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花婿と名門大貴族
ユーリ・ラン・ヤスミカの容姿は18歳の貴族の子弟としては悪くなくむしろ優れていた。
少し淡い茶色の髪に涼やかなグリーンの瞳の持ち主で快活な笑顔が領民に親しまれる好青年。
貴族としての身分は高くはないが領主の次男として毎日せっせと働いている姿はラン・ヤスミカ領周辺の人々に愛されている。
そんなユーリにある日、突拍子もない大きな縁談が舞い込んだ。
遥か遠くにある都の名門大貴族シルバー家の姫リン・ケリー・シルバー(15歳)を嫁に迎える縁談話である。
この縁談が浮上した際のユーリはまだリンが男子とは知らず、シルバー家の庶子のお姫様だと思い込んでいた。
「俺なんかに大事な姫君を嫁がせるなんて……。シルバー家は何を考えてるんだ?」
庶子であってもラン・ヤスミカ領の次男よりよほどマシな嫁ぎ先があるだろうにとユーリは珍しく悶々としていた。
歴史を遡ればかってはユーリが産まれたラン・ヤスミカ家とシルバー家は縁戚関係であったがそれは数百年も昔の話である。
ラン・ヤスミカ家が没落してからはシルバー家との関わりは途切れている。
縁談は相手が王家ともゆかりある名門貴族ということもあり断る選択肢がなかった。
両親や兄夫婦はユーリと同じく絶対に貧乏くじを引かされたと察しているがユーリを気遣ってわざと明るく振る舞っている。
特に兄のエセルは弟ユーリの縁談を内心は誰よりも心配していた。
エセルと妻のフィンナは幼い頃から共に育ち、ある意味では恋愛結婚であったがユーリはそうではない。
お互いの顔も性格も未知なままトントン拍子に話が進んでいくのは不安だろうとユーリを気にかけていた。
リンが嫁いでくる前の1ヶ月ほど、ユーリはいつになく元気がなかったのである。
「花嫁を愛せなかったらどうしよう……。きっと花嫁は田舎での生活なんて嫌がる」
嫌気がさしてさっさと離縁になってくれないかな……。
ユーリは姫君があっさり都に帰ってくれないかとさえ願っていた。
そこまで思い詰めるレベルにシルバー家との婚姻はユーリには重荷だったのである。
「でも、花嫁を怒らせたらラン・ヤスミカ領がどんな目にあうかわからない!俺はたとえどんな最悪な姫でも受け入れないと!」
覚悟を決めているユーリに対してエセルは穏やかな口調で慰め諭した。
「ユーリ。不安なのはわかるよ。だけど、シルバー家のお姫様だって遠くのラン・ヤスミカ領まで輿入れをするんだ。不安は同じさ」
「そうですが……。花嫁は俺を見てきっとガッカリします!両手は畑仕事でボロボロで容貌も冴えない。都の貴族のような教養もない!」
美しく凛々しい貴公子を見慣れているはずのシルバー家の姫君が自分を見たらあからさまに落胆するとユーリは本気で考えていた。
兄のエセルは同じ貧乏没落貴族として育っても穏やかな性格が外見に表れたような高貴な面立ちをしている。
エセルの高貴な顔立ちは父親似でユーリは元気溌剌な母親に似ている。
母のリーサはラン・ヤスミカ領と友好的な小領主の娘で父ラクロワが一目惚れして結婚した。
両親も兄夫婦も恋愛結婚なのに次男の自分は高貴だが顔も知らない娘と結婚するという事実もユーリをより憂鬱にさせていたのだ。
エセルは顔色が冴えないユーリを無理に叱咤激励はせずに悩みを聴くだけで優しく見守っていたが、内心は穏やかではない。
「シルバー家の姫様でもユーリを不幸にするなら兄として離縁させます」
エセルは父ラクロワに対してひそかにそう宣告していた。
普段はふんわりした雰囲気のエセルだが歳の離れた弟ユーリを大切に思っているし、不幸せな結婚など絶対にして欲しくない。
