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15話 瀬崎が朔夜の前でオナニーをする
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『人の目気にしてばかりじゃ、欲しいもんは手に入らねぇぞ』
先日、瀬崎に言われた一言が脳内で何度も再生される。
自分に言い聞かせているのか、朔夜に釘を刺したかったのか。
これといって欲しいものはない。
あえて挙げるとすれば、心穏やかに過ごせる日常である。
「ばね……赤羽!」
「え……わっ!」
右京の声に、ハッと我に返ると、教室内の喧騒が耳朶を震わせた。
文化祭まであと半月である。
文化祭の準備で、放課後の校内は戦場と化していた。
どのクラスも怒号や笑い声が響き、騒がしいことこの上ない。朔夜のクラスも例外なく、セリフ読みをする者、床に車座になって小道具を製作する者など、皆、自分の仕事に集中している。
「ドレス、少し引っ張るよ」
「う、うん……」
朔夜はといえば、衣装合わせ中である。
椅子に座る朔夜の足元では、右京がドレスの裾を一生懸命手直していた。針をスイスイ動かし、笑顔で対応する彼に朔夜は「不器用でごめん」と項垂れた。
「裾の長い服着慣れてないんだもん。しょうがないよ」
そう言ってくれるなら、練習用のスカートを穿かせてくれればいいものを、右京はニコニコしたまま、「散々練習したでしょ。練習着では出来たんだから、この衣装でもできるって」と言って甘えさせてくれない。
右京は衣装係と舞台監督を兼任している。いわばクラスを仕切るボスだ。彼の言葉は絶対である。
眠り姫の衣装は裾の長いドレスだ。生まれて初めての裾を引きずる衣服に朔夜は苦戦した。
数歩進んだけで足に布が絡まり、つまずいては転びを繰り返した結果、純白のドレスの裾はボロボロになってしまった。
「脚本的にはアウトだけど、深窓の令嬢が、ドジっ子って個人的にはギャップ萌えなんだよね」
(どこが深窓の令嬢だよ……)
ストレートロングのカツラを装着し、赤い口紅を施した己の姿を鏡で確認した第一印象は、まるで――。
「幽霊だよ」
「そんなことないって。赤羽、めっちゃ肌綺麗じゃん。化粧のりもいいし、女子も羨むスベスベ肌だよ」
「そ、そうかな……」
「使ってるスキンケア用品、教えてよ」
「えーっと……特に何も使ってないんだよね……」
「嘘だね」
朔夜は冷や汗をかきながら、作り笑いを浮かべた。
本当のことは言えない。なぜなら。
(瀬崎の血を飲み始めてから調子がいいなんて、絶対言えない)
到底右京に勧められる美容法ではない。
吸血種にとって、人の血は必要不可欠なのだと痛感させられ、気分が沈んだ。
「もしかして、カノジョできた?」
口ごもっていたら、斜め上の勘違いをされた。
そういうことにしておいてもらったほうがいい。
朔夜は曖昧に微笑む。
「へぇ――。赤羽に好きな子がいるって知ったら、瀬崎はどういう顔するんだろうね」
右京がにっこりと口角をあげた。
朔夜に恋人がいようがいまいが、瀬崎には関係ないではないか。どういう脈絡なのかさっぱりで、朔夜は首を傾げる。
先日、恋人ができたのではないかと疑われた際、瀬崎は鬼気迫る勢いで朔夜に詰め寄った。あれは観察対象である朔夜が他の人に懐いてしまうのを恐れたからだ。
瀬崎以外に頼れる相手が現れれば、自分から離れてしまうと焦った故の奇行だったのだろう。
「困りはしそうだけど……」
考え考え答える朔夜に、右京は目を丸くした。
そして真剣な顔をして背後を振り返る。
「瀬崎さん、これは脈ありなのではないでしょうか?」
「……俺で遊ぶな」
