毒舌セラピストによるお悩み解消は、やさしくないけど心の毒によく効きます!

Kinon

文字の大きさ
21 / 28
第2章:息子の同性愛指向を治したい

7. 誰かに自信を持って言ってほしかった

しおりを挟む
「自分の子どもが今幸せで、この先も幸せだと言う。そして、人を愛せる人間に成長してる。親として十分に幸せだって思わない?」

 答える前に、清美さんは啓祐けいすけさんと視線を合わせた。
 見つめ合う二人の瞳には、お互いへの愛情が映っているんだろう。二人が同時に微笑んだことでそれがわかる。

「そうね。幸せだわ……私」

 清美さんの声は落ち着いている。

「ずっと、誰かに自信を持って言ってほしかった。今の啓祐は幸せだって……」

「誰も言ってくれなかったんだ」

 葦仁いとよ先生の言葉に、清美さんが力なく頷いた。

「占い師はこんな感じかな? それは心配ですね、どうすればいいかみていきましょう。 セラピストだと、本人の心が軽くなるように、ご家族が前向きなサポートをしてあげてください」

「よくわかるわね」

 清美さんが薄く笑う。

「相談する度に不安になったわ。同情する人、共感してくれる人、あれこれと対策を提示してくれる人……みんな、私の悩みを肯定して親身に話を聞いてくれたから」

「悩みを相談されたら、まぁ……そうだろうな」

「誰も、先生のように否定してくれなかった。だから、これはやっぱりよくないことなんだって思うじゃない」

「よけいな不安をどんどん周りに貼りつけられて隠されたせいで、そこにある事実を認められなくなったんだね」

「今はもう、認めたわ」

 清美さんがキッパリと言う。

「先生。私の悩みは、悩みじゃなかった。ただの……自分勝手な思い込みだった」

 潔い人だ。
 これが本来の清美さん?
 不安と恐怖でガチガチに覆われてた彼女の心の武装を、先生がいたのか。

「違うよ。悩みじゃなくて息子への愛情だ。表し方がおかしかったから、変な形になってしまっただけ」

 葦仁先生が、唇の端を上げた。

「それでも、確かに愛情だ」

「ありがとうございます」

 清美さんが立ち上がり、頭を下げる。

「先生の言葉……痛かったわ」

「痛みは正気に戻るのに効果的なんだ。ごめんね」

 首を横に振り、清美さんが啓祐さんに近づいた。

「ごめんなさい」

 言い訳も弁解もない一言の謝罪。
 清美さんの思いを受け止めた啓祐さんがイスから離れ、素早く彼女を抱き寄せる。

「俺がちゃんと言わなかったから。諦めてとか変わらないとか、しょうがないことなんだとしか……俺のほうこそ、ごめん」

 清美さんの閉じた目から、こぼれた涙は一筋。

 ごめんって言葉に込められた意味は違うけど、それぞれがしっかりと相手に届いたら……悩みと一緒にわだかまりもとけてなくなるもの。

 時計を見やる。午後7時53分。
 今日のセラピーは、カウンセリングで終了だ。

「啓祐くん」

 葦仁先生も腰を上げ、クライアントの二人にあたたかい瞳を向けている。

「きみが自分を疑ったり後悔したりしない限り、他人の批判は力を持たない。幸せに生きてるなら、親に申し訳ないなんて思わないように」

「わかりました」

 清美さんの背に回した腕をほどき、啓祐さんが葦仁先生に向き直る。

「先生。俺、今日ここに来て本当によかった。ありがとうございました」

 勢いよくお辞儀をして、笑顔を見せる啓祐さん。その横で、清美さんも頭を下げた。

「感謝します。先生に会わなかったら私……自分の子どもを苦しめる親になっていくことに気づけなかったわ」

「もう、怯える必要はないよ」

「ええ。もっと強くならなきゃ」

「世間の認識はいずれ追いつく。神と呼ばれる力の捉え方はいろいろだけど、信じたいなら自分の中に基準を作るといい。自分にだけ通用する神を。芸術家みたいにね」

「そうするわ」

「あ、そうだ」

 葦仁先生が思い出したように部屋を見回す。

「あなたたちに2回目のセラピーは不要だけど、一応カラーセラピーだからね。今の心境に合う色を1枚選んで」

「選ぶって…この壁の絵から?」

「目につく色を。直感で」

 グルっと一周視線を巡らせた清美さんは、ゆっくりと青い壁へと足を進めた。



 張り詰めてはいない静かな空間の中。
 壁の前を2往復ほどした清美さんが選んだのは、紫色の絵だ。祈るように胸の前で両手を組んだ女性が淡く描かれている。

「青みの深い紫は霊性の象徴だ。精神性の高みへの到達と、神聖な愛を表す。クリアな藍色は内省。心がブレたらこれを見て、幸せかどうか自分に聞いて確かめてみて。西園寺さん、B5のクリアファイルを」

「はい」

 デスク脇のキャビネットから取り出したファイルを手に、葦仁先生が壁から絵を剥がすのを待つ。専用の粘土みたいなもので壁紙に接着されていたらしく、絵は簡単に外された。
 私が渡したファイルに、葦仁先生が紫色の絵を挟む。

「どうぞ」

 差し出されたファイルを受け取り、清美さんが再度頭を下げた。

「ありがとうございます」

「幸せに生きてください」

「先生も」

「もちろん、僕はそう決めてる」

 強い意志の透かし見える瞳で笑う葦仁先生の視線の先で、啓祐さんが頷いた。

「俺もそうします」

「あなたにも、失礼な態度を取ったわ。ごめんなさいね」

 清美さんが私に言った。

「いえ。悩みが解消されてよかったです」

「ありがとう」

「先生の評価が落ちなくてホッとしました」

「大丈夫。さらに上がるわ」

 リラックスした表情で笑う清美さんを見て、自然に口元がほころぶ。

 この部屋に4人で入った時はどうなるかと思ったけど。
 心の奥にあるものが表に出ないうちは、最後まで何がどこに向かうのかわからない。
 何にせよ。
 笑顔で終わるセラピーは、やっぱりいいな。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...