18 / 38
王女ファナのお茶会とドレス
しおりを挟む
東宮にて王太子コクトーと初キスを果たして、輿入れ当時からは考えられぬほど、ナナはコクトーを深く愛するようになっていた。
コクトーは容姿は、父である見目麗しいアラサー王婿ミモザ殿下に瓜二つの美形だが、女王陛下の最愛の王婿であるミモザ殿下の圧倒的な凛とした、一筋縄ではいかない雰囲気とは違い、駆け引きとは無縁な、真の意味で聡く優しく、善良な物腰である。
ミモザ殿下から受け継がれた濃い金髪と澄んだ青い目が特徴のコクトーとは対照的に、王太子妃となったナナは艶やか黒髪に黒曜石のような黒い瞳に白雪のような肌を誇る華奢な美少年で、気性の激しさと高潔さを兼ね備えた、お似合いの美少年どうし若夫婦であった。
ダイアナ女王陛下と王婿ミモザ殿下の第3子で、第1王女であるファナ・ローランサンにとっては、お父様譲りの美形な兄コクトーと北国特有の白い肌で、奇麗なお姫様のような美少年ナナは、自分の趣味嗜好にドンピシャな非常に尊い。もっと云えば、萌える、理想の兄夫婦となっていた。
「ナナおねえさまは、本当にコクトーお兄様とお似合いだわ! あんな、お美しくて、お優しい御方が義理のおねえさまになってくださるなんて夢のよう! もっと仲良くなりたいわ!」
ファナ王女だって、母であるダイアナ女王陛下譲りのキラキラした金髪と明るい碧眼が美しい相当な美少女だが、この王女さまの変わったところは、自分の非常に恵まれた容姿なんてまったく興味はなく、大好きなお父様であるミモザによく似た長兄コクトーや、黒髪に大きな黒い瞳で上質な真珠のような神秘的な美しさを持っているナナの存在を最も尊いと、崇めて、慕っている面である。
要するに自分の容姿なんてどうでもよくて、自分基準で認めた美しい存在を尊び、愛する癖がある。ちょっと趣味嗜好が倒錯した王女さまだ。
「ナナおねえさまとのお茶会を早くしたいわ! おねえさまに贈るドレスは届けたの? エリス?」
エリスとは、ファナ王女の侍女筆頭を務める貴族女性である。このエリスはシルバー家と同じく王室とゆかりある大貴族ヴィオレッド家のご令嬢だった。王婿ミモザ殿下の母方の親戚にあたり、現在のヴィオレッド家当主ジゼル・エフィー・ヴィオレッドの妹である。ヴィオレッド家とシルバー家は2大勢力とも云える名門大貴族なのだが、お互いの得意なジャンルで住み分けがハッキリしており、権力争いを起こさない。
「ファナ王女。ナナ王太子妃殿下へ贈るドレスは今朝方、使者を遣わして東宮に無事に到着したとのことです。王女さまが直々に、生地選びからデザインまでご担当された素晴らしいドレスをご覧になったナナ王太子妃殿下は、大層感動されたと使者が申しておりました」
「まぁ! おねえさまがそんなに喜んでくださるなんて! あたくしが針子と一緒に縫製した甲斐があるわ!」
ファナ王女の特技はお裁縫で、その腕前は12歳なのにプロ顔負けである。彼女は、一目で大好きになったナナのためにドレスを召使いだけに任せず、手ずから誂えていたのだ。
「ナナおねえさまの肌は白雪か真珠のように美しいもの! あたくしが選んだロイヤルブルーのシルクのドレスはきっと似合うわよね?」
ファナ王女の熱量高い問いかけに、侍女エリスは穏やかに応じた。
