虚幻

ことぶき

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虚幻・・・きょげん

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愛する人が消えた

何の予告もメールも前触れもなく昨日まで仲良く会話していたのに忽然と僕の前から姿を消した。

知り合いに訊いても皆戸惑うばかりで何も情報がない・・・そして落ち込む僕に揃って気休めのように言う。

「所詮はWeb上の付き合いだから仕方ないよ」

そう・・・僕はWeb上のコミュニケーションツールで彼と知り合った。

読書の趣味が一緒で年齢も近くてリアルな友達と喋るよりずっと楽しくて、いつまで話してても飽き足りなかった・・・彼の一番になりたくて凄く悩んだ末に個人的なDMで告白した。

フォローを切られてブロックされる覚悟でいたが彼は数日後にDMをくれて僕を受け入れてくれた。

「僕と個人的に逢わずにWeb上でなら恋人になるよ。僕も君と話すの好きだから」

リアルに逢うつもりなんて元からなかったから僕らは他のフォロワーにも秘密でオンライン交際していた。

僕達はお互いの姿形も本当の身分も性別さえも分からない。でも彼が存在するなら本当なんて僕にはどうでもよかったのに・・・

彼が消えて大学にもろくに通わずスマホで彼を探すことに夢中になっていた僕にたまにやりとりするフォロワーが思いがけない事を告げた。

「あの人の君と交流してたアカウントは複数あるアカウントの1つだよ。裏垢を沢山作って本垢は分からないけど裏垢の1つは教えるが俺が教えた事は絶対に言うなよ!!」

複数のアカウントを駆使する人間は多数いると知っているが僕はアカウントは1つだし彼もそうだと言っていたので彼の見えない一面が見えて嫌な感じがしたが教えられた裏垢を探したら鍵がついていた。

ここでフォロー申請しても不審がられるしどうしたら良いか悩んでいると先ほど裏垢を教えてくれたフォロワーからDMがきた。

「俺の知り合い経由であの人の裏垢の様子を教えてもらった。君はもう関わるな!最低だよアイツ」

知り合いの撮ってくれたスクリーンショットを見て僕は愕然とした。

彼が僕とのDMをツイート上で公開していたからだ。

「キモくて笑える!!マジになってバカじゃねえのwww」

その他、見るに耐えない言葉の数々に僕が本当に彼なのか信じられずにいると再びDMが来て

「鍵で好き放題だから知り合いが通報したけどすぐに垢消しするな多分。何も構うなよ!こういう奴だったと思い諦めろ」

「・・・かなりショックですが、色々と対応してくださりありがとうございます」

それからすぐに例の裏垢を見たがフォロワーの言葉は当たり、すでにアカウントは消えていたが僕はある決心をしていた。

「絶対にコイツの本垢を探し出してやる!!」

それから、暇さえあれば彼との会話からのヒントやフォロワー達の繋がりも調べて僕は彼に言いたい事を言うべくWeb上の広大な空間にある1つの小部屋を捜索して僕自身も捨て垢を作り、彼の痕跡を探しまわって1つのアカウントに辿り着いた。

アカウント名が彼の好きな作家の本名と同じで会社員とあるがツイートの言い回しが隠しようもなく彼そのものであった。

主に雑多で読んだ本などの感想を呟き、言葉は優しく丁寧でそれでいてユーモアがある。

僕は彼をフォローすることなく彼の確証をつかむべく常にツイートをチェックしていたら、ある日彼が誰かの返信にこうツイートしていた。

「前に凄く仲良かったフォロワーさんいたけど距離が近すぎてさ~💦悪いと思ったけど逃げた」

コイツだ・・・!!

やっと見つけた・・・僕は息を深く吸うと彼のコメント欄にひとこと書き添えた。

「地獄に堕ちろ」

そのまま裏垢から本垢に切り替えて彼のアカウントの様子を見て彼のリアクションにニヤリとした。

「こういう言葉で人を脅すのは相手にしない。僕は何もしてないから」

そうか・・・じゃあ、僕の愛憎が尽きるまで毎日でも打ってやるよ。

僕のアカウントも今はひとつじゃないからさ・・・

それから日課で僕は彼に呪いの言葉を送り続けてアカウントを替えて攻撃して彼は鍵をかけたけど無駄だよ・・・僕はすでに君のフォロワーになってるから。

君の一番は僕だから・・・君のための僕は決して君を傷つけない。

「酷い言葉ですね・・・あんな言葉相手にしなくていいですよ!」

「ありがとうございます✨そう言ってくれると救われます」

救われるなら僕は何者にもなるしどんな嘘も攻撃もする・・・僕が君の一番だから


end

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