163 / 205
第163話 ほっとする人
しおりを挟む
フランスの部屋にダラム卿が訪れると、ブールジュが立ち上がって言った。
「わたし、そろそろ行くわ。準備の途中で抜けてきたの」
ブールジュは、いま最も忙しい人物だろう。今回の式典の主役なのだから。
フランスは立ち上がって、いつも通り抱きしめようと手をひろげてから、止まった。
あ、そっか、今イギリスの姿だった。
ブールジュが、引き気味の顔をしながら、なんだかちょっと嫌そうに抱きしめてくれる。フランスは、物足りなくて、思いっきり抱きしめた。
「うええ」
ブールジュが、嫌そうな声を出して、思わず笑う。
「ちょっと、ひどいわよ。その反応」
「いや、普通でしょ。あんた、今、男の身体なんだからね」
「中身は女よ」
ブールジュはイギリスとダラム卿に丁寧に礼をし、アミアンに手を振って、あっというまに出ていった。
と、思ったら、扉から顔だけ部屋につっこむようにして、ブールジュが言う。
「フランス、あんた常に護衛騎士つけて動きなさいよ。あぶないから」
「うん、わかった」
それだけ言ってブールジュは首をひっこめて去っていた。
嵐が去った後のような部屋の中で、ダラム卿が扉をしっかりと閉めてから言った。
「おどろきました。いれかわりについて、お話になったんですね」
「ええ、古くからの友人なので、なんだか、あっという間にばれてしまって……」
「今回に限っては良かったのではないですか。明日の式典でも、事情を知る者がいたほうが心強いですし。この城でのことも、配慮してもらえるかもしれません」
「そうですね」
フランスは、イギリスに向き直って言った。
「イギリスも、ごめんなさい。ばれてしまって」
「きみの友人なら問題ないだろう」
フランスは、大きくため息をついて言った。
「なんだか一気に疲れたわ」
アミアンが、笑いながら言う。
「ブールジュ様、相変わらず、すごい勢いでしたもんね」
その後、イギリスと身体が入れかわってからは、あわただしい時間だった。
明日の式典の動きを確認するために、カーヴを起こして大聖堂に向かい、あれやこれやと指示を受ける。
フランスは、とくに何かをするということはなく、教皇直属となったことも、どうやら大々的に発表するということではないらしい。ただ、あの特別なストラをまとい、枢機卿ほどの権威を帯びた聖女の姿をしっかりとお披露目する、というほどの内容だった。
城に用意された自室に戻ったころには、すでに日が沈みかけていた。
城の廊下のあちこちに、身体の大きい騎士が目を光らせている。
西方大領主の紋章を持つ騎士と、教皇直属の紋章を持つ騎士がいる。なかなか、ものものしい警備体制だった。
聖女が全員集まる上に、教皇に、帝国の皇帝までいるのだから、ぴりぴりするわよね。
イギリスに、明日の動きを伝えておきたいところだけれど、これじゃ彼の部屋に行くのも難しいかしら。
フランスは、割り当てられた自室の前で、うしろについてきていたアミアンとカーヴに言った。
「今日は、長時間お疲れさまね。あとは、ふたりともしっかり休んで」
「お着替えの手伝いは、いらないんですか?」
「うん。今日はもう、ひとりでやるから、いいのよ。アミアンも疲れただろうから、そろそろ休んで。何かあったらすぐに呼ぶわ」
部屋は三つ並びで確保されている。
何かあれば、すぐにかけつけられるだろう。
フランスは、ふたりにおやすみを言ってから、部屋に入った。見慣れない部屋。なんとなく、息苦しい感じがして、窓という窓をあける。
ここは、三階だし、窓をあけても大丈夫よね。
テラスも大きくあけはなっておく。
夜風が、心地よい。
フランスは、大きく息をすって、吐いてから、ベッドに倒れ込むようにした。
脱力して、目をつむる。
ちょっと疲れたわ。
イギリス、なにしてるかしら。
ゆっくり、してるかな。
それとも、まだ仕事かな。
しばらく、そうして、ぼーっとしていると、こつこつという音が聞こえた。テラスの方から。
フランスが起き上がって、音のしたほうを見ると、テラスに男が立っていた。
「イギリス……」
フランスが近寄ると、イギリスが無表情に言った。
「こんばんわ」
フランスは、その他人行儀な様子に笑った。
また、ふざけているのかしら。
「こんばんわ。素敵な月夜ね」