「ナナ王太子妃殿下はロイヤルブルー。ファナ王女は同じデザインのパステルピンクのドレスです。王女さまと妃殿下がお揃いの色違いドレスをお召しになっている姿を想像するだけで華やかですよ」
ヴィオレッド家当主の実妹ではあるが、諸事情あって結婚はできなかったエリスにファナ王女の世話を任せてくれたのは、王婿ミモザ殿下である。本来ならば修道院に行くべき運命であったエリスに王宮での仕事を斡旋してくれたミモザ殿下のことをエリスは非常に感謝している。
だから、そんなミモザ殿下の娘であり、第1王女であるファナに仕えることは、ほかの何にもかえがたい生き甲斐であった。ファナ王女の趣味嗜好が多少倒錯していたとて、エリスは気に留めない。
「ファナ王女。僭越ながら、ナナ王太子妃殿下とのお茶会の給仕を私が担当してもよろしいですか?」
エリスの真摯な申し出にファナは満面の笑みで快諾した。
「もちろんよ。エリスはあたくしの大切な筆頭侍女だもの。ナナおねえさまをお招きしたお茶会の采配は貴女にお任せするわ」
ファナ王女の趣味は多少倒錯だが、実は聡明な両親に似ていて、王宮を出入りする貴族たちが王太子妃ナナをどう評しているか少しの情報から把握していた。
ナナは華やかな王都で生活している宮廷貴族の1部からは「北の田舎王子」と揶揄され、囁かれている。
「愚かな貴族の中傷は、ナナおねえさまだけでなく、あたくしたち王家への侮辱よ。ナナおねえさまは毅然とし、お美しくて、素敵な御方。エリス、あたくしはナナおねえさまを悪く云う連中を黙らせるためにお茶会を催すの。その意味はわかるわね?」
「はい! 心得てございます。ナナ王太子妃殿下がコクトー王太子殿下だけでなく、第1王女であらせられるファナ王女にとっても大切な存在であり、王室の立派な一員だと1部の愚かな貴族たちにわからせることが肝要」
「その通りよ! あたくしの大好きなおねえさまを悪く言うお馬鹿さんがなにも言えないようにしてやるわ!」
このようにナナを熱烈に支持するファナ王女によるお茶会がひらかれる日が間近に迫ってきている。
東宮の居室でファナから贈られてきた上質なドレスを見ながら、ナナはコクトーに話し掛けた。
「ファナ王女からのドレスは心がこもっているな。デザインから生地までこだわりを感じる。衣装係だけに任せず、自ら縫製をしてくれたなんて。これは着ないとバチが当たる」
「ナナがそう言ってくれて僕は嬉しいよ。ファナは少し不思議な子だけれど、リデルと同じく優しい子だから。仲良くしてね」
贈られたのはドレスだけでなく、使者が渡してくれた目録では、「ロイヤルブルーのドレスのほか、ファナ王女と色違いのネックレス、髪飾り、イヤリング、靴」、と記されている。
これだけで、ファナ王女のナナへの愛情と気合いがありありと伝わると云うものだ。
「お茶会前に試着してみる。コクトー、寝室で着替えるから来るなよ?」
ナナがドレス一式を手に寝室に去ると、そわそわしているコクトーの許にモモが近づいてきた。
「コクトー、ファナ王女から追加で届け物がきた」
「え? 僕宛に? ナナじゃなくて?」
箱を開けてみると、そこには純白のネグリジェが3着も入っていた。寸法からして、どう見てもナナへの贈り物だが、コクトー宛に手紙が添えられていた。
「えっと、親愛なるコクトーお兄様。
ナナおねえさま用のネグリジェを作りました。
これを絶対におねえさまに着せて、夫婦の営みをしてください!?
