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治療院
申請
しおりを挟むバハート国の空を盛んに竜が飛び交う。竜が空を飛ぶのは日常で、バハート国が誕生した頃より、国にいくつかある放牧地で竜達は時折人間と交流を繰り返し、いつしか一部の人間に友好的になっていった。
今では人間に懐いた一部の竜は、竜を操る騎士に従い竜騎士団が誕生した。
バハートは、様々な国から狙われている。バハート国は竜の生息地であるが、空を飛び、人を乗せられるほど大きな生き物は竜だけではない。
バハートを狙う国々にもまた、グリフォンの生息地があり、繁殖に成功させグリフォン騎士団が存在する。
戦いは地上を守る軍隊だけではなく、空もまた危険地帯。そのため、バハート国の空を守る竜騎士団は命をかけ戦い続けていた。しかし、竜が深傷を負うたび治療の術を知らないために、新しい竜を確保しなくてはなくなり、深傷を負ったら最後、竜は死を待つのみで…深刻な問題となっていた。
そんなある日、バハート国の王都に立つ役所の総合受付に治療院開設の申請に訪れた少女がいた。
幼さが残る小柄なその少女はシンプルなワンピースに珍しい白銀の髪、目元を隠すように伸びた前髪から、瞳の色や表情が読み取れずに謎めいていた。
「この国で治療院を開設したいのですが…」
「はい、王都役所にようこそ。治療院でしたら資格などはお持ちですか?」
「はい。」
「では、こちらの書類にご記入ください。その後奥の窓口にその用紙を提出ください。」
申請用紙を渡した総合受付の男性は少し怪しそうに思いながらも礼儀正しい少女に書類を渡した。
「ふむふむ。わかりました、ありがとうございます。」
彼女は頭を下げ、書類を受け取るとカウンターで書類にスラスラと必要事項を記入し、奥の窓口に書類を提出した。
「よろしくお願いします。」
少女は礼儀正しく頭を下げ、窓口の老人は受け取った書類に目を通し息を飲んだ。
「なんとっ…城に書類を、否、知らせを…しなくては。」
「申請、よろしくおねがいします。」
「わかりました。3日後にまたこちらへ来てください。正式な許可書をお渡ししましょう。」
少女が申請した治療院の治療対象は主に大きな生き物達の治療とあった。馬などの生き物ではなく、更に大きな生き物…
『治療対象、竜、グリフォンなどの大きな生き物。』
窓口の老人は書類に書かれた一部に目を留め、窓口を閉じると急いでその場を去った。
※
魔女シャロは申請の数日後、許可書を受け取りに役所に来た。
王都にある放牧地の片隅。
古びた馬小屋は白い光に覆われ、光が消えた瞬間…シャロの魔法で白いかぼちゃのハウスに変身した。
「さて、魔女シャロの治療院開業です!」
少女はシンプルなワンピースに白いエプロンをつけ、空を見上げた。
「竜を治療できるか?」
開業初日。空から負傷した竜が舞い降り、竜から騎士が降りてくるとシャロの治療院を訪ねてきた。
「はい。魔女シャロの治療院です。私にお任せください。」
シャロはおろした髪を後ろに束ねると前髪の隙間からその紫色の瞳を見開き、竜の治療に取りかかった。
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