデルは途端にテンション下げて東宮から踵を返している。
「また、東宮に参ります。マックスがいるときに! 兄上、そしてナナ様。短い挨拶ですが、ごきげんよう」
「おい! マジでマックスがいなきゃ秒で帰るんだな!? 俺はともかくコクトーへの礼儀としてそれでいいのか!?」
ナナが思わず突っ込むと、コクトーが宥めるように弟リデルを擁護した。
「ナナ! リデルにとってマックスが不在な東宮なんてゴミだから! そのくらいマックスが好きなんだよリデルは。一途で可愛いだろう?」
「一途超えてヤバイだろ? マックスが避ける理由がマジで理解できた!」
早々に東宮から帰ろうとしているリデル王子であったが、マックスが戻ったら渡してくれと一方的に兄コクトーに向かって大量のマックス宛の恋文の束を押し付けてくる。
「マックスに読まずに暖炉にくべてもよいと伝えてください。マックスが私に対してうんざりしている顔がたまらず尊いので。想像するだけで興奮してムラムラする!」
「コクトー! この弟を医者に診せろ! コイツ、マジもんの変態だ!」
ナナがたまらず叫ぶと、コクトーは困惑した顔で、「もう、とっくに母上と父上が医者に診せているよ。マックスの幼馴染みで、ロリコン研究の第1人者である医学者のステフに」
そのステフが、子どもの頃のマックスの利発さと美少年ぶりを語るので、リデルのマックスへの偏愛と執着は悪化の一途をたどっている。かかりつけ医を完全に間違えているが、第2王子リデル・ミケロットは兄である王太子コクトー付の護衛マックスに夢中で、自分が王太子を狙おうなどとは、露ほどにも考えていない。
野心よりストーカー本能が勝っているのだ。
「兄上、マックスのことでなにか性欲がわきそうなネタはないですか?」
「うーん。昨日、髪が少しのびたからってモモに散髪してもらってたくらいかな?」
「その髪の毛、ありますよね? ください!」
コクトーがモモに予め言われて保管していたマックスの栗色の髪の毛を小箱から出して渡すと、リデルは大層喜んで、ご機嫌で帰って行った。
「なんか……。野心とか皆無だが、濃いキャラの弟だな? マックスに純愛すぎて」
東宮を去るリデルを見送っていたナナがコクトーに話し掛けると、コクトーは笑みを浮かべて言ってのけた。
「リデルはマックスの為なら命を投げ出してもいいって。僕にとっては自慢の弟なんだ。ナナも仲良くしてあげてね?」
「いや……。仲良く以前にマックスにしか眼中ないだろ、アイツ?」
そんなやりとりをしていたら、リデルが去ったのを見計らったかのように、モモとマックスが東の宮殿に帰ってきた。
「コクトー、リデル王子は帰っただろうな?」
モモが訊ねるとコクトーは計画通りにマックスが散髪した髪を渡したと告げた。
「あれ、本当は東宮で働いてくれてるシェフのルドルフの髪なのに。白髪でわかりそうなものだけれど?」
コクトーが首を傾げていると、モモがニヤリと声を潜めて、「本物のマックスの頭髪とブレンドしてあるからいいんだよ」
ことの成り行きを聞いていたナナは、マックスに王太子妃として許すから、リデル王子の居室に手榴弾ぶん投げてこいとアドバイスしたかった。
リデルというストーカー王子を回避したマックスはなに食わぬ顔で、「ルドルフが食材を腐敗させていないか見てきます。ついでに礼を言わねば」、と告げて部屋を出ていったのであった。
ナナはルドルフ髪ブレンドの栗色の髪の毛をリデルがどう使うのか想像すると途端に食欲が減退した。今回はうまく退けたが、ストーカー第2王子リデルの暗躍はまだまだ終わらず、ナナを困惑させ、マックスを悩ますことになる。
14歳美少年第2王子が28歳の王太子付のイケメン護衛を恋慕していても全然、お耽美にならない展開とあいなってしまった。
【続く】
「姉上、コクトーとナナがお互いの存在に慣れて、距離が縮んできたので好機です。顔合わせを延期していたリデルたちに会わせましょう」
王太子コクトーには年子の弟リデルを始め、5人の弟妹がいる。
上から次男リデル14歳、長女ファナ12歳、双子のモニエ&ルクレール9歳、そして、末娘のリラ5歳のコクトー含めてダイアナとミモザは4男2女の6人の子の親であった。ダイアナ17歳、ミモザ15歳で結婚して約15年でかなりのハイペース子作り&出産である。
