君の血を吸わせないで(旧題 赤羽朔夜は吸血鬼ではありません!)

ヨドミ

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9話 瀬崎とはじめてセックスをする ♡

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 散々人のオナニーショーを鑑賞していた瀬崎は、自らが演者になるとは夢にも思っていなかったようだ。
 無表情だが、視線は右から左へと泳いでいる。

「俺がお前を抱くのか?」
「なんでもお願いしていいんでしょ」
「いや、その……」

 珍しく瀬崎は戸惑っている。
 朔夜に好意を持っていようと、それはあくまで吸血種への好奇心だ。
 百歩譲って友情を抱いてくれているのだとしても、それならなおさら男を抱けるわけがない。

「さすがの瀬崎も男に挿れるのは無理だよね」
「なんだその、さすがのって。男以前の話だ」

 まさかその整った顔で童貞なのか、と朔夜は偏見を全開にして疑う。
 
「俺を何だと思ってるんだ」
「カノジョのひとりやふたり、いたことはあるでしょ?」
「……」
「ならセックスはハジメテじゃないよね」 
「経験はない」

 それはつまり、そういう雰囲気になる前に別れてしまったということだ。
 人のオナニー姿を見たいと言い出すから、てっきり性的なことには慣れているものばかりだと思っていた。
 
(セックスに興味があるのかないのか、よくわからないなあ)

 瀬崎の不思議ちゃんキャラは、今に始まったことではない。
 
 経験がないのであれば、瀬崎に竿役を強いるのは心苦しい。
 落胆とともに腹の中の熱も引いてくれればいいのだが、いまだにくすぶり続けている。
 
「自分で処理したいから、申し訳ないけど、ちょっと外で待っててもらえないかな」

 瀬崎の匂いを嗅ぎ続けるのは苦しい。
 刺々しくならないように気を付けてお願いをしたのだが。
 
「……無理とは言ってない」

 瀬崎はゆっくり立ちあがると、シャワー室へ向かった。
 その横顔が戦地にむかう兵士よろしく険しいものだったので、朔夜は笑っていいのか、悲しんだらいいのか、複雑な心境に陥った。


 浴室から微かに聞こえてくる水音をBGMに朔夜はふと冷静になる。

「まさか本気で僕とエッチするつもりなのかな」

 男のオナニー姿を平然と眺めることができるのと、いざ自分が突っ込むのとではわけが違う。
 前者は受け身の娯楽として楽しめるが、後者は能動的にならなければならないのだ。

「まず瀬崎は僕で勃つのか……?」

 挿れてもらうには、まず瀬崎のアソコを臨戦態勢にしなければならない。

 戻ってきた瀬崎の姿に朔夜はぎょっとする。
 腰にフェイスタオルを一枚巻いただけの状態である。
 無駄なく引き締まった胸板や、薄く縦に割れた腹筋が目に眩しい。

「赤羽?」

 髪を逆立せているとまんまヤンキーだが、濡れ髪だと優等生に見えなくもない。
 落ち着いた雰囲気の彼に、朔夜は不覚にも見とれてしまった。

 きょときょとと目を泳がせる朔夜に、瀬崎は不審そうに眉をひそめる。
 
「やっぱり具合が――」
「ふ、服は?」
「どうせ脱ぐだろ」
「――っ」
 
 堂々とした台詞に、おどおどしている自分が馬鹿らしくなってきた。
 
「……僕もシャワー浴びてくる」

 足早に瀬崎の横を通り過ぎる。
 不安定すぎる情緒を、冷たいシャワーで必死に鎮めた。
 

 ベッドで向かい合うも、タオルに隠された瀬崎の下腹部はしんと静まり返っている。

「まず君のペニスを勃起させる必要があるね」

(口でしてもいいけど、瀬崎は嫌かな)
 
「瀬崎、あの」
「……まかせる」

 朔夜が言わんとしていることを察した様子である。

「好みの女の子でも想像しててよ」
 
 朔夜は俯き右耳たぶを摘みながら、入念に脳内で行為のシュミレートをする。
 よし、と気合を入れ、タオルの裾をめくった。
 うなだれていても、朔夜の手より長い肉竿だ。
 その威容に朔夜は硬直するも、柔らかいそれをそっとすくい上げ、先端を口に含んだ。

「……っ」

 頭上で瀬崎が息をのむ気配がした。
 朔夜はといえば、ためらいなくペニスを口にしている自分に驚いている。

(吸血衝動を誤魔化すためなら、僕ってなんでもできちゃうんだな)

 己の浅ましさには呆れつつ、朔夜は瀬崎の急所に舌を這わせた。柔らかな先端から順に、茎や根元を丹念になめていく。

「赤羽、もう……」

 瀬崎は朔夜の髪に指を埋め、口淫をやめさせようとした。
 しかしまだ挿入できるほど勃起していない。
 朔夜はフェラを続けた。
 粘膜に包まれた肉竿はみるみる硬くなっていく。
 先端が上あごに擦れると同時に、尻のすぼみがキュンと疼いた。

(あと、ちょっとだ……)

 硬く反り返った雄槍に満足した直後、瀬崎は朔夜のこめかみを両側から掴んだ。

「んぅ……っ」
 
 あまりの締め付けに、朔夜は観念して唇を離す。

「気持ち悪かったかな?」

 歯を立てずに上手くやったつもりなのだが。
 フェラ自体初めてなので、自信はない。
 上目遣いで感想を聞けば、瀬崎はスッと目をそらして一言。
 
「悪い」
「そっか……」
「赤羽に挿れる前に出そうになった」
 
(あ、そっちの悪いね)

 お気に召してもらえてなによりだが、本来の目的を達成できなければお互い気まずい雰囲気になる。
 さっさと終わらせなければと、朔夜は瀬崎の目の前で脚を開いた。
 朔夜の口で大きく育ったペニスは、雄々しく天を向いている。

(入るかな)

 心配しても後戻りはできない。
 朔夜はコンドームの箱を瀬崎に手渡し、自分はボトルを傾け、ローションを手のひらに馴染ませる。
 濡れた指を尻のすぼみに押し込んだ。

「……ん」

 いつもより興奮しているせいか、指先はすぐさま飲み込まれていく。
 念のためゴムにもローションを塗りたくって、朔夜は瀬崎の膝にまたがった。

「行くよ」
「ああ」

 全くもって色気のない会話である。
 なくて当然だ。
 朔夜は瀬崎に恋愛感情を抱いていないし、瀬崎も同様なのだから。

(好きでもない相手と身体を繋げようとするんだから、瀬崎も物好きだよね)

 先端が窄まりをこじ開ける。

「……っふ」

 馴染み深い圧迫感に、朔夜はあごをのけ反らせた。

 朔夜の場合、性欲を感じると同時に吸血衝動が高まる。ついで血を飲むと性欲は増し、一定量を摂取すればゆるやかに欲情はおさまっていく。
 つまり、血を飲めばセックスや自慰を行う必要はないのである。
 頑なに本能を禁じているがゆえに、ルームメイトと寝る事態に陥っていた。

(僕みたいな変態にいいように使われて、瀬崎はどうして怒らないんだろう)

 とりとめもなく考え事をしていたが、いざ屹立が狭い腸壁を抉ってきた瞬間、何も考えられなくなった。

(これは、作り物の比じゃない!)

「あ、はあ……」
「……熱っ」

 瀬崎は朔夜の腰を掴んで、小刻みに揺すった。
 朔夜も慎重に尻を下ろしていく。
 粘ついた水音と、ベッドが小さく軋む音、それに二人の息遣いが室内を満たした。

 そして。

 臀部が瀬崎の股の間にピッタリと重なる。

「全部入ったな」
「そ、そうだね……」

 唇が触れそうな距離で見つめ合う。気まずい。
 朔夜は瀬崎に仰向けになるようお願いした。
 瀬崎は朔夜の言う通り、仰向けに寝そべった。
 いわゆる騎乗位である。
 朔夜はスクワットの要領で自ら腰をあげ、沈めた。
 上下の動きに合わせて、硬い雄茎が腸壁に擦れ、背筋がゾワリと粟立つ。

「は、あ……」

 お世辞にも大きくはない、朔夜のペニスはみるみる反り返り、先端から透明な雫が滲んだ。
 朔夜は瀬崎の腹に手を置いて、思うままに快感を追いかける。

「……っ、赤羽」

 瀬崎の掠れた声が耳朶を震わせる。脳に甘く痺れるその音に後押しされ、朔夜は片手で己の分身を扱きながら、大胆に膝を屈伸させ続けた。
 さすがに脚が限界を迎え、瀬崎のペニスを根元までのみ込んだ状態で息を整える。その直後。

(あ、もう、でる)

 下半身がぶるりと震えた。ピュッと勢いよく先っぽから白濁が飛び出す。瀬崎の腹に二、三滴跳ねた後、残りの精液は竿を伝い落ちていった。
 同じタイミングで瀬崎が喉をそらせる。艶めかしいため息をついた矢先、しまったという表情で瀬崎は朔夜の腹部を凝視する。

 同時に達したようだ。
 瀬崎は朔夜と繋がったまま、ゆっくりと起き上がる。そして、朔夜のなかから萎びた雄を抜いた。
 ゴムだまりには白濁がぽってりと溜まっている。

(瀬崎も気持ちよくなれてよかった)
 
 自分一人だけ満足したわけでない。
 瀬崎を利用した後ろめたさが薄まり、朔夜はホッと胸をなでおろした。
 相手がいると、不思議な満足感を覚える。
 ディルドを使った時よりも断然、吸血衝動の収まりが早い。
 
(癖になりそう……)

 今回が最初で最後だ。名残惜しいがこれ以上、瀬崎を巻き込むわけにはいかない。

「瀬崎、ほんと、ありがとう。今度食堂で何か奢るよ……。瀬崎っ」
 
 瀬崎が朔夜の肩に顎を乗せたものだから、声が裏返ってしまった。
 ハリのある肌が目の前に晒されている。若々しい素肌にしっとりと汗が浮いていた。
 朔夜は思わず喉を鳴らしてしまう。

「俺の血、吸えよ」

 瀬崎は朔夜の背中を叩いた。まるで赤子をあやすようである。

(全く君は何言ってるんだよ)

 吸血種が忌み嫌われるのは、血を吸うことで、人を死に至らしめることがあるからだ。
 恐れられるのは当然のこと。
 朔夜は嫌というほど思い知っている。
 金髪の上級生トリオの反応が正常で、瀬崎のように平然と血を吸えと言い出すのが異常なのである。

 いっそのこと、言われるがまま血を思う存分、吸ってやろうか。
 
 朔夜の中で暗い衝動が沸き起こった。

 しかし、いざ瀬崎の首筋を目にすると、過去のトラウマがよみがえる。
 
 中学生になったばかりの頃だったと思う。
 夜中、トイレに目が覚めると、両親の寝室のドアが少し開き、部屋の明かりが廊下に一筋漏れていた。
 眠い目を擦り、自室に戻ろうとした矢先、苦しそうな母の声がした。
 もしや父が寝てる間に、母の具合が悪くなったのかと、朔夜は慌てて扉に近づいた。

「あぁ、もっとぉ……」

 ベッドの上に全裸になった両親がいた。
 仰向けになった母は覆い被さった父の腰に両足を絡め、喘いでいた。
 ギシギシ、パチュパチュと聞き慣れない音が二人からする。
 父は身体を母にぶつけ、グルグルと喉を鳴らすばかりで、言葉を発しない。母の首筋に顔を埋めており、その顔は見えなかった。
 とても声をかけられる雰囲気ではない。
 朔夜は扉の端を握りしめ立ち尽くした。
 すると、父が顔をあげこちらを振り返った。
 その口元は真っ赤に染まっている。
 父が母の血を吸っていたのだ。
 何よりも恐ろしかったのは、母の尻に敷かれても、ニコニコと笑顔を絶やさない普段の父が、そこにいなかったことだ。
 穏やかな黒い虹彩は血のように赤く輝いており、父は言葉を失った獣に成り下がっていた。
 朔夜は震える足をなんとか宥め、自室に戻る。
 これは夢だと何度も言い聞かせ、眠りに落ちた。

 翌日。両親たちはいつも通り穏やかな笑みを朔夜に見せる。
 夢だったんだと安堵したのも束の間、母の首筋が包帯で覆われているのを目にし、朝食が喉を通らなかった。
 

 走馬灯のように脳裏を走り抜けた記憶のせいで、実際に口から出た言葉は、
「……吸わない」
「なんで」
「危ないからだよ」
「まだ満足できてないんだろ」

 瀬崎は朔夜の股間を指さした。朔夜は自身の股間に目を落とし、ぎょっとする。
 尻で気持ちよくイケた。それなのに、ペニスはふるふると半勃ちしている。

「セックスで回復できないほど、体力消耗してる証拠だ」
「僕、今日、何もしてないよ」
「罵倒されてた」
「あんなの慣れてるよ」

 化け物だなんだと非難されるのは、今に始まったことではない。
 自覚がないだけで相当ダメージを負っていたのかもしれないが……納得できない。
 
「悪意に慣れる必要なんかない」
「そうだね」
 
 ただの性欲ならこのまま放置していても問題ないが、朔夜の場合、そうもいかない。
 このまま放っておけば、遅かれ早かれ数日中に、血を飲みたくなる。
 前だけ擦っても、治まらないのは経験済みだ。
 なので後ろを使わなければならないのだが、正直、窄まりは限界を迎えていた。明日は代休とはいえ、寝込むことは避けたい。
 けれど血を吸って自我を保っていられる自信もない。
 八方塞がりである。

「赤羽は俺を傷つけないから大丈夫」
 
 瀬崎は無責任にも言葉を重ねる。

「君は本当に怖いもの知らずだね」

 瞼の裏には血に飢えた父親の顔がちらつく。

(僕は父さんじゃない。僕は僕だ)
 
 他に選択肢はない。
 朔夜は瀬崎の肩に噛り付いた。
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