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池の底の歪んだ恋慕
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ヒナリザ・ケリー・シルバーはそろそろ三十路にさしかかる王宮の財務官吏である。
その淡い香色――薄い茶色の髪と整った目鼻立ちが理知的にみえる美形で、名門大貴族シルバー家の一員であるヒナリザだが、性格はとても控えめでおとなしい。
同じ境遇でシルバー家に拾われた幼馴染みであるマックスは幼い頃から利発で、正統派な端麗な容姿の持ち主でエリート軍人。
同じく幼馴染みのステフは赤毛の愛らしい童顔な美形の医学者である。
もう香色なヒナリザ、栗毛なマックス、赤毛のステフだけで充分イケメンパラダイス状態だが、彼ら3人のボスは段違いな美しさと才気がある。
ヒナリザ、マックス、ステフの事実上のボスとも云える存在……それは現シルバー家当主として君臨するモモだ。
ステフ、マックス、ヒナリザの3人がいまでも愛しているのは、先代シルバー家当主であり家督をついで10年ほどで亡くなったミシェルなのだ。
しかし、3人が心から尊敬して、慕う存在は、そんなミシェルの愛人筆頭で、現シルバー家当主モモのである。
ヒナリザはモモと同い年だが、控えめでおとなしい彼を親身に世話したのはモモで、ミシェル亡きあとから性に奔放になったマックスの尻ぬぐいをするのもモモで、頻繁に仕事をサボる医学者になったステフを叱りつつフォローするのもモモなのだ。
(大人になっても僕たちはモモ様に甘えてばかりだ……)
ヒナリザはそこまでモモに迷惑を掛けていないが、マックスとステフはド級にモモに迷惑を掛けまくっており、ヒナリザとしては心苦しい。
そんなことを考えていたある日のことである。
――
「ヒナリザさん! 今晩は一緒にカフェなんていかがです? ワインでも飲みませんか?」
官吏として働くヒナリザの許に、苦手な客がやって来た。
王立士官学校卒のエリート軍人で、ヒナリザの幼馴染みマックスの先輩でセフレである。更にこの軍人はダイアナ女王陛下とミモザ殿下の次男リデル王子の武術指南で、現王立士官学校の主任教官という要職なので非常に扱いが面倒だった。
「フリツ殿。あの、今夜も残業があるのです。だから……すみません!」
フリツというリデル王子の武術指南でマックスのセフレは高位の貴族であった。そのため、シルバー家の一員ではあっても、元は孤児であったヒナリザは何となく遠慮してしまう。
しかし、当のフリツは貴族ながら非常に気さくな性格で、王宮でも人気がある。
フリツはマックスの幼馴染みであり有能な官吏のヒナリザに興味津々らしく、とても友好的に接してくる。
悪いヤツでは無いのはたしかだが、おとなしいヒナリザはどうにもフリツのことが苦手なので理由をつけては誘いを断っている。
「また残業ですか? いつもお疲れ様です。ならばランチはいかがです? 厨房で特別に美味しい肉を焼くよう命じますから!」
王宮には、そこで働く官吏や衛兵など、要は職員だけの専用食堂がある。マックスのように東宮につめているエリート近衛隊は基本的に東宮で食事をするが、女官や侍女や侍従など、たくさんの王宮の奉職者は主に王宮の奉職者専用の食堂を使うのだ。
そこで気が合う仲間を見つけたり、情報交換をしたり、そして……気になる恋の相手を見つけて将来の伴侶を探す目的の者も多い。
ヒナリザはあまり食堂を利用しないが、気があった者同士が職場結婚することを女王陛下も推奨しているという。
ダイアナ女王陛下と王婿ミモザ殿下は従姉弟同士での政略結婚であり、貴族出身者も家同士の付き合いで結婚するケースが多い。
だが、女王陛下が王宮内の風通しをよくする改革を行った結果、徐々に家格や身分を越えて、自由に恋愛結婚する者も増えているらしい。
そんな出逢いの場でもある王宮の奉職者専用食堂に行こうとヒナリザはフリツに誘われているのだ。
「今日は羊肉が美味しいと聞いたので! 一緒にどうです!?」
「え? あの、あの、……えっと!」
おとなしいヒナリザは快活な軍人であるフリツの迫力が怖くて、拒否もできない。
(どうしよう? 断ったらマックスが困るかな? でも、マックスの遊び相手と関わるのも嫌だし)
有能な官吏なのに堂々と嫌だと言えないヒナリザの困惑した顔を見た軍人フリツが察したように優しい笑顔で告げてきた。
「もちろん。単なるランチです。それならばいいでしょう?」
可愛い後輩であるマックスの親友に不埒なことはしません!
爽やかにフリツは宣言するが、既婚者のクセに遊びでマックスと戯れてる時点で不埒きわまりなく、ヒナリザとしては断りたい。
(こんな時にモモ様がいれば!)
控えめなヒナリザをいつも庇ってくれていたのはモモである。同い年なのにモモは気が強く、抜群に賢くて、お兄さんみたいであった。
(モモ様だけじゃなくて、弱い僕はいつもマックスやステフにも庇われてた。マックスは仲間想いで僕がいじめられると喧嘩してくれたっけ……)
――――――
マックスとステフとは孤児になり引き取られた売春宿で知り合った。3人とも親が死ぬなり、親に捨てられたり売られたりした境遇なので、同年代ですぐに仲良くなった。マックスは売春宿にいた頃から、すでに読み書きができて利発で、気に入らない客を殴ったり、いい子そうなようで怖い面もあったが、優しい人柄の美少年であった。
ステフはどんな経緯か不明だが、売春宿に売られても常に笑顔で朗らかで、無邪気な子だった。
ヒナリザは幼少期には孤児で、読み書きも満足にできなかった。なので、1歳下のマックスに売春宿の仕事の合間に読み書きを教えてもらっていた。
「ヒナリザ。俺の母親はカネに困って俺を売り飛ばした。そのカネで男と逃げたんだ。自分の息子より惚れた男が大切だったんだから仕方ない」
こんな調子で、マックスは自身の不幸を嘆かず、淡々と話すクセが幼い頃からあった。ヒナリザから見てもマックスの容貌は気品があって、俗っぽくない。
もしかしたら、没落したけど、マックスは高貴な生まれなのかなとヒナリザは思ったが、マックスは自身の素性なんて興味がなく、自分を売った母親を恨んでいる様子もない。
ヒナリザがマックスに文字を教わっていると小さなステフが割り込んでくる。
ステフは赤毛の愛らしい顔立ちで、こんな劣悪な売春宿にいても常に笑顔であった。
「マックス~! 僕にもお勉強おしえて!」
「はいはい! ステフ、前に教えたこの言葉の意味はわかる?」
マックスがスラスラ文字を書くとステフはキョトンとしている。
「忘れた~! なんて読むの?」
無邪気なステフの質問にマックスは笑みを浮かべて静かに正解を教える。
「池の底。ここは光が見えない池の底と同じ。希望も未来もない」
瞳を伏せたマックスが声を悲しげに絞り出すとステフは笑顔で言った。
「ふーん! なら! ここの外には、キボウ、と、ミライがあるの? 僕、ここでマックスやヒナリザが一緒で楽しいよ!?」
明朗快活なステフの言葉に、それまで澄ましていたマックスが急に泣き出した。ステフがドン底な環境でも光を見つけられたのとは異なり、マックスにとってここは絶望の底だったのだ。
マックスが泣いているのをヒナリザはあたふたしながら見ているだけだったが、ステフは笑顔でマックスのことを抱きしめた。
「僕ね。引き取られた、えっとシンセキ? のおうちでたくさんぶたれた。でも、マックスやヒナリザは僕をぶたないから大好き!」