瀬崎は眉をひそめて友人をたしなめた。
その周囲を二、三人の衣装係が取り囲んでいる。
王子役が佐田から瀬崎に急遽変更になったため、衣装の調整が急ピッチで進められていた。
衣装に合わせて、金髪をオールバックにした瀬崎はどこぞの王族と言っても過言ではない威厳をたたえている。元々育ちがいいのだろう。深い藍色のロングコートがまっすぐ伸びた背筋に映えている。
(佐田くんには悪いけど、瀬崎の方が王子様って感じがするよね)
クラスの評判も上々、それなのに当人は不機嫌そうなのだ。
なぜ佐田と役割を交代したのか疑問である。
朔夜の視線に気づいた瀬崎が、ジッとこちらを見つめた。
金色の瞳に赤い光が一閃した、ような気がする。
まっすぐな視線が身体中の血をざわつかせた。心臓がドクドクと早鐘を打つ。
(なんだか胸騒ぎがする……)
これはマズイと思う間にも、腹の奥からゾワリと怖気が走った。
朔夜が恐れているもの。それは己のうちに眠る吸血衝動だ。枯れ木についた種火が大きくなる如く、欲情が膨れ上がり、頭がぼうっとしてきた。
「赤羽……? 顔真っ青だよ」
大丈夫? と右京が下から顔を覗き込んでくる。
右京の肌は透き通るような白さだ。なめらかな肌の下に脈打つ血潮を想像してしまい、気が狂いそうになる。
マズい、ここから離れなければ。
そう思うのに身体が動かない。
頭上が暗くなる。見上げれば、しかめ面の瀬崎がいた。
「あ、こら瀬崎! コートに針ついたままなんだから動くなよ!」
衣装係が呼び止めると、瀬崎は藍色のロングコートを脱ぎ捨て、朔夜を抱え上げる。
お姫様抱っこされても朔夜は抵抗しなかった。
あたたかい瀬崎の腕の中で猫のごとく丸くなる。
「保健室連れてく」
「あ……うん。いってら」
右京は驚きを隠せない様子で、しゃがんだまま、小さく手を振った。
瀬崎は教室を飛び出し、廊下をひた走る。
魅惑的な曲線を描く喉仏が視界の端にちらつく。
彼の血の味を思い出し、口の中に唾液が溢れた。
「ここで噛むなよ」
落ち着いた声音が、一心不乱に喉仏をなでる朔夜を正気に戻す。
(……また、瀬崎に助けてもらっちゃった)
計算ではあと一月は我慢できるはずだったのに。瀬崎といる時間が長くなるにつれ、身体のコントロールが難しくなっている。
右耳のピアスが、存在を主張するように疼いた。
瀬崎が向かったのは保健室ではなく、人気のない空き教室だった。
朔夜を椅子に座らせるなり、瀬崎はしゃがんでシャツの裾をまくり上げる。
引き締まっていて筋肉質な腕だ。例えるなら赤身肉。ごちそうを前にして、朔夜の喉が鳴った。
「なにしてるの……?」
「血、足りないんだろ」
「……大丈夫だよ」
「嘘つくな」
「嘘じゃない」
「目、赤くなってんぞ」
朔夜は素早く目元に指を這わせた。
すると瀬崎は口元をゆるめた。
「腹減ると瞳が赤くなるってホントなんだな」
慌てて目元を隠す朔夜を、瀬崎は、まるで小さな子供が駄々をこねているのを微笑ましく見守る親のように見つめ、微笑んだ。
(君が僕のことで悩んでるなんて、微塵も想像してないんだろうな)
瀬崎が自分のことをどう思っているのか。
朔夜は勝手に悩んでいる。
瀬崎は全く悪くない。
それでも。
「僕が苦しんでる姿が、そんなに面白いの?」
意図せず皮肉が零れた。
教室内で暴走しそうになったところを助けてくれた恩人に掛ける言葉ではない。
瀬崎は朔夜の次の言葉を待つかのように沈黙している。反論でもしてくれたほうがまだマシだ。
自分が器の小さい人間だと痛感し、ますます自己嫌悪に陥ってしまう。
「……ごめん。今の忘れて。うん。そうだよね。ほんとごめん。どうかしてた」
瀬崎が口を開こうとするのを許さず、朔夜はごめんと謝り続ける。
