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死を越える愛情
王宮ではダイアナ王女とミモザ王子の婚約を貴族たちに正式にお披露目する園遊会の日が近づいてきた。
園遊会に参列する貴族は宮廷への出入りを許されている貴族のなかでも選ばれた由緒ある宮廷貴族である。
貴族でもラン・ヤスミカ家のような田舎貴族や弱小貴族などは招待されないのが慣習であった。
つまり、選ばれし王候貴族が集う雅なイベントで、たとえミモザ王子であっても終始無表情でつまらなそうに振る舞うわけにもいかない。
「園遊会でなく貴族どもの動向を観察して分析するイベントだと考えるようにしています」
あれだけ貴族が集結すれば諸外国の貴重な情報を知る機会もあるでしょうからと微笑むミモザ王子にダイアナ王女は笑顔で応じた。
「それがいいわ。わたくしの目的もそれよ。ミモザ。今回の園遊会には海外の大使も出席する。大使なんてスパイと同じよ。うまく他国の内情を引き出しましょう?」
「承知しました。ダイアナ姉上。面白いことになりそうですね」
婚約発表の園遊会を情報収集活動と割りきっているダイアナ王女とミモザ王子を見ながらミシェルはモモに囁いた。
「なんだか仲の良い姉弟が悪戯の作戦を練っているようだね?」
言いえて妙だが、たしかにその通りだとモモは納得した。
モモは不覚にもミシェルを愛してしまい、こうして孤児の身分なのに貴族と偽り宮廷に潜り込んでいる。
ミシェルがゆくゆくはシルバー家の当主となり磐石な地位を築いて、ミシェルに保護されたステフ、マックス、ヒナリザが無事に成長すれば、モモに心残りはなくなる。
勉強友達だったシルバー家の庶子リンは田舎のラン・ヤスミカ家の次男ユーリと幸せに暮らして平穏な日々を送っていた。
(俺はミシェルが家督を継いで当主として自立するまで安心はできない)
この先、不用になるまでシルバー家に利用される人生でも別にかまわない。
本来なら処刑される身だった自分が運良く生き延びたのはミシェルが助けてくれたからだ。
聡明だが下手に感傷的で危なっかしいミシェルがシルバー家当主として君臨してくれたらモモは満足であった。
そんな想いで瞳を伏せていたら目敏くダイアナ王女が声をかけてきた。
「モモ!あなた、今日は珍しく静かなのね?何か心配なことでもあるの?」
視線が自分に集中したのでモモはハッとして笑顔で誤魔化した。
「いえ!園遊会でシルバー家の者ではないと露見しないように用心せねばと思って!」
慌てて言い繕うモモに対してミモザ王子が口を開く前にミシェルが即答した。
「モモは紛れもなくシルバー家の人間だ。なにも心配することはないよ」
嘘偽りなく告げて微笑むミシェルを見ながらモモはぶっきらぼうに口を尖らせた。
「戸籍上はな!リリィ・ケリー・シルバーとして振る舞えば貴族どもは納得するだろうさ!」
戸籍上の操作でモモは正真正銘シルバー家の庶子となっている。
モモの本当の素性を知っている者はシルバー家の人間の他にミモザ王子とダイアナ王女……そして国王夫妻くらいなものだ。
ついでに王宮の近衛兵のエロシェンコさん。
シルバー家には嫡出の子供4人の他に庶出の子供が2人いるということになり貴族は誰も疑っていない。
本当の庶子であるリンはすでに嫁にいっていないという認識で罷り通るのだ。
(そうだよ……俺は正真正銘シルバー家のガキだ。自分でそうなることを望んだのに……)
少し前のようにミシェルの愛人として不安定な立場でいたときの方が心は安らかだったとは流石のモモも口には出せなかった。
ミシェルがダイアナ王女のお供として西の離宮から出ていくとミモザ王子は2人が遠ざかったのを確認してモモに言った。
「モモ……お前は生意気な口は絶えないのに肝心なことは言えない。それは少し臆病というものだ」
「……なんのことです?俺、別になにも不満なんてないから」
モモが強がるとミモザ王子は労るような眼差しで静かに告げてきた。
「僕はモモに出会わなければ生涯を離宮で寂しく過ごしただろう」
王家にも貴族たちにも失望しているのになにも行動を起こさないまま不満を抱えた気分で死んでいったとミモザ王子は淡々と語った。
「モモならば理解しているはずだ。ミシェルは戸籍の問題ではなくモモをシルバー家の大切な一員……まぁ、厳密には自分の愛する妻だと伝えたことを」
「……ええ」
「ミシェル・アンリ・シルバーは現当主クロードほどの狡猾さはない。しかし……だからこそ信頼できると僕は思うが?如何に?」
「王子!あんたに言われなくても分かってる!ミシェルは俺を見捨てない。でも!それでミシェルが窮地に立たされたら俺は自分が許せない!」
モモにとっての幸せはミシェルの立場の安泰である。
その過程でいつかモモの存在が邪魔になるときが来ると考えると絶望感にさいなまれるのだ。
そうなったときミシェルの傍から消えるのが1番だとモモは悟っていたがミモザ王子はそんなモモの悲愴感を一蹴してきた。
「くだらぬ。モモ、お前は僕の人生を変えてくれた。褒美に僕がモモの人生を変えてもよい」
「な!なにをするんだよ?俺をどうしようがいいけど!ミシェルにはなにもするな!」
自分なんて差し置いてミシェルだけの身を案じるモモにミモザ王子は少し笑うと厳かな声で言ったのだ。
「モモ……否、リリィ・ケリー・シルバー!お前を側付きから僕の近習とする……。これからも僕のサポートをしておくれ」
近習になるということは将来的にダイアナ王女の婿となる運命のミモザ王子の側近になるという意味だ。
要するにミシェルが将来的にダイアナ王女の側近となるならモモはダイアナ王女の夫となるミモザ王子の側近として仕える。
ミモザ王子がモモを指名した理由は明らかだ。
「これでお前はシルバー家を飛び越えて国王陛下の甥にして養子であるミモザ……僕の側近となる。ミシェルとも対等に渡り合える立場だ。異存はあるまい?」
突然の大出世にモモはポカーンとしたがミモザ王子はクスクス笑うと控えていた従者シルフィに命じた。
「早急、国王陛下とシルバー家当主へ書簡を届けるよう。シルフィ……用意はできているな?」
「はい!万事お言い付け通りに!ミモザ王子!」
シルフィは笑顔でミモザ王子が書き綴った書簡を見せた。
「これでモモはシルバー家の間者でなく正式に僕の近習として召し抱える。陛下もシルバー家のクロードも反対はしない。それでよいな?」
「ミモザ王子!?本気で俺を近習にするのか?孤児でシルバー家の策謀で宮廷に潜入してる紛い物の俺を?」
「愚問だ。そうすると僕は決めたのだ。モモ……お前は信頼できる。これは僕の個人的なワガママだが受け入れておくれ」
気に入った側付きを無理に近習にとりたてた王子さまのワガママだとミモザ王子は笑う。
モモが我慢できず涙をながすと優しく微笑んだミモザ王子がハンカチで顔を拭いてくれた。
「モモ……これからもよろしくたのむ。僕はこの通り気難しく評判も悪い。ダイアナ姉上の婿として恥ずかしくないよう支えてくれ」
返事ができず泣いているモモを見守っていたシルフィが少しからかうように笑った。
「モモは嘘泣きとマジ泣きがすぐに分かる!ミモザ王子に仕える者として改めてよろしくな?」
至急、書簡を届けて参りますとシルフィはお辞儀をしてモモに笑みを向けると去っていった。
シルフィがいなくなるとミモザ王子は泣き止んで落ち着いてきたモモに真顔で問うた
「モモ。近習になることに異存はあるか?」
「いいえ!身にあまる光栄に存じます。ミモザ王子」
姿勢をただして膝まずいたモモに対してミモザは心の底から安堵したような優しい声を出した。
「モモ……僕は不覚にも同い年の友人のようにお前を思っていた。これは僕からの最初で最後の友情の証だ。これからは僕を真の主と思い仕えよ」
「はい!承知しました!ミモザ王子」
こうしてモモはシルバー家の紛い物の庶子という立場を飛び越えて次期女王の夫君の側近という身分に昇格したのだ。
ダイアナ王女はそれを知ると美しい笑顔でミシェルに告げたのである。
「ミモザは無欲な……悲しいくらい自分を殺して誰かを大切にする者を信用するの」
ミモザ自身がそうだからとダイアナ王女は言いかけたが口をつぐんだ。
ミシェルはミモザ王子はモモの才覚を見込んだのはたしかだが、それ以上にモモの不安要素を取り除こうとしてくれたのだと察した。
「私は常にモモに心配をかけてます。情けない限りです」
「ミシェル。それはモモの愛情表現よ。無欲に自分を案じて愛してくれる御方がいるのは情けないことではないわ」
園遊会が楽しみになってきたと微笑むダイアナ王女にミシェルはずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「ダイアナ王女はミモザ王子を愛していないのですか?」
ミシェルの問いにダイアナ王女は表情を変えず笑顔で答えてみせた。
「ミシェル。王家の婚姻に愛情は禁物よ。貴方になら分かるでしょう?」
それが本心か不明だがダイアナ王女は国家の安泰のために結婚をする。
そんなダイアナ王女の陰から支え、どんなときでも女王の夫君としての責務をまっとうできるよう尽くすことがミモザ王子の役割であった。
掟と慣習と試練にがんじがらめにされる王女と王子の婚姻である。
ミシェルはようやくすべてを悟った。
ミモザ王子はそんなバランス感覚が必須で高度な能力が求められる立場を選び、ダイアナ王女もそれをミモザ王子ならばやり遂げると見込んで結婚相手に指名したのだ。
「私の質問は愚問でしたね。忘れてください」
苦笑いするミシェルにダイアナ王女は優雅に頷いていた。
ミシェルとモモの立場は単なる大貴族とそれに拾われた愛人少年ではなくなった。
それが2人の運命にどう作用するかはまだまだ未知数だが、今までひたすらミシェルを支えて叱咤激励するだけだったモモはミモザ王子の近習という確固たる地位を手にいれる。
「まるでダイアナ王女とミモザ王子の関係そのものだ」
ミシェルとモモは宮廷でのお互いの立場はまんま結婚するダイアナ王女とミモザ王子の立場と同じであると自覚したのである。
end
園遊会に参列する貴族は宮廷への出入りを許されている貴族のなかでも選ばれた由緒ある宮廷貴族である。
貴族でもラン・ヤスミカ家のような田舎貴族や弱小貴族などは招待されないのが慣習であった。
つまり、選ばれし王候貴族が集う雅なイベントで、たとえミモザ王子であっても終始無表情でつまらなそうに振る舞うわけにもいかない。
「園遊会でなく貴族どもの動向を観察して分析するイベントだと考えるようにしています」
あれだけ貴族が集結すれば諸外国の貴重な情報を知る機会もあるでしょうからと微笑むミモザ王子にダイアナ王女は笑顔で応じた。
「それがいいわ。わたくしの目的もそれよ。ミモザ。今回の園遊会には海外の大使も出席する。大使なんてスパイと同じよ。うまく他国の内情を引き出しましょう?」
「承知しました。ダイアナ姉上。面白いことになりそうですね」
婚約発表の園遊会を情報収集活動と割りきっているダイアナ王女とミモザ王子を見ながらミシェルはモモに囁いた。
「なんだか仲の良い姉弟が悪戯の作戦を練っているようだね?」
言いえて妙だが、たしかにその通りだとモモは納得した。
モモは不覚にもミシェルを愛してしまい、こうして孤児の身分なのに貴族と偽り宮廷に潜り込んでいる。
ミシェルがゆくゆくはシルバー家の当主となり磐石な地位を築いて、ミシェルに保護されたステフ、マックス、ヒナリザが無事に成長すれば、モモに心残りはなくなる。
勉強友達だったシルバー家の庶子リンは田舎のラン・ヤスミカ家の次男ユーリと幸せに暮らして平穏な日々を送っていた。
(俺はミシェルが家督を継いで当主として自立するまで安心はできない)
この先、不用になるまでシルバー家に利用される人生でも別にかまわない。
本来なら処刑される身だった自分が運良く生き延びたのはミシェルが助けてくれたからだ。
聡明だが下手に感傷的で危なっかしいミシェルがシルバー家当主として君臨してくれたらモモは満足であった。
そんな想いで瞳を伏せていたら目敏くダイアナ王女が声をかけてきた。
「モモ!あなた、今日は珍しく静かなのね?何か心配なことでもあるの?」
視線が自分に集中したのでモモはハッとして笑顔で誤魔化した。
「いえ!園遊会でシルバー家の者ではないと露見しないように用心せねばと思って!」
慌てて言い繕うモモに対してミモザ王子が口を開く前にミシェルが即答した。
「モモは紛れもなくシルバー家の人間だ。なにも心配することはないよ」
嘘偽りなく告げて微笑むミシェルを見ながらモモはぶっきらぼうに口を尖らせた。
「戸籍上はな!リリィ・ケリー・シルバーとして振る舞えば貴族どもは納得するだろうさ!」
戸籍上の操作でモモは正真正銘シルバー家の庶子となっている。
モモの本当の素性を知っている者はシルバー家の人間の他にミモザ王子とダイアナ王女……そして国王夫妻くらいなものだ。
ついでに王宮の近衛兵のエロシェンコさん。
シルバー家には嫡出の子供4人の他に庶出の子供が2人いるということになり貴族は誰も疑っていない。
本当の庶子であるリンはすでに嫁にいっていないという認識で罷り通るのだ。
(そうだよ……俺は正真正銘シルバー家のガキだ。自分でそうなることを望んだのに……)
少し前のようにミシェルの愛人として不安定な立場でいたときの方が心は安らかだったとは流石のモモも口には出せなかった。
ミシェルがダイアナ王女のお供として西の離宮から出ていくとミモザ王子は2人が遠ざかったのを確認してモモに言った。
「モモ……お前は生意気な口は絶えないのに肝心なことは言えない。それは少し臆病というものだ」
「……なんのことです?俺、別になにも不満なんてないから」
モモが強がるとミモザ王子は労るような眼差しで静かに告げてきた。
「僕はモモに出会わなければ生涯を離宮で寂しく過ごしただろう」
王家にも貴族たちにも失望しているのになにも行動を起こさないまま不満を抱えた気分で死んでいったとミモザ王子は淡々と語った。
「モモならば理解しているはずだ。ミシェルは戸籍の問題ではなくモモをシルバー家の大切な一員……まぁ、厳密には自分の愛する妻だと伝えたことを」
「……ええ」
「ミシェル・アンリ・シルバーは現当主クロードほどの狡猾さはない。しかし……だからこそ信頼できると僕は思うが?如何に?」
「王子!あんたに言われなくても分かってる!ミシェルは俺を見捨てない。でも!それでミシェルが窮地に立たされたら俺は自分が許せない!」
モモにとっての幸せはミシェルの立場の安泰である。
その過程でいつかモモの存在が邪魔になるときが来ると考えると絶望感にさいなまれるのだ。
そうなったときミシェルの傍から消えるのが1番だとモモは悟っていたがミモザ王子はそんなモモの悲愴感を一蹴してきた。
「くだらぬ。モモ、お前は僕の人生を変えてくれた。褒美に僕がモモの人生を変えてもよい」
「な!なにをするんだよ?俺をどうしようがいいけど!ミシェルにはなにもするな!」
自分なんて差し置いてミシェルだけの身を案じるモモにミモザ王子は少し笑うと厳かな声で言ったのだ。
「モモ……否、リリィ・ケリー・シルバー!お前を側付きから僕の近習とする……。これからも僕のサポートをしておくれ」
近習になるということは将来的にダイアナ王女の婿となる運命のミモザ王子の側近になるという意味だ。
要するにミシェルが将来的にダイアナ王女の側近となるならモモはダイアナ王女の夫となるミモザ王子の側近として仕える。
ミモザ王子がモモを指名した理由は明らかだ。
「これでお前はシルバー家を飛び越えて国王陛下の甥にして養子であるミモザ……僕の側近となる。ミシェルとも対等に渡り合える立場だ。異存はあるまい?」
突然の大出世にモモはポカーンとしたがミモザ王子はクスクス笑うと控えていた従者シルフィに命じた。
「早急、国王陛下とシルバー家当主へ書簡を届けるよう。シルフィ……用意はできているな?」
「はい!万事お言い付け通りに!ミモザ王子!」
シルフィは笑顔でミモザ王子が書き綴った書簡を見せた。
「これでモモはシルバー家の間者でなく正式に僕の近習として召し抱える。陛下もシルバー家のクロードも反対はしない。それでよいな?」
「ミモザ王子!?本気で俺を近習にするのか?孤児でシルバー家の策謀で宮廷に潜入してる紛い物の俺を?」
「愚問だ。そうすると僕は決めたのだ。モモ……お前は信頼できる。これは僕の個人的なワガママだが受け入れておくれ」
気に入った側付きを無理に近習にとりたてた王子さまのワガママだとミモザ王子は笑う。
モモが我慢できず涙をながすと優しく微笑んだミモザ王子がハンカチで顔を拭いてくれた。
「モモ……これからもよろしくたのむ。僕はこの通り気難しく評判も悪い。ダイアナ姉上の婿として恥ずかしくないよう支えてくれ」
返事ができず泣いているモモを見守っていたシルフィが少しからかうように笑った。
「モモは嘘泣きとマジ泣きがすぐに分かる!ミモザ王子に仕える者として改めてよろしくな?」
至急、書簡を届けて参りますとシルフィはお辞儀をしてモモに笑みを向けると去っていった。
シルフィがいなくなるとミモザ王子は泣き止んで落ち着いてきたモモに真顔で問うた
「モモ。近習になることに異存はあるか?」
「いいえ!身にあまる光栄に存じます。ミモザ王子」
姿勢をただして膝まずいたモモに対してミモザは心の底から安堵したような優しい声を出した。
「モモ……僕は不覚にも同い年の友人のようにお前を思っていた。これは僕からの最初で最後の友情の証だ。これからは僕を真の主と思い仕えよ」
「はい!承知しました!ミモザ王子」
こうしてモモはシルバー家の紛い物の庶子という立場を飛び越えて次期女王の夫君の側近という身分に昇格したのだ。
ダイアナ王女はそれを知ると美しい笑顔でミシェルに告げたのである。
「ミモザは無欲な……悲しいくらい自分を殺して誰かを大切にする者を信用するの」
ミモザ自身がそうだからとダイアナ王女は言いかけたが口をつぐんだ。
ミシェルはミモザ王子はモモの才覚を見込んだのはたしかだが、それ以上にモモの不安要素を取り除こうとしてくれたのだと察した。
「私は常にモモに心配をかけてます。情けない限りです」
「ミシェル。それはモモの愛情表現よ。無欲に自分を案じて愛してくれる御方がいるのは情けないことではないわ」
園遊会が楽しみになってきたと微笑むダイアナ王女にミシェルはずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「ダイアナ王女はミモザ王子を愛していないのですか?」
ミシェルの問いにダイアナ王女は表情を変えず笑顔で答えてみせた。
「ミシェル。王家の婚姻に愛情は禁物よ。貴方になら分かるでしょう?」
それが本心か不明だがダイアナ王女は国家の安泰のために結婚をする。
そんなダイアナ王女の陰から支え、どんなときでも女王の夫君としての責務をまっとうできるよう尽くすことがミモザ王子の役割であった。
掟と慣習と試練にがんじがらめにされる王女と王子の婚姻である。
ミシェルはようやくすべてを悟った。
ミモザ王子はそんなバランス感覚が必須で高度な能力が求められる立場を選び、ダイアナ王女もそれをミモザ王子ならばやり遂げると見込んで結婚相手に指名したのだ。
「私の質問は愚問でしたね。忘れてください」
苦笑いするミシェルにダイアナ王女は優雅に頷いていた。
ミシェルとモモの立場は単なる大貴族とそれに拾われた愛人少年ではなくなった。
それが2人の運命にどう作用するかはまだまだ未知数だが、今までひたすらミシェルを支えて叱咤激励するだけだったモモはミモザ王子の近習という確固たる地位を手にいれる。
「まるでダイアナ王女とミモザ王子の関係そのものだ」
ミシェルとモモは宮廷でのお互いの立場はまんま結婚するダイアナ王女とミモザ王子の立場と同じであると自覚したのである。
end
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