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Passion
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1
教室に入るなり、深町渚と遠藤夢乃が病院の待合室で、診断の結果を待っていた患者の家族のような表情で寄ってきた。朝のホームルームの後、職員室に呼び出されることなんてめったにあることではない。
「森島先生、何の用事だったの?」
夢乃が小声で尋ねた。
「うん、ちょっと進路のことでね」
私は笑顔で返した。
「進路? 玲於奈、進路変えるの?」
渚が驚いて、言った。
彼女は私と同じ四年制の大学の文学部を志望している。
「第一志望は変えていないよ。ただ他に受験するところを少し見直そうかなと……その確認かな」
自分でも驚くほどすんなりと嘘が出た。
「よかった! これで玲於奈とは幼稚園から大学までずっと一緒だ」
渚は両手で私の手を握ると揺り籠みたいに揺らした。
「あらあら、もう合格は既定路線みたいな言い方ね。玲於奈は余裕だろうけど、渚は相当がんばらないと厳しいんじゃない」
夢乃がはしゃぐ渚をからかった。
「がんばるもん! 夏休みは玲於奈に家庭教師してもらうんだ」
渚は甘えたように私の腕に抱きつく。
いつもと同じようにたわいないやり取りで始まる一日、しかしなぜか私は引っかかるような違和感を拭えなかった。
無邪気にまとわりつく渚の肩越しに、私は窓際後方の席をチラッと見た。
綾瀬ひかるは頬杖をつき、文庫本に目を落としている。朝の教室の喧騒など関心の外らしい。
私はこの一件に二人の親友を巻き込むつもりはなかった。彼女たちの協力があれば少しは楽に事が運ぶかもしれない。
しかし、自分ですら納得できない森島碧の頼みを彼女たちにどう説明すればいいのだろう。穏和な夢乃なら深く理由も尋ねず承知してくれるかもしれないが、渚は絶対に反発するに違いない。
「さあ、授業が始まるよ」
渚の手をほどくと席に着いた。
授業の間、どうやって綾瀬ひかるに近づくか馬鹿みたいにその方法を考え続けた。そして休憩時間には彼女の様子をちらちらと観察した。二人の友人のおしゃべりも上の空に、ほんのわずかでも彼女が隙――たとえば憂鬱げに窓の外を見ているような場面でもあれば、話し掛けようと機会を待った。
ある程度覚悟はしていたが綾瀬ひかるはかなり手強い相手だ。
少なくとも私が見ている間、彼女は一度も口を開かなかった。沈黙の誓いを立てた修道士のようにその口は硬く閉ざされていた。
そればかりか他の誰かに注意を向けるような瞬間すらなかった。文庫本と黒板、自分の行く手以外にその目が向くことはない。
地理の授業の後、生徒のひとりが狭い机の間を駆け抜けようとして、腿を机の角に思い切りぶつけた。きっとトイレを我慢していたのだろう。彼女はスカートをたくし上げ、薄く血が滲んだミミズ腫れを見つけると、大げさに泣きわめいた。
何人かが駆け寄り、絆創膏を貼った方がいいとか、保健室に行くべきだとか、あれこれと言い合った。教室中の耳目を集めている出来事にも、綾瀬ひかるは微かに顎をあげただけで、再びその目は文庫本の頁を追った。
きっと彼女にとってクラスメイトなど、地下鉄に乗り合わせた乗客ほどにも関心がないのだろう。
森島碧は綾瀬ひかるという人間を根本的に勘違いしているのだ。
群れから弾かれた羊に手を差し伸べるのなら話は簡単だ。必要なのは村の掟に背く勇気だけだ。倫理的に自分が正しいという立場を確保しているなら、私は躊躇しない。しかし、羊の群れに狼を引き入れるとなると話は別だ。
下手をすればこちらがかみ殺されてしまう。
仮に——そんなことはまかり間違っても今のところ有りそうないのだが、綾瀬ひかるとうまい具合にお近づきになれたとしても、自分の友達の輪に彼女を入れてはいけないと私は思った。
2
いったいどこから手をつけたらいいのだろう。取っ掛かりがまるで見いだせない。
結局、なんのアクションも起こせないまま半日が過ぎた。
お昼休みになり、いつものように隣のクラスの望月美亜がやってきた。机を寄せて私たちは食事の準備に取りかかる。教室のあちこちで同じような光景が繰り広げられる。誰と誰が仲良しグループなのか一目瞭然だ。そうやってできた島の間を綾瀬ひかるは悠然とすり抜け教室を出て行く。
今がその時だ。直感が私に耳打ちした。
「ごめん、急用を思い出した!」
私は弁当の包みを結び直すと、呆気に取られている三人を残して教室を出た。
廊下の窓から下を覗くと、綾瀬が中庭を歩いているのが見える。あわてて階段を駆け下り、校舎の外に出た。後ろ姿を確認すると、目立たない程度の早足で後を追った。
七月にしては湿気の少ないからりとした天気のせいか、ベンチで昼食を取る生徒の姿をちらほら見かける。まさか綾瀬も何処かでお昼を?そんな考えがふと浮かんだが、すぐに打ち消した。携えているのは若草色のカバーのかかった文庫本だけだ。彼女は淡々とした足取りで中庭を横切り、グランドの方に向かっていく。私は人目を避けるように跡を追った。
グランド脇の遊歩道に入ると、彼女はやや足早に歩き始めた。さすがにこの辺りになると、人気はほとんどない。見つかるのではないかと、内心冷や汗ものだったが、綾瀬は一度も振り返らなかった。
この先にあるのは取り壊されたばかりの旧体育館だ。先週までは出入りするダンプカーと重機のけたたましい音が教室まで聞こえていた。工事も一段落したのか、今は廃材の山となっている。
赤い文字で立ち入り禁止と書かれた看板の前を彼女は躊躇なく素通りした。
時計に目をやると、午後の始業まで二十分ある。私は一度深呼吸をすると、工場現場へと足を踏み入れた。
コンクリートの基礎だけになった体育館跡は見通しも良く、彼女がどこにいるのかすぐにわかった。体育用具が無造作に積み上げられた一画に彼女は立っていた。
(いったいこんなところで何をするつもりなのだろう)
私は綾瀬ひかると話す切っ掛けを見つけるという本来の目的をすっかり忘れていた。もっともここで姿を現して、「やあ!」なんて言葉を掛けたら間違いなくすべてはぶち壊しだ。今は一旦、脇に置いておこう。私は積み上げられた鉄骨の影に身を潜めて彼女の後ろ姿を注視した。
雨ざらしになった跳び箱、体育マット、ボール籠をゆっくりと見まわすと、綾瀬はこれから説教を始める牧師のように持っていた本を胸の高さで開いた。さっきまで五月蠅いほど耳に響いていた蝉の声が今は幻聴のように背後に退いた。
彼女はそのままの姿勢でゆっくりと歩を進め、跳び箱の前で止まると、傍らに積まれたマットの上に本を置いた。そして見えない翼を広げるように両手を空に向かって差しだした。指先を伸ばし、胸を張り、脚の筋肉を精一杯伸張させ、今にも天に向かって飛び立とうとするように。
神聖な儀式に出会した異教徒のように私の心臓はこれから始まることへの不安と好奇心で鼓動を早めていく。
次の瞬間、私はあり得ない光景を目にした。
彼女は跳び箱の上にフワリと舞い上がった。そう、舞い上がったのだ。まるで重力などそこにないかのように五段もある跳び箱の上に、助走もつけず、膝を曲げることもなくフワリと。
逆光を受けた綾瀬の華奢なシルエットを見つめながら、私は彼女が自分の中にある何かを空に向かって解き放ったのだと直感した。
いつのまにか、私は鉄骨の影から這いだしていた。もう見つかってもかまわない。姿勢を低くするとゆっくりと近づいていった。
彼女は小声で何かをつぶやいているようだった。途切れ途切れに声が届いてくる。何を言ってるのか聞き取れない。呪文でも唱えているのだろうか。