「そうだな」
「ちょうど、良かった。あなたに会いたいと思っていたの」
「そうだろうと思って、来た」
相変わらず無表情で言う、イギリスに笑ってしまう。
「なんで、わたしが会いたがっていると思ったのよ」
「わたしも会いたかったから」
「そ……」
それは……。
フランスが、ちょっと言葉につまると、イギリスがいじわるな顔をして言った。
「ふん、きみでも恥ずかしがることがあるんだな」
「あるわよ。同じ気持ちだったなら嬉しいし、それが、ばれているならちょっと恥ずかしいでしょ」
フランスがそう言うと、イギリスがすこし驚いた顔をしたあとに、視線をそらしてわざとらしく咳払いした。
やめてよ。
余計に恥ずかしくなるじゃない。
フランスはテラスに出て、しばらくイギリスとお喋りを楽しんだ。明日のことを話したり、どうでもいいことを話したりする。
イギリスが、自分のマントをフランスにかける。
つやつやネコちゃんと同じ、イギリスの良い匂いがする。
なぜ、こんなに、ほっとするのかしら。
彼の匂いも。
声も。
その表情も。
月明かりの下で、リラックスして話すイギリスの顔が、好ましかった。
「わたし、そろそろ行くわ。準備の途中で抜けてきたの」
ブールジュは、いま最も忙しい人物だろう。今回の式典の主役なのだから。
フランスは立ち上がって、いつも通り抱きしめようと手をひろげてから、止まった。
あ、そっか、今イギリスの姿だった。
ブールジュが、引き気味の顔をしながら、なんだかちょっと嫌そうに抱きしめてくれる。フランスは、物足りなくて、思いっきり抱きしめた。
「うええ」
ブールジュが、嫌そうな声を出して、思わず笑う。
「ちょっと、ひどいわよ。その反応」
「いや、普通でしょ。あんた、今、男の身体なんだからね」
「中身は女よ」
ブールジュはイギリスとダラム卿に丁寧に礼をし、アミアンに手を振って、あっというまに出ていった。
と、思ったら、扉から顔だけ部屋につっこむようにして、ブールジュが言う。
「フランス、あんた常に護衛騎士つけて動きなさいよ。あぶないから」
「うん、わかった」
それだけ言ってブールジュは首をひっこめて去っていた。
嵐が去った後のような部屋の中で、ダラム卿が扉をしっかりと閉めてから言った。
「おどろきました。いれかわりについて、お話になったんですね」
「ええ、古くからの友人なので、なんだか、あっという間にばれてしまって……」
「今回に限っては良かったのではないですか。明日の式典でも、事情を知る者がいたほうが心強いですし。この城でのことも、配慮してもらえるかもしれません」
「そうですね」
フランスは、イギリスに向き直って言った。
「イギリスも、ごめんなさい。ばれてしまって」
「きみの友人なら問題ないだろう」
フランスは、大きくため息をついて言った。
「なんだか一気に疲れたわ」
アミアンが、笑いながら言う。
「ブールジュ様、相変わらず、すごい勢いでしたもんね」
その後、イギリスと身体が入れかわってからは、あわただしい時間だった。
明日の式典の動きを確認するために、カーヴを起こして大聖堂に向かい、あれやこれやと指示を受ける。
フランスは、とくに何かをするということはなく、教皇直属となったことも、どうやら大々的に発表するということではないらしい。ただ、あの特別なストラをまとい、枢機卿ほどの権威を帯びた聖女の姿をしっかりとお披露目する、というほどの内容だった。
城に用意された自室に戻ったころには、すでに日が沈みかけていた。
城の廊下のあちこちに、身体の大きい騎士が目を光らせている。
西方大領主の紋章を持つ騎士と、教皇直属の紋章を持つ騎士がいる。なかなか、ものものしい警備体制だった。
聖女が全員集まる上に、教皇に、帝国の皇帝までいるのだから、ぴりぴりするわよね。
イギリスに、明日の動きを伝えておきたいところだけれど、これじゃ彼の部屋に行くのも難しいかしら。
フランスは、割り当てられた自室の前で、うしろについてきていたアミアンとカーヴに言った。
「今日は、長時間お疲れさまね。あとは、ふたりともしっかり休んで」
「お着替えの手伝いは、いらないんですか?」
「うん。今日はもう、ひとりでやるから、いいのよ。アミアンも疲れただろうから、そろそろ休んで。何かあったらすぐに呼ぶわ」
