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天使降臨
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バスが来るまでまだ時間があった。
これから三年間通う学校を少し見て回ろうと直冬は思った。グランド脇の小道を抜けて、体育館、校舎と見て回る。自分と同じように合格発表を見に来た生徒の姿をちらほらと見かけた。その中に未来の同級生がいるのかもしれない。
一通り歩いてはみたが、特別目新しい建物があるわけでもなかった。どこにでもありそうな普通の公立高校だ。
時間を確認すると、まだ少し時間はあったが、これ以上見るような所もない。どのみちこれから嫌と言うほど目にする景色だ。校門前のバス停に戻ることにした。
校舎の合間を抜けていくと、中庭に出た。
飲料の自販機を見つけたので、ホットの缶コーヒーを買い、コンクリートのベンチに腰掛けてそれを飲んだ。
ちょうど日向になっていて、ぽかぽかと暖かい。
昨晩は翌日に合格発表を控えて、なかなか寝付けなかった。無事に合格した安心感も手伝って、腰を下ろしていると眠気が襲ってくる。
少しの間、目を閉じてうとうととしていると、頬にあたる風が心地い。そしてその風に乗って、なんともいえぬ良い香りが漂ってきた。
シャンプーの匂いかな、そう思ってそちらに目をやると、紺色のセーラー服の少女が一つ置いた隣のベンチの前に、所在なさげに立っている。この高校の制服ではないところをみると、彼女も受験生なのだろう。
肩の辺りで切り揃えた栗色の髪が風に靡いている。どうやらそれがシャンプーの匂いの正体らしい。
しばらく見ていると、少女はコンクリートのベンチの上にすっと飛びあがった。
そして、光のシャワーでも浴びているかのように恍惚とした表情で、春の暖かい日差しに向かって、翼のように両手を広げた。
栗色のふわりとした髪が陽光を受けて、金色に煌めいている。風が時々露わにする襟足の白さが眩しい。
天使が地上に舞い降りたようだと直冬は思った。そんな陳腐な感想がそれほど間抜けに思えないほど神々しかった。
ポケットからスマホを取り出すと、シャッター音を消せるアプリを起動させた。
盗撮、そんな言葉が脳裏を一瞬よぎる。
しかし、目の前の光景は卑劣な行為を正当化させるほどの美しさがあった。夢中で彼女を画面に収めた。
遠くで誰かが、少女の名前を呼ぶ声が聞こえた。直冬は慌てて、スマホをポケットにしまった。心臓がオーバーヒートしてしまうくらいのスピードで鼓動を叩く。
少女は石段からふわりと宙に舞った。スカートが捲れ白い太股が宙に光る。
深く膝を曲げて着地すると、ゆっくりとバランスを取るように立ち上がった。
次の瞬間、彼女が振り返り目が合った。
――ばれた?
しかし鳶色の瞳からはなにも読み取ることはできなかった。
これから三年間通う学校を少し見て回ろうと直冬は思った。グランド脇の小道を抜けて、体育館、校舎と見て回る。自分と同じように合格発表を見に来た生徒の姿をちらほらと見かけた。その中に未来の同級生がいるのかもしれない。
一通り歩いてはみたが、特別目新しい建物があるわけでもなかった。どこにでもありそうな普通の公立高校だ。
時間を確認すると、まだ少し時間はあったが、これ以上見るような所もない。どのみちこれから嫌と言うほど目にする景色だ。校門前のバス停に戻ることにした。
校舎の合間を抜けていくと、中庭に出た。
飲料の自販機を見つけたので、ホットの缶コーヒーを買い、コンクリートのベンチに腰掛けてそれを飲んだ。
ちょうど日向になっていて、ぽかぽかと暖かい。
昨晩は翌日に合格発表を控えて、なかなか寝付けなかった。無事に合格した安心感も手伝って、腰を下ろしていると眠気が襲ってくる。
少しの間、目を閉じてうとうととしていると、頬にあたる風が心地い。そしてその風に乗って、なんともいえぬ良い香りが漂ってきた。
シャンプーの匂いかな、そう思ってそちらに目をやると、紺色のセーラー服の少女が一つ置いた隣のベンチの前に、所在なさげに立っている。この高校の制服ではないところをみると、彼女も受験生なのだろう。
肩の辺りで切り揃えた栗色の髪が風に靡いている。どうやらそれがシャンプーの匂いの正体らしい。
しばらく見ていると、少女はコンクリートのベンチの上にすっと飛びあがった。
そして、光のシャワーでも浴びているかのように恍惚とした表情で、春の暖かい日差しに向かって、翼のように両手を広げた。
栗色のふわりとした髪が陽光を受けて、金色に煌めいている。風が時々露わにする襟足の白さが眩しい。
天使が地上に舞い降りたようだと直冬は思った。そんな陳腐な感想がそれほど間抜けに思えないほど神々しかった。
ポケットからスマホを取り出すと、シャッター音を消せるアプリを起動させた。
盗撮、そんな言葉が脳裏を一瞬よぎる。
しかし、目の前の光景は卑劣な行為を正当化させるほどの美しさがあった。夢中で彼女を画面に収めた。
遠くで誰かが、少女の名前を呼ぶ声が聞こえた。直冬は慌てて、スマホをポケットにしまった。心臓がオーバーヒートしてしまうくらいのスピードで鼓動を叩く。
少女は石段からふわりと宙に舞った。スカートが捲れ白い太股が宙に光る。
深く膝を曲げて着地すると、ゆっくりとバランスを取るように立ち上がった。
次の瞬間、彼女が振り返り目が合った。
――ばれた?
しかし鳶色の瞳からはなにも読み取ることはできなかった。
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