君の血を吸わせないで(旧題 赤羽朔夜は吸血鬼ではありません!)

ヨドミ

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5話 公開アナニー、そして吸血オナニーも目撃される ♡

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 土曜日の早朝。
 五月だというのに寮の室内は蒸し暑い。

「……ん」

 少し動いただけで汗がにじみ出るほどの室内。
 朔夜はベッドの上、壁に背を預け、後孔からディルドを出し入れする。そのたび、にちゃにちゃと粘ついた水音がした。

 額に汗を浮かべ、行為に集中する。
 腸壁がシリコンの杭を締め上げると、苦しい中に快感が混ざった。熱に浮かされ朦朧もうろうとしながら正面をむけば、椅子の背を抱えた瀬崎がこちらをじっと見つめていた。
 こちらの一挙手一投足に目をそらさない集中力には脱帽する。
 
(男のオナニー見て何が楽しいんだろ)

 瀬崎と『取引』をしてからというもの、合計四回、彼の前で自慰をした。
 
 半月で四回。

 朔夜が血を飲みたい衝動に駆られるのは、ひと月に一回程度だ。
 強制的に自身を慰めるのは想像以上にきつかった。
 
「ふ、ん……」

 恥ずかしい行為を早く終わらせたくて、後ろを弄りながら、半勃ちになった自身を擦りあげる。
 鈴口からは申し訳程度に先走りが滲んだ。

(ここを押せば……)

 ディルドの角度を上向きにして、肉壁を強くえぐり、絶頂へ追い込んでいく。
 
 そして――。

「……あ!」

 慌てて亀頭を手で包み込む。前屈みになった瞬間、射精した。
 あたたかい体液が手のひらから溢れ、慌ててティッシュの箱に手を伸ばす。
 欲望を吐き出した後、ディルドを雄膣から抜き取った。粘つく体液とローションまみれになった偽物の肉棒をタオルに包む。

 (終わった……)
 
 やることをやったら気が抜け、朔夜はうつ伏せに倒れた。

 瀬崎は相変わらずの仏頂面だ。
 性行為自体に免疫があるのか、まったく動揺していない。

(経験済みなんだろうな)
 
 それがなんでまた、男のオナニーショーを見たがるのか。理解に苦しむ。
 朔夜は丸めたティッシュを握り締めたままだったのを思い出し、ビニール袋を探した。

 瀬崎はベッドの前で膝をつき、ビニール袋を差し出す。
 朔夜は恐る恐るビニール袋にティッシュを放り込んだ。
 瀬崎は嫌がる素振りもせず、ゴミ袋の口を締めた。
 そしてディルドをくるんだタオルを拾いあげる。

「ちょっと待って」

 朔夜はぎょっとし、慌てて身体を起こす。
 ゴミ袋はそのまま捨てるので許そう。
 しかし、ディルドは使い捨てではない。
 何が悲しくてクラスメイトに事後処理をさせねばならないのだ。
 ねぎらってもらうとさらに惨めになるので、できればそっとしておいてほしい。
 
 瀬崎は一瞬迷う素振りをみせたが、そのまま踵を返そうとする。

「いやいや、いいから。それ置いておいて」
 
 瀬崎は片眉をピクリと動かした。
 鋭い眼光と相まって、迫力がある。
 このまま黙って従っていればいいものを、朔夜は「すぐに片付けるから」と食い下がった。
 
(これ以上、弱みを握られたら、次は何を要求されるのか、知れたもんじゃないよ)

 朔夜が一歩も引かないでいると、瀬崎はタオルをベッドに戻したが、ビニール袋は机の足元のゴミ箱に投げ入れた。
 距離にして数十センチ。
 それなのに、ビニール袋はゴミ箱の縁をバウンドし、床に転がった。
 
「……あの、ちょっと部屋から出てほしいんだけど」

 瀬崎は無表情で朔夜を凝視する。

 様々な液体が流れ出す臀部を押さえながらシャワールームに向かう姿を見られたくないから出ていってほしいのだなんて口が裂けても言いたくないし、言わせないでほしい。
 尻の穴におもちゃを突っ込んでるくせに、何を今さらなんて意見は受け付けない。
 
「一人になりたいんだ」

 朔夜はさらに畳み掛ける。真剣に訴えると、瀬崎は朔夜の下腹部に視線を移した。
 さすがに察してくれたのかと安堵したのも束の間、瀬崎は両腕を広げた。
 
(まさか僕をシャワー室まで運ぼうとしてる?)

 気遣ってくれるのは嬉しいが、空気を読んでほしいと願うのは、贅沢なのだろうか。
 
 朔夜はふたたびうつ伏せになり、ため息をついた。


 最近、いやに喉が渇く。
 
 昼休み。
 
 授業終了のチャイムが鳴り終わらないうちに朔夜は足早に教室を後にした。向かった先は、敷地の外れにある旧校舎裏だ。
 旧校舎には部室や音楽室、実験室などがある。
 昼休みに人影はなく、しんと静まりかえっていた。

 校舎の角をまわり込んだ瞬間、朔夜は足を止めた。
 先客がいた。瀬崎だ。壁に背をあずけ、瞼を閉じている。
 そういえば朝から姿を見ていなかった。
 
 (眠いのなら保健室で仮眠とるか、寮に帰ればいいのに)

 瀬崎は学ランを着崩しており、襟元が大きく開いていた。骨ばった喉仏や鎖骨に、朔夜の視線は吸い寄せられる。

 口の中に唾が溜まった。
 規則正しい寝息を確認し、しばし考える。

(寝てるなら、ちょっと盗み見るくらい、いいよね)
 
 朔夜は足音を立てないよう瀬崎に近づいた。
 一メートルほど距離をとって膝を抱える。
 
 間近で観察すると、瀬崎の寝顔はとても綺麗だった。
 シミどころか毛穴すら見当たらない白皙のかんばせに、爪楊枝が乗るんじゃないかと思えるほど長いまつ毛が瞼を縁どっている。
 
 まつ毛も金色なんだなと、思わず見惚れていると、グラウンドから男子生徒たちの声が聞こえた。
 早くも昼食を食べ終えた集団が、腹ごなしの運動を始めたようだ。
 
 体感では数秒だが、いつの間にか数十分経っていた。
 
(……こんなことしてる場合じゃないや)
 
 なんにしても先客がいるところで落ち着けるはずもなく、朔夜はゆっくりと立ち上がり、回れ右をした。

 その時。

「……誰だ?」

 悪い意味でタイミングがいい。
 片足を上げたまま固まる朔夜を前に、瀬崎は寝ぼけ眼を数度またたかせる。

 そして、みずからの隣をポンポンと叩いた。
 
(そこに座れってこと……?)

 正直、断りたい。
 けれどこのまま休憩できるところを探し回り、吸血衝動を抑えられなくなるのは危険だ。
 
 背に腹は変えられない。
 朔夜は校舎裏に滑り込み、瀬崎から人一人分の距離をとって、壁に背を預けた。
 ひんやりとしたコンクリートの壁が火照った身体から熱を奪ってくれる。その心地よさに目を閉じるも、喉の渇きは治まらない。
 
 五月に入ってからますます気温は上がっている。
 急激な季節の変化に、身体が慣れていないだけだ。
 そう言い聞かせ、二リットルの水を飲み切っても焼け石に水なので、吸血種特有の渇望感であるのは明白だった。

 ここ半月、血を吸いたいとすら思う暇もなく、オナニーをしている。
 それなのに、血を吸いたくてたまらないのだ。

(病気なのかな)

 今まで考えないようにしていたが、何かしらの病の前兆なのではないかと不安になる。

「大丈夫か?」
「うわっ!」
 
 あれこれ考え事をしている間に、瀬崎の手が額に触れていた。顔と同様、なめらかな肌質かと思いきや、瀬崎の手のひらはゴツゴツとしていた。
 ひんやりと冷たくて気持ちがいい。
 そして、とてもいい匂いがする。

 美味しそうだ。

 朔夜は額にある瀬崎の手を取った。
 そしてその手首に唇を寄せる。

「赤羽……?」

 戸惑いが滲んだ声に、朔夜は掴んでいた瀬崎の手を慌てて放した。

(僕は今、何をしようとしてた……?)

 自分自身をコントロールできていないことにショックを受けた。そして歯が疼くのを止められず、さらに愕然とする。

(もう我慢できない……)

「……顔色、悪いぞ」
「触るなっ!」
 
 瀬崎が懲りずに手を伸ばしてくる。
 瀬崎を襲ってしまう焦りから、朔夜はその手を払いのけた。

 金色の瞳に戸惑いの色が浮かぶも、構っていられない。
 朔夜は左手の袖を肘までまくり上げ、自身の手首に歯を食い込ませた。
 己の身体である。気遣いは不要だ。口に含めるだけ錆臭い液体を吸い出し、機械的に嚥下えんげする。
 
 自分の血は味気ない。
 
 なかにはみずからの血を飲むために、健康的な肉体作りに励む吸血種もいるのだとか。
 ナルキッソスも青ざめる変態である。
 
 ただただ体液を循環させているだけなのだが、うまく身体が勘違いしてくれたようで全身の火照りが引いた。煮えたぎった脳も冷却されていく。
 同時に思考力も戻る。
 ふと、これも自慰行為なのではと思い至った。

(このくらいでいいかな)

 時間にして数分。
 その間、朔夜は全神経を吸血に使用していて、瀬崎の存在を忘れていた。

「何してんだ!」

 手首から唇を離す寸前、腕を引かれ、やっとそばに人がいることを思い出したのだ。

(ど、ど、どうしよう……。言い訳できない)
 
 恐々と見上げた先、瀬崎は苦しそうに顔を歪めていた。
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