コクトーはナナと王太子専用の東の宮殿であるいわゆる『東宮』で暮らしているが、それ以外の弟妹は女王ダイアナと王婿ミモザ殿下が住まう王宮の別棟にそれぞれ居室を与えられ、生活している。王家ともなると立場の違いで家族全員が同じ空間で生活を共になどしないのだ。
国政は主に女王陛下であるダイアナが舵取りして、それをシルバー家当主であるモモが補佐しているという体裁だが、モモの背後には王婿ミモザ殿下の存在がある。ミモザ殿下は直接国政に参加しないが、女王ダイアナが頭を悩ませる問題には必ずミモザがモモを介して助言するというシステムが構築されているのだ。
しかし、ミモザ殿下はよほどのことではない限り政治に関与しないでもっぱら6人いる子どもたちの養育に専念する。要は嫁が主力で働くのでその他を全力で補佐する超有能なアラサーイクメンであった。
「リデルは早くコクトー兄上の花嫁さんにお会いしたいと楽しみにしております」
リデル・ミケロット王子は王太子コクトーのすぐ下の弟で母である女王ダイアナによく似た才気ある明朗快活な次男坊である。ヘタレな兄とは異なりハキハキした活発な性格だが、兄コクトーへの敬意も忘れないできた弟だ。
「一気に5人全員と会わせるとナナが混乱すると思うので次男のリデルがまずは弟妹代表として東の宮殿に挨拶に行くというシナリオは如何ですか?」
ミモザの言葉に女王ダイアナも手を打って賛成した。
「それは名案ね! リデルはコクトーのことを心配してナナにも会いたがっていたから! あの子とならナナも仲良くするわ」
「では、早速ですがモモに伝えてリデルを東宮に寄越しましょう。リデルも喜びます」
微笑んでいるミモザに対してダイアナはリデルに関しての懸念事項を思い出した。
「リデルは快活な子だけれど、あの子だけで東宮に行かせて大丈夫かしら?」
ダイアナが案じている意味を予め察知していたミモザは優しい笑みで、「モモはそれが楽しみなようです」と付け加えた。
果たしてドヘタレな王太子コクトーに反して明朗快活で才気ある次男王子のリデルが東宮に行くとなんの問題があるのか?
女王ダイアナの心配とはなんなのかはすぐに明らかとなる。
東の宮殿に使者が訪れ、近々第2王子であるリデル・ミケロットが婚礼の挨拶に来ると知らされたコクトー王太子は久々に会える弟の来訪を素直に喜んでいた。
「ナナ、弟のリデルが東宮に来るよ。君と同い年で14歳。仲良くしてね」
リデル・ミケロット第2王子は王太子コクトーより格段に優秀で、王家らしい凛々しさと母親譲りのキラキラした金髪の美少年とのことなので、ナナはコクトーがそんな弟に劣等感を抱いているものと思っていたが、普通に仲良さそうで拍子抜けした。
「弟王子は超優秀なんだろ? コクトー、自分の立場を脅かす存在とか思わないのか?」
普通は自分より優秀な弟がいれば王太子の身分を奪われないか警戒しそうなものだとナナは思うが、コクトーはキョトンとしている。
「僕が王太子失格以前に人間失格なレベルのヘタレでもリデルは大切な弟だよ?」
「人間失格までは言ってない! 自虐もいい加減にしろ! コクトー、お前は俺が考えている王家の王太子とは全然違うが少なくとも人間失格じゃない! 実のところ、かなりの美形だし、自信をもてよ!」
自分の夫が王族以前に人間失格だと自虐したら、いくら気が強いナナでも必死でフォローしてしまう。コクトーは武術はからきしだが、人柄は優しく、東の宮殿に仕えてくれる使用人総てに対して寛容で感謝する気持ちを忘れない心映え豊かなヤツだとナナにも少しづつわかってきた。
教育係のモモにどつかれながらも勉学は優秀で、なによりモモは辛辣ながらもコクトーに深い愛情を注いでいる。そんなモモの気持ちをコクトーは無意識に理解しているから逆らわないのだ。
そんなモモの不器用な愛情を一身にうけた弊害でコクトーは自虐的なのだが、護衛で武術指南のマックスもコクトーをボロクソにディスるわりに親身に世話をして見守っている。
女王陛下であるダイアナと王婿ミモザ殿下が王太子であるコクトーの周辺には選りすぐりの人材を登用しているのは明白だった。
