魔女に惚れた冷酷将官の求愛

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3話【ルハンの姉妹】*

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 《話は数年前に戻り:ルハン村》

 ルハン村の村長には娘が二人いる。ヨナ・ルハン15歳とその姉ムーン・ルハン16歳。二人の姉妹にはそれぞれ違う特徴があった。ムーンは魔力も少なく魔女の素質が無いことから魔女の学校への入学審査を通過することもできずに村の菜園の栽培の手伝いを熱心にしていた。この村の民はマルスーン国の民の多くにあるアッシュグレーの髪色をしていた。マルスーン国の民の多くはブラウン系の瞳の色をしているのだが【ムーン】は紫の瞳を持つ美しい娘だった。いにしえの魔女と同じ瞳の色を持つ娘は村一番の美人。そんな姉を持つ妹の【ヨナ】は、そのつぎに美しいと言われているが誰もが『雲の上の人』を見るような目でみていた。ヨナは姉とは『白銀の髪』を持ち姉と『紫の瞳』を持ち姉と『魔力に恵まれていた』のだ。

 そんな二人には幼馴染みの従兄いとこがいた。白銀の髪でブラウン系の瞳の色をしたとても優しい少年だった。薬草について学ぶために魔法学校に通う少年は17歳。学校から帰ってくると三人はいつも一緒に畑を手伝ったり遊んだりした。小さい時からずっと変わらず。そして彼は同じ髪色のヨナに惹かれ、ヨナが15歳で魔女の学校の審査が通り入学が決まった日ヨナは彼から結婚を申し込まれ、ごく自然に受け入れ家族公認となったが…ただ一人疎外感を抱く者がいた。二人といつも一緒にいたムーンである。ヨナが魔女の学校に受かり通い始めて1年後、従兄の少年は先に卒業をし薬草の商売を始めた。その時手伝いに名乗り出たムーンと共に行動することが増え二人は距離を縮めていった。

 ヨナの魔女の力の開花に、村人は『雲の上の人』から昇格し『神様』のような存在に扱われるようになり、従兄の少年も簡単には近付けない存在となり、従兄は自分が嫁に迎えるには格差を感じ結婚の話も一旦白紙へ。ヨナとの心の距離はどんどん離れ仲の良かった3人はおのずと遊ばなくなっていた。

 ヨナが卒業する数日前知らされたのはムーンの妊娠と、ムーンとユシークの結婚の話だった。

 ―〈彼と恋人になり、二人でこっそり遊んだ物置小屋でキスをしたこと。夜にこっそり夜空の星を二人で見にでて沢山キスをしたこと。〉―

 あの頃のドキドキして楽しかった思いでは、今では切ない思い出に変わってしまった。そうして周りの環境がムーンに味方した形になりヨナは二人を祝福した。切ない思いを胸にしまって。

 ・ * ・* ・ * ・

 18歳。卒業を迎えたヨナは最高位の魔女の勅命を受け隣の国へ派遣されることになり、二人を見るのもつらかったこの頃逃げるように王都に出掛けた。そうして、二人の結婚式の日、ヨナは王都に用があるからと理由をつけ最初だけ参加してすぐ王都に向かった。旅立ちに必要なものを買い集め、契約した従魔の背に荷物を預け、村に戻ることなく旅だった。両親にだけ旅立ちを告げ。

 そしてヨナは現在、ナハース国の図書室に迎えられ一日を終えようとしていた。彼女の今後暮らす部屋は図書室の奥の部屋。小さいけれど、キッチンとベッド、シャワールームもついているそこへ荷物を片付けたヨナは身に付けていた青い縁取りの生地がグレーのフードローブを脱いでハンガーに掛けると壁のフックに引っかけ、ベッドに大の字に倒れこみ、お腹には小さいままの従魔のルーがポフンと飛びのった。

「はあ~やっと一日が終わった。今日からここが私の居場所なんだね。」

 ヨナは天井を見上げ昔の事を色々思い出してしまえば、目蓋の隙間から光る粒がポロポロと頬をつたいシーツに染み込んで行った。お腹にいたルーがヨナの心臓の上の辺りに顔をのせて鼻を鳴らして一緒に泣いた。

ヨナの悲しみを共有するように一緒に泣いた。

「ルーありがとう。ふぅ。前へ進まなきゃね。」

 ヨナは自分に言い聞かせるようにして起き上がり、埃などで汚れた体を綺麗にするため、シャワールームにむかえばベッドに残されたルーはヨナの温もりが残るベッドの中央に丸くなると眠り始めた。

・ * ・* ・ * ・

 1ヶ月後にヨナのもとへと父からの手紙が届いた。姉ムーンが無事に子供を出産したとの知らせだった。ヨナとユシークが結婚の約束をしていた子供の頃の事などすっかり忘れているようなムーンの結婚と出産を喜ぶ文面に複雑な気持ちを抱えたヨナは苦笑いしながら手紙を握りしめた。

「私だっていつか素敵な人と出会うんだから!」

 一人図書室のカウンター奥に席について呟けば、ルーは心配そうに足元からヨナを見上げた。

「クゥ~ン」

(そしたらきっと、また昔みたいに三人仲良くなれるよね。今は彼と私の二人の思い出がよみがえってくるから辛くて会えそうにないけど、いつかきっと笑顔で再会しよう。きっと!あっ、でも恋人が居なきゃ始まらないかしら?)

そうしてヨナはルーを膝にのせると首もとを撫でながら一人クスリと笑った。

「今の私に興味をもつ方なんて現れるのかしら?ふふふ。」

 少し寂しげにヨナはふと呟やき、ルーは心配そうに見上げた。


    
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