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1章 最弱のドラゴン
わたしをころさないひと
しおりを挟むこのひとはとてもふしぎだ。隠しているけれども、体から放たれる威圧感は今まで多くの命を奪い自身の格を上げていったことの証明。私も同じように彼の糧とすればいいのに彼はそうしようとはしない。
他人事とは思えないと、彼は言った。
私と彼が似ている?どうして?
私は逃げ続け、つかまり命を奪われることを課せられたもの。
彼は追い詰め、相手の命を奪うことを課せられたもの。
まるで正反対ではないか。
ちゃんと話を聞いてくれたのも、私の言葉に答えてくれたのも、長い長い時間の中で彼だけだった。正確にはいないこともなかったが、みんな私に仲間を呼ばせてより多くの経験値が欲しいだけだったり、裏切った時の反応欲しさだったりだ。
もうずいぶん言葉を使ってなかったためたどたどしい私の言葉を静かに聞き、私の望みを聞いてくれる。ただの気まぐれだとしても、いつか気が変わって殺されるとしても、私はこの人と一緒にいたかった。
―一緒がいい、連れて行って。お願い。―
私の言葉に彼は一瞬固まり、脱力したように大きく息をついて天を仰いだが、だめだとは言わなかった。
―ありがとう―
彼は目を少し見開き、そしてしょうがないなぁというようにかすかに私に笑いかけた。
そこからの彼の動きは速かった。手際よく荷物を回収してまとめ、私を抱え外套の中に隠し移動を始めた。とりあえず東へ行くらしい。国の地理の知識なんて私にはないからわからなかったが、そこを超えるとなんとかなるらしい。途中腕が使えないと困るということで、私を抱えるのをやめ、今のように私がしがみつくようになった。
私もただ運んでもらうだけではない。彼が寝ているときの周りの警戒や、水場の方向を示したりということで役に立っている。はず。
「なんでこっちに水場があるってわかったんだ。」
―水場にはいきものたくさん。きけん。むり。―
「あぁ、命にかかわるものだから敏感なのか…。」
うん。むりむり。私には必要ないものだし。でもあなたには必要でしょう?
そんな感じで多少は貢献しつつ旅を続けていた。彼はなるべく見つかりにくい森や林を選んで通り、やむを得ないときは乗合馬車に乗ったりした。わたしが見つからないよう荷物を前に抱えて乗ったりと気遣ってくれるのがうれしくて尻尾でぺしぺししたら、いい笑顔で荷物と胸板で動かないよう締め上げられたので人前ではおとなしくしようと誓った。
そして私たちはとうとうシャンガル大森林に着いた。
今更置いていこうかとか言い出すが、ここまで連れてきておいて何をいまさら。それに置いていくにしてもここはない。なんだこの森は。ほかの森では食物連鎖の頂点になれる種がこの森では被捕食者に甘んじている。どいつもこいつも強すぎないかここの住人は。
でもこの人のほうがもっと強いんだよなぁ…。
今からこの森に入るというのに全く気負ったところがない。彼もこの森の生き物の気配を感じているはずなのに。
つまり彼にとってはここの住人は脅威でもなんでもないということか。
彼から私の生態について聞かれ、思考が途切れる。そういえばお互いのこと何も知らないなぁ。
このひとが知りたいなら教えてあげてもいいかな。私もこの人のこと聞いてみたいし。
でもまぁとりあえずはこの森を無事に抜けなければね。
私は少しおびえながら、彼は気楽に、大森林に足を踏み入れたのだった。
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