「コクトーは愛されているな。そのうえ、弟とも仲良しなんて贅沢だ。そう思うだろ? マックス?」
ナナが何気なく訊ねるとマックスがいつもの冷静なのに優しい笑みはどこへやら、何故かテンション下げた表情をしている。
「お前、どうした? またストレス抱えてんのかよ?」
「違います。コクトー王太子はナナ妃殿下が輿入れしてから格段に王太子としてご成長しました。問題はリデル王子の来訪です」
「は? コクトーの弟王子が挨拶に来るだけの話だろ? できたヤツみたいだし? なにがそんな憂鬱なんだ?」
怪訝となるナナに対してマックスは無言だったが、様子を伺っていたモモが茶化すように教えてくれた。
「リデル王子はコクトーとナナに挨拶なんて表向きの理由で、本当はマックスに逢いたくて来るんだよ! リデル王子はマックスにぞっこん惚れてるからな!」
ケラケラ笑っているモモに対してマックスは真面目な顔で抗議している。
「あの子、執拗に手紙寄越したりストーカー気質なんですよ! 俺はコクトー王太子に仕える身であり、命を救ってくれたシルバー家の前当主ミシェル様に美少年だからと拾われた孤児だと説明しても引かないのです!」
マジで迷惑がっているマックスにナナは掛ける言葉がなかったが、元の身分がどうであろうと優秀な軍人であり容姿も心もイケメンなマックスは老若男女問わず全方向からモテモテらしい。
「つまり、リデルってコクトーの弟は兄夫婦に挨拶は口実で、実際はマックス目当てで東宮に来ると? コクトー、弟がそんなんでいいのか?」
ナナが疑問を呈するとコクトーは気弱な笑顔で、「リデルは本当にいい子だから、マックス1筋で自分も軍人になるって。マックスの1番の部下になりたいって」と、とんでもないこと言ってのけている。
仮にも第2王子が14歳も歳上の、更に兄である王太子専属のイケメン護衛を追っかけて部下になろうとするなんて異常だと、ナナはマックスが本気でリデルを嫌がる理由がわかった気がした。
「俺が風邪とか嘘ついてリデルってストーカー弟王子を遠ざけるか?」
ナナがダメ元で提案するとマックスに少し笑顔が戻りはしたが、首を横に振った。
「ナナ妃殿下が風邪でも危篤でもリデル王子は東宮に来ます。1度決めたら引かない子なので。あのストーカー気質、誰に似たんだよ?」
14歳でそこまで重度なストーカー気質を持っているヤツが義弟なのはナナも嫌になってきたが、モモは珍しくコクトーと真顔で顔を見合せ、頷き合っている。
「エドガーだよね? モモ?」
「そうだな。傍流だが、シルバー家は王家の親戚だ。ありゃ完璧にエドガー様譲り」
王太子コクトーとその教育係のモモはお互いに頷き合っているが、マックスは本気で、「それ、言わないでください!」と拒絶している。
エドガーって誰だよ、とナナは首を傾げていたが、そんなやりとりをしている間にリデル王子来訪の日は来てしまった。
東宮に参内した第2王子リデル・ミケロットは礼儀正しく、兄である王太子コクトーと王太子妃であるナナに向かってお祝いと挨拶をするため跪いている。
「お久しゅう存じます兄上。そして、ご結婚、誠におめでとうございます。ナナ妃殿下、ご挨拶が遅れ申し訳ございません。王太子コクトーが弟で第2王子リデルでございます。以後、お見知り置きを」
凛々しく、煌めくばかりの美少年であるリデルはナナから見ても圧倒的な華がある。更に王家の王子らしく優雅で、それでいて謙虚であった。
どこをどうとっても優等生な雰囲気のリデルがそんなにヤバいのかとナナは今更ながら不思議に思ったが、そんなナナの隣で王太子コクトーは笑顔で応じた。
「久しぶり、リデル! 元気そうでよかった。丁寧な挨拶は抜きにして本音を聞かせて?」
「流石は、お優しきコクトー兄上! あの、マックスはどこです? 私が毎日10通も手紙を東宮に送っているのに照れているのか返事を全く寄越しませぬ! マックスは恥ずかしがり屋ですから。そこがたまらず愛おしく、大好きです! 尊い!」
「あっ、コイツ、普通にヤバいな」
思わず口を滑らせたナナだが、リデルには聞こえておらず、ひたすらマックスの所在をコクトーに訊ねていた。
「マックスはモモと共にミモザ父上に呼ばれていないよ? なにか言伝てはあるかい?」
ミモザ殿下はマックスが心底嫌がるので、適当な理由をつけて東宮から避難させていた。それを知ると第2王子リデルは途端にテンション下げて東宮から踵を返している。
「また、東宮に参ります。マックスがいるときに! 兄上、そしてナナ様。短い挨拶ですが、ごきげんよう」
「おい! マジでマックスがいなきゃ秒で帰るんだな!? 俺はともかくコクトーへの礼儀としてそれでいいのか!?」
ナナが思わず突っ込むと、コクトーが宥めるように弟リデルを擁護した。
「ナナ! リデルにとってマックスが不在な東宮なんてゴミだから! そのくらいマックスが好きなんだよリデルは。一途で可愛いだろう?」
「一途超えてヤバイだろ? マックスが避ける理由がマジで理解できた!」
早々に東宮から帰ろうとしているリデル王子であったが、マックスが戻ったら渡してくれと一方的に兄コクトーに向かって大量のマックス宛の恋文の束を押し付けてくる。
「マックスに読まずに暖炉にくべてもよいと伝えてください。マックスが私に対してうんざりしている顔がたまらず尊いので。想像するだけで興奮してムラムラする!」
「コクトー! この弟を医者に診せろ! コイツ、マジもんの変態だ!」
ナナがたまらず叫ぶと、コクトーは困惑した顔で、「もう、とっくに母上と父上が医者に診せているよ。マックスの幼馴染みで、ロリコン研究の第1人者である医学者のステフに」
そのステフが、子どもの頃のマックスの利発さと美少年ぶりを語るので、リデルのマックスへの偏愛と執着は悪化の一途をたどっている。かかりつけ医を完全に間違えているが、第2王子リデル・ミケロットは兄である王太子コクトー付の護衛マックスに夢中で、自分が王太子を狙おうなどとは、露ほどにも考えていない。
野心よりストーカー本能が勝っているのだ。
「兄上、マックスのことでなにか性欲がわきそうなネタはないですか?」
「うーん。昨日、髪が少しのびたからってモモに散髪してもらってたくらいかな?」
「その髪の毛、ありますよね? ください!」
コクトーがモモに予め言われて保管していたマックスの栗色の髪の毛を小箱から出して渡すと、リデルは大層喜んで、ご機嫌で帰って行った。
「なんか……。野心とか皆無だが、濃いキャラの弟だな? マックスに純愛すぎて」
東宮を去るリデルを見送っていたナナがコクトーに話し掛けると、コクトーは笑みを浮かべて言ってのけた。
「リデルはマックスの為なら命を投げ出してもいいって。僕にとっては自慢の弟なんだ。ナナも仲良くしてあげてね?」
「いや……。仲良く以前にマックスにしか眼中ないだろ、アイツ?」
そんなやりとりをしていたら、リデルが去ったのを見計らったかのように、モモとマックスが東の宮殿に帰ってきた。
「コクトー、リデル王子は帰っただろうな?」
モモが訊ねるとコクトーは計画通りにマックスが散髪した髪を渡したと告げた。
「あれ、本当は東宮で働いてくれてるシェフのルドルフの髪なのに。白髪でわかりそうなものだけれど?」
コクトーが首を傾げていると、モモがニヤリと声を潜めて、「本物のマックスの頭髪とブレンドしてあるからいいんだよ」
ことの成り行きを聞いていたナナは、マックスに王太子妃として許すから、リデル王子の居室に手榴弾ぶん投げてこいとアドバイスしたかった。
リデルというストーカー王子を回避したマックスはなに食わぬ顔で、「ルドルフが食材を腐敗させていないか見てきます。ついでに礼を言わねば」、と告げて部屋を出ていったのであった。
ナナはルドルフ髪ブレンドの栗色の髪の毛をリデルがどう使うのか想像すると途端に食欲が減退した。今回はうまく退けたが、ストーカー第2王子リデルの暗躍はまだまだ終わらず、ナナを困惑させ、マックスを悩ますことになる。
14歳美少年第2王子が28歳の王太子付のイケメン護衛を恋慕していても全然、お耽美にならない展開とあいなってしまった。
【続く】
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「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
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