視線は中空に固定されたままだ。私は意を決して、さらに距離を詰めた。
影法師の中に入るくらいに近づいたとき、それはつぶやきではなく、ハミングしているのだとわかった。
聞いたことのないメロディだった。いやメロディというより、人差し指で鍵盤をでたらめに叩いたような音の連なりだ。不快ではない。むしろ彼女の透き通るような声は心地よかった。心に直接響いてくるような音色だ。
私は目を閉じて、声に聴き入った。
闇の中で、音色は透明度をどんどん増していく。私の体は漆黒の宇宙に浮かんでいた。足下には機械仕掛けで動く太陽系がみえる。ゆっくりと回り続けるガラスの惑星。それを弾いて奏でているかのような幻想的で原初的な音が共鳴しあい空間に満ちていく。
音は光となって私の中に流れ込み、ほとんど埋没していた記憶の断片を照射しはじめた。ひとつのシーンすら構成しないような、小さなカットが次々と映しだされる――小さな青い傘を叩く雨音、ちぎれたトンボの羽根、田んぼに咲き乱れるうねるような蓮華の紫。画面が切りかわり、今度は目映い光が明滅するパネルがみえた。四つの青い影が見下ろしている。土の中にめり込んだ銀色の機体。
「なぜあなたがここにいるわけ?」
いきなり部屋の照明を点けられたみたいにぱっと現実に引き戻された。
綾瀬が眉を寄せてにらんでいる。
どんな弁明がふさわしいのだろう。彼女の咎めるような視線を浴びながら、私は言葉を探した。
(先生にあなたのことを頼まれたのよ)
いや、これは最悪だ。
素直に下世話な好奇心で跡をつけたと謝るしかない。実際、そうなのだから。
口を開きかけたとき、綾瀬が何かに気づいたように再び視線を空に向けた。
「途絶えた……」
そう言うと、綾瀬は一瞬白眼をむいた。体がぐらっと傾く、私は彼女の腿を抱きかかえて支えた。
しかし支えられたのもつかの間だった。私たちはそのまま折り重なるようにマットの上に倒れた。
教室に入るなり、深町渚と遠藤夢乃が病院の待合室で、診断の結果を待っていた患者の家族のような表情で寄ってきた。朝のホームルームの後、職員室に呼び出されることなんてめったにあることではない。
「森島先生、何の用事だったの?」
夢乃が小声で尋ねた。
「うん、ちょっと進路のことでね」
私は笑顔で返した。
「進路? 玲於奈、進路変えるの?」
渚が驚いて、言った。
彼女は私と同じ四年制の大学の文学部を志望している。
「第一志望は変えていないよ。ただ他に受験するところを少し見直そうかなと……その確認かな」
自分でも驚くほどすんなりと嘘が出た。
「よかった! これで玲於奈とは幼稚園から大学までずっと一緒だ」
渚は両手で私の手を握ると揺り籠みたいに揺らした。
「あらあら、もう合格は既定路線みたいな言い方ね。玲於奈は余裕だろうけど、渚は相当がんばらないと厳しいんじゃない」
夢乃がはしゃぐ渚をからかった。
「がんばるもん! 夏休みは玲於奈に家庭教師してもらうんだ」
渚は甘えたように私の腕に抱きつく。
いつもと同じようにたわいないやり取りで始まる一日、しかしなぜか私は引っかかるような違和感を拭えなかった。
無邪気にまとわりつく渚の肩越しに、私は窓際後方の席をチラッと見た。
綾瀬ひかるは頬杖をつき、文庫本に目を落としている。朝の教室の喧騒など関心の外らしい。
私はこの一件に二人の親友を巻き込むつもりはなかった。彼女たちの協力があれば少しは楽に事が運ぶかもしれない。
しかし、自分ですら納得できない森島碧の頼みを彼女たちにどう説明すればいいのだろう。穏和な夢乃なら深く理由も尋ねず承知してくれるかもしれないが、渚は絶対に反発するに違いない。
「さあ、授業が始まるよ」
渚の手をほどくと席に着いた。
授業の間、どうやって綾瀬ひかるに近づくか馬鹿みたいにその方法を考え続けた。そして休憩時間には彼女の様子をちらちらと観察した。二人の友人のおしゃべりも上の空に、ほんのわずかでも彼女が隙――たとえば憂鬱げに窓の外を見ているような場面でもあれば、話し掛けようと機会を待った。
ある程度覚悟はしていたが綾瀬ひかるはかなり手強い相手だ。
少なくとも私が見ている間、彼女は一度も口を開かなかった。沈黙の誓いを立てた修道士のようにその口は硬く閉ざされていた。
そればかりか他の誰かに注意を向けるような瞬間すらなかった。文庫本と黒板、自分の行く手以外にその目が向くことはない。
地理の授業の後、生徒のひとりが狭い机の間を駆け抜けようとして、腿を机の角に思い切りぶつけた。きっとトイレを我慢していたのだろう。彼女はスカートをたくし上げ、薄く血が滲んだミミズ腫れを見つけると、大げさに泣きわめいた。
何人かが駆け寄り、絆創膏を貼った方がいいとか、保健室に行くべきだとか、あれこれと言い合った。教室中の耳目を集めている出来事にも、綾瀬ひかるは微かに顎をあげただけで、再びその目は文庫本の頁を追った。
きっと彼女にとってクラスメイトなど、地下鉄に乗り合わせた乗客ほどにも関心がないのだろう。
森島碧は綾瀬ひかるという人間を根本的に勘違いしているのだ。
群れから弾かれた羊に手を差し伸べるのなら話は簡単だ。必要なのは村の掟に背く勇気だけだ。倫理的に自分が正しいという立場を確保しているなら、私は躊躇しない。しかし、羊の群れに狼を引き入れるとなると話は別だ。
下手をすればこちらがかみ殺されてしまう。
仮に——そんなことはまかり間違っても今のところ有りそうないのだが、綾瀬ひかるとうまい具合にお近づきになれたとしても、自分の友達の輪に彼女を入れてはいけないと私は思った。
2
いったいどこから手をつけたらいいのだろう。取っ掛かりがまるで見いだせない。
結局、なんのアクションも起こせないまま半日が過ぎた。
お昼休みになり、いつものように隣のクラスの望月美亜がやってきた。机を寄せて私たちは食事の準備に取りかかる。教室のあちこちで同じような光景が繰り広げられる。誰と誰が仲良しグループなのか一目瞭然だ。そうやってできた島の間を綾瀬ひかるは悠然とすり抜け教室を出て行く。
今がその時だ。直感が私に耳打ちした。
「ごめん、急用を思い出した!」
私は弁当の包みを結び直すと、呆気に取られている三人を残して教室を出た。
廊下の窓から下を覗くと、綾瀬が中庭を歩いているのが見える。あわてて階段を駆け下り、校舎の外に出た。後ろ姿を確認すると、目立たない程度の早足で後を追った。
七月にしては湿気の少ないからりとした天気のせいか、ベンチで昼食を取る生徒の姿をちらほら見かける。まさか綾瀬も何処かでお昼を?そんな考えがふと浮かんだが、すぐに打ち消した。携えているのは若草色のカバーのかかった文庫本だけだ。彼女は淡々とした足取りで中庭を横切り、グランドの方に向かっていく。私は人目を避けるように跡を追った。
グランド脇の遊歩道に入ると、彼女はやや足早に歩き始めた。さすがにこの辺りになると、人気はほとんどない。見つかるのではないかと、内心冷や汗ものだったが、綾瀬は一度も振り返らなかった。
この先にあるのは取り壊されたばかりの旧体育館だ。先週までは出入りするダンプカーと重機のけたたましい音が教室まで聞こえていた。工事も一段落したのか、今は廃材の山となっている。
赤い文字で立ち入り禁止と書かれた看板の前を彼女は躊躇なく素通りした。
時計に目をやると、午後の始業まで二十分ある。私は一度深呼吸をすると、工場現場へと足を踏み入れた。
コンクリートの基礎だけになった体育館跡は見通しも良く、彼女がどこにいるのかすぐにわかった。体育用具が無造作に積み上げられた一画に彼女は立っていた。