部屋は三つ並びで確保されている。
何かあれば、すぐにかけつけられるだろう。
フランスは、ふたりにおやすみを言ってから、部屋に入った。見慣れない部屋。なんとなく、息苦しい感じがして、窓という窓をあける。
ここは、三階だし、窓をあけても大丈夫よね。
テラスも大きくあけはなっておく。
夜風が、心地よい。
フランスは、大きく息をすって、吐いてから、ベッドに倒れ込むようにした。
脱力して、目をつむる。
ちょっと疲れたわ。
イギリス、なにしてるかしら。
ゆっくり、してるかな。
それとも、まだ仕事かな。
しばらく、そうして、ぼーっとしていると、こつこつという音が聞こえた。テラスの方から。
フランスが起き上がって、音のしたほうを見ると、テラスに男が立っていた。
「イギリス……」
フランスが近寄ると、イギリスが無表情に言った。
「こんばんわ」
フランスは、その他人行儀な様子に笑った。
また、ふざけているのかしら。
「こんばんわ。素敵な月夜ね」
「そうだな」
「ちょうど、良かった。あなたに会いたいと思っていたの」
「そうだろうと思って、来た」
相変わらず無表情で言う、イギリスに笑ってしまう。
「なんで、わたしが会いたがっていると思ったのよ」
「わたしも会いたかったから」
「そ……」
それは……。
フランスが、ちょっと言葉につまると、イギリスがいじわるな顔をして言った。
「ふん、きみでも恥ずかしがることがあるんだな」
「あるわよ。同じ気持ちだったなら嬉しいし、それが、ばれているならちょっと恥ずかしいでしょ」
フランスがそう言うと、イギリスがすこし驚いた顔をしたあとに、視線をそらしてわざとらしく咳払いした。
やめてよ。
余計に恥ずかしくなるじゃない。
フランスはテラスに出て、しばらくイギリスとお喋りを楽しんだ。明日のことを話したり、どうでもいいことを話したりする。
イギリスが、自分のマントをフランスにかける。
つやつやネコちゃんと同じ、イギリスの良い匂いがする。
なぜ、こんなに、ほっとするのかしら。
彼の匂いも。
声も。
その表情も。
月明かりの下で、リラックスして話すイギリスの顔が、好ましかった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
引きこもり聖女は祈らない
鷹 綾
恋愛
内容紹介
聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。
人と話すことができず、部屋から出ることもできず、
彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。
「西の街道でがけ崩れが起きます」
「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」
祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。
その存在は次第に「役立たず」と見なされ、
王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。
──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。
天候不順、嵐、洪水、冷害。
新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。
誰もが気づかぬまま、
「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。
扉の向こうで静かに生きる少女と、
毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。
失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。
これは、
祈らない聖女が選んだ、
誰にも支配されない静かな結末の物語。
『引きこもり聖女は祈らない』
ざまぁは声高でなく、
救いは奇跡ではなく、
その扉の向こうに、確かにあった。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる