真実

霜月麗華

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3、噂

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 ー6月16日、雨風はすっかりと止み、毒性物資で繋がれた道路はすっかり乾き、気温も一瞬で高温へと変わった。毒性物質で繋がれた道路からは少々湯気が出て、水を掛けても直ぐに蒸発してしまう。此れも何かの不幸なのか?暗かった街は一瞬で絢爛、街の至る所に足掻きの水が撒かれている。学校のグラウンドは当然乾いていた。
 私は授業を聞かずに、グラウンドに居る学ぶ者達の動きを見ていた。
 学校の横の、直ぐ其処の毒性物質で繋がれた道路には、またあの宗教集団が列を成して、ユートピアを目指して、メカニカルな動きで勧誘していた。あんな踊りで、本当に享楽出来るのか?アレはただ、発狂しているだけなのか?
「どうした?」
城浜が私の肩をポンっと叩いた。私はハっと息を呑み、
「ごめん、なんでも無いよ」
私は黒板の方を見た。
「あぁ、何時ぞやの宗教か」
城浜は溜息を吐いて、
「見ない方がいいな」
私は頷いた。

       ◾️

 ー彼がまだ、この学校に転校する前の話、とある噂が出ていた。「この街に殺人鬼が現れた」だ。そんな根の葉もない様な噂話に騙された者達は、学校にも居た。合成写真を作り、私を犯人に仕立て上げたお馬鹿さんも居た。そして其れを信じるお馬鹿さんも居た。この学校には、阿保と馬鹿しか居ないのか?

       ◾️

 あれから私は、彼と一緒に昼飯を食べる仲になっていた。私と彼は毎日の様に昼休みになると、屋上へ行き、弁当を食べる。
 ある日、友達の児島が、教室に置いてあった花瓶を、単なる衝動で破壊してしまった。メカニカルに壊したのだ。
「あ、あ、いいな。いいな。ユートピア!あはは!さぁ!いざ行かん!あはははははは!」
児島は教室から走って出て行ってしまった。
「こ、児島!何処へ行く!?」
原崎が追う様にして訊いた。
「ユートピアだよ!あーははは!」
「児島!」
原崎は児島を追いかけた。
「先生!」
城浜は言った。
「今直ぐ!今直ぐに!私は!ユーーートピアに!行くのだぁぁぁ!」
「児島ぁ!」
児島はガラス窓に突っ込んだ。そして、3階から落下した。死んだと思った。だが児島は動き、毒性物質で繋がれた道路を練り歩く、踊りでユートピアを求める宗教集団の中に入って行ってしまった。発狂していた。発狂とは、こういう事を言うのか。
「勧誘されたんだ、アレに。そして信じてしまった」
皆んな、児島を恐れた。皆んな、あの様になりたくないと思った。
 その日以来、児島が学校に来なくなった。
 6月23日、また大雨と強風。私は怪我をした。右腕に大きな切傷。結構痛い。
 毒性物質で繋がれた道路はずぶ濡れになり、絢爛していた街はすっかり黒くなる。グラウンドは池を作り、波打つ。
 彼はまたずぶ濡れで突っ立っていた。
「大丈夫?」
「うん」
 彼の目線の先には、あの宗教集団が列を成して、ユートピア求めてメカニカルに踊っていた。
「サーン角じよーぎのかーんぞう!いまっにこーふくだぁー!ソッレ、こーふく!こーふく!」
狂っていた。
「あー、見てると頭おかしくなりそうだ!あぁ!」
 彼は頭を右手で抑えた。私は彼の左腕を握った。
「あっ」
「落ち着いて、、」
 私は彼に語りかけた。私は彼を後ろから抱いた。
「狂っては、ダメ」
 気がつけば私はずぶ濡れで、彼はボロボロ泣いていた。
「ごめん、」
 私はジッと目を閉じ、彼に言った。
「私と、アンタは、一緒。私が、アンタを守るから」
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