とじこめラビリンス

トキワオレンジ

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第6章・傷弓之鳥ーしょうきゅうのとりー

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 エレベーターは地上1階を素通りし、2階で止まって扉が開いた。
 今度のフロアは、とても狭いスペースだった。
 それぞれにスペード、ハート、ダイヤ、クローバーのマークが描いてある4枚の扉のみ。
 それ以外に目を引く物はいっさいない、
 エレベーターの出入り口から、その4枚の扉までの距離も1メートル程度。左右もすぐに壁で、おれ達4人が並ぶだけで、いっぱいになってしまう。
『みんなー、来たね。第2ゲームを始めるよ』
 4人がエレベーターから出ると、レマの声がした。
 狭い場所なので、かん高い声が反響して、なおうるさい。
『今度のゲームは個人戦。第1ゲームと違って、クリアできた人だけを次のフロアへご案内するよ』
 このゲームからは負けたらアウトと言うわけか。
 1度負けを経験している章純と希未の顔がこわばる。
 麻衣子だけは、まだゲームを体験していないせいか涼しい顔をしている。
『下の階でプレゼントしたトランプカードは、ちゃんと持って来てるかな?』
「これだな」
 ポケットに入れていた、スペードの6のカードを取り出す。
 ほかの3人も、きちんと持って来ている。
『いえーっす。今度のゲームは、そのカードがキーになるんだ。目の前の扉を見てごらん』
 言われるまでもない。この階には、それしか目に付くものはない。
 4枚の扉。そのカギ部分には、駅の改札や自動販売機のようなタッチセンサーがついてある。
『そのカードは、その4枚の扉のカギになっているんだ。対応するカードは見ての通り、同じマークだよ』
 それぞれの扉にひとりで入って、中の通路を進み、着いた先に第2ゲームが待っていると告げられた。
「扉によってゲームは違うのか?」
『まさか、全部同じだよ。そうじゃなきゃ不公平だろ。でもゲームの難易度は扉によって違うかもね』
 レマが最後に付け加えた一言に、希未の表情がさらにくもった。
 ゲームの難易度が何によって決められるかはわからないが、今のおれ達が持ってる数少ない情報でも多少は推測できる。
 カギになるトランプカード。この数字がゲームの難易度をあらわしているんじゃないか。
 希未もそう思ったから、恐怖を感じたのだろう。
 4枚のカードの中で、唯一の絵札。その中でも最高のKを持っているのだ。
 それに第1ゲームでもKのカードだったから一番手になり、何の事前情報もないままに負けている。
「希未、カード換えるか?」
「いいの?」
 おれからの申し出に、希未の表情がぱっと明るくなった。
 レマは理不尽なゲームを強いるが、判定や勝敗に対しての不正はしない。妙な言い方だが、そこに関しては信用できる。
 おれ自身、より難易度が高いゲームに挑戦したいと言う気持ちもあった。
 希未にスペードの6のカードを渡し、希未からハートのKのカードを受け取る。麻衣子からは腹に肘鉄を食らった。
「ぐほっ!」
 不意打ち過ぎてガードできなかった。
 一瞬息が止まり、目玉が飛び出すかと思った。
「な、なにすんだよっ」
 麻衣子に文句を言いたいが、腹に力が入らず、かすれた声しか出ない。
「なにすんだはこっちのセリフよ。ほらっ」
 小声の麻衣子が指さす先には、震える手でカードを持つ章純。おれと目が合ったのに気づいて、その手をさっとポケットに戻した。
 しまった。
 章純が希未にいい所を見せるチャンスだったわけだ。
 第2ゲームの内容にばかり気が向いて、そっちに気が回らなかった。
「このカードを希未に返して、もう一度章純と交換ってのは?」
「意味無いでしょ。章純くんの方が、数字が大きいんだから」
「だよな」
 すまん、章純。心の中で頭を下げた。
 スペードの前に希未、ハートの前におれ、ダイヤの前に麻衣子、クローバーの前に章純。
 それぞれのマークに対応した扉の前に立つ。
『みんなー、覚悟は決まったかい?』
 どこから見ているのか、ちょうどいいタイミングでレマが話しかけてくる。
『同じ扉に入れるのはひとりまで。通路の先に第2ゲームが待っているのは、さっきも言った通りだよ』
「ゲームの内容は?」
『それは後のお楽しみ』
 あくまで答えないつもりか。
『第2ゲームをクリアすれば、次のフロアへの道が開けるよ。出口は、みんな同じ所に出るから安心してね』
「それじゃあ、バラバラになるのは、このゲームだけなんだね?」
 希未が安堵の声を漏らす。
 希未だけじゃない。麻衣子と章純もほっとした表情をしている。
 おれだって肩の力が少し抜けた気がする。
 とはいえ、この扉をくぐったら、しばらく仲間はいない。
 ひとりだけの闘い。気を引き締めていかないとな。
「みんな、行こう」
 麻衣子がタッチセンサーにカードをかざすと、カチャリと音がしてカギが開いた。
「え、もう?」
 希未が困惑するが、こんなところで時間をかけても仕方がない。
 それぞれ扉を開けた。
 内部には照明の類は一切なく、完全な闇が続いている。
 中に入る前に、もう1度みんなの顔を見回した。
「出口で会おう」
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