朔夜は膝を包むレース生地をギュッと握りしめた。
「……先に戻っててくれないかな」
朔夜は、苦笑しながら言った。
すると、
「俺はそんなに頼りないか?」
瀬崎も苦しそうに声を絞り出した。
「そんなことないよ」
「そうやってひとりで何とかしようとする癖、やめろよ」
吸血種であることを隠すため、自然、誰とも深く繋がらず、他者に頼らず生きてきた。
一人で吸血衝動と折り合いをつけてきた自負が瀬崎と関わるようになって崩れてきている。
瀬崎には何度も助けられている。
助けられてばかりで情けなく、劣等感を抱いているだけにすぎない。これ以上、惨めな思いをさせないでほしいだけだ。
「……情けない姿を、見せたくないんだ」
頼むからここから出て行ってくれ。
態度で訴えると、瀬崎は入り口に向かった。
願いが叶い、ホッと肩から力を抜いた瞬間。
カチャリと鍵のかかる音がした。
顔をあげると、瀬崎が扉の前にいる。
「情けない姿って例えば?」
放っておいてほしいと言っているのに、瀬崎はしつこく朔夜を追い詰める。
(やっぱり僕の反応を楽しんでるじゃないか)
分かってくれない彼に、ふつふつと苛立ちが募った。
こうなったら。
「自分で自分を慰めてるところだね」
自虐を込めて言ってはみたが、すぐに顔から火を噴きそうなほど恥ずかしくなる。
(何を言ってるんだ僕は)
目をギュッと閉じて後悔していると、至近距離でガタガタと大きな音がした。
不審に思い目を開ける。
瀬崎が朔夜と向かい合うように椅子を置き、衣装のズボンを下着もろとも脱ぎ捨てた。
(……は?)
露出狂のごとく 迷いのない脱ぎっぷりに、朔夜は度肝を抜かれた。
瀬崎は下半身をさらしたまま椅子に腰を下ろすと、朔夜の顔をひたと見据えながら、おもむろに柔らかい自身の雄を扱き始めた。
「ちょっと、待って何して」
「俺もオナニーする」
(……は?)
朔夜は慌てて立ち上がり、ドレスの裾を踏みつけたまま、中腰で硬直した。
先日、瀬崎に言われた一言が脳内で何度も再生される。
自分に言い聞かせているのか、朔夜に釘を刺したかったのか。
これといって欲しいものはない。
あえて挙げるとすれば、心穏やかに過ごせる日常である。
「ばね……赤羽!」
「え……わっ!」
右京の声に、ハッと我に返ると、教室内の喧騒が耳朶を震わせた。
文化祭まであと半月である。
文化祭の準備で、放課後の校内は戦場と化していた。
どのクラスも怒号や笑い声が響き、騒がしいことこの上ない。朔夜のクラスも例外なく、セリフ読みをする者、床に車座になって小道具を製作する者など、皆、自分の仕事に集中している。
「ドレス、少し引っ張るよ」
「う、うん……」
朔夜はといえば、衣装合わせ中である。
椅子に座る朔夜の足元では、右京がドレスの裾を一生懸命手直していた。針をスイスイ動かし、笑顔で対応する彼に朔夜は「不器用でごめん」と項垂れた。
「裾の長い服着慣れてないんだもん。しょうがないよ」
そう言ってくれるなら、練習用のスカートを穿かせてくれればいいものを、右京はニコニコしたまま、「散々練習したでしょ。練習着では出来たんだから、この衣装でもできるって」と言って甘えさせてくれない。
右京は衣装係と舞台監督を兼任している。いわばクラスを仕切るボスだ。彼の言葉は絶対である。
眠り姫の衣装は裾の長いドレスだ。生まれて初めての裾を引きずる衣服に朔夜は苦戦した。
数歩進んだけで足に布が絡まり、つまずいては転びを繰り返した結果、純白のドレスの裾はボロボロになってしまった。
「脚本的にはアウトだけど、深窓の令嬢が、ドジっ子って個人的にはギャップ萌えなんだよね」
(どこが深窓の令嬢だよ……)