絶望に心が苛まれているマックスと同様に、ステフも虐待の恐怖から感情が麻痺しておかしくなっていた。
ヒナリザは両親がいたが早くに死んでしまい、引き取り先がなくて売られたが、少なくとも亡くなった両親がヒナリザを愛してくれた記憶はある。
だが、マックスは母親の都合で売買され、ステフは引き取られた先で過酷な思いをした果てに売春宿だ。
(この2人は親に抱きしめられた記憶も、自分を慈しんでくれた人の笑顔の記憶もないんだな)
社会の最下層で朽ちて死んでいく未来を聡いマックスは悟っていて絶望している。ステフはそういう現実を直視できず笑みを浮かべている状態だ。
「ここから逃げたところで、のたれ死ぬのが早まるだけ。本当は早く死にたいのに勇気がない」
「マックス! 死ぬのは簡単だよ!? 紐で首をくくればいいんだ。僕のパパとママみたいに!」
生きていく気力を失いかけているマックスと絶望から逃れるすべを直に見てしまったステフを目の当たりして、ヒナリザは慰めることもできず無力であった。
しかし、そんな池の底のような日々に転機が訪れた。
聖職者でありながら裏で少年売春宿を経営していた司教が摘発されて、売春宿に捜索が入った。
摘発したのは、大貴族の御曹司で、孤児の保護活動に熱心な青年貴族だという。
自分達も捕まるとヒナリザは怯えていたが、売春宿を捜索に来た役人を率いる若い貴族男性はヒナリザたちを見ると優しく微笑んだ。
「怖がらないで。私の名はミシェル。君たちを助けに来た」
そう口にしてヒナリザの頭を撫でようとしたミシェルという身なりのよい青年貴族の手をマックスが叩いて拒絶した。
「また、俺たちを別に売り飛ばす気か? ヒナリザとステフに何かしたら許さない!」
マックスはミシェルという救いの手に疑念を抱いたらしく警戒していたが、当のミシェルという貴族は穏和な笑みをマックスに向けている。
「安心してくれ。君たちは私がシルバー家の名において保護する。栗毛の可愛い子。君は仲間想いで勇敢だね。お名前は?」
名前を訊かれたマックスはまだミシェルを警戒しつつも毅然と答えた。
「マックス。名字は知らない」
「マックスか! いい名前だね。誓ってマックスや背後にいる君の大切な仲間に危害は加えないから教えてくれるかい? 2人のお名前は?」
ヒナリザは直感的にこのミシェルという青年は悪人ではないと察した。なので、警戒するマックスを宥めるように立ち上がると、自ら名のったのだ。
「ヒナリザです。マックスの友達。この赤毛の子はステフ」
「ありがとう。ヒナリザ……素敵な名前だ。赤毛の君はステフだね?」
ミシェルが優しく尋ねるとステフは笑顔で無邪気にミシェルに抱きついた。
「ステフだよ! おにいさんはだぁれ? 新しい売人?」
恐怖の感覚が麻痺したステフを抱きしめながらミシェルは真剣な……怒りのこもった声を圧し殺して告げる。
「許せない。君たちにこんな思いをさせたヤツを!」
ミシェルという貴族青年は捜索する役人に指示を出すと、そのままステフ、マックス、ヒナリザをシルバー家本邸に保護して連れて帰ってくれた。
本邸には予め売買宿捜索を聞いていたモモが待機していて、怯えるヒナリザたちを迎えてくれた。
マックスはモモと初めて顔を合わせた瞬間に、ヒナリザとステフを守るようにモモをキッと睨み付けたが、マックスが睨んでもモモはまったく動じず、むしろ痩せて、ボロボロなのに仲間を案じるマックスのそばに寄り、優しく囁いた。
「もう強がらなくてもいい。おにいちゃんが付いてる。だからそんな目をするな」
そうモモがマックスに声を掛けると、ずっと警戒して表情が険しかったマックスは憑き物が落ちたように脱力して、膝を付いて泣き出した。
泣きじゃくるマックスをモモは軽く抱きしめると、呆然と立っていたヒナリザとステフに笑顔で言った。
「着替えと食事がある! ほら! お前も泣いてないで顔上げろ! 名前は?」
緊張の糸がほどけて泣いているマックスの頭を撫でながらモモが問いかけるとマックスは少ししゃくりあげながら告げた。
「マックス。あなたはだれ?」
「俺はモモ! お前たちのおにいちゃんになる! ミシェルに拾われた孤児だ。よろしくな!」
堂々と名のるモモはヒナリザたちと同年代なのに不遜ながら、スミレ色の瞳が美しくて、とても奇麗な少年だった。同じ孤児なのに絶望に沈まず、現実から目をそらしていない毅然とした風格がモモを覆っており、まさに王者のような威厳がある。
「よし! マックスが泣き止んだら食事だ! その後は部屋に案内する! 怖がるな。この先は何があろうが。俺は絶対お前らを守る!」
不遜で生意気なようで、あたたかく優しい声であった。
泣いていたマックスが落ち着いたので、ヒナリザたちはシルバー家本邸に迎えられ、信じられないくらい美味しい食事を味わい、フカフカのベッドで休むことを許される。
池の底という闇から奇跡的にヒナリザたちは抜け出せたのだ。
――
「ヒナリザさん? 大丈夫ですか? 嫌なら断っても構わないのに」
軍人フリツの声でヒナリザは幼少期の記憶を振り払い、息を吸うと声を出した。
「僕を食事に誘う理由はなんですか?」
無礼にならぬように気を付けたヒナリザだったが、フリツはそんなこと気に留めず、朗らかに笑った。
「いやはや! ヒナリザさんに警戒されるとは! 別に下心はありません。後輩……マックスのことで少しご相談が」
声を潜めたフリツにヒナリザも嫌な予感がして、ランチの誘いに応じた。
人混みから離れたテラスでフリツは食事をしながらヒナリザに相談を持ちかけたのだ。
「マックスとは士官学校からの付き合いですが、なんと言いますか……。少し真面目すぎる面があり心配です。奔放に振る舞いながらも、強がっているようで」
フリツはマックスとは戯れの遊び相手だが、可愛い後輩であるマックスのことを本気で案じている様子だった。
「ヒナリザさんならわかると思います。あんなことを続けたらマックスはおかしくなる。それは彼を助けた先代シルバー家当主が悲しむことになります。そして、モモ様も」
「あなたはマックスを本気で心配してくださるのですね。僕もあの子が心配です。マックスは利発な分、我慢ばかりしてきた」
ヒナリザのようにおとなしく他人にたよることも、ステフのように無邪気に誰かに甘えることも、なまじ利発なマックスはできなくて、気を張り続けている。
自分達を保護して愛してくれたミシェルがいた頃はそれでもバランスがとれていたが、ミシェルが亡くなり、マックスの中で何かが壊れてしまった。
そして、ミシェルが最も愛した存在はモモであり、ミシェルの急逝にもっとも悲しんだのはモモである。
王太子コクトーの教育係をミモザ殿下から任される前のモモはミシェルの後追いをしないかヒナリザをヒヤヒヤさせていた。
しかし、そんなモモの側に1番に寄り添い、モモの絶望の近くにいた存在はマックスであったのだ。
「モモ様は昔、約束しましたよね? この先は何があっても俺たちを守ると? なのにご自分だけミシェル様の後を追いたいなんて身勝手です! 約束を反故にしないでください!」
近衛隊の俊英であったマックスはとっくにモモから自立していたが、ミシェルを失ったモモから絶対に目を離さなかった。
マックスの献身もあってか、モモは心身ともに持ち直して、王太子コクトーの教育係となり、活躍している。
安心したヒナリザだがどうにもわからない面があるのだ。
(マックスが本当に愛したのはミシェル様なのかな? 実はずうっとマックスが執着しているのはモモ様なのではないか?)
