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東宮での1日と昼顔
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東宮に御料馬車が停車した。
「ミモザ殿下! ご到着でございます!」
リデル王子のマックスへの捨て身の求愛が原因で東宮への来訪を延期していたダイアナ女王陛下の王婿であり王太子コクトーたちの父であるミモザ殿下がやって来たのだ。
ミモザ殿下は1人ではなく、東宮に住まう王太子コクトーと王太子妃ナナの許に幼い子供たちを伴ってきた。
「コクトー。リデルがたいへんな迷惑を掛けたこと許してほしい。東宮に迎えてくれて嬉しいよ」
馬車から降りたミモザ殿下が優しく王太子であり息子のコクトーに声を掛けるとコクトーは緊張した面持ちで応える。
「ミモザ父上の東宮へのご来訪。王太子として真に感謝申し上げます」
コクトーのとなりで跪いていたナナには穏やかな雰囲気のミモザ殿下に対してコクトーが異様なほど気を張りつめていることが伝わってくる。
王家には家族でも序列が存在する。
最高位はやはり国家を統率するダイアナ女王陛下であり、彼女の命令は絶対であった。
王太子であるコクトーは将来的にはダイアナ女王陛下の跡継ぎとして国王陛下となるが、まだ15歳であり、勉強中な身分である。
なので、子供たちの養育の最高責任者である王婿ミモザ殿下が序列では2番目に来てしまう。そもそもミモザ殿下は先代国王の実弟のひとり息子という尊い身分だ。彼の真の役割は王家の血統を維持することでもある。
「ミモザ殿下はダイアナ女王と結婚してすぐに王太子になるコクトーを孕ませた。続いてリデル王子をもうけて更にファナ王女。その後もダイアナ女王とのあいだに子を成した」
以前にミモザ殿下の側近でもあるモモがナナに話してくれたのだ。ミモザ殿下が国民や貴族連中に愛され、一目置かれる理由の1つは子種に恵まれた点も大きいと。
「ミモザ殿下はダイアナ女王とのあいだに世継ぎを含めてたくさんの子を成した。それでようやく貴族たちに受け入れられた側面もあるんだ」
そう語るモモはなんとなく歯がゆいようであった。ダイアナ女王陛下を陰で支えているミモザ殿下だが、表向きは政治に口を挟まない。
しかし、ミモザ殿下の優れた外交手腕がなければ国家をダイアナ女王陛下だけで動かすのは困難なことは王家に最も近く仕えているモモが理解している。
「俺以上にそれを理解しているのはダイアナ女王だ。ミモザ殿下の尽力は国家運営には不可欠。だから、王家の序列でミモザ殿下は2番目になる。実際は女王陛下と同格だけどな!」
要するにダイアナ女王陛下にとって王婿ミモザ殿下はあくまでも臣下という体裁をとっているが実際は同等の権威があるということをダイアナ女王自身が認めている。
その暗黙の了解があるから王太子コクトーはミモザ殿下を前にここまで緊張しているのだ。
ミモザ殿下はダイアナ女王陛下の名代として東宮に来ているのだから!
「コクトー。あまり緊張しないでおくれ。僕は君とナナの顔を見に来ただけ。オチビさんたちを連れて」
「はっ! ミモザ父上。そのお優しいお言葉に感謝申し上げます」
いつまでも緊張気味のコクトーにミモザ殿下は穏和な笑みを向けると今度はナナに視線を移した。
「ナナ。コクトーと仲良くしてくれてありがとう。不始末を起こしたリデルを庇ってくれたことも感謝する」
あたたかく慈愛に満ちているミモザ殿下の微笑みにナナは飾ることなく応えた。
「舅殿! いや、ミモザ義父上! 俺は王太子妃殿下だ! コクトーと仲がよくて当然! 夫婦だからな。少しリデル王子が東宮付近をうろついても不始末なんて思ってねーよ」
きっぱりと言い切るナナの笑顔を見ていたミモザ殿下は愉快そうにクスクス笑った。
「相変わらず元気そうでなによりだよ。コクトーとは似合いの夫婦だ。コクトー。挨拶はこのくらいにして東宮に入れておくれ? 馬車で待っているファナたちがソワソワしている」
「はい! ミモザ父上。本日は東宮にいらしてくださりありがとう存じます!」
王太子コクトーがそう歓迎の言葉を告げると馬車の御者はうやうやしく御料馬車の扉をあけた。
すると待ちきれなかったらしい双子王子――モニエ&ルクレールが飛び出してくる。
「コクトー兄上! ナナさまぁ! ごきげんよう! 遊びに来たよ~!」
双子のモニエ王子&ルクレール王子は天真爛漫な無邪気さで兄であるコクトーに抱きつく。
「これ! モニエにルクレール! 急に走らないで。あたくしが合図をするまで待っているお約束でしょう?」
双子王子が元気にコクトーとナナに抱きついていると5歳のリラ王女と手を繋いでいるファナ王女が姿を見せた。ファナ王女は礼儀正しく兄コクトーと兄嫁ナナにお辞儀をし、リラ王女もそれにならう。
「コクトーお兄様。ナナおねえさま。ご機嫌麗しゅう存じます。申し訳ございません。モニエ&ルクレールが飛び出してしまって」
「コクトーおにーさま~。ナナさま~。東宮におまねきありがとうございます!」
ファナ王女とリラ王女の言葉にコクトーは笑顔で応じる。
「気にしないで。ファナも元気そうでよかった。リラもお行儀よくご挨拶できたね。モニエ&ルクレールも元気でホッとしたよ」
弟妹たちに優しく接するコクトーを眺めているミモザ殿下の表情は嬉しそうだ。
「そろそろ東宮に入ろう! ミモザ義父上! モモとマックスが待ちくたびれる」
ナナがそう告げるとずっと近くで待機していたモモとマックスが笑った。
「まったく! コクトーが長々と挨拶してるからマジで待ちくたびれた! ミモザ殿下。リデル王子はなかで待ってる。お迎え感謝します」
「ありがとう。モモ。リデルが回復して心底安堵した。マックス。面倒を掛けてすまぬ」
リデル王子の件でミモザ殿下が真摯に謝罪するとモモとマックスは普段通りの口調で言った。
「ミモザ殿下! リデル王子のやらかしはマジで迷惑だったからな!? 今後はあまりガキを甘やかすな!」
「モモ様の仰るとおりです! 東宮に何日も居座られて本当に大迷惑でした! 近衛隊の詰所にも平然と出入りし、仮眠室には無断で入るような養育をしないでください!」
王太子であるコクトーがあれだけ緊張して挨拶していたのに比べるとモモとマックスのミモザ殿下への物言いは砕けていて遠慮がまったくない。
それでもミモザ殿下は気分を損ねた様子はなかった。
「本当にすまぬ。リデルにはよく言って利かせるから怒らないでおくれ。モモとマックスがコクトーやナナの側に居てくれて頼もしい限りだ」
それだけ告げるとミモザ殿下はコクトーとナナの案内で東宮へと歩を進め、子供たちも東宮に入った。
応接間に入るとリデル王子が跪いてミモザ殿下を待っている。父であるミモザ殿下に先んじて東宮に来てしまった不始末を詫びるためだ。
「ミモザ父上。此度の私の不始末をお許しください。お許しいただけるまで。このリデル・ミケロット。何度でも謝罪いたします。あと、マックスとの結婚を認めてください!」
「リデル。此度の件は女王陛下の慈悲で不問となっている。反省するのはよいことだけど。ついでみたくマックスとの結婚を勝手に決めないでおくれ。マックスの意思を完全に無視しているだろう?」
マックスが合意したらの話だよとミモザ殿下は普通に正論を述べているが、リデル王子は断固引かない。
