ソッチドッチ ~魔王と聖女の入れかわり! 入れかわれば、本当の姿が見えてくる?~

櫻恭史郎

文字の大きさ
140 / 205

第140話 笑ってはいけない舞踏会

しおりを挟む
 フランスの目の前で、イギリスがやたらと優し気な表情を顔にはりつけて、言う。

「わたしの先生なのですから、どうぞそのままで」

 あー、そう。
 そう来るの?

 主の愛を教える……先生ってこと?

 よくよく見ると、イギリスの表情は不自然に優しい顔で固定されている。

 絶対に、笑うの我慢してるでしょ……。

 いいわ、見てなさいよ。
 やってやるわよ。
 とんでもない先生を。

 フランスも、にっこりと笑顔を顔にはりつけて言った。

「まあ、そういうわけには、いきませんわ。あなたにとっては先生でも、教国において、わたくしは、ただの聖女、なのですから」

 ただの聖女、のところをいやみったらしく大きめの声で言う。目の前に、ただの聖女扱いをしている領主と奥方がいるので、ついでにあてこすっておく。

 イギリスが、悲し気なため息を、わざとらしくついて言った。

「先生。今日だけは、わたしのパートナーでいてくださる、約束ではありませんか」

「まあ、そうでしたわね」

 イギリスが領主に向き直って、今度は冷たい顔で言う。

「まさか、文句はないだろうな。彼女は、わたしの大切な先生だ」

 久しぶりに見た、とんでもなく尊大な雰囲気で、イギリスがつづける。

「わたしは、自分の気に入っているものを軽く扱われるのは嫌いだ」

 領主があわてて言う。

「失礼いたしました。聖女フランス様も、どうぞ、ごゆっくりとお楽しみください」

 おお。
 いつもふんぞり返っている領主が!

 すごい。

 奥方が、にっこりと言った。

「それにしても、驚きましたわ。聖女フランス様のもとで過ごされているとは伺っておりましたが、先生と呼ぶほどだなんて」

 イギリスが、よどみなく答える。

「ええ、素晴らしい先生です。聖書を読むその声も、讃美歌を歌うその声も、すべてこの世のものとは思えないほどです」

 フランスは笑いそうになって、ぎゅっと腹に力をこめた。

 よくも、讃美歌のことを話題に出してくれたわね。

 フランスもにっこりとして言う。

「陛下の讃美歌も素晴らしいですわ。今、ここで皆さんにお聞かせしたいほどです」

 イギリスがちょっと身動きするふりをして、ひじでフランスを小突いた。

 ドレスで隠れているので、フランスはこっそりイギリスの足をけりつけてやった。

 ふたりでにっこりと目を合わせる。
 イギリスの顔は口元だけ笑顔をつくっているが、目はこちらを睨んでいるようだった。フランスも多分、同じような顔をしている。

 その後は、めまぐるしかった。

 次々に貴族たちが挨拶にやってくる。
 フランスの、わがまま悪女を見せつけるどころではなかった。

 次々に交わされる挨拶に乾杯。また、乾杯。グラスをかえて、また乾杯。

 フランスがグラスにすこし口をつけると、アミアンがさっと近寄って、水のグラスと入れ替えてくれる。グラスが変わるたびに。アミアンは、軽々とフランスのグラスのお酒を飲み干していった。

 これのおかげで、わたしの社交界生活は保たれているわよね。

 じゃなきゃ今ごろ酔っぱらって、挨拶どころじゃなくなっているわ。

 ダラム卿のもとにも、たくさんの人が押しかけているようだった。どちらも身動きもできない状態だ。

 アミアンだけ、うまいことさっと移動している。

 さすがだわ。

 フランスは、アミアンのすばやい動きに感心しながら、次々にやってくる貴族たちに笑顔を向けて挨拶を返した。

 やれやれ。
 せっかく美味しいものも、少しは食べられると思ったのにな。

 フランスは会場のはしのほうに用意されている、高級なお菓子やら、軽食のほうに目をやった。

 いいな。

 イギリスが、フランスの表情をうかがうような仕草をして、わざとらしく大きめの声で言った。

「先生、お疲れになったのですか?」

 ほう。
 ここは、正直に。

「お腹がすきました」

 イギリスが、普段ぜったいにしなさそうな喋り方をする。

「おろかなわたしをお叱りください。先生がお腹を空かせるまで、気づかないなんて」

 大げさな言い方に、思わず笑いそうになるのをこらえたら、にらみつけるみたいな表情になってしまったが、フランスはそのまま言った。

「今すぐ、食べられないと、悪魔に支配されて、爆発してしまうかもしれません。わたしの心が」

 イギリスが長めの息を吐いた。

 耐えてるわね。
 爆発、よ。

 イギリスは、なんとか耐えきったのか、笑顔で言った。

「今すぐ、取ってまいります」

 イギリスは、さっそうと会場のはしに向かって歩いて行った。

 うそでしょ。

 さすがに、誰かに取りに行かせるとか、一緒に行くとかだと思っていたのに、ひとりで行ってしまった。

 フランスもぽかんとしたが、まわりも皆ぽかんとしている。

 あ、だめだめ。
 ぽかんとしちゃだめよ。

 当たり前みたいな顔しなくちゃ。

 フランスはつん、とあごをあげて、イギリスの尊大な態度を真似して待った。

 イギリスはすぐに戻って来た。
 手に持った皿に、これでもかと菓子と軽食が乗っていた。

 どう考えても下手くそな盛り方で、山のように盛られている。

 ぜったいわざとでしょ。
 盛り過ぎよ。

 誰が!
 舞踏会でそんなに食べるのよ!

 しかも、自分で取ったことなんてないんじゃないの?
 下手過ぎでしょ。

 フランスは笑いそうになって、唇をかんだ。

 イギリスが、大まじめの顔で言う。

「先生、どれがお好みですか」

 フランスはしっかりと皿の中身を把握した。

 生のフルーツがある!
 これは貴重‼

 フランスは「これ」と言って、フルーツが乗った焼き菓子を指した。

 イギリスがそれを取って、ヌガーを食べさせようとしたときみたいに、フランスの口もとに持って来る。


 ……。


 本気?


 フランスがイギリスの顔を見ると、笑顔だったが、目はなんだか耐えるような感じの目をしている。

 すっごく嫌そうなのに、なんで、するのよ。

 フランスも笑顔を作って口をあけたが、顔がひきつっているかもしれない。

 なんとか耐える。

 とんでもない人数の目に晒されながら、このバカみたいな茶番を全力でやりきる。

 耐えるのよ。
 これも、陛下が聖女フランスにとんでもなく入れ込んでいると印象付けるためよ。

 フランスは、満足するまでイギリスに軽食と菓子を食べさせてもらった。


 しっかり美味しかった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

引きこもり聖女は祈らない

鷹 綾
恋愛
内容紹介 聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。 人と話すことができず、部屋から出ることもできず、 彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。 「西の街道でがけ崩れが起きます」 「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」 祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。 その存在は次第に「役立たず」と見なされ、 王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。 ──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。 天候不順、嵐、洪水、冷害。 新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。 誰もが気づかぬまま、 「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。 扉の向こうで静かに生きる少女と、 毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。 失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。 これは、 祈らない聖女が選んだ、 誰にも支配されない静かな結末の物語。 『引きこもり聖女は祈らない』 ざまぁは声高でなく、 救いは奇跡ではなく、 その扉の向こうに、確かにあった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

処理中です...