(いったいこんなところで何をするつもりなのだろう)
私は綾瀬ひかると話す切っ掛けを見つけるという本来の目的をすっかり忘れていた。もっともここで姿を現して、「やあ!」なんて言葉を掛けたら間違いなくすべてはぶち壊しだ。今は一旦、脇に置いておこう。私は積み上げられた鉄骨の影に身を潜めて彼女の後ろ姿を注視した。
雨ざらしになった跳び箱、体育マット、ボール籠をゆっくりと見まわすと、綾瀬はこれから説教を始める牧師のように持っていた本を胸の高さで開いた。さっきまで五月蠅いほど耳に響いていた蝉の声が今は幻聴のように背後に退いた。
彼女はそのままの姿勢でゆっくりと歩を進め、跳び箱の前で止まると、傍らに積まれたマットの上に本を置いた。そして見えない翼を広げるように両手を空に向かって差しだした。指先を伸ばし、胸を張り、脚の筋肉を精一杯伸張させ、今にも天に向かって飛び立とうとするように。
神聖な儀式に出会した異教徒のように私の心臓はこれから始まることへの不安と好奇心で鼓動を早めていく。
次の瞬間、私はあり得ない光景を目にした。
彼女は跳び箱の上にフワリと舞い上がった。そう、舞い上がったのだ。まるで重力などそこにないかのように五段もある跳び箱の上に、助走もつけず、膝を曲げることもなくフワリと。
逆光を受けた綾瀬の華奢なシルエットを見つめながら、私は彼女が自分の中にある何かを空に向かって解き放ったのだと直感した。
いつのまにか、私は鉄骨の影から這いだしていた。もう見つかってもかまわない。姿勢を低くするとゆっくりと近づいていった。
彼女は小声で何かをつぶやいているようだった。途切れ途切れに声が届いてくる。何を言ってるのか聞き取れない。呪文でも唱えているのだろうか。
視線は中空に固定されたままだ。私は意を決して、さらに距離を詰めた。
影法師の中に入るくらいに近づいたとき、それはつぶやきではなく、ハミングしているのだとわかった。
聞いたことのないメロディだった。いやメロディというより、人差し指で鍵盤をでたらめに叩いたような音の連なりだ。不快ではない。むしろ彼女の透き通るような声は心地よかった。心に直接響いてくるような音色だ。
私は目を閉じて、声に聴き入った。
闇の中で、音色は透明度をどんどん増していく。私の体は漆黒の宇宙に浮かんでいた。足下には機械仕掛けで動く太陽系がみえる。ゆっくりと回り続けるガラスの惑星。それを弾いて奏でているかのような幻想的で原初的な音が共鳴しあい空間に満ちていく。
音は光となって私の中に流れ込み、ほとんど埋没していた記憶の断片を照射しはじめた。ひとつのシーンすら構成しないような、小さなカットが次々と映しだされる――小さな青い傘を叩く雨音、ちぎれたトンボの羽根、田んぼに咲き乱れるうねるような蓮華の紫。画面が切りかわり、今度は目映い光が明滅するパネルがみえた。四つの青い影が見下ろしている。土の中にめり込んだ銀色の機体。
「なぜあなたがここにいるわけ?」
いきなり部屋の照明を点けられたみたいにぱっと現実に引き戻された。
綾瀬が眉を寄せてにらんでいる。
どんな弁明がふさわしいのだろう。彼女の咎めるような視線を浴びながら、私は言葉を探した。
(先生にあなたのことを頼まれたのよ)
いや、これは最悪だ。
素直に下世話な好奇心で跡をつけたと謝るしかない。実際、そうなのだから。
口を開きかけたとき、綾瀬が何かに気づいたように再び視線を空に向けた。
「途絶えた……」
そう言うと、綾瀬は一瞬白眼をむいた。体がぐらっと傾く、私は彼女の腿を抱きかかえて支えた。
しかし支えられたのもつかの間だった。私たちはそのまま折り重なるようにマットの上に倒れた。
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