彼の素顔

寿里~kotori ~

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彼の素顔

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小学校時代の同級生が死んだので葬儀に駆けつけた。

もっとも特に仲良しでもなく、どちらかと言えば嫌いだったけど冠婚葬祭に私情は御法度なのでお焼香だけして帰るつもりでいたら声をかけられた。

「久しぶり菊野くん」

そう控えめに笑いかけてきたのは見たことない美しい青年だった・・・否、どこかで逢ってる・・・だけど忘れたのだろう。

向こうはこちらの戸惑いを察したらしく小声で名前を言ってくれた。

「常世(とこよ)だよ。憶えてないか・・・」

その優しい笑みで俺はようやく記憶の糸が繋がり目を見開き焦っていた。

「お前!!常世か!?悪い、変わり過ぎてわからなかった!」

つい声をあげてしまった俺に常世はクスリと笑うとしーっと指をかざして斎場で囁いた。

「お焼香が終わって帰るとこなんだけどお茶でも飲まない?」

小学校時代に常世とまったく接点がなかった俺は少し迷ったがなんとなく嫌だとも言えず・・・また、記憶に残る彼とあまりに現在の彼が異なるので興味もあり少し話すことにした。

今日の葬儀の主役・・・つまり御遺体は昔、常世を執拗に虐めていた奴だ。そんな人間の葬儀に普通に参列している彼のことが妙に気になってしまったのもある。

「いいよ。どーせ暇だし」

俺が適当に返事をすると常世はにこりと微笑み揃って斎場をあとにした。


駅ナカのカフェで線香臭さを気にしつつアイスコーヒーを飲みながら俺は目の前で同じくアイスコーヒーを飲む常世に迷いながらも切り出した。

「お前さ、今はなにしてんの?何か雰囲気とか色々変わりすぎだろ」

不躾な俺の質問に常世は気分を害する様子もなく穏やかに述べた。

「これでも俳優なんだ。あんまり売れてないけど」

そう常世が言ったところで先ほどからチラチラとこちらを見ていた学生の集団が意を決した風に近寄ってきた。

「あの・・・常世芙律(とこよ ふりつ)さんですよね?俺ら演劇部で貴方のお芝居を観たんです。感激しました!」

「ノートですみません。サインください!プライベートなのに本当にすみません!」

必死に言い募る学生達に常世は穏やかに微笑むと心地よい声で言った。

「ありがとう。観てくれて嬉しいです。僕のサインでよければ・・・」

快く礼を述べサインをする常世に学生は感激した風に瞳を潤ますと次の舞台も必ず観に行きますと言って去っていった。

「ごめんね、こんなこと滅多にないんだ。僕は劇団に所属していて舞台中心だから知名度もないし」

「でも、芝居では一目置かれてるな。まさか、お前が俳優になってたとは」

なんだか自分が大手広告代理店で働いてるとアピールすることが気恥ずかしくなってきたとき常世がアイスコーヒーを置くと訊いてきた。

「話が途切れたけど菊野くんは?」

「一応、新卒で入った会社でなんとかやってる。サラリーマンだよ」

なんとなく敗北心からそっけなく告げると常世はにこりとして話を続ける。

「菊野くんは昔から成績よくて凄いと思ってた。中学も私立の頭のいいとこで尊敬してたんだ。僕って勉強も運動も全然だし」

確かに俺は優等生だった

成績も他のガキとは段違いで勉強が簡単過ぎて退屈だったのを記憶してる。だから私立の進学校を選び見事に合格したら陰で嫉妬からか不明だが悪口も言われていた。今日の葬式の主役がその首謀者だ。

「なぁ、なんで、お前はアイツの葬式にきたんだよ?特に交流なかった俺でもムカついた記憶あるくらいだし・・・お前はなおさら」

言いづらくなり言葉をにごすと常世は少し真顔になると周囲を見て声をひそめた。

「誰にも言わない?」

真剣に問われ勢いにのまれ頷くと常世は小声で告白したのだ。

「彼と僕は恋人同士だったんだ。中学までだけど」

「マジで?アイツはなんかあるとお前をからかったり虐めてたろ?」

話の展開が突飛過ぎて目を白黒させている俺に常世は懐かしい誰かを視るように微笑み、語った。

常世には友達もおらずクラスから浮いていて、そんな常世を執拗に彼は虐めたが一度強く殴って常世が椅子から転げ落ち鼻血を出してしまったときクラスが騒然として虐めっ子メンバーも慌てたが彼は何事もないように自分のハンカチを常世に押しつけ詫びも言わず去ったという。

「そういや、そんな事件あったかも・・・でも、それ最低じゃね?」

クラスに無関心だった俺の言葉に常世は懐かしそうに笑うと嬉しげに言葉を添えた。

「そのハンカチを洗って返そうと思ってひろげたら、こう書いてあったんだよ」

怒って泣けよ!!なんで笑ってんだ

乱暴な字で書かれた言葉を見て常世はクラスの誰もが自分を見下し空気にしても彼だけは不器用に自分のことを考えてくれていたことを知り呆然となったという。

「その後、ハンカチを洗って返して礼を言ったんだ。そうしたら、ぶっきらぼうに言われた」

俺が悪いのになんでお前はこうなんだよ腹立つ

それから彼は誰もいないとき常世と話すようになり誰もいない教室で言ったらしい。

「お前はなにされても笑ってる。だけど俺は泣いてる方が安心するんだよ・・・だから、どうすれば泣くかやっきになって・・・」

「僕はなにもできないから・・・勉強も運動も。だから皆がバカにして笑って当然なんだよ」

常世が平然と答えると彼はどこか悲しげに声を絞り出して訴えた。

「俺はお前がヘラヘラしてるの勝手にムカついた。酷いことされたら泣くのが普通なんだよ・・・泣いてくれよ・・・たのむ」

なんだか彼の方が泣きそうだったので常世は何とはなしに彼の手をにぎると不意に引き寄せられキスをされて抱きしめられた。

「好きだ・・・」

彼にそう言われた瞬間、常世は何故か涙があふれ彼に抱かれながらしばし泣いていた。


「それが小6の終わり・・・中学から隠れて付き合ってた」

回想を語り終えた常世に菊野は記憶を整理して確かに虐めを受けても常世が泣いていた記憶がないことに思い至り今さらながら恐ろしくなりアイスコーヒーの残りをすすった。

「彼が虐めなくなって中学からは平穏だったけど僕は本気で彼が好きだった。だから僕が転校するとき、もう二度と逢わないって言われて初めて泣き叫んだ」

常世は家庭の事情で転校が決まっても彼とは逢うつもりでいたが彼は二度と顔を見せるなと冷たく理由も教えてくれず、そのまま今生の別れになってしまったという。

「一度だけ手紙を書いたけどなにもなくて・・・高校生の頃に学校の舞台鑑賞教室で客席を見たら違う高校の生徒の団体に彼がいて思わず走り寄ったけど他人のそら似だった」

しかし、その他人のそら似だった他校の生徒の父親が舞台関係の仕事で、その生徒は父親のいる劇団がオーディションしてるから受けてみろとすすめてくれた。

「それで高校在学中に合格して卒業までは聴講生で卒業後からは団員になったんだよ。彼は僕の人生を変えてくれた。僕から喜怒哀楽を目覚めさせてくれた大切な存在なんだ」

話を聴いていて死んだアイツはそれほど悪い奴でもなかったのだと俺は改めたがひとつどうしても解けない疑問が残り思わず呟いた。

「なんでアイツは常世を遠ざけたんだ?そんなにお互いに想ってたのに」

その疑問は一生わからない・・・文字通り彼が墓まで持っていってしまったが常世は俺に笑いかけ残りのアイスコーヒーを飲み言った。

「それがいつかわかるかも・・・それを目的に俳優してるよ。僕には彼のハンカチの言葉がすべてだ」

そんな会話をしてどちらともなく席を立とうとしたとき俺は先ほどの学生のように意を決して、いつも持ってる名刺を差し出して声をかけた。

「お前の舞台・・・俺も観たい!俺はここで働いてる!何かあったら・・・助けられることあったら言ってくれ」

必死に言う俺に常世は名刺を見ると穏やかに微笑んだ。

「宣伝部が広告出したいらしいから話してもいい?」

「もちろん!チケットいくら?」

そんな会話をホームで別れるまで続けながら俺は久々にウキウキしていたら常世が別れ際に耳元で囁いた。

「彼はやっぱり凄いよ・・・こうして交流なかった僕達を再会させた」

連絡先を交換して別れると俺はドキドキしながら常世の出る舞台を検索した

舞台のタイトルは

「ピエロ」


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