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第3章:彼女の浮気を疑いたくない
5. チャンスと幸運、サプライズのカード
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「ナンバー9の花束は、ギフト。喜びと美しさ」
「知ってるんですか?」
葦仁先生の言葉に、ソウタさんが驚きを含んだ声を上げる。
「何世紀も前から今も残るカードだからね。描かれたモチーフの象徴する意味をイメージとして参考にすることがある」
「彼女は占いに使ってます。俺はあんまり詳しく知らないけど」
「ナンバー2はクローバーだ」
葦仁先生が、ピンクの背景に黄緑と黄色、オレンジの葉のクローバーが描かれたボードをソウタさんの前に戻す。
「意味はチャンスと幸運、時としてサプライズ…いい意味でのね」
「チャンスと幸運…サプライズ…チャンス、幸運…」
ソウタさんは、呪文のように繰り返し呟いた。
「だから、先生は四つ葉を?」
「セラピーとしてなら、色をきみに選ばせて深層心理を解く用途に使う。今回はきみの背中を押すのが目的だから、そこは省いて…受付表の名前をヒントに、ラッキーカードを利用した」
葦仁先生がニヤリとした笑みを浮かべる。
「上の葉のリーフグリーンは自信を示す。彼女を疑いながらも、きみは自信を失くしてないはずだ。二人の愛は幻でもまがい物でもエゴの投影でもない。自信を持って真相を聞けばいい」
「先生は…」
クローバーをジッと見つめたまま、ソウタさんが口を開く。
「何だと思います? 彼女が男と会ってる理由」
「仕事上のトラブルを処理している。友人の彼氏、あるいは元彼から相談をうけている。過去の弱みを握られて脅迫されている」
「脅迫って…」
「何にせよ、きみに迷惑をかけたくない、マイナスになりたくなくて秘密にすることを選んだ可能性はあるだろう」
「そんなに俺って頼りないんですかね。喜びも苦しみも分かち合える存在には、まだなれてないんだな…」
肩を落とすソウタさんを見て、葦仁先生が目を眇める。
「きみの中で彼女はそうなってるの? 逆の立場だったら、彼女に頼れる?」
「そりゃ、ものによります」
「自分がイエスと即答出来ないことを、彼女に強いるのはおかしいね。実際、一緒に喜ぶのは簡単でも、苦しむのは難しいよ」
「それはそうだけど…」
「自分の抱える苦しみやマイナスを、躊躇なく愛する相手に背負わせる。きみがそれを平気で出来るなら、そうしてくれない彼女に不満を感じてもいい。違うなら、頼ってもらえないことを嘆く前に、自分から動け」
ソウタさんは、無言で葦仁先生を見つめた。
「きみが聞けば、彼女は本当のことを話す」
「先生、俺…今日聞きます。決心が鈍らないうちに」
「それがいい」
「ここに来る前より、怖くなくなったし」
「なら、よかった」
「万が一怖気づいて聞けなかったら、また来ます」
うっすらと微笑んで、ソウタさんが立ち上がる。
「真相がわかった時も、報告に来ます」
「楽しみにしてるよ」
「はい。ありがとうございます」
葦仁先生と私に頭を下げたソウタさんは、さっさとドアへ向かう。急いで追いつき、彼とともにセラピールームを後にした。
ソウタさんを見送ったあと、絵具の片づけをしに戻る。
葦仁先生は窓辺に立って、ぼんやりと夕日に視線を向けていた。
「ソウタさん、来ると思いますか?」
「来るよ」
私の問いに、振り返らずに答える葦仁先生。
「笑顔で?」
「たぶんね。真相が彼の手に負えるものなら」
「先生は、本当に浮気じゃないと思ってますか?」
「うん。理由はセラピーで言った通りだ。どうして?」
「浮気じゃないほうが、ソウタさんは真相を聞く気になるからそう言ったのかと思って。つまり…」
振り向いた葦仁先生が、言い淀む私を見て方眉を上げる。
「先生もソウタさんも、本当に彼女の浮気は許容出来るんですか?」
「ただの浮気で特に害になるような相手じゃなければ、大した問題じゃないだろう。まぁ本気になって別れることになったらつらいと思うけどね」
「そういう男の人もいるって知らなかったので…嘘というか強がって平気なフリしてると思ってました」
「僕の中では、男より女の方が独占欲は強いって認識だな」
「でも、プライドは男の方が高いでしょう? だからです」
「なるほどね」
葦仁先生が笑った。
「プライドなんかどうでもいいから、失くしたくない愛もある。それは男も女も同じだよ」
いいな。そんな愛があるって…羨ましい。
「そういえば、ソウタさんの彼女、このビルの店舗で働く占い師だって言ってました」
「へぇ…占い師。カードは仕事で使ってるのか」
「花束とかクローバーとか、普通のタロットにはないですよね。何のカードですか?」
「ルノルマン。タロットと違って占い専用のカードだよ。枚数も半分以下の36枚だ」
「詳しいんですね」
「一時期、オカルト系っていうのかな。神秘学の分野で調べ物をしまくったことがある。魔術やカバラなんかをいろいろと。その時に、タロットの知識を得た。流れでルノルマンも」
葦仁先生が唇の端を上げた。
「ここが廃業したら、占い師としてその辺の店で雇ってもらおうかな」
「クライアントにやさしい嘘がつけないとダメですよ」
「その点は大丈夫。必要な嘘と不要な事実を把握するのは得意だから」
毒舌じゃない、占い師の葦仁先生…想像出来ない。
あぁ、でも。
クライアントの幸せを目指す先生の姿勢が今と同じなら、案外いけるかもしれない。
「笑顔で来るといいですね、ソウタさん。もし…」
暗い顔で現れたら。
言わずに置いたその言葉を読み取って、葦仁先生が話を締める。
「笑顔でここから出られるように努めよう」
◆◆◆
ファイルナンバー105。
hanataba / ソウタさん。
恋愛の悩み。
カウンセリング&セラピーで解消方法を提示し、自身による実行を決意することにて解消。
「知ってるんですか?」
葦仁先生の言葉に、ソウタさんが驚きを含んだ声を上げる。
「何世紀も前から今も残るカードだからね。描かれたモチーフの象徴する意味をイメージとして参考にすることがある」
「彼女は占いに使ってます。俺はあんまり詳しく知らないけど」
「ナンバー2はクローバーだ」
葦仁先生が、ピンクの背景に黄緑と黄色、オレンジの葉のクローバーが描かれたボードをソウタさんの前に戻す。
「意味はチャンスと幸運、時としてサプライズ…いい意味でのね」
「チャンスと幸運…サプライズ…チャンス、幸運…」
ソウタさんは、呪文のように繰り返し呟いた。
「だから、先生は四つ葉を?」
「セラピーとしてなら、色をきみに選ばせて深層心理を解く用途に使う。今回はきみの背中を押すのが目的だから、そこは省いて…受付表の名前をヒントに、ラッキーカードを利用した」
葦仁先生がニヤリとした笑みを浮かべる。
「上の葉のリーフグリーンは自信を示す。彼女を疑いながらも、きみは自信を失くしてないはずだ。二人の愛は幻でもまがい物でもエゴの投影でもない。自信を持って真相を聞けばいい」
「先生は…」
クローバーをジッと見つめたまま、ソウタさんが口を開く。
「何だと思います? 彼女が男と会ってる理由」
「仕事上のトラブルを処理している。友人の彼氏、あるいは元彼から相談をうけている。過去の弱みを握られて脅迫されている」
「脅迫って…」
「何にせよ、きみに迷惑をかけたくない、マイナスになりたくなくて秘密にすることを選んだ可能性はあるだろう」
「そんなに俺って頼りないんですかね。喜びも苦しみも分かち合える存在には、まだなれてないんだな…」
肩を落とすソウタさんを見て、葦仁先生が目を眇める。
「きみの中で彼女はそうなってるの? 逆の立場だったら、彼女に頼れる?」
「そりゃ、ものによります」
「自分がイエスと即答出来ないことを、彼女に強いるのはおかしいね。実際、一緒に喜ぶのは簡単でも、苦しむのは難しいよ」
「それはそうだけど…」
「自分の抱える苦しみやマイナスを、躊躇なく愛する相手に背負わせる。きみがそれを平気で出来るなら、そうしてくれない彼女に不満を感じてもいい。違うなら、頼ってもらえないことを嘆く前に、自分から動け」
ソウタさんは、無言で葦仁先生を見つめた。
「きみが聞けば、彼女は本当のことを話す」
「先生、俺…今日聞きます。決心が鈍らないうちに」
「それがいい」
「ここに来る前より、怖くなくなったし」
「なら、よかった」
「万が一怖気づいて聞けなかったら、また来ます」
うっすらと微笑んで、ソウタさんが立ち上がる。
「真相がわかった時も、報告に来ます」
「楽しみにしてるよ」
「はい。ありがとうございます」
葦仁先生と私に頭を下げたソウタさんは、さっさとドアへ向かう。急いで追いつき、彼とともにセラピールームを後にした。
ソウタさんを見送ったあと、絵具の片づけをしに戻る。
葦仁先生は窓辺に立って、ぼんやりと夕日に視線を向けていた。
「ソウタさん、来ると思いますか?」
「来るよ」
私の問いに、振り返らずに答える葦仁先生。
「笑顔で?」
「たぶんね。真相が彼の手に負えるものなら」
「先生は、本当に浮気じゃないと思ってますか?」
「うん。理由はセラピーで言った通りだ。どうして?」
「浮気じゃないほうが、ソウタさんは真相を聞く気になるからそう言ったのかと思って。つまり…」
振り向いた葦仁先生が、言い淀む私を見て方眉を上げる。
「先生もソウタさんも、本当に彼女の浮気は許容出来るんですか?」
「ただの浮気で特に害になるような相手じゃなければ、大した問題じゃないだろう。まぁ本気になって別れることになったらつらいと思うけどね」
「そういう男の人もいるって知らなかったので…嘘というか強がって平気なフリしてると思ってました」
「僕の中では、男より女の方が独占欲は強いって認識だな」
「でも、プライドは男の方が高いでしょう? だからです」
「なるほどね」
葦仁先生が笑った。
「プライドなんかどうでもいいから、失くしたくない愛もある。それは男も女も同じだよ」
いいな。そんな愛があるって…羨ましい。
「そういえば、ソウタさんの彼女、このビルの店舗で働く占い師だって言ってました」
「へぇ…占い師。カードは仕事で使ってるのか」
「花束とかクローバーとか、普通のタロットにはないですよね。何のカードですか?」
「ルノルマン。タロットと違って占い専用のカードだよ。枚数も半分以下の36枚だ」
「詳しいんですね」
「一時期、オカルト系っていうのかな。神秘学の分野で調べ物をしまくったことがある。魔術やカバラなんかをいろいろと。その時に、タロットの知識を得た。流れでルノルマンも」
葦仁先生が唇の端を上げた。
「ここが廃業したら、占い師としてその辺の店で雇ってもらおうかな」
「クライアントにやさしい嘘がつけないとダメですよ」
「その点は大丈夫。必要な嘘と不要な事実を把握するのは得意だから」
毒舌じゃない、占い師の葦仁先生…想像出来ない。
あぁ、でも。
クライアントの幸せを目指す先生の姿勢が今と同じなら、案外いけるかもしれない。
「笑顔で来るといいですね、ソウタさん。もし…」
暗い顔で現れたら。
言わずに置いたその言葉を読み取って、葦仁先生が話を締める。
「笑顔でここから出られるように努めよう」
◆◆◆
ファイルナンバー105。
hanataba / ソウタさん。
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