毒舌セラピストによるお悩み解消は、やさしくないけど心の毒によく効きます!

Kinon

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第2章:息子の同性愛指向を治したい

3. 同性愛者なのはもともとだから原因はなし

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 クライアントの親子二人と葦仁いとよ先生、私の4人がセラピールームのテーブルに着いている。
 受付表に書かれた母親の呼び名は清美きよみさん。息子は啓祐けいすけさん。きっとこれ、普通に本名だ。
 そして、メインクライアントである清美さんの悩みは、本人の表現だとこう。

『息子が同性愛者となった原因を取り除き、同性愛指向を治したい』

 つまり……息子のホモを治したい。

 この悩みを解消させるセラピーがスタートした。



 今回のクライアントは二人。メインの清美さんは赤い壁が見える席、その対面に葦仁先生、窓に向いて啓祐さん、そして彼の正面に私が座っている。
 私を受付嬢だと思っていた清美さんは、私が同席することに文句をつけたけど。セラピーに必要な助手だと先生に言われ渋々了承した。
 それもあって、今日はなんだか居心地が悪い。

 まぁ出だしがあれだから、清美さんの味方な気分じゃないし……内容も共感出来ない、同情出来ない部類だし。
 今日は寡黙かもくな助手を徹底しよう。



「最初に言っておくけど、僕はあなたの悩みを悩みだと思ってない。だから、このセラピーのカウンセリングでは全力であなたの悩みを否定する」

 午後6時44分。
 葦仁先生の言葉で始まったセラピー開始時間を、ノートパッドに記入した。

「納得するまでつき合うから、遠慮なく反論して。それを僕が全て潰して、あなたの言い分がなくなった時点でカウンセリングは終了。そのあとで時間があれば、カラーセラピーを行う。いいかな?」

 う……わぁ……本当にどうしちゃったの? 何でそんなに臨戦態勢なんだ、先生!
 私はともかく、息子の啓祐さんは精神的にきついんじゃない?
 自分の性指向について母親とセラピストが、目の前で討論するなんて……。

 葦仁先生が尋ねた相手は、もちろん清美さん。3人の視線を浴びながら、彼女が口を開く。

「いいわ。これが悩む必要のないことだっていうなら、ぜひとも私にわからせてちょうだい」

 清美さん、応戦する気満々。
 いつもとはジャンルが違うけど、これもエンターテイメント……か?

「啓祐くん、きみもかまわない? 嫌な話を聞くかもしれないけど」

「かまいません。これで母が諦めてくれるなら」

 葦仁先生と見つめ合う啓祐さんの表情は穏やかだ。

「わかった。始めよう」

 清美さんに向き直り、葦仁先生はテーブルの上で両手を組んだ。

「あなたはヘテロ……異性愛者? 自分は女性で男性が恋愛対象なの?」

「そうよ。それが普通でしょう?」

「普通の定義を大多数とするならね。で、異性愛者になったのは何が原因?」

「なったんじゃなくて、もともとだもの。原因なんてないわよ」

「そうだね。啓祐くんも同じ。もともとだから原因はなし」

 葦仁先生が啓祐さんを見る。

「僕は自分の知識と経験からの思考で話を進めるけど、僕自身はゲイじゃない。異論や主張があったら、きみも遠慮しないで言ってほしい」

「わかりました」

 啓祐さんが薄く微笑んだ。

「じゃあ、次」

「待って。もともとだからってことあるわけないでしょう? 異性を愛するのが自然なんだから」

「さっきの普通という言葉は、ありふれていて特に変わっていないものという意味では間違ってない。だけど、異性愛者だけを自然っていうのはおかしいね」

「どこがおかしいの」

「人為的でないという意味では、同性愛者であることも自然だ。身体的精神的ともに病的要因も外的要因もない、自然発生だからね」

「過去のトラウマが原因でって場合はあるわよ。現に知人の娘さんは、男性恐怖症になって女性の恋人と暮らしてるもの」

「それはまた別の話だな。恐怖症は心の病。そのために恋愛対象から男性を排除した結果、同性を対象にするか恋愛を拒否するかになった可能性が高い。啓祐くんにはあてはまらない……そうだろう?」

 葦仁先生が確認する。

「はい。俺に女性に関してトラウマになるような経験はありません。特に苦手だとか嫌悪感があるわけでもないですし……つき合ったこともあります。一度だけ」

「ほら! 啓祐に彼女がいた時があったなら、もとは普通だったんじゃない。それなら治せるはずでしょう? もとに戻せばいいんだから」

 息子の言葉に興奮気味の清美さんに、啓祐さんが首を横に振る。

「違うよ。俺はその頃から男が好きだった。それを認めたくなくて彼女とつき合ったんだ。でも、つき合ってみてハッキリわかったよ。自分がゲイだって。彼女には本当に悪かったと思ってる」

「啓祐……」

 肩を落とした数秒後、清美さんは早くも気持ちを切り替えた様子で口を開く。

「でも、同じように自然なんだったら、同性愛者も同じくらいいるはずじゃないの。実際はいないでしょう?」

「確かに半数はいないね」

「そう! ごく少数しかいないんだから、あなたがあくまで自然だと言い張るなら、突然変異ということになるわね」

「自然突然変異が発生する割合は、DNAを1回複製する際の塩基対10億個に1個程度だよ」

 同意されたことに気をよくした清美さんの言い分を、葦仁先生が一笑に付す。

「自然に突然変異として同性愛者が生まれる確率はとても低い。あなたの言うごく少数ってどのくらい?」

「さぁ……1万人にひとりとか。同性愛なんて自然に反してるんだから、その程度じゃないの」

 思わずといった感じで、葦仁先生と啓祐さんが目を合わせた。

「清美さん」

 葦仁先生が溜息をつく。

「いくらなんでも無知過ぎるよ。同性愛者は少なくても3パーセント、両性愛者を含めれば5パーセント以上。20人にひとりはいる。1億人のうち500万人だね」

「そんなに……」

「性的マイノリティだからって、決して珍しくはない。そして、さっきも言ったけど、自分の意思や気分で選ぶことじゃない。自然になんだよ」

「子孫を残すっていう動物の本能に反してるでしょう? 人間は知能が高いのに、それが裏目に出てるのね」

「同性愛行為はイルカやペンギン、ライオン、ハチ……記録されてるものだけでも400種以上の動物にある。割合から見れば少数だろうけど。人間と違って肥満症にはならない野生動物なのにだ」

 清美さんが黙り込む。

「あなたにとって不自然だろうが何だろうが、同性愛者には自然なこと。だから、治したりやめたりは出来ない。もちろん、その必要もない。啓祐くん」

「はい」

「今、ゲイのせいで苦しんでることある? 何か困ってるとか不都合があるとか」

 葦仁先生の問いに暫し考え、啓祐さんがゆっくりと首を振って否定する。

「それなりに悩みはあるけど、ゲイだからっていうのは特にないです。母を…悩ませていること以外には」

 啓祐さんが清美さんを見る。

「それは彼女の問題だよ」

 葦仁先生は組んでいた両手を外し、やや乱暴に髪をいた。



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