この疑念は迂闊にステフにも話せないが、無邪気なステフは以前、ヒナリザにこんなことを言っていた。
「マックスはモモ様が大好きだね。でも、マックスのなかのモモ様への愛情は複雑だよ。うまく言えないけど、ミシェル様の1番はモモ様で、マックスはそんなモモ様が大好きなんだ。少し歪んだ愛情だよね?」
強がるマックスを優しくいたわったモモは同じ孤児なのに王者の風格であった。それを目の当たりにしたマックスのなかで無意識にモモへの崇拝が生まれて、それが、激しい思慕に繋がった可能性はある。
ステフは医者の勘でマックスの複雑な心理を分析していたらしい。
そして、マックスの先輩であるフリツも疑念を抱いている。
「率直に申すと。マックスはミシェル様とモモ様。どちらを愛しているのか自分でもわからず混乱しているように見える」
フリツの指摘にヒナリザはギクリとしたが、精一杯に平静を装った。
「それは考えすぎです。マックスはたしかにモモ様を慕ってますが。それは兄を慕う気持ちみたいなものです」
あなたが想像するような不埒な感情ではないと、暗に伝えようとしたヒナリザであったが、フリツは息を吐くと、話し出した。
「果たしてそうでしょうか? 士官学校の寮にいた頃からマックスが話題に出すのは決まってモモ様のことです。兄を慕うにしても少し異様なほどの執着を感じました。だから、訊いてみたことがあるのです」
マックスが本当に愛しているのは、ミシェル様でなくモモ様なのではないかと、フリツがズバリ追及すると、当時のマックスは一瞬だが表情を強ばらせたらしい。
「あの頃から無自覚に愛する存在がマックスのなかで混在していた可能性がある。実際に大人になってもマックスはモモ様のことしか頭にない」
ミシェルという恩人が亡くなってから、マックスが今まで以上にモモに執着を示しているのは事実なので、ヒナリザも言葉が出なかった。厄介なのはマックス自身がモモへの気持ちが兄を慕う以上の感情なのかわからなくなっている点である。
「リデル王子が仰ってました。「モモは、おそらくマックスの歪な愛情と執着に気付いている。しかし、知らぬふりをせざるを得ない状態だ」……普通に考えてモモ様がマックスの想いに応えることは不可能ですからね」
敏感なマックスはそういうモモの気持ちをすぐに察するので、適切な距離はとるよう心がける。だが、その反動が奔放な私生活に出てしまう。
「いやはや! こればかりはどうにもならないことだけに難しい」
マックスは利発で優等生に見えて、かなり複雑な性格ですからね。
そうフリツが言って笑うの見ていたヒナリザは思わず訊いてしまった。
「どうしてそんな話を僕にするんですか? あなたに言われなくてもマックスがなにを考えているかは僕にもわかります。幼馴染みですから」
少し口調がキツくなったヒナリザを見ながらフリツは苦笑いをすると本心を述べた。
「既婚者がこんなことを言っても誠意に欠けるでしょうが。私なりにマックスのことを好きだからです。だから、不幸な思いをしてほしくはない」
純粋にマックスだけを愛する人と幸せになってほしいだけです、と告げるフリツに対してヒナリザも同意見だったので素直に頷いた。
「僕もそれを願っています。そういう人がいてくれたらマックスだっていまみたいに葛藤することもなくなる」
「うーん。1番、身近にいるのはリデル王子なんですがね。当のマックスが相手にしていないからな~」
もう少しお互いの年齢が近ければ話も違ってくるかとフリツがこぼしていると、不意に朗らかな声が響いた。
「フリツ! マックスの件なら任せて! 少し強引だし、マックスの気持ちは無視することになるけど、うまくいくよ!」
いつの間にステフが側にいて、フリツとコソコソお喋りしている。ヒナリザはなにやら不穏な予感がしてステフに訊ねた。
「ステフ。なにを計画しているの? マックスに関わることなら教えて」
「ヒナリザ! もう延々とリデル王子の妄想を聴くのも。マックスの乱れた生活と歪んだモモ様への愛情を見てるのも疲れた。だから! マックスの意思はこの際、無視して、無理やりにでもリデル王子と関係を持たせようかなって!」
リデル王子は長年の想いを成就できるし、マックスは自分だけを愛してくれる人と関係を持てるし、モモ様もマックスに余計な心配をしなくて済むし、一石二鳥どころか三鳥以上だよ!