ストレートロングのカツラを装着し、赤い口紅を施した己の姿を鏡で確認した第一印象は、まるで――。
「幽霊だよ」
「そんなことないって。赤羽、めっちゃ肌綺麗じゃん。化粧のりもいいし、女子も羨むスベスベ肌だよ」
「そ、そうかな……」
「使ってるスキンケア用品、教えてよ」
「えーっと……特に何も使ってないんだよね……」
「嘘だね」
朔夜は冷や汗をかきながら、作り笑いを浮かべた。
本当のことは言えない。なぜなら。
(瀬崎の血を飲み始めてから調子がいいなんて、絶対言えない)
到底右京に勧められる美容法ではない。
吸血種にとって、人の血は必要不可欠なのだと痛感させられ、気分が沈んだ。
「もしかして、カノジョできた?」
口ごもっていたら、斜め上の勘違いをされた。
そういうことにしておいてもらったほうがいい。
朔夜は曖昧に微笑む。
「へぇ――。赤羽に好きな子がいるって知ったら、瀬崎はどういう顔するんだろうね」
右京がにっこりと口角をあげた。
朔夜に恋人がいようがいまいが、瀬崎には関係ないではないか。どういう脈絡なのかさっぱりで、朔夜は首を傾げる。
先日、恋人ができたのではないかと疑われた際、瀬崎は鬼気迫る勢いで朔夜に詰め寄った。あれは観察対象である朔夜が他の人に懐いてしまうのを恐れたからだ。
瀬崎以外に頼れる相手が現れれば、自分から離れてしまうと焦った故の奇行だったのだろう。
「困りはしそうだけど……」
考え考え答える朔夜に、右京は目を丸くした。
そして真剣な顔をして背後を振り返る。
「瀬崎さん、これは脈ありなのではないでしょうか?」
「……俺で遊ぶな」
瀬崎は眉をひそめて友人をたしなめた。
その周囲を二、三人の衣装係が取り囲んでいる。
王子役が佐田から瀬崎に急遽変更になったため、衣装の調整が急ピッチで進められていた。
衣装に合わせて、金髪をオールバックにした瀬崎はどこぞの王族と言っても過言ではない威厳をたたえている。元々育ちがいいのだろう。深い藍色のロングコートがまっすぐ伸びた背筋に映えている。
(佐田くんには悪いけど、瀬崎の方が王子様って感じがするよね)
クラスの評判も上々、それなのに当人は不機嫌そうなのだ。
なぜ佐田と役割を交代したのか疑問である。
朔夜の視線に気づいた瀬崎が、ジッとこちらを見つめた。
金色の瞳に赤い光が一閃した、ような気がする。
まっすぐな視線が身体中の血をざわつかせた。心臓がドクドクと早鐘を打つ。
(なんだか胸騒ぎがする……)
これはマズイと思う間にも、腹の奥からゾワリと怖気が走った。
朔夜が恐れているもの。それは己のうちに眠る吸血衝動だ。枯れ木についた種火が大きくなる如く、欲情が膨れ上がり、頭がぼうっとしてきた。
「赤羽……? 顔真っ青だよ」
大丈夫? と右京が下から顔を覗き込んでくる。
右京の肌は透き通るような白さだ。なめらかな肌の下に脈打つ血潮を想像してしまい、気が狂いそうになる。
マズい、ここから離れなければ。
そう思うのに身体が動かない。
頭上が暗くなる。見上げれば、しかめ面の瀬崎がいた。
「あ、こら瀬崎! コートに針ついたままなんだから動くなよ!」
衣装係が呼び止めると、瀬崎は藍色のロングコートを脱ぎ捨て、朔夜を抱え上げる。
お姫様抱っこされても朔夜は抵抗しなかった。
あたたかい瀬崎の腕の中で猫のごとく丸くなる。
「保健室連れてく」
「あ……うん。いってら」
右京は驚きを隠せない様子で、しゃがんだまま、小さく手を振った。
瀬崎は教室を飛び出し、廊下をひた走る。
魅惑的な曲線を描く喉仏が視界の端にちらつく。
彼の血の味を思い出し、口の中に唾液が溢れた。
「ここで噛むなよ」
落ち着いた声音が、一心不乱に喉仏をなでる朔夜を正気に戻す。
(……また、瀬崎に助けてもらっちゃった)
計算ではあと一月は我慢できるはずだったのに。瀬崎といる時間が長くなるにつれ、身体のコントロールが難しくなっている。
右耳のピアスが、存在を主張するように疼いた。
瀬崎が向かったのは保健室ではなく、人気のない空き教室だった。
朔夜を椅子に座らせるなり、瀬崎はしゃがんでシャツの裾をまくり上げる。
引き締まっていて筋肉質な腕だ。例えるなら赤身肉。ごちそうを前にして、朔夜の喉が鳴った。
「なにしてるの……?」
「血、足りないんだろ」
「……大丈夫だよ」
「嘘つくな」
「嘘じゃない」
「目、赤くなってんぞ」
朔夜は素早く目元に指を這わせた。
すると瀬崎は口元をゆるめた。
「腹減ると瞳が赤くなるってホントなんだな」
慌てて目元を隠す朔夜を、瀬崎は、まるで小さな子供が駄々をこねているのを微笑ましく見守る親のように見つめ、微笑んだ。
(君が僕のことで悩んでるなんて、微塵も想像してないんだろうな)
瀬崎が自分のことをどう思っているのか。
朔夜は勝手に悩んでいる。
瀬崎は全く悪くない。
それでも。
「僕が苦しんでる姿が、そんなに面白いの?」
意図せず皮肉が零れた。
教室内で暴走しそうになったところを助けてくれた恩人に掛ける言葉ではない。
瀬崎は朔夜の次の言葉を待つかのように沈黙している。反論でもしてくれたほうがまだマシだ。
自分が器の小さい人間だと痛感し、ますます自己嫌悪に陥ってしまう。
「……ごめん。今の忘れて。うん。そうだよね。ほんとごめん。どうかしてた」
瀬崎が口を開こうとするのを許さず、朔夜はごめんと謝り続ける。
朔夜は膝を包むレース生地をギュッと握りしめた。
「……先に戻っててくれないかな」
朔夜は、苦笑しながら言った。
すると、
「俺はそんなに頼りないか?」
瀬崎も苦しそうに声を絞り出した。
「そんなことないよ」
「そうやってひとりで何とかしようとする癖、やめろよ」
吸血種であることを隠すため、自然、誰とも深く繋がらず、他者に頼らず生きてきた。
一人で吸血衝動と折り合いをつけてきた自負が瀬崎と関わるようになって崩れてきている。
瀬崎には何度も助けられている。
助けられてばかりで情けなく、劣等感を抱いているだけにすぎない。これ以上、惨めな思いをさせないでほしいだけだ。
「……情けない姿を、見せたくないんだ」
頼むからここから出て行ってくれ。
態度で訴えると、瀬崎は入り口に向かった。
願いが叶い、ホッと肩から力を抜いた瞬間。
カチャリと鍵のかかる音がした。
顔をあげると、瀬崎が扉の前にいる。
「情けない姿って例えば?」
放っておいてほしいと言っているのに、瀬崎はしつこく朔夜を追い詰める。
(やっぱり僕の反応を楽しんでるじゃないか)
分かってくれない彼に、ふつふつと苛立ちが募った。
こうなったら。
「自分で自分を慰めてるところだね」
自虐を込めて言ってはみたが、すぐに顔から火を噴きそうなほど恥ずかしくなる。
(何を言ってるんだ僕は)
目をギュッと閉じて後悔していると、至近距離でガタガタと大きな音がした。
不審に思い目を開ける。
瀬崎が朔夜と向かい合うように椅子を置き、衣装のズボンを下着もろとも脱ぎ捨てた。
(……は?)
露出狂のごとく 迷いのない脱ぎっぷりに、朔夜は度肝を抜かれた。
瀬崎は下半身をさらしたまま椅子に腰を下ろすと、朔夜の顔をひたと見据えながら、おもむろに柔らかい自身の雄を扱き始めた。
「ちょっと、待って何して」
「俺もオナニーする」
(……は?)
朔夜は慌てて立ち上がり、ドレスの裾を踏みつけたまま、中腰で硬直した。
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