ファナ! ついに僕とナナの夜の事情にまで性癖をたぎらせてる!?」
妹の性癖がますます倒錯してきたので、コクトーは目眩がしたが、モモはネグリジェを見ながらニヤニヤしている。
「これは、すぐに脱がせられる仕様と、乱すのに時間がかかるパターンと布地からしてスケスケでエロパターンの豪華3点セットだな。コクトー、まずはどれをナナに着せるつもりだ?」
「着せないよ! こんなのナナに見せたら、僕がこういう格好させてナナとその……そういうことしたいみたいじゃないか!?」
本音を云えば、スケスケ生地でナナの白い肌が丸見えなネグリジェを着せたいコクトーだが、こんな下心丸出しなネグリジェをナナに強要する勇気はない。
「いまはドレスで充分だよ! ネグリジェは……また、いつか……機会がきたら」
そうボソボソとモモに言い訳しながらネグリジェを隠そうとしていたコクトーの前に、ロイヤルブルーのドレスに身を包んだナナが姿を見せた。
「サイズがピッタリだった。ファナ王女、いつ俺のサイズを採寸したんだ?」
首を傾げるナナをコクトーは見惚れて声も出せないでいる。細くて、白い肌がロイヤルブルーのドレスによって更に際立ったナナは言葉に表せないくらいに美しくて、神々しいほどであった。
「コクトー、一応着てみたがどうだ?」
ナナが訪ねてもコクトーは赤面したまんまナナに釘付けになっているので、モモが代わりに言ってやった。
「ナナ、よく似合ってる。コクトーなんて見惚れてて声も出せねぇでやんの!」
「そうか? 女装なんて憂鬱だったが、ファナ王女の優しい気持ちは充分に伝わった」
少し恥ずかしいが、これを着てお茶会に行くかと、笑っているナナに向かってコクトーがようやく声を絞り出した。
「麗しい真珠みたいだ。ナナはまるで、穢れない白雪みたいに奇麗……」
声を震わせドキドキしながら褒めるコクトーの顔を見たナナは同じく顔を赤くすると、「そ、そうかよ!」、とだけぶっきらぼうに返している。
これは、遠からずネグリジェを着用する日も近いか、とモモがニヤリと確信していたら、仮眠明けのマックスが不意に部屋に入ってきた。
「コクトー王太子。ファナ王女からお届け物です。箱の表面に「R18」と貼ってありますが?」
開けてみますかと、聞いてくるマックスにモモはひと言、「コクトーとナナにはまだ早い」、とだけ言って、開封を阻止した。
果たして、自分も12歳であるファナ王女がラベリングした「R18」とはなんだったのか?
気になるが、ナナのドレス姿に完全に心を奪われているコクトーは考えるのを放棄した。
王宮のファナ王女の居室では、ナナを招待するお茶会に向けての準備が着々と進んでいる。
「ケーキとサンドイッチはこれよ。あと、お紅茶はナナおねえさまのお口に合いそうな茶葉を数種類、用意してね」
お茶会の陣頭指揮をとっているファナ王女に対して侍女のエリスが笑顔で問いかけた。
「コクトー王太子殿下はファナ王女が送った「R18」を開封しましたかね?」
「お兄様にそんな勇気はないわ。おそらく、モモかマックスが開封しているわよ」
ファナ王女は裁縫だけでなく絵も得意である。最初は余った紙に遊びで描いていたが、娘の才能を見たミモザ殿下が、スケッチブックや画材をプレゼントしてくれた。
それで更に腕を上げたファナ王女はキャンバスを用意して、本格的に人物画を描いてみたのだ。
結論から述べると、コクトーにファナ王女が送った「R18」は冗談で、中身はナナの姿を描いた普通の肖像画である。
「モモがきっと東宮に飾ってくれるわ」
そんな会話をしながらお茶会の用意をしているファナ王女の許に、すぐ上の兄であるリデル王子がやってきた。
「ファナ。忙しいところすまぬが頼みがある」
「あら? なぁに、リデルお兄様? あたくしに頼みって?」
兄のリデルもお茶会に加わりたいのかとファナは思っていたが、リデルの頼みは想像を越えてきた。
「私のマックスに対して抱く、淫らが炸裂した妄想を「薄い本」にしたいのだが。その挿し絵を担当してもらえまいか?」