花嫁の態度や言動によっては容赦なく都に送り返すとエセルが告げると父ラクロワがニコニコしながら言ったのだ。
「エセル。ユーリに嫁いでくるご令嬢は母君が平民で屋敷の女中だったときく。シルバー家はリン嬢のほかは全員が嫡出の子供だ。それを頭にいれてくれよ」
大貴族の娘でも果たしてリン・ケリー・シルバーが親の愛情に満たされ、幸せに成長したかは危ういからと父ラクロワはエセルに釘をさした。
「エセルが案ずるのもわかるがユーリは優しい子だ。容姿もリーサによく似たイケメンだからリン・ケリー姫も気に入るだろう!」
周囲があれこれ心配するのは逆効果だと父に言われたのでエセルも黙って婚礼を待つしかなかった。
こんな形でリンの輿入れは意外とラン・ヤスミカ家の人々の心を騒がせていたのである。
ユーリは家族の緊張した様子を敏感に察して、自分が動揺していたらダメだと腹をくくった。
「どんな花嫁であっても誠意を持って接します!愛することができなくとも大切にすることはできる!」
リンが来る直前、婚礼装束をまとったユーリはそんな悲壮な決意をしていた。
するとそれを聴いていた姪っ子のクレールが口を開いたのだ。
「ユーリ叔父様!どのようなお嫁さんか分からないのにお逢いしないうちに愛せないなんて言ったら可哀想よ!私は叔父様の花嫁さんだったら仲良くするわ。でしょ?ジャン?」
クレールが促すと双子の兄ジャンは朗らかな笑みで頷いた。
「ユーリ叔父様は眉目秀麗で、お優しいから花嫁さんも絶対に好きになります!」
「ありがとう。ジャンとクレール。少し気分が軽くなってきた!」
こうして婚礼の支度は整い、後は花嫁リン・ケリー・シルバー姫の到着を待つだけとなったが、いくら待っても花嫁となる姫は姿を見せなかった。
代わりに白い馬から降り立ったのは美しい白装束を身につけた黒髪の可憐な美少年である。
姫の従者かと思った華奢で可愛らしい美少年がリン・ケリー・シルバーその人であり、ユーリ・ラン・ヤスミカの花嫁となったのである。
「……そんなわけでリンが嫁ぐ前から全力で嫌がっていてごめんな」
ベッドのなかでユーリに詫びられてリンはついつい笑ってしまった。
「エセル義兄上に追い出されなくてよかったです!」
「いや!兄上は不安そうだった俺を心配しただけで!俺がもっとしっかりしていればよかったんだ!」
「私はシルバー家の父上を殺したいほど憎んで現在進行形で殺害を狙っていますが、ユーリのもとに嫁がせてくれたことには感謝しています。だから、なるべく苦しまない毒薬で殺すつもりです!」
あくまでもクロード親父を殺す決意は揺らがないリンであった。
リンのつくる毒薬はクロードにはまったく効果がなく、逆に健康増進になっているとユーリは知っているが黙っていた。
リンは可憐で礼儀正しく、乗馬が得意で何より聡明な花嫁でユーリは姫ではないことは抜きにして大好きになった。
18歳と15歳なのでお互いに男子だが夫婦としての関係もある。
最初は年端もゆかぬ少年であり嫁として扱えなんて無理だとユーリは思ったが、意外とすぐにリンを嫁と思うことに抵抗をなくした。
「リンはこんな遠くの領地に行けって言われて抵抗はなかったのか?」
ユーリに抱き締められながら問われるとリンは両腕を絡めながら頷いた。
「ずっとシルバー家本邸から出たことがなかったので知らない土地に行けるとワクワクしました!」
ユーリがどんな人物かは知らなかったので不安はあったが出逢った瞬間に雷にうたれたようにリンの全身は震えた。
(優しい土色の髪に綺麗なグリーンの瞳!明るい笑顔!なんて魅力的な殿方だろう!)
これがリンのユーリへの第一印象である。
ユーリのリンへの第一印象は(か!可愛い!この子が花嫁だったら!)なので初対面で一目惚れであった。
リンはユーリの従者になるつもりでラン・ヤスミカ家に来てしまい、ユーリはリンをシルバー家の姫の従者と勘違いしていたので初対面では混乱したが無事に結婚できた。
「ユーリ。今度2人だけで遠乗りに行きませんか?」
「そうだな。新しくできた見張り塔を視察ついでに」
「ついででなくてデートするんです!!」
リンにそう強く押されてキスをされたのでユーリは謝ると再度抱き締めた。
王宮のある都から嫁いできた名門大貴族シルバー家の花嫁さん。
リン・ケリー・シルバーは今はリン・ケリー・ラン・ヤスミカとして愛しいユーリと仲良くベッドにいる。
end
少し淡い茶色の髪に涼やかなグリーンの瞳の持ち主で快活な笑顔が領民に親しまれる好青年。
貴族としての身分は高くはないが領主の次男として毎日せっせと働いている姿はラン・ヤスミカ領周辺の人々に愛されている。
そんなユーリにある日、突拍子もない大きな縁談が舞い込んだ。
遥か遠くにある都の名門大貴族シルバー家の姫リン・ケリー・シルバー(15歳)を嫁に迎える縁談話である。
この縁談が浮上した際のユーリはまだリンが男子とは知らず、シルバー家の庶子のお姫様だと思い込んでいた。
「俺なんかに大事な姫君を嫁がせるなんて……。シルバー家は何を考えてるんだ?」
庶子であってもラン・ヤスミカ領の次男よりよほどマシな嫁ぎ先があるだろうにとユーリは珍しく悶々としていた。
歴史を遡ればかってはユーリが産まれたラン・ヤスミカ家とシルバー家は縁戚関係であったがそれは数百年も昔の話である。
ラン・ヤスミカ家が没落してからはシルバー家との関わりは途切れている。
縁談は相手が王家ともゆかりある名門貴族ということもあり断る選択肢がなかった。
両親や兄夫婦はユーリと同じく絶対に貧乏くじを引かされたと察しているがユーリを気遣ってわざと明るく振る舞っている。
特に兄のエセルは弟ユーリの縁談を内心は誰よりも心配していた。
エセルと妻のフィンナは幼い頃から共に育ち、ある意味では恋愛結婚であったがユーリはそうではない。
お互いの顔も性格も未知なままトントン拍子に話が進んでいくのは不安だろうとユーリを気にかけていた。
リンが嫁いでくる前の1ヶ月ほど、ユーリはいつになく元気がなかったのである。
「花嫁を愛せなかったらどうしよう……。きっと花嫁は田舎での生活なんて嫌がる」
嫌気がさしてさっさと離縁になってくれないかな……。
ユーリは姫君があっさり都に帰ってくれないかとさえ願っていた。
そこまで思い詰めるレベルにシルバー家との婚姻はユーリには重荷だったのである。
「でも、花嫁を怒らせたらラン・ヤスミカ領がどんな目にあうかわからない!俺はたとえどんな最悪な姫でも受け入れないと!」
覚悟を決めているユーリに対してエセルは穏やかな口調で慰め諭した。
「ユーリ。不安なのはわかるよ。だけど、シルバー家のお姫様だって遠くのラン・ヤスミカ領まで輿入れをするんだ。不安は同じさ」
「そうですが……。花嫁は俺を見てきっとガッカリします!両手は畑仕事でボロボロで容貌も冴えない。都の貴族のような教養もない!」
美しく凛々しい貴公子を見慣れているはずのシルバー家の姫君が自分を見たらあからさまに落胆するとユーリは本気で考えていた。
兄のエセルは同じ貧乏没落貴族として育っても穏やかな性格が外見に表れたような高貴な面立ちをしている。
エセルの高貴な顔立ちは父親似でユーリは元気溌剌な母親に似ている。
母のリーサはラン・ヤスミカ領と友好的な小領主の娘で父ラクロワが一目惚れして結婚した。
両親も兄夫婦も恋愛結婚なのに次男の自分は高貴だが顔も知らない娘と結婚するという事実もユーリをより憂鬱にさせていたのだ。
エセルは顔色が冴えないユーリを無理に叱咤激励はせずに悩みを聴くだけで優しく見守っていたが、内心は穏やかではない。
「シルバー家の姫様でもユーリを不幸にするなら兄として離縁させます」
エセルは父ラクロワに対してひそかにそう宣告していた。
普段はふんわりした雰囲気のエセルだが歳の離れた弟ユーリを大切に思っているし、不幸せな結婚など絶対にして欲しくない。
花嫁の態度や言動によっては容赦なく都に送り返すとエセルが告げると父ラクロワがニコニコしながら言ったのだ。
「エセル。ユーリに嫁いでくるご令嬢は母君が平民で屋敷の女中だったときく。シルバー家はリン嬢のほかは全員が嫡出の子供だ。それを頭にいれてくれよ」
大貴族の娘でも果たしてリン・ケリー・シルバーが親の愛情に満たされ、幸せに成長したかは危ういからと父ラクロワはエセルに釘をさした。
「エセルが案ずるのもわかるがユーリは優しい子だ。容姿もリーサによく似たイケメンだからリン・ケリー姫も気に入るだろう!」
周囲があれこれ心配するのは逆効果だと父に言われたのでエセルも黙って婚礼を待つしかなかった。
こんな形でリンの輿入れは意外とラン・ヤスミカ家の人々の心を騒がせていたのである。
ユーリは家族の緊張した様子を敏感に察して、自分が動揺していたらダメだと腹をくくった。
「どんな花嫁であっても誠意を持って接します!愛することができなくとも大切にすることはできる!」
リンが来る直前、婚礼装束をまとったユーリはそんな悲壮な決意をしていた。
するとそれを聴いていた姪っ子のクレールが口を開いたのだ。
「ユーリ叔父様!どのようなお嫁さんか分からないのにお逢いしないうちに愛せないなんて言ったら可哀想よ!私は叔父様の花嫁さんだったら仲良くするわ。でしょ?ジャン?」
クレールが促すと双子の兄ジャンは朗らかな笑みで頷いた。
「ユーリ叔父様は眉目秀麗で、お優しいから花嫁さんも絶対に好きになります!」
「ありがとう。ジャンとクレール。少し気分が軽くなってきた!」
こうして婚礼の支度は整い、後は花嫁リン・ケリー・シルバー姫の到着を待つだけとなったが、いくら待っても花嫁となる姫は姿を見せなかった。
代わりに白い馬から降り立ったのは美しい白装束を身につけた黒髪の可憐な美少年である。
姫の従者かと思った華奢で可愛らしい美少年がリン・ケリー・シルバーその人であり、ユーリ・ラン・ヤスミカの花嫁となったのである。
「……そんなわけでリンが嫁ぐ前から全力で嫌がっていてごめんな」
ベッドのなかでユーリに詫びられてリンはついつい笑ってしまった。
「エセル義兄上に追い出されなくてよかったです!」
「いや!兄上は不安そうだった俺を心配しただけで!俺がもっとしっかりしていればよかったんだ!」
「私はシルバー家の父上を殺したいほど憎んで現在進行形で殺害を狙っていますが、ユーリのもとに嫁がせてくれたことには感謝しています。だから、なるべく苦しまない毒薬で殺すつもりです!」
あくまでもクロード親父を殺す決意は揺らがないリンであった。
リンのつくる毒薬はクロードにはまったく効果がなく、逆に健康増進になっているとユーリは知っているが黙っていた。
リンは可憐で礼儀正しく、乗馬が得意で何より聡明な花嫁でユーリは姫ではないことは抜きにして大好きになった。
18歳と15歳なのでお互いに男子だが夫婦としての関係もある。
最初は年端もゆかぬ少年であり嫁として扱えなんて無理だとユーリは思ったが、意外とすぐにリンを嫁と思うことに抵抗をなくした。
「リンはこんな遠くの領地に行けって言われて抵抗はなかったのか?」
ユーリに抱き締められながら問われるとリンは両腕を絡めながら頷いた。
「ずっとシルバー家本邸から出たことがなかったので知らない土地に行けるとワクワクしました!」
ユーリがどんな人物かは知らなかったので不安はあったが出逢った瞬間に雷にうたれたようにリンの全身は震えた。
(優しい土色の髪に綺麗なグリーンの瞳!明るい笑顔!なんて魅力的な殿方だろう!)
これがリンのユーリへの第一印象である。
ユーリのリンへの第一印象は(か!可愛い!この子が花嫁だったら!)なので初対面で一目惚れであった。
リンはユーリの従者になるつもりでラン・ヤスミカ家に来てしまい、ユーリはリンをシルバー家の姫の従者と勘違いしていたので初対面では混乱したが無事に結婚できた。
「ユーリ。今度2人だけで遠乗りに行きませんか?」
「そうだな。新しくできた見張り塔を視察ついでに」
「ついででなくてデートするんです!!」
リンにそう強く押されてキスをされたのでユーリは謝ると再度抱き締めた。
王宮のある都から嫁いできた名門大貴族シルバー家の花嫁さん。
リン・ケリー・シルバーは今はリン・ケリー・ラン・ヤスミカとして愛しいユーリと仲良くベッドにいる。
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