「ミモザ父上。マックスは私の気持ちに応えるとたしかに申しました! 合意済みです!」
「待ってください! おそれながらミモザ殿下! 俺はリデル王子の想いに応えるが愛してはいないとハッキリ告げました! 相思相愛ではありません!」
危機を感じたマックスが咄嗟に弁明したが、ミモザ殿下は冗談交じりに言ってくる。
「想いに応じたならば結婚しても問題なかろう? 愛など結婚してから育めばよい」
ミモザ殿下が言うと恐ろしく説得力ある台詞だがマックスだって負けられない。
「無責任なことを言わないでください! リデル王子の気持ちは嬉しいですが断じて愛は無いので!」
初っ端からリデル王子とマックスの恋愛問題が浮上したので応接間は膠着状態となる。それでもコクトーの弟妹たちは冷静であった。
「コクトー兄上! 僕らお土産持ってきたよ! はい! ナナさまにも! これは僕らが作った玩具だよ!」
双子王子が朗らかに精巧な寄木細工の小箱を出したのでナナは驚いた。
「これを自分達で細工したのか!? モニエ王子&ルクレール王子が? これは職人の技だろ!?」
「驚いたぁ? 僕らは図工が得意なんだ! これはパズルになってて、細工をずらしていくと箱が開くよ!」
ためしに開けてみてと双子王子に促されたナナだったが、いくら箱の細工をずらしても中身が見えてこない。降参かと思ったらとなりで見ていたコクトーが小声で言ったのだ。
「ナナ。中央の細工を縦に移動させてみて?」
「これか? うわ! ひらいた! コクトー、すごい!」
難解な寄木細工の仕掛を簡単に見抜いたコクトーにナナが笑顔で感心していると双子王子が作った小箱からコロンと鍵が転がり落ちた。
「これも僕らが作った鍵なんだ! この鍵があれば王宮の宝物庫の扉があいて財宝が手に入るよ!」
双子王子モニエ&ルクレールが天才的に器用なのは認めるが、流石にそんな大事な鍵の合鍵は無理だろうとナナは笑おうとした。だが、鍵を見ていたミモザ殿下がひと言、
「これは……よくできているね」
ガチで宝物庫の合鍵を作った双子王子モニエ&ルクレールにナナは驚愕したが、ミモザ殿下は落ち着いた声で言い聞かせている。
「この鍵は絶対に使ってはいけないよ? モニエ&ルクレール」
「はぁい! ミモザ父上!」
危うくヤバい鍵を渡されそうだったコクトーとナナであったが、双子王子は作ることが大好きで宝物庫で窃盗する気はさらさらないようだ。
モニエ王子&ルクレール王子のヤバすぎるお土産に持っていかれたが、コクトーは動じないで双子王子を褒めている。
「モニエ&ルクレールは本当に器用だね。鍵は受け取れないけれど、細工の小箱をありがとう。大切にするよ」
「わぁい! コクトー兄上に褒められた!」
「次はもっとすごい玩具作るね!」
双子王子たちがはしゃいていると、今度はファナ王女がナナにキレイにラッピングされた箱を差し出してくる。
「双子たちに負けないよう、あたくしもお土産を持ってきましたの! ナナおねえさまがあけてくださいな!」
「ファナ王女! お心遣いありがとう」
ナナがワクワクしながら包みをはがして箱をひらくとそこには見事な刺繍のショールが入っていた。
「春にラン・ヤスミカ領に行かれるでしょう? お体を冷やさないようお使いください」
「ありがとう! ファナ王女は本当に裁縫が上手なんだな!」
大喜びのナナの前にコクトーが歩み出て、ファナ王女に礼を言った。
「ファナ。ナナのためにどうもありがとう。僕も嬉しいよ」
「コクトーお兄様には後日、贈り物があるわ。楽しみになさってね」
なにを後からファナ王女がコクトーに贈るのか気になるが、最後にリラ王女がミモザ殿下に抱っこされながらコクトーとナナにお土産を渡した。
「これねぇ! リラが作ったお話だよ。ミモザお父様と一緒に作ったの! よんでね!」
可愛らしく装丁された絵本のタイトルは「お姫さまの華麗なる冒険」であり、リラ王女の直筆であった。
「え? 5歳なのにリラ王女の文字がうますぎ! すごいな!」
幼さを感じさせない見事な筆跡にナナがとにかく驚嘆しているとミモザ殿下が絵本をそっとナナの手からとって読み聞かせをしてくれた。
久々に全員揃ったコクトーの弟妹たちも絵本に興味津々で、和やかな時間が訪れると思った矢先、ミモザ殿下がリラ王女作の絵本冒頭を読み上げる。
「いつの世かわからぬが。王様の王妃やお妃が数多いるなか、お城で王妃さまより王様に愛されているお妃ありけり。」
冒頭から王様が一夫多妻制な世界観で幼い5歳女児の空想にしては不穏である。そうナナが感じているのも知らずにミモザ殿下は読み聞かせを続行している。
「王様に1番愛されたお妃は、王妃や他の妃より身分が低く、そのため女たちの嫉妬の的となりました。その愛されているお妃の寝室には汚物が投げられ、王様はそんなかわいそうなお妃をますます溺愛しました。しかし、それが火に油となり、お城は愛憎渦巻く泥沼化。心労で王様の最愛のお妃は可愛い赤子を生むと死んでしまいました。」
内容がすでに絵本じゃないとナナはツッコミたかったが、リラ王女の創作に文句をつけるのも可哀想なので仕方なく黙った。
すると、物語を聴いていたコクトーが「続きはどうなるんですか?」と普通にワクワクしている。リデル王子やファナ王女、双子王子モニエ&ルクレールも話の続きを気にしているようだ。
誰も5歳が考える空想ではないと突っ込まない。
そして、ミモザ殿下の読み聞かせは続く。
「可哀想なお妃が死んで、王様はとても悲しみ国政を放棄してお酒とギャンブル依存に。国は荒廃して、王妃や他の妃はようやく死んだお妃をいじめたことを深く反省しました。そして、お酒とギャンブル依存の王様に心から謝って遺された赤子を大切に育てましたとさ。第2章につづく」
続編ありで更に物語が壮大になる予感なリラ王女の絵本読み聞かせが終わると皆が拍手してリラ王女を褒め称え始めた。
「素晴らしいですわ! リラは天才よ! 今度から絵本の挿絵はあたくしが担当するわ!」
ファナ王女が褒めるとコクトーも心からの賛辞を贈っている。
「素敵な物語で涙が止まらないよ! リラの才能がすごい!」
いまの物語にそんな号泣する要素あったか、とナナが首を傾げているのをよそにリデル王子も感激している。
「酒とギャンブル依存になるほど悲しむ王様への共感が止まらぬ! 私とてマックスが死んだらと想像すると涙が!」
「いや、勝手に殺さないでください!」
マックスがすかさずリデル王子に冷たく告げたが、リデル王子は嫌がるマックスに無理やり抱きついている。
モモさえもリラ王女のもはや絵本でない物語になにも口を出さないで見守っている。
しかし、双子王子のモニエ&ルクレールは不思議そうにリラ王女に訊いている。
「リラ! 僕らから質問! どうして王様はお妃さまに意地悪する王妃や他の妃を斬首しないで許したの? いじめてる時点で四肢切断は確定だよ?」
その質問も怖すぎるが、リラ王女は可愛い笑顔で双子王子たちの疑問に答える。
「双子お兄様方。憎しみを憎しみでお返しするから世の中に争いが消えないの! 王様が王妃たちを許すのはそういう憎しみの連鎖を断ち切るためよ!」
もう! 5歳のリラ王女の言葉が深すぎてナナは感動すら覚えた。色々とツッコミどころ満載なお姫さま物語だが、たしかに続きが気になる。
「リラ王女? 第2章はどうなるか教えてくれるか?」
ナナが続編を訊くとリラ王女は無邪気な笑顔で、衝撃的なことを告げた。
「第2章ではね。反省した王妃たちに育てられたお姫さまが、お城に離宮をつくって気に入った王子様をたくさん住まわせるの」
「自分の母親も一夫多妻のせいで死んでるのに、お姫さまも同じことすんのかよ!? そこでまた争いが起きるの確定だな!」
「ナナさまぁ! 違うよぉ? 離宮は作ったけど~、王子様たちにあきたお姫さまは離宮の王子様たちを戦力外通告してねぇ! 真実の愛を探す旅に出発するんだよ!」
「その国大丈夫かよ!? 勝手に王子を住まわせて飽きたから戦力外通告するお姫さまに真実の愛なんて絶対に見つからねー!」
5歳のリラ王女の絵本の続きに本気でツッコミを入れているナナをコクトーは優しく宥めた。
「まあまあ! ナナ。5歳の女の子の可愛い空想だから本気にしないで。僕は戦力外通告された王子さまのその後が気になる」
かなりの反響を呼んだリラ王女の絵本の披露が終わったところで、ミモザ殿下がナナに向かって告げてきた。
「ナナ。君の姉君であるルリ姫はご無事だ。いまはまだ居場所を言えぬがお元気にしている。だから安心しておくれ。心細い思いをさせて本当にすまぬ」
姉姫ルリの無事を告げられたナナは静かに姿勢を正すと素直にミモザ殿下に頭を下げた。
「姉上を助けてくれてありがとうございます。無事で心より安堵しました。姉のことをよろしくお願いします」
「そんなにかしこまらないでおくれ? ナナ。君は、もううちの子なんだよ。僕こそコクトーのことをよろしくたのむ」
ミモザ殿下の言葉にナナが思わず泣きそうになっているとコクトーが迷わずナナの手を握った。
「ミモザ父上。僕とナナはずっと一緒にいます。ナナは愛する花嫁ですから。なので、そろそろリデルを引き取ってもらえませんか?」
リデルはもう回復しているので王宮の居室に戻っても大丈夫ですとコクトーが進言するとミモザ殿下は笑顔で首肯した。
「またリデルが東宮付近を徘徊しても許してあげておくれ」
「それはお約束します。リデルとマックスが真の意味で結ばれるよう王太子として、リデルの兄として尽力する所存です」
この誓いにリデル王子は感激して、場を気にせずコクトーに抱きついた。
「お優しいコクトー兄上! 私は兄上のような慈悲深いお方の弟で幸せです! 王太子であるコクトー兄上の名にかけてマックスを幸せにします!」
マックスの意思が完全にガン無視されているとナナは思っていたが、コクトーの弟王子を案じる姿にミモザ殿下や他の弟妹も笑顔なので口を挟まなかった。代わりに静観していたモモにナナは小声で耳打ちをした。
「コクトーの優しさは伝わるがマックスの意思は?」
ナナの言葉にモモはニヤリすると首を横に振った。
「マックスがリデル王子をいまは愛してなかろうが関係ない。リデル王子の想いにマックスが応じた時点でマックスは詰んでた」
王太子であるコクトーは単に大切な弟の恋をマックスの意思を無視して応援している訳ではない、とモモはナナに囁いた。
「これは、ダイアナ女王陛下の意向であり、ミモザ殿下もそれを望んでいる。コクトーにはそれがわかるから敢えてリデル王子の恋を応援するんだよ」
ヘタレだが聡明なコクトーは両親の思惑を察して動いている。ナナにはリデル王子とマックスの恋が成就してどんな利があるのか今のところ理解できない。
でも、あんなにビビリでドヘタレだったコクトーがミモザ殿下に対して堂々と自分の意思を述べているのは素直に格好いいと思った。
こうして、ミモザ殿下はリデル王子を東宮から王宮の居室に戻すため暇を告げ、コクトーの弟妹たちもそれぞれお辞儀をすると御用馬車に乗り込んで東宮から去っていった。
「これで少しは東宮も平和になる」
モモがそう呟くとマックスは深く同意した。
「少なくとも近衛隊の詰所と仮眠室は平穏を取り戻しました」
安心したような顔のマックスを見ながらモモは不意にニヤリとしながら言った。
「それはどうかな?」
果たして、このモモの含みのある言葉の意味はなんなのか?
真相はリデル王子がとりあえず東宮から王宮の居室に帰ってすぐに判明する。
ミモザ殿下がリデル王子を引き取った数日後。
夜勤を終えたマックスが仮眠室に入った瞬間、異様な気配を感じて帯刀していた太刀の鞘に手を掛けた。
「不審者は斬りますよ!?」
威嚇するマックスに対して悠然とベッドに腰をかけながらリデル王子が何事もないように告げる。
「嫁の住まいに通うは夫として当然。なにを怒る必要がある?」
「勝手に嫁にするな! あと、ここは東宮です! どうやって侵入したんですか!?」
マックスの鋭い声を聞き付けたモモがコクトーとナナを伴いとんでもない事実を言ってのけた。
「双子王子たちに合鍵を作られた。少し見ただけで厳重な東宮の扉を解錠する合鍵をな。それを双子王子が悪気なくリデル王子に渡したんだよ」
こうなるだろうなと予めわかっていた風にモモが笑うとコクトーが必死な顔でマックスに言い募った。
「僕がリデルの恋の応援をするって言ったから、モニエ&ルクレールが自分たちもリデル兄上のためだって本気で合鍵を作っちゃった。ごめんね?」
「ごめんですむか! 王太子ならば合鍵を没収して不法侵入した弟を叱ってください! マジで怒りますよ!?」
すでにマジギレしていそうなマックスに怒鳴られたコクトーは情けない笑みを浮かべると合鍵はリデル王子から没収して、ミモザ殿下に届けたと言い訳しつつ、再度マックスに謝った。
「マックス。怒りたい気持ちは充分に理解する。じきに王宮からステフがリデル王子を迎えに来るから落ち着け」
モモに言い聞かされてマックスは少し怒りを鎮めたが、そんな騒ぎなんて関係なくベッドでリデル王子はグースカ眠り始めた。
「兄であり王太子のコクトーが必死こいてマックスに謝罪してるのに寝てやがる。リデル王子の神経は太いな!」
もはやモモはあきれを越えて感心しており、ナナも1周まわってリデル王子に尊敬の念を抱きそうになったが、ダメだと思いとどまった。
「ミモザ殿下は当然、東宮の合鍵作った双子王子を流石に叱るだろ? あと東宮不法侵入者になったリデル王子は今度こそヤバくね?」
まだ子供な双子王子に折檻は可哀想なので厳重注意でもいいが、リデル王子は厳罰に処すべきだとナナは考えていたが、リデル王子を迎えに来た主治医ステフはのんきに言ったのだ。
「双子ちゃんたちの才能を生かすためにミモザ殿下がダイアナ女王陛下にお願いして双子工房を作らせるって!」
「はぁ? ミモザ殿下の教育方針も狂ってるがダイアナ女王陛下はミモザ殿下に甘すぎだろ!? リデル王子は流石に厳罰だよな?」
そうナナが問い掛けるとステフは可愛らしい童顔を綻ばせてリデル王子の処遇を告げた。
「リデル王子は東宮不法侵入の罰として西の離宮にしばらく謹慎だってさ! 謹慎しても意味ないと思うけどね~!」
それなりに妥当な罰だとナナは納得したが、モモやマックスは密かに顔を見合わせた。
まだコクトーとナナは知らないが、現在、西の離宮にはナナの姉姫ルリとその夫が匿われている。そこにリデル王子を謹慎させるなんて、女王陛下とミモザ殿下はなにをお考えなのか。
おそらくミモザ殿下の発案だとモモは察したが、今回ばかりは意図がまったく読めない。
「めっちゃ胎教に悪そうだな?」
コクトーとナナに聞かれないようマックスに囁いたモモにマックスは申し訳なさそうな顔で頷いた。
「俺のせいで、ナナ妃殿下の姉君に多大なご迷惑を掛けてしまいます」
母胎に異常が出たらどう責任をとろうかとマックスは悩んでいたが事態は思わぬ展開となった。
――
西の離宮ではお腹が膨らんできたルリ姫とその夫で元スパイがリデル王子と和気あいあいな様子で話している。
「そういう訳で。マックスのことを私は幼い頃から愛してお慕い申しています。歳の差など関係ない。マックスが三十路になろうが、四十路になろうが、五十路になろうが、還暦でも古希でも卒寿になっても変わらず愛し抜く所存」
「その純愛! 素晴らしいです! 私どもは、リデル王子の恋のお味方となります! ねぇ、アナタ?」
「もちろんですとも! 元スパイとしてリデル王子にアドバイスいたします。合鍵より、こうした針金を細工すれば東宮のどの扉も開きますよ! そして、マックス殿が近衛隊長ならば、部下ではなく東宮の使用人の中に内通者を作ることをお勧めします」
リデル王子はナナの姉姫ルリとその元スパイ旦那を味方につけ、更に元スパイから絶対に王子としてやってはダメなことを教わっている。
西の離宮の人々の世話係を任されているミモザ殿下の元従者で家臣のシルフィはそれを笑顔で聞きながら黙認した。なんならリデル王子に対して「少年よ大志を抱け」くらいの気持ちである。
「リデル王子! 私と主人の馴れ初めをお話ししてもいいかしら?」
ルリ姫は嬉々として元スパイ旦那との出逢いから愛の逃避行を語って聞かせる。旦那も照れながら相槌をうって夫婦でラブラブのようだ。
「私がクソ兄上に毒を盛られて床に臥せっていたときよ! スパイだった主人が……解毒薬を口移しで飲ませてくれたの! その姿が素敵で一瞬で恋をしました!」
「なるほど! 解毒薬を口移しは王道だがルリ殿が助かってなにより。私もマックスに口移ししたいが、そうなるとマックスに毒を盛る必要がある」
愛する人を苦しませる行為はダメだなとリデル王子が毒作戦を諦めようとしたら元スパイ旦那がソッと微笑んだ。
「少し胸焼けするくらいの毒ならば調合できますよ? それを東宮の使用人に頼んでマックス殿の食事に混入させればリデル王子は手を汚さないで済みます!」
「ちょっと~! エリクったら。アナタって本当に根っからのスパイね! 愛してるわ!」
エリクというルリ姫の夫は少しヤバいなとシルフィは思ったが、リデル王子がそんな真似をするはずはなく、少しの胸焼けなんて無意味であるとシルフィは知っている。
(東宮シェフのルドルフは度々食材を腐敗させている。それを食べ続けているマックスにそんな陳腐な毒は効かない)
謹慎中なのにリデル王子はナナの姉姫ルリとその夫で元スパイのエリクと楽しく過ごしてまったく罰になっていない!
そもそもダイアナ女王陛下はリデル王子を罰する気なんて皆無であり、西の離宮に匿われているナナの姉夫婦の話し相手としてリデル王子を送り込んだ。その発案者はミモザ殿下だが許可したのはダイアナ女王である。
ミモザ殿下は基本的に我が子たちに甘く、そしてダイアナ女王陛下は王婿であるミモザ殿下に対してプライベートではラブラブかつ激甘であった。
ナナはそんなこと知るよしもなく、コクトーと2人で謹慎させられているリデル王子がマックスの姿を見れなくて禁断症状を起こしていないか少し心配していたのである。
ついでにヤンチャ双子王子の才能を開花させるための双子工房は無事に完成したので、もうモニエ王子&ルクレール王子の才能の爆発を止められない。
「次、なに作る~!? 鍵は飽きちゃった」
「うん! 次はカラクリ人形作ろ!」
リデル兄上に、マックスそっくりな等身大のカラクリ人形を贈ろうと仲良く設計図に着手している双子王子を見守っていたミモザ殿下は心で察した。
(単なるカラクリ人形でなく、マックスを模したリデルのそういう抱き人形になるであろう)
マックスはリデルに体を許さないのだからリデルの性欲を発散させるために有益と判断してミモザ殿下は双子王子を止めなかった。
そして、リラ王女作で挿絵をファナ王女が担当した「お姫さまの華麗なる冒険」の第2章が東宮に届けられたが、読む前の表紙の段階でナナは不穏な予感を察知し、コクトーに見せた。
「おい。この絵本のサブタイトルに「昼顔」って書いてある。5歳が昼顔って発想からして不穏だ」
「う、……うん。リラはオマセさんだからね。怖いけど一緒に読もうか? 昼顔」
5歳の王女リラが書き綴った「お姫さまの華麗なる冒険 第2章~昼顔~」の頁をひらいたコクトーとナナは絵本をおそるおそる読んでいたが、いつの間にか夢中になっていた。
「えっ!? お姫さまと異母兄がお互いに兄妹と知らないで恋仲になってるぞ! そこにお姫さまの忠実な騎士が横恋慕してる! マジで昼顔!」
「ウソ! お姫さまと異母兄が兄妹と気がつかないまま結婚したのに嫉妬した騎士が真実をお姫さまにばらした! ここで終わりなの!? 続きは第3章か~! 気になる! この3人はどうなるのかな?」
結構ガチでリラ王女の泥沼愛憎劇な絵本「昼顔」にハマっているコクトーとナナを見守っていたモモとマックスは小声でひそひそ会話をした。
「第3章のサブタイトルは「失楽園」か? マックスはどう予想する?」
「サブタイトルよりも。リラ王女の絵本の内容が、エドガー様が愛読していたNTRエロ小説に酷似している。そちらの方が俺は気になるのですが?」
色々と謎が多いリラ王女の絵本だが、リラ王女は盗作は断じてしていない。
現に王宮の居室にて、リラ王女は姉のファナ王女と次回作の相談をしていた。
「サブタイトルはねぇ! リラは「イケナイ情事」にしたいの~! ファナ姉さま。どうかな~?」
「いいわね! リラ。もう内容は決まっているの?」
「うん! コクトーお兄様とナナさまには秘密だよ? 第3章はねぇ……」
初手からヤバかった絵本が更にヤバさマシマシになったリラ王女の考える第3章の展開を聞いていたファナ王女は「キャー! 挿絵を描くのが楽しみだわ!」と盛り上がっている。
こんな調子で、ダイアナ女王陛下とミモザ殿下の御子たちは、王太子コクトーのみ少年花嫁ナナと東宮で仲良く暮らしつつも比較的にマトモな生活をしているが、コクトーを除いた御子たちは総じてヤバい方向性に走っていた。
ちなみに謹慎期間が終わる頃には、リデル王子とナナの姉姫ルリとその夫エリクは3人マブダチになっていた。
閉ざされた離宮に若い姫君とその夫君と美しい王子が3人でいるのに、まったく「昼顔」な展開にならなかったと、後にシルフィはミモザ殿下に笑顔で報告している。
そうしている内に春が迫っており、コクトーとナナが遥か遠くラン・ヤスミカ領へ新婚旅行する時期が近付いてきた。
【続く!】
「ミモザ殿下! ご到着でございます!」
リデル王子のマックスへの捨て身の求愛が原因で東宮への来訪を延期していたダイアナ女王陛下の王婿であり王太子コクトーたちの父であるミモザ殿下がやって来たのだ。
ミモザ殿下は1人ではなく、東宮に住まう王太子コクトーと王太子妃ナナの許に幼い子供たちを伴ってきた。
「コクトー。リデルがたいへんな迷惑を掛けたこと許してほしい。東宮に迎えてくれて嬉しいよ」
馬車から降りたミモザ殿下が優しく王太子であり息子のコクトーに声を掛けるとコクトーは緊張した面持ちで応える。
「ミモザ父上の東宮へのご来訪。王太子として真に感謝申し上げます」
コクトーのとなりで跪いていたナナには穏やかな雰囲気のミモザ殿下に対してコクトーが異様なほど気を張りつめていることが伝わってくる。
王家には家族でも序列が存在する。
最高位はやはり国家を統率するダイアナ女王陛下であり、彼女の命令は絶対であった。
王太子であるコクトーは将来的にはダイアナ女王陛下の跡継ぎとして国王陛下となるが、まだ15歳であり、勉強中な身分である。
なので、子供たちの養育の最高責任者である王婿ミモザ殿下が序列では2番目に来てしまう。そもそもミモザ殿下は先代国王の実弟のひとり息子という尊い身分だ。彼の真の役割は王家の血統を維持することでもある。
「ミモザ殿下はダイアナ女王と結婚してすぐに王太子になるコクトーを孕ませた。続いてリデル王子をもうけて更にファナ王女。その後もダイアナ女王とのあいだに子を成した」
以前にミモザ殿下の側近でもあるモモがナナに話してくれたのだ。ミモザ殿下が国民や貴族連中に愛され、一目置かれる理由の1つは子種に恵まれた点も大きいと。
「ミモザ殿下はダイアナ女王とのあいだに世継ぎを含めてたくさんの子を成した。それでようやく貴族たちに受け入れられた側面もあるんだ」
そう語るモモはなんとなく歯がゆいようであった。ダイアナ女王陛下を陰で支えているミモザ殿下だが、表向きは政治に口を挟まない。
しかし、ミモザ殿下の優れた外交手腕がなければ国家をダイアナ女王陛下だけで動かすのは困難なことは王家に最も近く仕えているモモが理解している。
「俺以上にそれを理解しているのはダイアナ女王だ。ミモザ殿下の尽力は国家運営には不可欠。だから、王家の序列でミモザ殿下は2番目になる。実際は女王陛下と同格だけどな!」
要するにダイアナ女王陛下にとって王婿ミモザ殿下はあくまでも臣下という体裁をとっているが実際は同等の権威があるということをダイアナ女王自身が認めている。
その暗黙の了解があるから王太子コクトーはミモザ殿下を前にここまで緊張しているのだ。
ミモザ殿下はダイアナ女王陛下の名代として東宮に来ているのだから!
「コクトー。あまり緊張しないでおくれ。僕は君とナナの顔を見に来ただけ。オチビさんたちを連れて」
「はっ! ミモザ父上。そのお優しいお言葉に感謝申し上げます」
いつまでも緊張気味のコクトーにミモザ殿下は穏和な笑みを向けると今度はナナに視線を移した。
「ナナ。コクトーと仲良くしてくれてありがとう。不始末を起こしたリデルを庇ってくれたことも感謝する」
あたたかく慈愛に満ちているミモザ殿下の微笑みにナナは飾ることなく応えた。
「舅殿! いや、ミモザ義父上! 俺は王太子妃殿下だ! コクトーと仲がよくて当然! 夫婦だからな。少しリデル王子が東宮付近をうろついても不始末なんて思ってねーよ」
きっぱりと言い切るナナの笑顔を見ていたミモザ殿下は愉快そうにクスクス笑った。
「相変わらず元気そうでなによりだよ。コクトーとは似合いの夫婦だ。コクトー。挨拶はこのくらいにして東宮に入れておくれ? 馬車で待っているファナたちがソワソワしている」
「はい! ミモザ父上。本日は東宮にいらしてくださりありがとう存じます!」
王太子コクトーがそう歓迎の言葉を告げると馬車の御者はうやうやしく御料馬車の扉をあけた。
すると待ちきれなかったらしい双子王子――モニエ&ルクレールが飛び出してくる。
「コクトー兄上! ナナさまぁ! ごきげんよう! 遊びに来たよ~!」
双子のモニエ王子&ルクレール王子は天真爛漫な無邪気さで兄であるコクトーに抱きつく。
「これ! モニエにルクレール! 急に走らないで。あたくしが合図をするまで待っているお約束でしょう?」
双子王子が元気にコクトーとナナに抱きついていると5歳のリラ王女と手を繋いでいるファナ王女が姿を見せた。ファナ王女は礼儀正しく兄コクトーと兄嫁ナナにお辞儀をし、リラ王女もそれにならう。
「コクトーお兄様。ナナおねえさま。ご機嫌麗しゅう存じます。申し訳ございません。モニエ&ルクレールが飛び出してしまって」
「コクトーおにーさま~。ナナさま~。東宮におまねきありがとうございます!」
ファナ王女とリラ王女の言葉にコクトーは笑顔で応じる。
「気にしないで。ファナも元気そうでよかった。リラもお行儀よくご挨拶できたね。モニエ&ルクレールも元気でホッとしたよ」
弟妹たちに優しく接するコクトーを眺めているミモザ殿下の表情は嬉しそうだ。
「そろそろ東宮に入ろう! ミモザ義父上! モモとマックスが待ちくたびれる」
ナナがそう告げるとずっと近くで待機していたモモとマックスが笑った。
「まったく! コクトーが長々と挨拶してるからマジで待ちくたびれた! ミモザ殿下。リデル王子はなかで待ってる。お迎え感謝します」
「ありがとう。モモ。リデルが回復して心底安堵した。マックス。面倒を掛けてすまぬ」
リデル王子の件でミモザ殿下が真摯に謝罪するとモモとマックスは普段通りの口調で言った。
「ミモザ殿下! リデル王子のやらかしはマジで迷惑だったからな!? 今後はあまりガキを甘やかすな!」
「モモ様の仰るとおりです! 東宮に何日も居座られて本当に大迷惑でした! 近衛隊の詰所にも平然と出入りし、仮眠室には無断で入るような養育をしないでください!」
王太子であるコクトーがあれだけ緊張して挨拶していたのに比べるとモモとマックスのミモザ殿下への物言いは砕けていて遠慮がまったくない。
それでもミモザ殿下は気分を損ねた様子はなかった。
「本当にすまぬ。リデルにはよく言って利かせるから怒らないでおくれ。モモとマックスがコクトーやナナの側に居てくれて頼もしい限りだ」
それだけ告げるとミモザ殿下はコクトーとナナの案内で東宮へと歩を進め、子供たちも東宮に入った。
応接間に入るとリデル王子が跪いてミモザ殿下を待っている。父であるミモザ殿下に先んじて東宮に来てしまった不始末を詫びるためだ。
「ミモザ父上。此度の私の不始末をお許しください。お許しいただけるまで。このリデル・ミケロット。何度でも謝罪いたします。あと、マックスとの結婚を認めてください!」
「リデル。此度の件は女王陛下の慈悲で不問となっている。反省するのはよいことだけど。ついでみたくマックスとの結婚を勝手に決めないでおくれ。マックスの意思を完全に無視しているだろう?」
マックスが合意したらの話だよとミモザ殿下は普通に正論を述べているが、リデル王子は断固引かない。
「ミモザ父上。マックスは私の気持ちに応えるとたしかに申しました! 合意済みです!」
「待ってください! おそれながらミモザ殿下! 俺はリデル王子の想いに応えるが愛してはいないとハッキリ告げました! 相思相愛ではありません!」
危機を感じたマックスが咄嗟に弁明したが、ミモザ殿下は冗談交じりに言ってくる。
「想いに応じたならば結婚しても問題なかろう? 愛など結婚してから育めばよい」
ミモザ殿下が言うと恐ろしく説得力ある台詞だがマックスだって負けられない。
「無責任なことを言わないでください! リデル王子の気持ちは嬉しいですが断じて愛は無いので!」
初っ端からリデル王子とマックスの恋愛問題が浮上したので応接間は膠着状態となる。それでもコクトーの弟妹たちは冷静であった。
「コクトー兄上! 僕らお土産持ってきたよ! はい! ナナさまにも! これは僕らが作った玩具だよ!」
双子王子が朗らかに精巧な寄木細工の小箱を出したのでナナは驚いた。
「これを自分達で細工したのか!? モニエ王子&ルクレール王子が? これは職人の技だろ!?」
「驚いたぁ? 僕らは図工が得意なんだ! これはパズルになってて、細工をずらしていくと箱が開くよ!」
ためしに開けてみてと双子王子に促されたナナだったが、いくら箱の細工をずらしても中身が見えてこない。降参かと思ったらとなりで見ていたコクトーが小声で言ったのだ。
「ナナ。中央の細工を縦に移動させてみて?」
「これか? うわ! ひらいた! コクトー、すごい!」
難解な寄木細工の仕掛を簡単に見抜いたコクトーにナナが笑顔で感心していると双子王子が作った小箱からコロンと鍵が転がり落ちた。
「これも僕らが作った鍵なんだ! この鍵があれば王宮の宝物庫の扉があいて財宝が手に入るよ!」
双子王子モニエ&ルクレールが天才的に器用なのは認めるが、流石にそんな大事な鍵の合鍵は無理だろうとナナは笑おうとした。だが、鍵を見ていたミモザ殿下がひと言、
「これは……よくできているね」
ガチで宝物庫の合鍵を作った双子王子モニエ&ルクレールにナナは驚愕したが、ミモザ殿下は落ち着いた声で言い聞かせている。
「この鍵は絶対に使ってはいけないよ? モニエ&ルクレール」
「はぁい! ミモザ父上!」
危うくヤバい鍵を渡されそうだったコクトーとナナであったが、双子王子は作ることが大好きで宝物庫で窃盗する気はさらさらないようだ。
モニエ王子&ルクレール王子のヤバすぎるお土産に持っていかれたが、コクトーは動じないで双子王子を褒めている。
「モニエ&ルクレールは本当に器用だね。鍵は受け取れないけれど、細工の小箱をありがとう。大切にするよ」
「わぁい! コクトー兄上に褒められた!」
「次はもっとすごい玩具作るね!」
双子王子たちがはしゃいていると、今度はファナ王女がナナにキレイにラッピングされた箱を差し出してくる。
「双子たちに負けないよう、あたくしもお土産を持ってきましたの! ナナおねえさまがあけてくださいな!」
「ファナ王女! お心遣いありがとう」
ナナがワクワクしながら包みをはがして箱をひらくとそこには見事な刺繍のショールが入っていた。
「春にラン・ヤスミカ領に行かれるでしょう? お体を冷やさないようお使いください」
「ありがとう! ファナ王女は本当に裁縫が上手なんだな!」
大喜びのナナの前にコクトーが歩み出て、ファナ王女に礼を言った。
「ファナ。ナナのためにどうもありがとう。僕も嬉しいよ」
「コクトーお兄様には後日、贈り物があるわ。楽しみになさってね」
なにを後からファナ王女がコクトーに贈るのか気になるが、最後にリラ王女がミモザ殿下に抱っこされながらコクトーとナナにお土産を渡した。
「これねぇ! リラが作ったお話だよ。ミモザお父様と一緒に作ったの! よんでね!」
可愛らしく装丁された絵本のタイトルは「お姫さまの華麗なる冒険」であり、リラ王女の直筆であった。
「え? 5歳なのにリラ王女の文字がうますぎ! すごいな!」
幼さを感じさせない見事な筆跡にナナがとにかく驚嘆しているとミモザ殿下が絵本をそっとナナの手からとって読み聞かせをしてくれた。
久々に全員揃ったコクトーの弟妹たちも絵本に興味津々で、和やかな時間が訪れると思った矢先、ミモザ殿下がリラ王女作の絵本冒頭を読み上げる。
「いつの世かわからぬが。王様の王妃やお妃が数多いるなか、お城で王妃さまより王様に愛されているお妃ありけり。」
冒頭から王様が一夫多妻制な世界観で幼い5歳女児の空想にしては不穏である。そうナナが感じているのも知らずにミモザ殿下は読み聞かせを続行している。
「王様に1番愛されたお妃は、王妃や他の妃より身分が低く、そのため女たちの嫉妬の的となりました。その愛されているお妃の寝室には汚物が投げられ、王様はそんなかわいそうなお妃をますます溺愛しました。しかし、それが火に油となり、お城は愛憎渦巻く泥沼化。心労で王様の最愛のお妃は可愛い赤子を生むと死んでしまいました。」
内容がすでに絵本じゃないとナナはツッコミたかったが、リラ王女の創作に文句をつけるのも可哀想なので仕方なく黙った。
すると、物語を聴いていたコクトーが「続きはどうなるんですか?」と普通にワクワクしている。リデル王子やファナ王女、双子王子モニエ&ルクレールも話の続きを気にしているようだ。
誰も5歳が考える空想ではないと突っ込まない。
そして、ミモザ殿下の読み聞かせは続く。
「可哀想なお妃が死んで、王様はとても悲しみ国政を放棄してお酒とギャンブル依存に。国は荒廃して、王妃や他の妃はようやく死んだお妃をいじめたことを深く反省しました。そして、お酒とギャンブル依存の王様に心から謝って遺された赤子を大切に育てましたとさ。第2章につづく」
続編ありで更に物語が壮大になる予感なリラ王女の絵本読み聞かせが終わると皆が拍手してリラ王女を褒め称え始めた。
「素晴らしいですわ! リラは天才よ! 今度から絵本の挿絵はあたくしが担当するわ!」
ファナ王女が褒めるとコクトーも心からの賛辞を贈っている。
「素敵な物語で涙が止まらないよ! リラの才能がすごい!」
いまの物語にそんな号泣する要素あったか、とナナが首を傾げているのをよそにリデル王子も感激している。
「酒とギャンブル依存になるほど悲しむ王様への共感が止まらぬ! 私とてマックスが死んだらと想像すると涙が!」
「いや、勝手に殺さないでください!」
マックスがすかさずリデル王子に冷たく告げたが、リデル王子は嫌がるマックスに無理やり抱きついている。
モモさえもリラ王女のもはや絵本でない物語になにも口を出さないで見守っている。
しかし、双子王子のモニエ&ルクレールは不思議そうにリラ王女に訊いている。
「リラ! 僕らから質問! どうして王様はお妃さまに意地悪する王妃や他の妃を斬首しないで許したの? いじめてる時点で四肢切断は確定だよ?」
その質問も怖すぎるが、リラ王女は可愛い笑顔で双子王子たちの疑問に答える。
「双子お兄様方。憎しみを憎しみでお返しするから世の中に争いが消えないの! 王様が王妃たちを許すのはそういう憎しみの連鎖を断ち切るためよ!」
もう! 5歳のリラ王女の言葉が深すぎてナナは感動すら覚えた。色々とツッコミどころ満載なお姫さま物語だが、たしかに続きが気になる。
「リラ王女? 第2章はどうなるか教えてくれるか?」
ナナが続編を訊くとリラ王女は無邪気な笑顔で、衝撃的なことを告げた。
「第2章ではね。反省した王妃たちに育てられたお姫さまが、お城に離宮をつくって気に入った王子様をたくさん住まわせるの」
「自分の母親も一夫多妻のせいで死んでるのに、お姫さまも同じことすんのかよ!? そこでまた争いが起きるの確定だな!」
「ナナさまぁ! 違うよぉ? 離宮は作ったけど~、王子様たちにあきたお姫さまは離宮の王子様たちを戦力外通告してねぇ! 真実の愛を探す旅に出発するんだよ!」
「その国大丈夫かよ!? 勝手に王子を住まわせて飽きたから戦力外通告するお姫さまに真実の愛なんて絶対に見つからねー!」
5歳のリラ王女の絵本の続きに本気でツッコミを入れているナナをコクトーは優しく宥めた。
「まあまあ! ナナ。5歳の女の子の可愛い空想だから本気にしないで。僕は戦力外通告された王子さまのその後が気になる」
かなりの反響を呼んだリラ王女の絵本の披露が終わったところで、ミモザ殿下がナナに向かって告げてきた。
「ナナ。君の姉君であるルリ姫はご無事だ。いまはまだ居場所を言えぬがお元気にしている。だから安心しておくれ。心細い思いをさせて本当にすまぬ」
姉姫ルリの無事を告げられたナナは静かに姿勢を正すと素直にミモザ殿下に頭を下げた。
「姉上を助けてくれてありがとうございます。無事で心より安堵しました。姉のことをよろしくお願いします」
「そんなにかしこまらないでおくれ? ナナ。君は、もううちの子なんだよ。僕こそコクトーのことをよろしくたのむ」
ミモザ殿下の言葉にナナが思わず泣きそうになっているとコクトーが迷わずナナの手を握った。
「ミモザ父上。僕とナナはずっと一緒にいます。ナナは愛する花嫁ですから。なので、そろそろリデルを引き取ってもらえませんか?」
リデルはもう回復しているので王宮の居室に戻っても大丈夫ですとコクトーが進言するとミモザ殿下は笑顔で首肯した。
「またリデルが東宮付近を徘徊しても許してあげておくれ」
「それはお約束します。リデルとマックスが真の意味で結ばれるよう王太子として、リデルの兄として尽力する所存です」
この誓いにリデル王子は感激して、場を気にせずコクトーに抱きついた。
「お優しいコクトー兄上! 私は兄上のような慈悲深いお方の弟で幸せです! 王太子であるコクトー兄上の名にかけてマックスを幸せにします!」
マックスの意思が完全にガン無視されているとナナは思っていたが、コクトーの弟王子を案じる姿にミモザ殿下や他の弟妹も笑顔なので口を挟まなかった。代わりに静観していたモモにナナは小声で耳打ちをした。
「コクトーの優しさは伝わるがマックスの意思は?」
ナナの言葉にモモはニヤリすると首を横に振った。
「マックスがリデル王子をいまは愛してなかろうが関係ない。リデル王子の想いにマックスが応じた時点でマックスは詰んでた」
王太子であるコクトーは単に大切な弟の恋をマックスの意思を無視して応援している訳ではない、とモモはナナに囁いた。
「これは、ダイアナ女王陛下の意向であり、ミモザ殿下もそれを望んでいる。コクトーにはそれがわかるから敢えてリデル王子の恋を応援するんだよ」
ヘタレだが聡明なコクトーは両親の思惑を察して動いている。ナナにはリデル王子とマックスの恋が成就してどんな利があるのか今のところ理解できない。
でも、あんなにビビリでドヘタレだったコクトーがミモザ殿下に対して堂々と自分の意思を述べているのは素直に格好いいと思った。
こうして、ミモザ殿下はリデル王子を東宮から王宮の居室に戻すため暇を告げ、コクトーの弟妹たちもそれぞれお辞儀をすると御用馬車に乗り込んで東宮から去っていった。
「これで少しは東宮も平和になる」
モモがそう呟くとマックスは深く同意した。
「少なくとも近衛隊の詰所と仮眠室は平穏を取り戻しました」
安心したような顔のマックスを見ながらモモは不意にニヤリとしながら言った。
「それはどうかな?」
果たして、このモモの含みのある言葉の意味はなんなのか?
真相はリデル王子がとりあえず東宮から王宮の居室に帰ってすぐに判明する。
ミモザ殿下がリデル王子を引き取った数日後。
夜勤を終えたマックスが仮眠室に入った瞬間、異様な気配を感じて帯刀していた太刀の鞘に手を掛けた。
「不審者は斬りますよ!?」
威嚇するマックスに対して悠然とベッドに腰をかけながらリデル王子が何事もないように告げる。
「嫁の住まいに通うは夫として当然。なにを怒る必要がある?」
「勝手に嫁にするな! あと、ここは東宮です! どうやって侵入したんですか!?」
マックスの鋭い声を聞き付けたモモがコクトーとナナを伴いとんでもない事実を言ってのけた。
「双子王子たちに合鍵を作られた。少し見ただけで厳重な東宮の扉を解錠する合鍵をな。それを双子王子が悪気なくリデル王子に渡したんだよ」
こうなるだろうなと予めわかっていた風にモモが笑うとコクトーが必死な顔でマックスに言い募った。
「僕がリデルの恋の応援をするって言ったから、モニエ&ルクレールが自分たちもリデル兄上のためだって本気で合鍵を作っちゃった。ごめんね?」
「ごめんですむか! 王太子ならば合鍵を没収して不法侵入した弟を叱ってください! マジで怒りますよ!?」
すでにマジギレしていそうなマックスに怒鳴られたコクトーは情けない笑みを浮かべると合鍵はリデル王子から没収して、ミモザ殿下に届けたと言い訳しつつ、再度マックスに謝った。
「マックス。怒りたい気持ちは充分に理解する。じきに王宮からステフがリデル王子を迎えに来るから落ち着け」
モモに言い聞かされてマックスは少し怒りを鎮めたが、そんな騒ぎなんて関係なくベッドでリデル王子はグースカ眠り始めた。
「兄であり王太子のコクトーが必死こいてマックスに謝罪してるのに寝てやがる。リデル王子の神経は太いな!」
もはやモモはあきれを越えて感心しており、ナナも1周まわってリデル王子に尊敬の念を抱きそうになったが、ダメだと思いとどまった。
「ミモザ殿下は当然、東宮の合鍵作った双子王子を流石に叱るだろ? あと東宮不法侵入者になったリデル王子は今度こそヤバくね?」
まだ子供な双子王子に折檻は可哀想なので厳重注意でもいいが、リデル王子は厳罰に処すべきだとナナは考えていたが、リデル王子を迎えに来た主治医ステフはのんきに言ったのだ。
「双子ちゃんたちの才能を生かすためにミモザ殿下がダイアナ女王陛下にお願いして双子工房を作らせるって!」
「はぁ? ミモザ殿下の教育方針も狂ってるがダイアナ女王陛下はミモザ殿下に甘すぎだろ!? リデル王子は流石に厳罰だよな?」
そうナナが問い掛けるとステフは可愛らしい童顔を綻ばせてリデル王子の処遇を告げた。
「リデル王子は東宮不法侵入の罰として西の離宮にしばらく謹慎だってさ! 謹慎しても意味ないと思うけどね~!」
それなりに妥当な罰だとナナは納得したが、モモやマックスは密かに顔を見合わせた。
まだコクトーとナナは知らないが、現在、西の離宮にはナナの姉姫ルリとその夫が匿われている。そこにリデル王子を謹慎させるなんて、女王陛下とミモザ殿下はなにをお考えなのか。
おそらくミモザ殿下の発案だとモモは察したが、今回ばかりは意図がまったく読めない。
「めっちゃ胎教に悪そうだな?」
コクトーとナナに聞かれないようマックスに囁いたモモにマックスは申し訳なさそうな顔で頷いた。
「俺のせいで、ナナ妃殿下の姉君に多大なご迷惑を掛けてしまいます」
母胎に異常が出たらどう責任をとろうかとマックスは悩んでいたが事態は思わぬ展開となった。
――
西の離宮ではお腹が膨らんできたルリ姫とその夫で元スパイがリデル王子と和気あいあいな様子で話している。
「そういう訳で。マックスのことを私は幼い頃から愛してお慕い申しています。歳の差など関係ない。マックスが三十路になろうが、四十路になろうが、五十路になろうが、還暦でも古希でも卒寿になっても変わらず愛し抜く所存」
「その純愛! 素晴らしいです! 私どもは、リデル王子の恋のお味方となります! ねぇ、アナタ?」
「もちろんですとも! 元スパイとしてリデル王子にアドバイスいたします。合鍵より、こうした針金を細工すれば東宮のどの扉も開きますよ! そして、マックス殿が近衛隊長ならば、部下ではなく東宮の使用人の中に内通者を作ることをお勧めします」
リデル王子はナナの姉姫ルリとその元スパイ旦那を味方につけ、更に元スパイから絶対に王子としてやってはダメなことを教わっている。
西の離宮の人々の世話係を任されているミモザ殿下の元従者で家臣のシルフィはそれを笑顔で聞きながら黙認した。なんならリデル王子に対して「少年よ大志を抱け」くらいの気持ちである。
「リデル王子! 私と主人の馴れ初めをお話ししてもいいかしら?」
ルリ姫は嬉々として元スパイ旦那との出逢いから愛の逃避行を語って聞かせる。旦那も照れながら相槌をうって夫婦でラブラブのようだ。
「私がクソ兄上に毒を盛られて床に臥せっていたときよ! スパイだった主人が……解毒薬を口移しで飲ませてくれたの! その姿が素敵で一瞬で恋をしました!」
「なるほど! 解毒薬を口移しは王道だがルリ殿が助かってなにより。私もマックスに口移ししたいが、そうなるとマックスに毒を盛る必要がある」
愛する人を苦しませる行為はダメだなとリデル王子が毒作戦を諦めようとしたら元スパイ旦那がソッと微笑んだ。
「少し胸焼けするくらいの毒ならば調合できますよ? それを東宮の使用人に頼んでマックス殿の食事に混入させればリデル王子は手を汚さないで済みます!」
「ちょっと~! エリクったら。アナタって本当に根っからのスパイね! 愛してるわ!」
エリクというルリ姫の夫は少しヤバいなとシルフィは思ったが、リデル王子がそんな真似をするはずはなく、少しの胸焼けなんて無意味であるとシルフィは知っている。
(東宮シェフのルドルフは度々食材を腐敗させている。それを食べ続けているマックスにそんな陳腐な毒は効かない)
謹慎中なのにリデル王子はナナの姉姫ルリとその夫で元スパイのエリクと楽しく過ごしてまったく罰になっていない!
そもそもダイアナ女王陛下はリデル王子を罰する気なんて皆無であり、西の離宮に匿われているナナの姉夫婦の話し相手としてリデル王子を送り込んだ。その発案者はミモザ殿下だが許可したのはダイアナ女王である。
ミモザ殿下は基本的に我が子たちに甘く、そしてダイアナ女王陛下は王婿であるミモザ殿下に対してプライベートではラブラブかつ激甘であった。
ナナはそんなこと知るよしもなく、コクトーと2人で謹慎させられているリデル王子がマックスの姿を見れなくて禁断症状を起こしていないか少し心配していたのである。
ついでにヤンチャ双子王子の才能を開花させるための双子工房は無事に完成したので、もうモニエ王子&ルクレール王子の才能の爆発を止められない。
「次、なに作る~!? 鍵は飽きちゃった」
「うん! 次はカラクリ人形作ろ!」
リデル兄上に、マックスそっくりな等身大のカラクリ人形を贈ろうと仲良く設計図に着手している双子王子を見守っていたミモザ殿下は心で察した。
(単なるカラクリ人形でなく、マックスを模したリデルのそういう抱き人形になるであろう)
マックスはリデルに体を許さないのだからリデルの性欲を発散させるために有益と判断してミモザ殿下は双子王子を止めなかった。
そして、リラ王女作で挿絵をファナ王女が担当した「お姫さまの華麗なる冒険」の第2章が東宮に届けられたが、読む前の表紙の段階でナナは不穏な予感を察知し、コクトーに見せた。
「おい。この絵本のサブタイトルに「昼顔」って書いてある。5歳が昼顔って発想からして不穏だ」
「う、……うん。リラはオマセさんだからね。怖いけど一緒に読もうか? 昼顔」
5歳の王女リラが書き綴った「お姫さまの華麗なる冒険 第2章~昼顔~」の頁をひらいたコクトーとナナは絵本をおそるおそる読んでいたが、いつの間にか夢中になっていた。
「えっ!? お姫さまと異母兄がお互いに兄妹と知らないで恋仲になってるぞ! そこにお姫さまの忠実な騎士が横恋慕してる! マジで昼顔!」
「ウソ! お姫さまと異母兄が兄妹と気がつかないまま結婚したのに嫉妬した騎士が真実をお姫さまにばらした! ここで終わりなの!? 続きは第3章か~! 気になる! この3人はどうなるのかな?」
結構ガチでリラ王女の泥沼愛憎劇な絵本「昼顔」にハマっているコクトーとナナを見守っていたモモとマックスは小声でひそひそ会話をした。
「第3章のサブタイトルは「失楽園」か? マックスはどう予想する?」
「サブタイトルよりも。リラ王女の絵本の内容が、エドガー様が愛読していたNTRエロ小説に酷似している。そちらの方が俺は気になるのですが?」
色々と謎が多いリラ王女の絵本だが、リラ王女は盗作は断じてしていない。
現に王宮の居室にて、リラ王女は姉のファナ王女と次回作の相談をしていた。
「サブタイトルはねぇ! リラは「イケナイ情事」にしたいの~! ファナ姉さま。どうかな~?」
「いいわね! リラ。もう内容は決まっているの?」
「うん! コクトーお兄様とナナさまには秘密だよ? 第3章はねぇ……」
初手からヤバかった絵本が更にヤバさマシマシになったリラ王女の考える第3章の展開を聞いていたファナ王女は「キャー! 挿絵を描くのが楽しみだわ!」と盛り上がっている。
こんな調子で、ダイアナ女王陛下とミモザ殿下の御子たちは、王太子コクトーのみ少年花嫁ナナと東宮で仲良く暮らしつつも比較的にマトモな生活をしているが、コクトーを除いた御子たちは総じてヤバい方向性に走っていた。
ちなみに謹慎期間が終わる頃には、リデル王子とナナの姉姫ルリとその夫エリクは3人マブダチになっていた。
閉ざされた離宮に若い姫君とその夫君と美しい王子が3人でいるのに、まったく「昼顔」な展開にならなかったと、後にシルフィはミモザ殿下に笑顔で報告している。
そうしている内に春が迫っており、コクトーとナナが遥か遠くラン・ヤスミカ領へ新婚旅行する時期が近付いてきた。
【続く!】
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そこでロザは出会う。
ウルヴァスという名の不敵な魔族に。
「俺の花嫁に相応しい」
(は? 今、何て言った?)
■表紙イラスト(フリー素材)はお借りしています■
強欲なる花嫁は総てを諦めない
浦霧らち
BL
皮肉と才知と美貌をひっさげて、帝国の社交界を渡ってきた伯爵令息・エルンスト──その名には〝強欲〟の二文字が付き纏う。
そんなエルンストが戦功の褒美と称されて嫁がされたのは、冷血と噂される狼の獣人公爵・ローガンのもとだった。
やがて彼のことを知っていくうちに、エルンストは惹かれていく心を誤魔化せなくなる。
エルンストは彼に応える術を探しはじめる。荒れた公爵領を改革し、完璧な伴侶として傍に立つために。
強欲なる花嫁は、総てを手に入れるまで諦めない。
※性描写がある場合には*を付けています。が、後半になると思います。
※ご都合主義のため、整合性は無いに等しいです、雰囲気で読んでください。
※自分の性癖(誤用)にしか配慮しておりません。
※書き溜めたストックが無くなり次第、ノロノロ更新になります。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
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