無茶苦茶なステフの提案にヒナリザは唖然としたが、フリツは乗り気である。
「ステフの提案は利にかなっています。マックスは目隠しをしてベッドに縛り付ければ、私が相手でなくても抵抗はしません。リデル王子だと察してもマックスは絶対に嫌がらない」
「そんなのダメです! マックスの気持ちを踏みにじり。果てはリデル王子の名誉まで貶めます! なにより、そんな風に関係を持ってところでマックスもリデル王子も不幸です」
良識的なヒナリザが大反対すると、ステフとフリツは顔を見合せていきなり笑った。
「あはは! ヒナリザ~! 安心してよ。天国のミシェル様に誓ってそんな非道なことはしない! そんな計画を実行したら僕がモモ様に殺されちゃう!」
「ハハハ! ヒナリザさんは本当にお優しくて可愛いですね。ミシェル様は真に見る目がある! ご安心を! リデル王子はそんな計画に乗るような軽薄なお方ではありません」
マックスの意思を無視して、無理やりにでも関係を持つなんてこと、リデル王子は絶対にしないと、ステフとフリツに断言されたヒナリザは自分がからかわれたことに気付いて真っ赤になった。
「ステフ! 変なことを言わないでほしい! 本気でモモ様に報告しそうになったよ」
単なる冗談だったと安心したヒナリザであったが、背後から殺意を感じさせる気配がした。ステフとフリツの視線を追うと仁王立ちしたモモがこちらを見ている。
「いま、マックスのことですごく下衆なことを話してたな? ステフ? あとフリツとやら?」
ヒナリザはモモの殺気あふれた威圧から逃れたが、ステフとフリツはモモの気迫に恐怖し、凍りついた。それくらい、モモの形相は怖かったのだ。
「リデル王子が教えてくれた。ステフとフリツがマックスの意思を無視してヤバい計画をたててるおそれがあるって。お前ら、冗談でも金輪際、ふざけた計画はたてんな! 殺すぞ?」
リデル王子はステフとフリツの冗談が万が一、本当になったらマックスを傷つけると案じて、モモに密告したのだ。自分はマックスを恋慕しているが、そんな非道はしないと。
「ステフ。お前が感じるマックスへの違和感は正解かもだが。冗談でもこんな腐った計画はたてるな。リデル王子の名誉まで地に落ちることになる」
モモに叱られたステフはシュンと黙ったが、フリツは少し腑に落ちない顔でモモに言ったのだ。
「おそれながら。マックスの歪んだ思慕を知りながら無視をしているモモ様にも責任があるかと?」
マックスの気持ちをわかっているならば、言葉で伝えるなり、距離を置くなり、応えられないという意思を示すべきだとフリツが物言いすると、モモは問答無用でフリツをぶん殴った。
「士官学校で一緒だった程度で、知った口を利くな! マジで殺すぞ!?」
「モモ様! おさえて! 申し訳ございません! でも、ステフもフリツ殿もマックスを案じている気持ちは本気です!」
モモのぶちギレに焦ったヒナリザが必死に止めに掛かると、モモは少し声を和らげ、フリツをボコるのをやめた。
「お前らがヤキモキする気持ちは理解する。俺だってマックスを不幸にした自覚はあるからな。だから、敢えて、春になったらラン・ヤスミカ領に行かせることにした。コクトーとナナの引率と護衛って名目で」
少し東宮から離れて、懐かしいラン・ヤスミカ領で過ごせば、マックスにも変化があるかもしれない。そうモモは判断したのだ。
「あそこには、シオンやエドガー様がいる。きっとマックスにとってはいい相談相手になってくれると信じてる」
ヤバすぎる年長者の話を聴けば、マックスの心境も変わる可能性があるとモモは一縷の望みを託しているようだ。
「モモ様。マックスがなにも変化がなかったらどうするの?」
ステフの質問にモモは潔く応じた。
「その時は、マックスの絡まった愛情を見届ける。アイツをここまで追い詰めた責任は俺だから」
マックスは少年期からモモを異常なほど崇拝していた。それはミシェルもわかっていて、度々モモに忠告していたのだ。
「モモ。マックスは間違いなく私を通り越してお前が好きだ。あの子はそれを絶対に口にも態度にも出さないだろう。それがどういうことか考えてあげてほしい」
ミシェルはマックスの複雑な心境を理解して、マックスの行動はすべてモモを想ってのことだと承知していた。王立士官学校に入学して軍人を志したのも、シルバー家やミシェルのためというより、モモのことを考えての選択であった。
「そういう気持ちをマックスは死んでもモモには言わないだろう。あの子は、売買宿でも、必死でステフやヒナリザを守ろうとしていた。仲間想いで利発だけど心配なんだよ」
――マックスの愛情と関心の視野は狭いから。
――
ミシェルが案じていた通り、マックスは大切な存在であるモモへの思慕をこじらせ、袋小路に迷い込んでしまった。
せっかく、どん底な池から出られたのに、マックスの視野は狭い。
軍人としての能力は高いが、マックスは1番に想うのはモモの存在になってしまった。
「マックスはミシェルを裏切った罪悪感もある。そんな状態で暮らしてたら悪い方向にしか行かない。だから、思いきって、ラン・ヤスミカ領に行かせる。それがマックスのためだ」
モモはそれだけ告げるとヒナリザたちのもとから立ち去ってしまった。
ボコられる寸前だったフリツは深く息を吐いて、「ふぅ! モモ様を怒らせると恐ろしい。しかし、お互いに少し離れておくのは悪くないお考えだ」、と苦笑した。
「フリツ殿! 怪我は大丈夫ですか? モモ様に殴られて唇が切れてます!」
ヒナリザがあわててハンカチを出すと、フリツは微笑んで思わぬことを告げた。
「ヒナリザさんは本当に素敵な人です。私の妻もあなたみたいに控えめで心優しかった」
「え? 奥方様はまだ存命ですよね?」
フリツの話し方が過去形なので不思議に思ったヒナリザにステフが耳打ちした。
「フリツの奥さんは、その、病気なんだ。心の……。子供ができない自分を責めて心を壊した。そんなの、誰も悪くないのに」
「そんなに病んでいる奥方を放って、マックスと遊ぶとか最低ですよ!」
いつもは控えめなヒナリザが嫌悪感で怒鳴ると、フリツは反論せず、素直に認めたのだ。
「私は妻に子が出来なくても構わないと何度も言いました。だが、周囲の冷たい眼差しに耐えかねた妻は壊れた。愛する妻がどんどん追い詰められ、薬に依存する。幸いステフの治療で少し改善しました。でも、家から出ようとしません」
理想の妻になろうとして壊れたフリツの奥方はステフの治療で安定しているが、自分は役立たずだと責め続けている。
「こういうのは本人の気分次第だから周りが慰めても逆効果になる。フリツがいたわるほど奥さんは追い詰められる。ヒナリザにはその地獄がわかるの?」
鋭くステフに問われたヒナリザはなにも言い返せず黙り込んだ。フリツがマックスと関係を持つのを肯定はしないが、全面的に否定するのも筋違いな話なのだ。
「フリツ殿。あなたは奥方さまの状況とマックスを重ねたのですね?」
そう訊いたヒナリザにフリツは黙って首肯している。
大切な人の理想の存在になりたいは生きていれば誰でも抱く気持ちだ。その理想が高いほど、越えられない壁に心が折れることもある。
「マックスはモモ様の理想の弟分でいたかった。でも、それ以上の想いを抱いた自分を責めているよ。他人がどう説得しても改善はしない。自分で決着をつける以外は!」
ステフの言葉は正論で、周りが何をしても事態は悪化するだけだとヒナリザは悟り、溜息を吐いた。
「マックスが自分で割りきるしかないね。僕たちでも手出しはできない」
どんな選択をマックスがとろうが、ヒナリザはそれを見届けてあげることしかできなかった。
ラン・ヤスミカ領に行けば、少しはマックスの心境も改善するのか疑問だが、マックスとモモ様は少し距離を置いてお互いを考える時間が必要なのかもしれない。
「リデル王子がマックスと強引に関係を持つ意志がなくてよかった」
ヒナリザがそう呟くとステフとフリツは微笑んだ。
「リデル王子はすんごく優しいよ! 妄想な変態だけどエドガー様に似ているかなぁ! あのお方がマックスのお相手ならいいのに~!」
「本当に、恋やら愛は思う通りにいかないな~! リデル王子はマックスを愛すること以上にその精神状態を気に掛けている。いやはや、出来たお方だよ! 14歳なのに!」
口々にリデル王子を褒めるステフとフリツにヒナリザはダメ元で訊いてみた。
「いっそ。リデル王子もラン・ヤスミカ領に御一緒すれば進展があるかも?」
ヒナリザのこの提案にステフとフリツが食い付いて、「それだ!」、と揃って大賛成した。
後日、王太子コクトーと王太子妃ナナの新婚旅行旅行にリデル王子も随行することが正式に決まる。
「私は妻と過ごすので~!」
フリツがリデル王子の護衛を拒否ったので、マックスはコクトー、ナナに加えてリデル王子の護衛までこなす必要性が生じた。
「モモ様! 1人ぐらい道中で死んでも責めないでくださいね!?」
仕事が増えたマックスは怒ってモモに詰めよったが、リデル王子を旅に加える案を進言した、ヒナリザ……グッジョブ! とモモは内心では笑っていた。
コクトーとナナは別段リデル王子が新婚旅行に参戦しても気にしてない。
(あ~!? マックス目当てで付いてくるんだな~)くらいのノリである。
【続く!】
その淡い香色――薄い茶色の髪と整った目鼻立ちが理知的にみえる美形で、名門大貴族シルバー家の一員であるヒナリザだが、性格はとても控えめでおとなしい。
同じ境遇でシルバー家に拾われた幼馴染みであるマックスは幼い頃から利発で、正統派な端麗な容姿の持ち主でエリート軍人。
同じく幼馴染みのステフは赤毛の愛らしい童顔な美形の医学者である。
もう香色なヒナリザ、栗毛なマックス、赤毛のステフだけで充分イケメンパラダイス状態だが、彼ら3人のボスは段違いな美しさと才気がある。
ヒナリザ、マックス、ステフの事実上のボスとも云える存在……それは現シルバー家当主として君臨するモモだ。
ステフ、マックス、ヒナリザの3人がいまでも愛しているのは、先代シルバー家当主であり家督をついで10年ほどで亡くなったミシェルなのだ。
しかし、3人が心から尊敬して、慕う存在は、そんなミシェルの愛人筆頭で、現シルバー家当主モモのである。
ヒナリザはモモと同い年だが、控えめでおとなしい彼を親身に世話したのはモモで、ミシェル亡きあとから性に奔放になったマックスの尻ぬぐいをするのもモモで、頻繁に仕事をサボる医学者になったステフを叱りつつフォローするのもモモなのだ。
(大人になっても僕たちはモモ様に甘えてばかりだ……)
ヒナリザはそこまでモモに迷惑を掛けていないが、マックスとステフはド級にモモに迷惑を掛けまくっており、ヒナリザとしては心苦しい。
そんなことを考えていたある日のことである。
――
「ヒナリザさん! 今晩は一緒にカフェなんていかがです? ワインでも飲みませんか?」
官吏として働くヒナリザの許に、苦手な客がやって来た。
王立士官学校卒のエリート軍人で、ヒナリザの幼馴染みマックスの先輩でセフレである。更にこの軍人はダイアナ女王陛下とミモザ殿下の次男リデル王子の武術指南で、現王立士官学校の主任教官という要職なので非常に扱いが面倒だった。
「フリツ殿。あの、今夜も残業があるのです。だから……すみません!」
フリツというリデル王子の武術指南でマックスのセフレは高位の貴族であった。そのため、シルバー家の一員ではあっても、元は孤児であったヒナリザは何となく遠慮してしまう。
しかし、当のフリツは貴族ながら非常に気さくな性格で、王宮でも人気がある。
フリツはマックスの幼馴染みであり有能な官吏のヒナリザに興味津々らしく、とても友好的に接してくる。
悪いヤツでは無いのはたしかだが、おとなしいヒナリザはどうにもフリツのことが苦手なので理由をつけては誘いを断っている。
「また残業ですか? いつもお疲れ様です。ならばランチはいかがです? 厨房で特別に美味しい肉を焼くよう命じますから!」
王宮には、そこで働く官吏や衛兵など、要は職員だけの専用食堂がある。マックスのように東宮につめているエリート近衛隊は基本的に東宮で食事をするが、女官や侍女や侍従など、たくさんの王宮の奉職者は主に王宮の奉職者専用の食堂を使うのだ。
そこで気が合う仲間を見つけたり、情報交換をしたり、そして……気になる恋の相手を見つけて将来の伴侶を探す目的の者も多い。
ヒナリザはあまり食堂を利用しないが、気があった者同士が職場結婚することを女王陛下も推奨しているという。
ダイアナ女王陛下と王婿ミモザ殿下は従姉弟同士での政略結婚であり、貴族出身者も家同士の付き合いで結婚するケースが多い。
だが、女王陛下が王宮内の風通しをよくする改革を行った結果、徐々に家格や身分を越えて、自由に恋愛結婚する者も増えているらしい。
そんな出逢いの場でもある王宮の奉職者専用食堂に行こうとヒナリザはフリツに誘われているのだ。
「今日は羊肉が美味しいと聞いたので! 一緒にどうです!?」
「え? あの、あの、……えっと!」
おとなしいヒナリザは快活な軍人であるフリツの迫力が怖くて、拒否もできない。
(どうしよう? 断ったらマックスが困るかな? でも、マックスの遊び相手と関わるのも嫌だし)
有能な官吏なのに堂々と嫌だと言えないヒナリザの困惑した顔を見た軍人フリツが察したように優しい笑顔で告げてきた。
「もちろん。単なるランチです。それならばいいでしょう?」
可愛い後輩であるマックスの親友に不埒なことはしません!
爽やかにフリツは宣言するが、既婚者のクセに遊びでマックスと戯れてる時点で不埒きわまりなく、ヒナリザとしては断りたい。
(こんな時にモモ様がいれば!)
控えめなヒナリザをいつも庇ってくれていたのはモモである。同い年なのにモモは気が強く、抜群に賢くて、お兄さんみたいであった。
(モモ様だけじゃなくて、弱い僕はいつもマックスやステフにも庇われてた。マックスは仲間想いで僕がいじめられると喧嘩してくれたっけ……)
――――――
マックスとステフとは孤児になり引き取られた売春宿で知り合った。3人とも親が死ぬなり、親に捨てられたり売られたりした境遇なので、同年代ですぐに仲良くなった。マックスは売春宿にいた頃から、すでに読み書きができて利発で、気に入らない客を殴ったり、いい子そうなようで怖い面もあったが、優しい人柄の美少年であった。
ステフはどんな経緯か不明だが、売春宿に売られても常に笑顔で朗らかで、無邪気な子だった。
ヒナリザは幼少期には孤児で、読み書きも満足にできなかった。なので、1歳下のマックスに売春宿の仕事の合間に読み書きを教えてもらっていた。
「ヒナリザ。俺の母親はカネに困って俺を売り飛ばした。そのカネで男と逃げたんだ。自分の息子より惚れた男が大切だったんだから仕方ない」
こんな調子で、マックスは自身の不幸を嘆かず、淡々と話すクセが幼い頃からあった。ヒナリザから見てもマックスの容貌は気品があって、俗っぽくない。
もしかしたら、没落したけど、マックスは高貴な生まれなのかなとヒナリザは思ったが、マックスは自身の素性なんて興味がなく、自分を売った母親を恨んでいる様子もない。
ヒナリザがマックスに文字を教わっていると小さなステフが割り込んでくる。
ステフは赤毛の愛らしい顔立ちで、こんな劣悪な売春宿にいても常に笑顔であった。
「マックス~! 僕にもお勉強おしえて!」
「はいはい! ステフ、前に教えたこの言葉の意味はわかる?」
マックスがスラスラ文字を書くとステフはキョトンとしている。
「忘れた~! なんて読むの?」
無邪気なステフの質問にマックスは笑みを浮かべて静かに正解を教える。
「池の底。ここは光が見えない池の底と同じ。希望も未来もない」
瞳を伏せたマックスが声を悲しげに絞り出すとステフは笑顔で言った。
「ふーん! なら! ここの外には、キボウ、と、ミライがあるの? 僕、ここでマックスやヒナリザが一緒で楽しいよ!?」
明朗快活なステフの言葉に、それまで澄ましていたマックスが急に泣き出した。ステフがドン底な環境でも光を見つけられたのとは異なり、マックスにとってここは絶望の底だったのだ。
マックスが泣いているのをヒナリザはあたふたしながら見ているだけだったが、ステフは笑顔でマックスのことを抱きしめた。
「僕ね。引き取られた、えっとシンセキ? のおうちでたくさんぶたれた。でも、マックスやヒナリザは僕をぶたないから大好き!」
絶望に心が苛まれているマックスと同様に、ステフも虐待の恐怖から感情が麻痺しておかしくなっていた。
ヒナリザは両親がいたが早くに死んでしまい、引き取り先がなくて売られたが、少なくとも亡くなった両親がヒナリザを愛してくれた記憶はある。
だが、マックスは母親の都合で売買され、ステフは引き取られた先で過酷な思いをした果てに売春宿だ。
(この2人は親に抱きしめられた記憶も、自分を慈しんでくれた人の笑顔の記憶もないんだな)
社会の最下層で朽ちて死んでいく未来を聡いマックスは悟っていて絶望している。ステフはそういう現実を直視できず笑みを浮かべている状態だ。
「ここから逃げたところで、のたれ死ぬのが早まるだけ。本当は早く死にたいのに勇気がない」
「マックス! 死ぬのは簡単だよ!? 紐で首をくくればいいんだ。僕のパパとママみたいに!」
生きていく気力を失いかけているマックスと絶望から逃れるすべを直に見てしまったステフを目の当たりして、ヒナリザは慰めることもできず無力であった。
しかし、そんな池の底のような日々に転機が訪れた。
聖職者でありながら裏で少年売春宿を経営していた司教が摘発されて、売春宿に捜索が入った。
摘発したのは、大貴族の御曹司で、孤児の保護活動に熱心な青年貴族だという。
自分達も捕まるとヒナリザは怯えていたが、売春宿を捜索に来た役人を率いる若い貴族男性はヒナリザたちを見ると優しく微笑んだ。
「怖がらないで。私の名はミシェル。君たちを助けに来た」
そう口にしてヒナリザの頭を撫でようとしたミシェルという身なりのよい青年貴族の手をマックスが叩いて拒絶した。
「また、俺たちを別に売り飛ばす気か? ヒナリザとステフに何かしたら許さない!」
マックスはミシェルという救いの手に疑念を抱いたらしく警戒していたが、当のミシェルという貴族は穏和な笑みをマックスに向けている。
「安心してくれ。君たちは私がシルバー家の名において保護する。栗毛の可愛い子。君は仲間想いで勇敢だね。お名前は?」
名前を訊かれたマックスはまだミシェルを警戒しつつも毅然と答えた。
「マックス。名字は知らない」
「マックスか! いい名前だね。誓ってマックスや背後にいる君の大切な仲間に危害は加えないから教えてくれるかい? 2人のお名前は?」
ヒナリザは直感的にこのミシェルという青年は悪人ではないと察した。なので、警戒するマックスを宥めるように立ち上がると、自ら名のったのだ。
「ヒナリザです。マックスの友達。この赤毛の子はステフ」
「ありがとう。ヒナリザ……素敵な名前だ。赤毛の君はステフだね?」
ミシェルが優しく尋ねるとステフは笑顔で無邪気にミシェルに抱きついた。
「ステフだよ! おにいさんはだぁれ? 新しい売人?」
恐怖の感覚が麻痺したステフを抱きしめながらミシェルは真剣な……怒りのこもった声を圧し殺して告げる。
「許せない。君たちにこんな思いをさせたヤツを!」
ミシェルという貴族青年は捜索する役人に指示を出すと、そのままステフ、マックス、ヒナリザをシルバー家本邸に保護して連れて帰ってくれた。
本邸には予め売買宿捜索を聞いていたモモが待機していて、怯えるヒナリザたちを迎えてくれた。
マックスはモモと初めて顔を合わせた瞬間に、ヒナリザとステフを守るようにモモをキッと睨み付けたが、マックスが睨んでもモモはまったく動じず、むしろ痩せて、ボロボロなのに仲間を案じるマックスのそばに寄り、優しく囁いた。
「もう強がらなくてもいい。おにいちゃんが付いてる。だからそんな目をするな」
そうモモがマックスに声を掛けると、ずっと警戒して表情が険しかったマックスは憑き物が落ちたように脱力して、膝を付いて泣き出した。
泣きじゃくるマックスをモモは軽く抱きしめると、呆然と立っていたヒナリザとステフに笑顔で言った。
「着替えと食事がある! ほら! お前も泣いてないで顔上げろ! 名前は?」
緊張の糸がほどけて泣いているマックスの頭を撫でながらモモが問いかけるとマックスは少ししゃくりあげながら告げた。
「マックス。あなたはだれ?」
「俺はモモ! お前たちのおにいちゃんになる! ミシェルに拾われた孤児だ。よろしくな!」
堂々と名のるモモはヒナリザたちと同年代なのに不遜ながら、スミレ色の瞳が美しくて、とても奇麗な少年だった。同じ孤児なのに絶望に沈まず、現実から目をそらしていない毅然とした風格がモモを覆っており、まさに王者のような威厳がある。
「よし! マックスが泣き止んだら食事だ! その後は部屋に案内する! 怖がるな。この先は何があろうが。俺は絶対お前らを守る!」
不遜で生意気なようで、あたたかく優しい声であった。
泣いていたマックスが落ち着いたので、ヒナリザたちはシルバー家本邸に迎えられ、信じられないくらい美味しい食事を味わい、フカフカのベッドで休むことを許される。
池の底という闇から奇跡的にヒナリザたちは抜け出せたのだ。
――
「ヒナリザさん? 大丈夫ですか? 嫌なら断っても構わないのに」
軍人フリツの声でヒナリザは幼少期の記憶を振り払い、息を吸うと声を出した。
「僕を食事に誘う理由はなんですか?」
無礼にならぬように気を付けたヒナリザだったが、フリツはそんなこと気に留めず、朗らかに笑った。
「いやはや! ヒナリザさんに警戒されるとは! 別に下心はありません。後輩……マックスのことで少しご相談が」
声を潜めたフリツにヒナリザも嫌な予感がして、ランチの誘いに応じた。
人混みから離れたテラスでフリツは食事をしながらヒナリザに相談を持ちかけたのだ。
「マックスとは士官学校からの付き合いですが、なんと言いますか……。少し真面目すぎる面があり心配です。奔放に振る舞いながらも、強がっているようで」
フリツはマックスとは戯れの遊び相手だが、可愛い後輩であるマックスのことを本気で案じている様子だった。
「ヒナリザさんならわかると思います。あんなことを続けたらマックスはおかしくなる。それは彼を助けた先代シルバー家当主が悲しむことになります。そして、モモ様も」
「あなたはマックスを本気で心配してくださるのですね。僕もあの子が心配です。マックスは利発な分、我慢ばかりしてきた」
ヒナリザのようにおとなしく他人にたよることも、ステフのように無邪気に誰かに甘えることも、なまじ利発なマックスはできなくて、気を張り続けている。
自分達を保護して愛してくれたミシェルがいた頃はそれでもバランスがとれていたが、ミシェルが亡くなり、マックスの中で何かが壊れてしまった。
そして、ミシェルが最も愛した存在はモモであり、ミシェルの急逝にもっとも悲しんだのはモモである。
王太子コクトーの教育係をミモザ殿下から任される前のモモはミシェルの後追いをしないかヒナリザをヒヤヒヤさせていた。
しかし、そんなモモの側に1番に寄り添い、モモの絶望の近くにいた存在はマックスであったのだ。
「モモ様は昔、約束しましたよね? この先は何があっても俺たちを守ると? なのにご自分だけミシェル様の後を追いたいなんて身勝手です! 約束を反故にしないでください!」
近衛隊の俊英であったマックスはとっくにモモから自立していたが、ミシェルを失ったモモから絶対に目を離さなかった。
マックスの献身もあってか、モモは心身ともに持ち直して、王太子コクトーの教育係となり、活躍している。
安心したヒナリザだがどうにもわからない面があるのだ。
(マックスが本当に愛したのはミシェル様なのかな? 実はずうっとマックスが執着しているのはモモ様なのではないか?)
この疑念は迂闊にステフにも話せないが、無邪気なステフは以前、ヒナリザにこんなことを言っていた。
「マックスはモモ様が大好きだね。でも、マックスのなかのモモ様への愛情は複雑だよ。うまく言えないけど、ミシェル様の1番はモモ様で、マックスはそんなモモ様が大好きなんだ。少し歪んだ愛情だよね?」
強がるマックスを優しくいたわったモモは同じ孤児なのに王者の風格であった。それを目の当たりにしたマックスのなかで無意識にモモへの崇拝が生まれて、それが、激しい思慕に繋がった可能性はある。
ステフは医者の勘でマックスの複雑な心理を分析していたらしい。
そして、マックスの先輩であるフリツも疑念を抱いている。
「率直に申すと。マックスはミシェル様とモモ様。どちらを愛しているのか自分でもわからず混乱しているように見える」
フリツの指摘にヒナリザはギクリとしたが、精一杯に平静を装った。
「それは考えすぎです。マックスはたしかにモモ様を慕ってますが。それは兄を慕う気持ちみたいなものです」
あなたが想像するような不埒な感情ではないと、暗に伝えようとしたヒナリザであったが、フリツは息を吐くと、話し出した。
「果たしてそうでしょうか? 士官学校の寮にいた頃からマックスが話題に出すのは決まってモモ様のことです。兄を慕うにしても少し異様なほどの執着を感じました。だから、訊いてみたことがあるのです」
マックスが本当に愛しているのは、ミシェル様でなくモモ様なのではないかと、フリツがズバリ追及すると、当時のマックスは一瞬だが表情を強ばらせたらしい。
「あの頃から無自覚に愛する存在がマックスのなかで混在していた可能性がある。実際に大人になってもマックスはモモ様のことしか頭にない」
ミシェルという恩人が亡くなってから、マックスが今まで以上にモモに執着を示しているのは事実なので、ヒナリザも言葉が出なかった。厄介なのはマックス自身がモモへの気持ちが兄を慕う以上の感情なのかわからなくなっている点である。
「リデル王子が仰ってました。「モモは、おそらくマックスの歪な愛情と執着に気付いている。しかし、知らぬふりをせざるを得ない状態だ」……普通に考えてモモ様がマックスの想いに応えることは不可能ですからね」
敏感なマックスはそういうモモの気持ちをすぐに察するので、適切な距離はとるよう心がける。だが、その反動が奔放な私生活に出てしまう。
「いやはや! こればかりはどうにもならないことだけに難しい」
マックスは利発で優等生に見えて、かなり複雑な性格ですからね。
そうフリツが言って笑うの見ていたヒナリザは思わず訊いてしまった。
「どうしてそんな話を僕にするんですか? あなたに言われなくてもマックスがなにを考えているかは僕にもわかります。幼馴染みですから」
少し口調がキツくなったヒナリザを見ながらフリツは苦笑いをすると本心を述べた。
「既婚者がこんなことを言っても誠意に欠けるでしょうが。私なりにマックスのことを好きだからです。だから、不幸な思いをしてほしくはない」
純粋にマックスだけを愛する人と幸せになってほしいだけです、と告げるフリツに対してヒナリザも同意見だったので素直に頷いた。
「僕もそれを願っています。そういう人がいてくれたらマックスだっていまみたいに葛藤することもなくなる」
「うーん。1番、身近にいるのはリデル王子なんですがね。当のマックスが相手にしていないからな~」
もう少しお互いの年齢が近ければ話も違ってくるかとフリツがこぼしていると、不意に朗らかな声が響いた。
「フリツ! マックスの件なら任せて! 少し強引だし、マックスの気持ちは無視することになるけど、うまくいくよ!」
いつの間にステフが側にいて、フリツとコソコソお喋りしている。ヒナリザはなにやら不穏な予感がしてステフに訊ねた。
「ステフ。なにを計画しているの? マックスに関わることなら教えて」
「ヒナリザ! もう延々とリデル王子の妄想を聴くのも。マックスの乱れた生活と歪んだモモ様への愛情を見てるのも疲れた。だから! マックスの意思はこの際、無視して、無理やりにでもリデル王子と関係を持たせようかなって!」
リデル王子は長年の想いを成就できるし、マックスは自分だけを愛してくれる人と関係を持てるし、モモ様もマックスに余計な心配をしなくて済むし、一石二鳥どころか三鳥以上だよ!
無茶苦茶なステフの提案にヒナリザは唖然としたが、フリツは乗り気である。
「ステフの提案は利にかなっています。マックスは目隠しをしてベッドに縛り付ければ、私が相手でなくても抵抗はしません。リデル王子だと察してもマックスは絶対に嫌がらない」
「そんなのダメです! マックスの気持ちを踏みにじり。果てはリデル王子の名誉まで貶めます! なにより、そんな風に関係を持ってところでマックスもリデル王子も不幸です」
良識的なヒナリザが大反対すると、ステフとフリツは顔を見合せていきなり笑った。
「あはは! ヒナリザ~! 安心してよ。天国のミシェル様に誓ってそんな非道なことはしない! そんな計画を実行したら僕がモモ様に殺されちゃう!」
「ハハハ! ヒナリザさんは本当にお優しくて可愛いですね。ミシェル様は真に見る目がある! ご安心を! リデル王子はそんな計画に乗るような軽薄なお方ではありません」
マックスの意思を無視して、無理やりにでも関係を持つなんてこと、リデル王子は絶対にしないと、ステフとフリツに断言されたヒナリザは自分がからかわれたことに気付いて真っ赤になった。
「ステフ! 変なことを言わないでほしい! 本気でモモ様に報告しそうになったよ」
単なる冗談だったと安心したヒナリザであったが、背後から殺意を感じさせる気配がした。ステフとフリツの視線を追うと仁王立ちしたモモがこちらを見ている。
「いま、マックスのことですごく下衆なことを話してたな? ステフ? あとフリツとやら?」
ヒナリザはモモの殺気あふれた威圧から逃れたが、ステフとフリツはモモの気迫に恐怖し、凍りついた。それくらい、モモの形相は怖かったのだ。
「リデル王子が教えてくれた。ステフとフリツがマックスの意思を無視してヤバい計画をたててるおそれがあるって。お前ら、冗談でも金輪際、ふざけた計画はたてんな! 殺すぞ?」
リデル王子はステフとフリツの冗談が万が一、本当になったらマックスを傷つけると案じて、モモに密告したのだ。自分はマックスを恋慕しているが、そんな非道はしないと。
「ステフ。お前が感じるマックスへの違和感は正解かもだが。冗談でもこんな腐った計画はたてるな。リデル王子の名誉まで地に落ちることになる」
モモに叱られたステフはシュンと黙ったが、フリツは少し腑に落ちない顔でモモに言ったのだ。
「おそれながら。マックスの歪んだ思慕を知りながら無視をしているモモ様にも責任があるかと?」
マックスの気持ちをわかっているならば、言葉で伝えるなり、距離を置くなり、応えられないという意思を示すべきだとフリツが物言いすると、モモは問答無用でフリツをぶん殴った。
「士官学校で一緒だった程度で、知った口を利くな! マジで殺すぞ!?」
「モモ様! おさえて! 申し訳ございません! でも、ステフもフリツ殿もマックスを案じている気持ちは本気です!」
モモのぶちギレに焦ったヒナリザが必死に止めに掛かると、モモは少し声を和らげ、フリツをボコるのをやめた。
「お前らがヤキモキする気持ちは理解する。俺だってマックスを不幸にした自覚はあるからな。だから、敢えて、春になったらラン・ヤスミカ領に行かせることにした。コクトーとナナの引率と護衛って名目で」
少し東宮から離れて、懐かしいラン・ヤスミカ領で過ごせば、マックスにも変化があるかもしれない。そうモモは判断したのだ。
「あそこには、シオンやエドガー様がいる。きっとマックスにとってはいい相談相手になってくれると信じてる」
ヤバすぎる年長者の話を聴けば、マックスの心境も変わる可能性があるとモモは一縷の望みを託しているようだ。
「モモ様。マックスがなにも変化がなかったらどうするの?」
ステフの質問にモモは潔く応じた。
「その時は、マックスの絡まった愛情を見届ける。アイツをここまで追い詰めた責任は俺だから」
マックスは少年期からモモを異常なほど崇拝していた。それはミシェルもわかっていて、度々モモに忠告していたのだ。
「モモ。マックスは間違いなく私を通り越してお前が好きだ。あの子はそれを絶対に口にも態度にも出さないだろう。それがどういうことか考えてあげてほしい」
ミシェルはマックスの複雑な心境を理解して、マックスの行動はすべてモモを想ってのことだと承知していた。王立士官学校に入学して軍人を志したのも、シルバー家やミシェルのためというより、モモのことを考えての選択であった。
「そういう気持ちをマックスは死んでもモモには言わないだろう。あの子は、売買宿でも、必死でステフやヒナリザを守ろうとしていた。仲間想いで利発だけど心配なんだよ」
――マックスの愛情と関心の視野は狭いから。
――
ミシェルが案じていた通り、マックスは大切な存在であるモモへの思慕をこじらせ、袋小路に迷い込んでしまった。
せっかく、どん底な池から出られたのに、マックスの視野は狭い。
軍人としての能力は高いが、マックスは1番に想うのはモモの存在になってしまった。
「マックスはミシェルを裏切った罪悪感もある。そんな状態で暮らしてたら悪い方向にしか行かない。だから、思いきって、ラン・ヤスミカ領に行かせる。それがマックスのためだ」
モモはそれだけ告げるとヒナリザたちのもとから立ち去ってしまった。
ボコられる寸前だったフリツは深く息を吐いて、「ふぅ! モモ様を怒らせると恐ろしい。しかし、お互いに少し離れておくのは悪くないお考えだ」、と苦笑した。
「フリツ殿! 怪我は大丈夫ですか? モモ様に殴られて唇が切れてます!」
ヒナリザがあわててハンカチを出すと、フリツは微笑んで思わぬことを告げた。
「ヒナリザさんは本当に素敵な人です。私の妻もあなたみたいに控えめで心優しかった」
「え? 奥方様はまだ存命ですよね?」
フリツの話し方が過去形なので不思議に思ったヒナリザにステフが耳打ちした。
「フリツの奥さんは、その、病気なんだ。心の……。子供ができない自分を責めて心を壊した。そんなの、誰も悪くないのに」
「そんなに病んでいる奥方を放って、マックスと遊ぶとか最低ですよ!」
いつもは控えめなヒナリザが嫌悪感で怒鳴ると、フリツは反論せず、素直に認めたのだ。
「私は妻に子が出来なくても構わないと何度も言いました。だが、周囲の冷たい眼差しに耐えかねた妻は壊れた。愛する妻がどんどん追い詰められ、薬に依存する。幸いステフの治療で少し改善しました。でも、家から出ようとしません」
理想の妻になろうとして壊れたフリツの奥方はステフの治療で安定しているが、自分は役立たずだと責め続けている。
「こういうのは本人の気分次第だから周りが慰めても逆効果になる。フリツがいたわるほど奥さんは追い詰められる。ヒナリザにはその地獄がわかるの?」
鋭くステフに問われたヒナリザはなにも言い返せず黙り込んだ。フリツがマックスと関係を持つのを肯定はしないが、全面的に否定するのも筋違いな話なのだ。
「フリツ殿。あなたは奥方さまの状況とマックスを重ねたのですね?」
そう訊いたヒナリザにフリツは黙って首肯している。
大切な人の理想の存在になりたいは生きていれば誰でも抱く気持ちだ。その理想が高いほど、越えられない壁に心が折れることもある。
「マックスはモモ様の理想の弟分でいたかった。でも、それ以上の想いを抱いた自分を責めているよ。他人がどう説得しても改善はしない。自分で決着をつける以外は!」
ステフの言葉は正論で、周りが何をしても事態は悪化するだけだとヒナリザは悟り、溜息を吐いた。
「マックスが自分で割りきるしかないね。僕たちでも手出しはできない」
どんな選択をマックスがとろうが、ヒナリザはそれを見届けてあげることしかできなかった。
ラン・ヤスミカ領に行けば、少しはマックスの心境も改善するのか疑問だが、マックスとモモ様は少し距離を置いてお互いを考える時間が必要なのかもしれない。
「リデル王子がマックスと強引に関係を持つ意志がなくてよかった」
ヒナリザがそう呟くとステフとフリツは微笑んだ。
「リデル王子はすんごく優しいよ! 妄想な変態だけどエドガー様に似ているかなぁ! あのお方がマックスのお相手ならいいのに~!」
「本当に、恋やら愛は思う通りにいかないな~! リデル王子はマックスを愛すること以上にその精神状態を気に掛けている。いやはや、出来たお方だよ! 14歳なのに!」
口々にリデル王子を褒めるステフとフリツにヒナリザはダメ元で訊いてみた。
「いっそ。リデル王子もラン・ヤスミカ領に御一緒すれば進展があるかも?」
ヒナリザのこの提案にステフとフリツが食い付いて、「それだ!」、と揃って大賛成した。
後日、王太子コクトーと王太子妃ナナの新婚旅行旅行にリデル王子も随行することが正式に決まる。
「私は妻と過ごすので~!」
フリツがリデル王子の護衛を拒否ったので、マックスはコクトー、ナナに加えてリデル王子の護衛までこなす必要性が生じた。
「モモ様! 1人ぐらい道中で死んでも責めないでくださいね!?」
仕事が増えたマックスは怒ってモモに詰めよったが、リデル王子を旅に加える案を進言した、ヒナリザ……グッジョブ! とモモは内心では笑っていた。
コクトーとナナは別段リデル王子が新婚旅行に参戦しても気にしてない。
(あ~!? マックス目当てで付いてくるんだな~)くらいのノリである。
【続く!】
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