この世界よりも、あなたを救いたい~幸運がいつもあなたのそばにあるように~

Kinon

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第7章 渦中へ

約束された祈り -2

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 シキを見る涼醒のが険しくなる。

「護りの力でラシャの制約はけないんじゃないのか?」

「その通りです」

「…ヴァイには、浩司を入れて今何人の継承者がいる?」

「今現在は8人ですが、浩司は9番目の力を持っています」

「浩司が…」

「つまり、リシールたちに確認されていない継承者が、どこかにもう一人存在することになります。そして、浩司が現れた時点で、彼らは9人の継承者がそろい得ると知ったのです」

「ヴァイには、そんなにはぐれたリシールがいるのか? 浩司だってそうなんだろ? いくら継承者だとしても、気づかず死んじまえばそれまでだ」

「最近まで一族との交流を持たずにいた浩司の事情は別ですが…ここ30年余りのヴァイでは、リシールの統率体系が厳しく、逃げ出す者も少なくないのです。そして、言い伝えから独自の解釈をし、9人の継承者の出現を待つようになった」

「…奴ら、護りの力で9人目を探すはらなんだな」

「恐らくは」

「ねえ、私には9人の継承者がどうのっていうのはよくわからないけど…もし後で護りを見つけたとしても、今回の発動には間に合わないじゃない。ラシャはそれでもかまわないの?」

 シキと涼醒の会話を無言で聞いていたキノが、しばしの沈黙の合間に言った。二人の視線がキノへと向けられる。

「護りがラシャに戻っても、発動の機会は一回減ることになるんでしょう?」

 シキが浩司をちらりと見やり、再度キノを見つめる。

「希音。現在の護りの在処ありかは思い出しましたか?」

「…ついさっき、浩司が倒れるまで無理させて…見つけたの…浩司の家よ」

 キノは唇をむ。

「浩司は…どうしても護りを見つけたいって…でも、ずっと無理をし続けるほどの理由をまだ聞いてないのに…」

「私は、まだ不安定な浩司の力で、護りの在処ありかが判明するところまではいかないと思っていました。彼が成し得なかった場合には、ラシャの者が代わりに記憶の誘導を行ったでしょう。本来なら、ここへ来てからはその方が無難ぶなんだったはずです」

「…どうしてそうしなかったの? そうすれば、浩司は…」

「本人の強い希望だったからです。私たちにあなたをまかせるのは断ると。ギリギリまで自分がやって出来なければその時はあきらめるが、必ず見つけると」

「希音、あいつ…ラシャを信用してないって言ってたんだ。発動者の心をぶっ壊そうとしたリシールたちもな。おまえまでそうされるのは耐えられなかったんだよ。そうだろ? シキ。あんたたちの容赦ようしゃないやり方は、俺だって知ってるさ」

 涼醒がシキにすごむ。

「たとえ浩司がいなくても、希音の納得しないことは…俺がさせないからな」

「…考え方の相違そういを今ここで議論しても仕方ありません。私たちは人ではなく、人間をまもるべき存在です。その目的の達成のために手加減は出来ない。けれども、その手段は選んでいるつもりです。ただ、それらの中には、あなた方には理解し得ないものもあるだけのことです」

「なら、理解出来るものが多いことを願うさ。とにかく、護りの在処ありかはわかったんだ。ラシャだって、どうせなら発動に間に合った方がいいんだろ?」

 シキのが涼醒を見据える。

「護りが明日中に手に入っても、私たちに今回の発動の権利はありません」

「何…!? まさか…」

 涼醒がハッと息を飲む。

「私たちは、この発見のにんを強く希望し、そして、結果として適任であったろう者のいのりを発動します。これはラシャが1000日後の発動を確実にするために、護りの発見を第一優先と考えた末の決定です。希音…浩司が護りを見つけたいと願うのはこのためです」

 キノは、シキのあか眼差まなざしを真直ぐに受け止める。

「今回の発動中に護りがラシャに戻った時、私が発動するのは…浩司の祈りです。ジーグとあなた方二人でヴァイに降りた場合、護りの発見が10日の未明に間に合わなければ発動は行われない。浩司がともに降りられるのなら、もう1日、時間の余裕があることになります」

「…護りの力を使って浩司は何を…。希音?」

 シキを見返したまま言葉を発しないキノの険しい表情に、涼醒がとまどう。

「それが何か、あなたは知ってるの? 何を祈るかは、浩司の口から聞くべきだと思うから言わないで」

 真剣な声でキノが言った。

「具体的にはわかりません。けれども、浩司に発動権を与える際、祈りの内容は世界に脅威きょういをもたらすものではなく個人的なものであることと限定してあります。ラシャの者にとって、約束はちかいです。条件を満たすかぎり、たがえることは許されないからです」

「私たちが護りを持ち帰ったとしても…11日の朝までに、浩司が目を醒まさなかったら? 」

「その時は、私が彼の意識を戻します」

「…危なくないの?」

「普通の人間の場合は、意識を失った後およそ二週間経過してからでなければ危険もありますが、浩司なら30時間程度経てば十分でしょう」

 キノは険しい顔を緩めもせずに続ける。

「もうひとつ…もし、護りを持ち帰れなかった場合に浩司が飲む条件は? あなたたちが私に護りを見つけさせるより、浩司の方がうまくいく可能性があったとしても…もし失敗したら? 成功したら護りの発動の権利を与えるくらいなら、その反対に浩司が払うものも大きいはずよね。お互いに見合った約束しかしないでしょう?」

 シキの視線がその強さを増す。

「持つ力の全てをラシャに返すことです。私が承知しました」

「待てよ。あんたたちにとっちゃ、今回見つかろうが後で見つかろうが同じだろ? 俺たちがあさって手ぶらで戻ったからって、浩司が力を返す必要はないよな?」

 険しい声で涼醒が言った。
「もちろんです。護りの発見は、ひと月後でも構いません。そして、護りをラシャに戻せない理由として考えられることは二つだけです。ひとつは、その在処ありかを判明させる前に紫野希由香の記憶が損なわれてしまった場合。この心配はもうありません」

「…あとはあれか」

「そう、護りをヴァイのリシールに奪われた場合です。しかし、ジーグがいるかぎりその危険はありません」

「だけど、浩司が降りれば、もし何かアクシデントがあって護りがすんなり手に入んなくても、あいつなら絶対ギリギリまであきらめないだろ? もしかしたら…置いてった方がいいんじゃないのか?」

「それは私も考えました。しかし、浩司を説得するのは不可能でしょう。力で眠らせることは可能ですが、それは出来ません。ラシャが理不尽な行為をするなら、彼と交わした全ての約束が無にすことになります」

「…浩司が降りて、もし、万一の事態が起きたら…」

 涼醒の動揺がキノに伝わる。

「何なの? 力がないとそんなに困るの? 浩司は最近までその力なしでいたんだから、平気じゃないの?」

「…希音。シキの言う力ってのは、人間で言う…命のことだ」

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