「あたくしまで、ステフのカウンセリングを受けることになるからお断りするわ。お兄様だけでお作りになって。「薄い本」は」
倒錯してても、そこはズバッと断るファナ王女であった。
その後のお茶会で、ナナは義妹であるファナ王女と仲良く過ごしたが、お茶の途中、ファナ王女より、リデル王子が自力で作ったマックスへの淫らな妄想を書き散らした「薄い本」が、ミモザ殿下により発見され、その内容がマックスの名誉と公序良俗を著しく侵害するとして、ダイアナ女王陛下の命により焚書となったことを知らされる。
「な、なにを書いたんだよ? リデル王子は?」
唖然とするナナに向かってファナ王女は笑顔で、「リデルお兄様はお小さい頃から日記を記していますの。それも焚書案件らしいけれど、我が子の日記まで焚書にするのは可哀想とミモザお父様がご判断され、厳重に鍵をかけて封印していますわ」と告げた。
あのミモザ殿下に禁書扱いされているリデル王子の日記はどれだけヤバイのか、ナナは気になったが、目の前で可憐に微笑む義妹ファナもスケスケのきわどいネグリジェを作って兄のコクトーにナナに着せろと送り付けた事実を、当のナナはまだ知らない。
そして、王太子妃であるナナが、女王陛下やミモザ殿下ばかりでなく、第1王女であるファナからも愛され、大切にされているという噂は宮廷にも届き、ナナを北の田舎王子と侮る貴族は自然といなくなったという。
【続く】
コクトーは容姿は、父である見目麗しいアラサー王婿ミモザ殿下に瓜二つの美形だが、女王陛下の最愛の王婿であるミモザ殿下の圧倒的な凛とした、一筋縄ではいかない雰囲気とは違い、駆け引きとは無縁な、真の意味で聡く優しく、善良な物腰である。
ミモザ殿下から受け継がれた濃い金髪と澄んだ青い目が特徴のコクトーとは対照的に、王太子妃となったナナは艶やか黒髪に黒曜石のような黒い瞳に白雪のような肌を誇る華奢な美少年で、気性の激しさと高潔さを兼ね備えた、お似合いの美少年どうし若夫婦であった。
ダイアナ女王陛下と王婿ミモザ殿下の第3子で、第1王女であるファナ・ローランサンにとっては、お父様譲りの美形な兄コクトーと北国特有の白い肌で、奇麗なお姫様のような美少年ナナは、自分の趣味嗜好にドンピシャな非常に尊い。もっと云えば、萌える、理想の兄夫婦となっていた。
「ナナおねえさまは、本当にコクトーお兄様とお似合いだわ! あんな、お美しくて、お優しい御方が義理のおねえさまになってくださるなんて夢のよう! もっと仲良くなりたいわ!」
ファナ王女だって、母であるダイアナ女王陛下譲りのキラキラした金髪と明るい碧眼が美しい相当な美少女だが、この王女さまの変わったところは、自分の非常に恵まれた容姿なんてまったく興味はなく、大好きなお父様であるミモザによく似た長兄コクトーや、黒髪に大きな黒い瞳で上質な真珠のような神秘的な美しさを持っているナナの存在を最も尊いと、崇めて、慕っている面である。
要するに自分の容姿なんてどうでもよくて、自分基準で認めた美しい存在を尊び、愛する癖がある。ちょっと趣味嗜好が倒錯した王女さまだ。
「ナナおねえさまとのお茶会を早くしたいわ! おねえさまに贈るドレスは届けたの? エリス?」
エリスとは、ファナ王女の侍女筆頭を務める貴族女性である。このエリスはシルバー家と同じく王室とゆかりある大貴族ヴィオレッド家のご令嬢だった。王婿ミモザ殿下の母方の親戚にあたり、現在のヴィオレッド家当主ジゼル・エフィー・ヴィオレッドの妹である。ヴィオレッド家とシルバー家は2大勢力とも云える名門大貴族なのだが、お互いの得意なジャンルで住み分けがハッキリしており、権力争いを起こさない。
「ファナ王女。ナナ王太子妃殿下へ贈るドレスは今朝方、使者を遣わして東宮に無事に到着したとのことです。王女さまが直々に、生地選びからデザインまでご担当された素晴らしいドレスをご覧になったナナ王太子妃殿下は、大層感動されたと使者が申しておりました」
「まぁ! おねえさまがそんなに喜んでくださるなんて! あたくしが針子と一緒に縫製した甲斐があるわ!」
ファナ王女の特技はお裁縫で、その腕前は12歳なのにプロ顔負けである。彼女は、一目で大好きになったナナのためにドレスを召使いだけに任せず、手ずから誂えていたのだ。
「ナナおねえさまの肌は白雪か真珠のように美しいもの! あたくしが選んだロイヤルブルーのシルクのドレスはきっと似合うわよね?」
ファナ王女の熱量高い問いかけに、侍女エリスは穏やかに応じた。
「ナナ王太子妃殿下はロイヤルブルー。ファナ王女は同じデザインのパステルピンクのドレスです。王女さまと妃殿下がお揃いの色違いドレスをお召しになっている姿を想像するだけで華やかですよ」
ヴィオレッド家当主の実妹ではあるが、諸事情あって結婚はできなかったエリスにファナ王女の世話を任せてくれたのは、王婿ミモザ殿下である。本来ならば修道院に行くべき運命であったエリスに王宮での仕事を斡旋してくれたミモザ殿下のことをエリスは非常に感謝している。
だから、そんなミモザ殿下の娘であり、第1王女であるファナに仕えることは、ほかの何にもかえがたい生き甲斐であった。ファナ王女の趣味嗜好が多少倒錯していたとて、エリスは気に留めない。
「ファナ王女。僭越ながら、ナナ王太子妃殿下とのお茶会の給仕を私が担当してもよろしいですか?」
エリスの真摯な申し出にファナは満面の笑みで快諾した。
「もちろんよ。エリスはあたくしの大切な筆頭侍女だもの。ナナおねえさまをお招きしたお茶会の采配は貴女にお任せするわ」
ファナ王女の趣味は多少倒錯だが、実は聡明な両親に似ていて、王宮を出入りする貴族たちが王太子妃ナナをどう評しているか少しの情報から把握していた。
ナナは華やかな王都で生活している宮廷貴族の1部からは「北の田舎王子」と揶揄され、囁かれている。
「愚かな貴族の中傷は、ナナおねえさまだけでなく、あたくしたち王家への侮辱よ。ナナおねえさまは毅然とし、お美しくて、素敵な御方。エリス、あたくしはナナおねえさまを悪く云う連中を黙らせるためにお茶会を催すの。その意味はわかるわね?」
「はい! 心得てございます。ナナ王太子妃殿下がコクトー王太子殿下だけでなく、第1王女であらせられるファナ王女にとっても大切な存在であり、王室の立派な一員だと1部の愚かな貴族たちにわからせることが肝要」
「その通りよ! あたくしの大好きなおねえさまを悪く言うお馬鹿さんがなにも言えないようにしてやるわ!」
このようにナナを熱烈に支持するファナ王女によるお茶会がひらかれる日が間近に迫ってきている。
東宮の居室でファナから贈られてきた上質なドレスを見ながら、ナナはコクトーに話し掛けた。
「ファナ王女からのドレスは心がこもっているな。デザインから生地までこだわりを感じる。衣装係だけに任せず、自ら縫製をしてくれたなんて。これは着ないとバチが当たる」
「ナナがそう言ってくれて僕は嬉しいよ。ファナは少し不思議な子だけれど、リデルと同じく優しい子だから。仲良くしてね」
贈られたのはドレスだけでなく、使者が渡してくれた目録では、「ロイヤルブルーのドレスのほか、ファナ王女と色違いのネックレス、髪飾り、イヤリング、靴」、と記されている。
これだけで、ファナ王女のナナへの愛情と気合いがありありと伝わると云うものだ。
「お茶会前に試着してみる。コクトー、寝室で着替えるから来るなよ?」
ナナがドレス一式を手に寝室に去ると、そわそわしているコクトーの許にモモが近づいてきた。
「コクトー、ファナ王女から追加で届け物がきた」
「え? 僕宛に? ナナじゃなくて?」
箱を開けてみると、そこには純白のネグリジェが3着も入っていた。寸法からして、どう見てもナナへの贈り物だが、コクトー宛に手紙が添えられていた。
「えっと、親愛なるコクトーお兄様。
ナナおねえさま用のネグリジェを作りました。
これを絶対におねえさまに着せて、夫婦の営みをしてください!?
ファナ! ついに僕とナナの夜の事情にまで性癖をたぎらせてる!?」
妹の性癖がますます倒錯してきたので、コクトーは目眩がしたが、モモはネグリジェを見ながらニヤニヤしている。
「これは、すぐに脱がせられる仕様と、乱すのに時間がかかるパターンと布地からしてスケスケでエロパターンの豪華3点セットだな。コクトー、まずはどれをナナに着せるつもりだ?」
「着せないよ! こんなのナナに見せたら、僕がこういう格好させてナナとその……そういうことしたいみたいじゃないか!?」
本音を云えば、スケスケ生地でナナの白い肌が丸見えなネグリジェを着せたいコクトーだが、こんな下心丸出しなネグリジェをナナに強要する勇気はない。
「いまはドレスで充分だよ! ネグリジェは……また、いつか……機会がきたら」
そうボソボソとモモに言い訳しながらネグリジェを隠そうとしていたコクトーの前に、ロイヤルブルーのドレスに身を包んだナナが姿を見せた。
「サイズがピッタリだった。ファナ王女、いつ俺のサイズを採寸したんだ?」
首を傾げるナナをコクトーは見惚れて声も出せないでいる。細くて、白い肌がロイヤルブルーのドレスによって更に際立ったナナは言葉に表せないくらいに美しくて、神々しいほどであった。
「コクトー、一応着てみたがどうだ?」
ナナが訪ねてもコクトーは赤面したまんまナナに釘付けになっているので、モモが代わりに言ってやった。
「ナナ、よく似合ってる。コクトーなんて見惚れてて声も出せねぇでやんの!」
「そうか? 女装なんて憂鬱だったが、ファナ王女の優しい気持ちは充分に伝わった」
少し恥ずかしいが、これを着てお茶会に行くかと、笑っているナナに向かってコクトーがようやく声を絞り出した。
「麗しい真珠みたいだ。ナナはまるで、穢れない白雪みたいに奇麗……」
声を震わせドキドキしながら褒めるコクトーの顔を見たナナは同じく顔を赤くすると、「そ、そうかよ!」、とだけぶっきらぼうに返している。
これは、遠からずネグリジェを着用する日も近いか、とモモがニヤリと確信していたら、仮眠明けのマックスが不意に部屋に入ってきた。
「コクトー王太子。ファナ王女からお届け物です。箱の表面に「R18」と貼ってありますが?」
開けてみますかと、聞いてくるマックスにモモはひと言、「コクトーとナナにはまだ早い」、とだけ言って、開封を阻止した。
果たして、自分も12歳であるファナ王女がラベリングした「R18」とはなんだったのか?
気になるが、ナナのドレス姿に完全に心を奪われているコクトーは考えるのを放棄した。
王宮のファナ王女の居室では、ナナを招待するお茶会に向けての準備が着々と進んでいる。
「ケーキとサンドイッチはこれよ。あと、お紅茶はナナおねえさまのお口に合いそうな茶葉を数種類、用意してね」
お茶会の陣頭指揮をとっているファナ王女に対して侍女のエリスが笑顔で問いかけた。
「コクトー王太子殿下はファナ王女が送った「R18」を開封しましたかね?」
「お兄様にそんな勇気はないわ。おそらく、モモかマックスが開封しているわよ」
ファナ王女は裁縫だけでなく絵も得意である。最初は余った紙に遊びで描いていたが、娘の才能を見たミモザ殿下が、スケッチブックや画材をプレゼントしてくれた。
それで更に腕を上げたファナ王女はキャンバスを用意して、本格的に人物画を描いてみたのだ。
結論から述べると、コクトーにファナ王女が送った「R18」は冗談で、中身はナナの姿を描いた普通の肖像画である。
「モモがきっと東宮に飾ってくれるわ」
そんな会話をしながらお茶会の用意をしているファナ王女の許に、すぐ上の兄であるリデル王子がやってきた。
「ファナ。忙しいところすまぬが頼みがある」
「あら? なぁに、リデルお兄様? あたくしに頼みって?」
兄のリデルもお茶会に加わりたいのかとファナは思っていたが、リデルの頼みは想像を越えてきた。
「私のマックスに対して抱く、淫らが炸裂した妄想を「薄い本」にしたいのだが。その挿し絵を担当してもらえまいか?」
「あたくしまで、ステフのカウンセリングを受けることになるからお断りするわ。お兄様だけでお作りになって。「薄い本」は」
倒錯してても、そこはズバッと断るファナ王女であった。
その後のお茶会で、ナナは義妹であるファナ王女と仲良く過ごしたが、お茶の途中、ファナ王女より、リデル王子が自力で作ったマックスへの淫らな妄想を書き散らした「薄い本」が、ミモザ殿下により発見され、その内容がマックスの名誉と公序良俗を著しく侵害するとして、ダイアナ女王陛下の命により焚書となったことを知らされる。
「な、なにを書いたんだよ? リデル王子は?」
唖然とするナナに向かってファナ王女は笑顔で、「リデルお兄様はお小さい頃から日記を記していますの。それも焚書案件らしいけれど、我が子の日記まで焚書にするのは可哀想とミモザお父様がご判断され、厳重に鍵をかけて封印していますわ」と告げた。
あのミモザ殿下に禁書扱いされているリデル王子の日記はどれだけヤバイのか、ナナは気になったが、目の前で可憐に微笑む義妹ファナもスケスケのきわどいネグリジェを作って兄のコクトーにナナに着せろと送り付けた事実を、当のナナはまだ知らない。
そして、王太子妃であるナナが、女王陛下やミモザ殿下ばかりでなく、第1王女であるファナからも愛され、大切にされているという噂は宮廷にも届き、ナナを北の田舎王子と侮る貴族は自然といなくなったという。
【続く】
1
あなたにおすすめの小説
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした
444
BL
『醜い顔…汚らしい』
幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。
だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。
その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話
暴力表現があるところには※をつけております
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
拝啓、親愛なる王子、魔族に求婚されて元従者は花嫁と相成りそうです
石月煤子
BL
「――迎えにきたぞ、ロザ――」
とある国の王子に仕える従者のロザ。
過保護な余り、単独必須の武者修行へ赴く王子をこっそり尾行し、魔獣が巣食う「暁の森」へとやってきた。
そこでロザは出会う。
ウルヴァスという名の不敵な魔族に。
「俺の花嫁に相応しい」
(は? 今、何て言った?)
■表紙イラスト(フリー素材)はお借りしています■
強欲なる花嫁は総てを諦めない
浦霧らち
BL
皮肉と才知と美貌をひっさげて、帝国の社交界を渡ってきた伯爵令息・エルンスト──その名には〝強欲〟の二文字が付き纏う。
そんなエルンストが戦功の褒美と称されて嫁がされたのは、冷血と噂される狼の獣人公爵・ローガンのもとだった。
やがて彼のことを知っていくうちに、エルンストは惹かれていく心を誤魔化せなくなる。
エルンストは彼に応える術を探しはじめる。荒れた公爵領を改革し、完璧な伴侶として傍に立つために。
強欲なる花嫁は、総てを手に入れるまで諦めない。
※性描写がある場合には*を付けています。が、後半になると思います。
※ご都合主義のため、整合性は無いに等しいです、雰囲気で読んでください。
※自分の性癖(誤用)にしか配慮しておりません。
※書き溜めたストックが無くなり次第、ノロノロ更新になります。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる