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不吉な王子と体験学習
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「学校に通ってみたいものだ」
ミモザ王子の何気ないひと言にモモは仰天した。
「え!王家1番の引きこもりと謳われるミモザ王子が!?離宮に引きこもった後に雇った家庭教師を3日で解雇して従者のシルフィを悩ませたミモザ王子が!?実質上10歳から不登校しているミモザ王子がですか!?」
「モモ。たしかに10歳から離宮に引きこもったが王家の子供はそもそも学校には行かぬ。あと、家庭教師をクビにしたのはその者が僕を王位に担ぎ上げようと企んだからだ」
玉座なんて関心がなく王宮での暮らしにうんざりしていたミモザ王子は家庭教師を解雇したあとは伯父である国王陛下に大量の書物を頼み自主学習をしていた。
要するに通信教育をずっとしていたということになる。
このミモザ王子の徹底的な引きこもりっぷりを国王夫妻とダイアナ王女が心配したのはいうまでもない。
可愛い甥っ子に避けられていると嘆く国王夫妻をみかねたダイアナ王女(当時12歳)はこう提案をした。
「ミモザがきちんとお勉強をしているか定期的にテストすればよろしいわ!抜き打ちでわたくしが離宮に様子を見に行きます!」
その案に国王夫妻は大賛成してミモザ王子は離宮引きこもり後は王妃とダイアナ王女の抜き打ちテストを受けていた。
王妃はミモザ王子には伯母にあたるが母親代わりでもあり、なにかと気難しいミモザ王子を寛大に見守っている。
「そういう経緯で予告なしで王妃様とダイアナ姉上が離宮に来ていたのだ。僕が王家に恥じないだけの教養と礼儀作法を身につけているか確認する口実で」
家庭教師や傅育係がいなくてもミモザ王子は王家に必要とされる教養などを問題なく習得して、試験を添削した学者も感動するレベルの優秀さを発揮したのだ。
王妃はミモザ王子の頭脳明晰さを純粋に絶賛して国王陛下に伝えていた。
だが、その話が他の貴族の耳に入りダイアナ王女の即位を妨害する存在だとミモザ王子をさらに疎む者が現れ、逆にミモザ王子を次期国王にして利用しようと考える輩も出てきて面倒な問題になっていたのだ。
ダイアナ王女は賢明にもミモザ王子に対して変わらず従弟であり弟のような存在として普通に接していた。
国王も王妃もダイアナ王女とミモザ王子をわけへだてなく育てていたので、実の娘も甥っ子も揃って優秀なのは喜ばしいことだと穏やかであったが自分達の権力拡大を狙う貴族連中は密かにダイアナ王女派とミモザ王子派に別れて争おうとしていたのだ。
「試験は手抜きしていたのに学者どもが誉めそやした。だから、モモが現れる前は王妃様やダイアナ姉上と会うのも拒絶していた」
婚約によって派閥争いは消えたが、モモと出逢ったばかりの頃のミモザ王子は後継者問題に巻き込まれて心底うんざりしていたらしい。
「僕が会いたくないと拒んだせいで王妃様は甥っ子が今度は反抗期になったとお泣きになり、国王陛下に内緒でエクソシストを雇おうとしていたとダイアナ姉上が教えてくれた」
「反抗期ってエクソシストで治りますっけ?」
ダイアナ王女が反対してエクソシスト雇用は白紙となったが気難しい甥っ子がさらに反抗期になったことに心を痛めてエクソシストを雇う王妃もなにかがずれている。
国王陛下の愛妻にしてダイアナ王女の母君である王妃は普段は明るいが、悩むと斜め上な行動に出るとモモはミシェルから教わっている。
「でも!ミモザ王子のお立場であっても国王陛下に王妃様!そしてダイアナ王女の来訪を拒むことは不可能です!下手に拒絶すれば国王にそむいていると不興を買いますよ?」
現に離宮に引きこもっていたミモザ王子の評判は宮廷では最悪だったのだ。
気難しくて高慢で病弱な王家のお荷物とあからさまに悪口を言っていた貴族もいたほどに。
これは大きな誤解なのだが、国王夫妻や王女の優しさを無下にしている薄情な王子だと周りの貴族の反感を買ったのはミモザ王子の自業自得ともとれる。
「評判が最悪すぎるとそれはそれで暗殺対象になります。ミモザ王子ならそれくらい予想できたのでは?」
モモが理解しかねて尋ねるとミモザ王子は少し口角をあげると言ったのだ。
「別に殺されてもよいと思っていた。そうなればダイアナ姉上が文句無しの王位継承者となれる。国王陛下や王妃様も邪魔な甥っ子など消えても困るまい」
「それ、本気で言ってます?ミモザ王子って少しリン様に考え方が似ています。愛情を注いでくれる家族に対して素直に甘えない」
「モモにそれを言われるとはな。リンにはユーリ殿という存在ができた。ラン・ヤスミカ家という新しい家族。僕には無縁な幸せだ」
「あの~?ミモザ王子?もしかして婚礼を前に憂鬱になっていません?マリッジブルーですよ?」
王宮を離れて気が抜けたのか、ミモザ王子の言葉はどこか弱々しい。
王家として輝かしい将来が待っているのに幸せを感じることもなく重責をなんとか全うしようと自分に言い聞かせているような声音だ。
考えてみればミモザ王子はまだ14歳で実の両親を早くに亡くした孤児という身分でもある。
本来ならば王弟の息子として爵位をもらい別の未来が約束されていたのだと考えるとミモザ王子の運命もなかなか数奇である。
しかし、もしそういう未来が叶っていたらミモザ王子はダイアナ王女と結婚は不可能であった。
両親が相次いで他界したのでミモザ王子は国王夫妻の養子として王家で育てられたのである。
そして、王家の権力を分散させないため、絆を強固にするため、諸外国の介入を避けるという様々な思惑が一致して従姉であるダイアナ王女の婿に選ばれた。
今は貴族たちは祝福ムードで国民も王家の婚礼を待ちわびている。
全てがよい方向に転がっているのにミモザ王子はどこか物憂げであった。
「何がそんなに王子を憂鬱にさせているのですか?俺でよければ話してください」
徐々に心配になってきたモモが努めて静かに促すとミモザ王子は少し息を吐いて告げた。
「離宮で解雇した家庭教師が喋ったのだ。父上……王弟は男児である僕を王位にと望んだ。母上もそれに賛成した。そして死んだ。あれは国王派の暗殺だと。シルバー家が秘密裏に命じたのだと……バカらしい話だ」
「ああ!それはシルバー家は一切関与してないですよ!その家庭教師の言ったことが真実でミモザ王子の亡き御両親が変な野心を抱いたとしてもシルバー家は無関係です。ミモザ王子だって承知しているでしょう?」
「わかっておる。しかし……結果的に僕が産まれたせいで父上と母上は亡くなった。そう考えると僕は不吉だ。ダイアナ姉上はこんな僕と結婚したら不幸になるのではないかという不安が消えぬ」
隣の領地の雇われエクソシストに30歳前に死ぬと予言されても動じなかったミモザ王子なのにダイアナ王女のことは過剰なほど気にかける。
モモには、そんなミモザ王子の過度な考えすぎの正体がわかっていた。
「王子……。あれこれ理屈を並べないでハッキリ仰ってください!ダイアナ王女を愛しているから心配になる。それは立派な恋愛感情ですから!」
人は自分より愛しい存在ができると強くもなるし失いたくないという本能で弱くもなる。
ずば抜けて賢く、どんな事態でもけして動じないように見えるミモザ王子だって恋愛感情を自覚すれば鋭い思考力が鈍るのだろうか。
モモはそんなことを思いながら、今までのミモザ王子の言葉に保身が全く無かったと気がついた。
自分の立場や命よりミモザ王子が心配しているのはダイアナ王女であり、養父母である国王夫妻だ。
ここまで自分を度外視して大切な存在を気にかけるミモザ王子は健気を通り越して少し病的でもある。
「ミモザ王子!あまり悩むとお心に悪いので明日はユーリ殿とリン様にお願いして領立学校に見学に行きましょう?気晴らしに!」
「そうだな。すまない……モモ。弱音をもらしてしまった」
「別に構いませんよ!俺は王子の近習です。あなた様の面倒くささはわかるので!」
そうモモが悪戯っぽく笑うとミモザ王子はようやく安心したような笑みを浮かべた。
ユーリとリンは快くミモザ王子とモモの領立学校体験を許したが予想外のことが起こった。
14歳のミモザ王子とモモは上級生のクラスなのだが、体験学習なのにその日は先生による抜き打ちテストが決行された。
「はーい!お前ら今日は体験学習の子がいるけど容赦なくテストだ!教えていない範囲も出題したから覚悟しとけよ!」
クラス内はブーイングの嵐だが、先生は無視してテスト用紙を配りはじめる。
「なかなか厳格な指導方針だ」
ミモザ王子がテスト用紙を手に感心していると先生は楽しそうに告げたのだ。
「こういう予期せぬ理不尽がラン・ヤスミカ領の子供を立派な大人にするんだ。テスト結果は貼り出すからな~?」
「先生!!ひどい!理不尽を越えてクズ!」
生徒たちのブーイングが再びあがったが、先生は無視して酒瓶を取り出して飲み始めた。
「いいか~?先生がこの酒瓶を飲み終わったらテスト終了!わかったら早く問題を解け~!」
そう先生が合図すると同時にミモザ王子とモモが席を立ってテスト用紙を提出した。
「全問解き終わった。採点をたのむ」
「俺も解答用紙は埋めた。簡単だった」
開始と同時に全問終わっている2人にクラスの生徒や先生はビックリしたが、採点すると当然ながらミモザ王子とモモは全問正解である。
「おお!すごいな~!?この最後の幾何の問題なんて先生でも解けなかったのに!」
先生が2人の解答に驚愕しているとミモザ王子はニヤリとしながらささやいた。
「幾何ならばこの問題を追加すればより難易度があがるだろう」
「おう!こりゃ難問だな~!んじゃ、これも追加で!お前ら2人は下校してイイゾ~」
こうしてミモザ王子の学校体験は秒で幕を閉じた。
まずまず楽しかったと語るミモザ王子だったが、抜き打ちテストに苦しむ生徒に対してさらに幾何の難題をぶつけて追い討ちをかけている。
(ダイアナ王女を不幸にする以前にミモザ王子のせいで抜き打ちテストを受けた生徒が全員不幸になったな!)
そんなことをモモは思っていたが、ミモザ王子は自分が抜き打ちテストクラッシャーになったなどという自覚は皆無であった。
先生はテストに苦しむ生徒を肴に酒をのみ、見守っていたが、生徒たちは心で「あのオレンジ髪の男の子は不吉!爽やかに幾何の災いまきやがった!」と幾何の難問に苦労しつつ全員がミモザ王子は不吉だと認定していた。
end
ミモザ王子の何気ないひと言にモモは仰天した。
「え!王家1番の引きこもりと謳われるミモザ王子が!?離宮に引きこもった後に雇った家庭教師を3日で解雇して従者のシルフィを悩ませたミモザ王子が!?実質上10歳から不登校しているミモザ王子がですか!?」
「モモ。たしかに10歳から離宮に引きこもったが王家の子供はそもそも学校には行かぬ。あと、家庭教師をクビにしたのはその者が僕を王位に担ぎ上げようと企んだからだ」
玉座なんて関心がなく王宮での暮らしにうんざりしていたミモザ王子は家庭教師を解雇したあとは伯父である国王陛下に大量の書物を頼み自主学習をしていた。
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このミモザ王子の徹底的な引きこもりっぷりを国王夫妻とダイアナ王女が心配したのはいうまでもない。
可愛い甥っ子に避けられていると嘆く国王夫妻をみかねたダイアナ王女(当時12歳)はこう提案をした。
「ミモザがきちんとお勉強をしているか定期的にテストすればよろしいわ!抜き打ちでわたくしが離宮に様子を見に行きます!」
その案に国王夫妻は大賛成してミモザ王子は離宮引きこもり後は王妃とダイアナ王女の抜き打ちテストを受けていた。
王妃はミモザ王子には伯母にあたるが母親代わりでもあり、なにかと気難しいミモザ王子を寛大に見守っている。
「そういう経緯で予告なしで王妃様とダイアナ姉上が離宮に来ていたのだ。僕が王家に恥じないだけの教養と礼儀作法を身につけているか確認する口実で」
家庭教師や傅育係がいなくてもミモザ王子は王家に必要とされる教養などを問題なく習得して、試験を添削した学者も感動するレベルの優秀さを発揮したのだ。
王妃はミモザ王子の頭脳明晰さを純粋に絶賛して国王陛下に伝えていた。
だが、その話が他の貴族の耳に入りダイアナ王女の即位を妨害する存在だとミモザ王子をさらに疎む者が現れ、逆にミモザ王子を次期国王にして利用しようと考える輩も出てきて面倒な問題になっていたのだ。
ダイアナ王女は賢明にもミモザ王子に対して変わらず従弟であり弟のような存在として普通に接していた。
国王も王妃もダイアナ王女とミモザ王子をわけへだてなく育てていたので、実の娘も甥っ子も揃って優秀なのは喜ばしいことだと穏やかであったが自分達の権力拡大を狙う貴族連中は密かにダイアナ王女派とミモザ王子派に別れて争おうとしていたのだ。
「試験は手抜きしていたのに学者どもが誉めそやした。だから、モモが現れる前は王妃様やダイアナ姉上と会うのも拒絶していた」
婚約によって派閥争いは消えたが、モモと出逢ったばかりの頃のミモザ王子は後継者問題に巻き込まれて心底うんざりしていたらしい。
「僕が会いたくないと拒んだせいで王妃様は甥っ子が今度は反抗期になったとお泣きになり、国王陛下に内緒でエクソシストを雇おうとしていたとダイアナ姉上が教えてくれた」
「反抗期ってエクソシストで治りますっけ?」
ダイアナ王女が反対してエクソシスト雇用は白紙となったが気難しい甥っ子がさらに反抗期になったことに心を痛めてエクソシストを雇う王妃もなにかがずれている。
国王陛下の愛妻にしてダイアナ王女の母君である王妃は普段は明るいが、悩むと斜め上な行動に出るとモモはミシェルから教わっている。
「でも!ミモザ王子のお立場であっても国王陛下に王妃様!そしてダイアナ王女の来訪を拒むことは不可能です!下手に拒絶すれば国王にそむいていると不興を買いますよ?」
現に離宮に引きこもっていたミモザ王子の評判は宮廷では最悪だったのだ。
気難しくて高慢で病弱な王家のお荷物とあからさまに悪口を言っていた貴族もいたほどに。
これは大きな誤解なのだが、国王夫妻や王女の優しさを無下にしている薄情な王子だと周りの貴族の反感を買ったのはミモザ王子の自業自得ともとれる。
「評判が最悪すぎるとそれはそれで暗殺対象になります。ミモザ王子ならそれくらい予想できたのでは?」
モモが理解しかねて尋ねるとミモザ王子は少し口角をあげると言ったのだ。
「別に殺されてもよいと思っていた。そうなればダイアナ姉上が文句無しの王位継承者となれる。国王陛下や王妃様も邪魔な甥っ子など消えても困るまい」
「それ、本気で言ってます?ミモザ王子って少しリン様に考え方が似ています。愛情を注いでくれる家族に対して素直に甘えない」
「モモにそれを言われるとはな。リンにはユーリ殿という存在ができた。ラン・ヤスミカ家という新しい家族。僕には無縁な幸せだ」
「あの~?ミモザ王子?もしかして婚礼を前に憂鬱になっていません?マリッジブルーですよ?」
王宮を離れて気が抜けたのか、ミモザ王子の言葉はどこか弱々しい。
王家として輝かしい将来が待っているのに幸せを感じることもなく重責をなんとか全うしようと自分に言い聞かせているような声音だ。
考えてみればミモザ王子はまだ14歳で実の両親を早くに亡くした孤児という身分でもある。
本来ならば王弟の息子として爵位をもらい別の未来が約束されていたのだと考えるとミモザ王子の運命もなかなか数奇である。
しかし、もしそういう未来が叶っていたらミモザ王子はダイアナ王女と結婚は不可能であった。
両親が相次いで他界したのでミモザ王子は国王夫妻の養子として王家で育てられたのである。
そして、王家の権力を分散させないため、絆を強固にするため、諸外国の介入を避けるという様々な思惑が一致して従姉であるダイアナ王女の婿に選ばれた。
今は貴族たちは祝福ムードで国民も王家の婚礼を待ちわびている。
全てがよい方向に転がっているのにミモザ王子はどこか物憂げであった。
「何がそんなに王子を憂鬱にさせているのですか?俺でよければ話してください」
徐々に心配になってきたモモが努めて静かに促すとミモザ王子は少し息を吐いて告げた。
「離宮で解雇した家庭教師が喋ったのだ。父上……王弟は男児である僕を王位にと望んだ。母上もそれに賛成した。そして死んだ。あれは国王派の暗殺だと。シルバー家が秘密裏に命じたのだと……バカらしい話だ」
「ああ!それはシルバー家は一切関与してないですよ!その家庭教師の言ったことが真実でミモザ王子の亡き御両親が変な野心を抱いたとしてもシルバー家は無関係です。ミモザ王子だって承知しているでしょう?」
「わかっておる。しかし……結果的に僕が産まれたせいで父上と母上は亡くなった。そう考えると僕は不吉だ。ダイアナ姉上はこんな僕と結婚したら不幸になるのではないかという不安が消えぬ」
隣の領地の雇われエクソシストに30歳前に死ぬと予言されても動じなかったミモザ王子なのにダイアナ王女のことは過剰なほど気にかける。
モモには、そんなミモザ王子の過度な考えすぎの正体がわかっていた。
「王子……。あれこれ理屈を並べないでハッキリ仰ってください!ダイアナ王女を愛しているから心配になる。それは立派な恋愛感情ですから!」
人は自分より愛しい存在ができると強くもなるし失いたくないという本能で弱くもなる。
ずば抜けて賢く、どんな事態でもけして動じないように見えるミモザ王子だって恋愛感情を自覚すれば鋭い思考力が鈍るのだろうか。
モモはそんなことを思いながら、今までのミモザ王子の言葉に保身が全く無かったと気がついた。
自分の立場や命よりミモザ王子が心配しているのはダイアナ王女であり、養父母である国王夫妻だ。
ここまで自分を度外視して大切な存在を気にかけるミモザ王子は健気を通り越して少し病的でもある。
「ミモザ王子!あまり悩むとお心に悪いので明日はユーリ殿とリン様にお願いして領立学校に見学に行きましょう?気晴らしに!」
「そうだな。すまない……モモ。弱音をもらしてしまった」
「別に構いませんよ!俺は王子の近習です。あなた様の面倒くささはわかるので!」
そうモモが悪戯っぽく笑うとミモザ王子はようやく安心したような笑みを浮かべた。
ユーリとリンは快くミモザ王子とモモの領立学校体験を許したが予想外のことが起こった。
14歳のミモザ王子とモモは上級生のクラスなのだが、体験学習なのにその日は先生による抜き打ちテストが決行された。
「はーい!お前ら今日は体験学習の子がいるけど容赦なくテストだ!教えていない範囲も出題したから覚悟しとけよ!」
クラス内はブーイングの嵐だが、先生は無視してテスト用紙を配りはじめる。
「なかなか厳格な指導方針だ」
ミモザ王子がテスト用紙を手に感心していると先生は楽しそうに告げたのだ。
「こういう予期せぬ理不尽がラン・ヤスミカ領の子供を立派な大人にするんだ。テスト結果は貼り出すからな~?」
「先生!!ひどい!理不尽を越えてクズ!」
生徒たちのブーイングが再びあがったが、先生は無視して酒瓶を取り出して飲み始めた。
「いいか~?先生がこの酒瓶を飲み終わったらテスト終了!わかったら早く問題を解け~!」
そう先生が合図すると同時にミモザ王子とモモが席を立ってテスト用紙を提出した。
「全問解き終わった。採点をたのむ」
「俺も解答用紙は埋めた。簡単だった」
開始と同時に全問終わっている2人にクラスの生徒や先生はビックリしたが、採点すると当然ながらミモザ王子とモモは全問正解である。
「おお!すごいな~!?この最後の幾何の問題なんて先生でも解けなかったのに!」
先生が2人の解答に驚愕しているとミモザ王子はニヤリとしながらささやいた。
「幾何ならばこの問題を追加すればより難易度があがるだろう」
「おう!こりゃ難問だな~!んじゃ、これも追加で!お前ら2人は下校してイイゾ~」
こうしてミモザ王子の学校体験は秒で幕を閉じた。
まずまず楽しかったと語るミモザ王子だったが、抜き打ちテストに苦しむ生徒に対してさらに幾何の難題をぶつけて追い討ちをかけている。
(ダイアナ王女を不幸にする以前にミモザ王子のせいで抜き打ちテストを受けた生徒が全員不幸になったな!)
そんなことをモモは思っていたが、ミモザ王子は自分が抜き打ちテストクラッシャーになったなどという自覚は皆無であった。
先生はテストに苦しむ生徒を肴に酒をのみ、見守っていたが、生徒たちは心で「あのオレンジ髪の男の子は不吉!爽やかに幾何の災いまきやがった!」と幾何の難問に苦労しつつ全員がミモザ王子は不吉だと認定していた。
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