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✼••┈第16話┈••✼ 前半(退任)
しおりを挟む王都ベルサール、宮廷警護団本部、執務室。
アレイラ戦争が終戦を迎え、一ヶ月半が過ぎた。
「あ―、疲れたあ」
エレナ団長が資料の山を睨み、ため息をついている。
それらはアレイラ帝国解体に伴い、諸国で話し合った議事録である。
宮廷を警護する私たちは、この内容を頭に叩き込み、自国と対立しそうな国がないかを確認しておかなければならない。
「ずっと資料を読みっぱなしですからね」
「……外に出てストレスを発散したいわ。ナオ、魔法を放てる場所とかどっかにないかしら」
「終戦したばかりなのに、物騒なことを言わないでくださいよ」
私はソファに座り、エレナ団長と同じ資料を読んでいる。約一か月分の議事録をくまなく読んでいるせいか、さすがに疲れた。事務作業続きで肩も凝り固まっている。
私は目頭を摘み目の緊張をほぐした。両腕を軽く回し、机にうつ伏せに倒れたエレナ団長へ視線を向けた。
「気分転換に、お茶にしますか?」
「するする!」
「資料、脇にどけますね」
私は、部屋の外にいる団員に二人分の飲み物と菓子を頼んだ。それが来る間に、資料を一か所にまとめ、テーブルの端へ追いやった。
エレナ団長は背伸びをし、固まった筋肉をほぐすと向かいのソファに座った。
菓子と紅茶が揃い、私が紅茶をすすり「はあっ」と息を吐きだしたところで、エレナ団長が話しかけてきた。
「ナオはこれからどうするの?」
「そうですね……」
私はアレイラ戦争を終わらせるためにカザーフ王国軍に入った。終戦を迎えた今、私がここにいる理由はない。
私はこのままカザーフ王国軍内で功績をあげようとは考えていない。ここを辞め、別の事をしようとは思っている。
「冒険者に戻ろうかと思ってます。でも、また戻ってもなあ……、と悩んでいます」
「ナオなら、色んな冒険者パーティから誘われるでしょ。何を悩んでるのよ」
「この戦争以上の経験を冒険者に戻っても得られるのか、ですね」
「そうねえ……。S ランク以上の依頼じゃないと無理なんじゃないかしら」
「ですよね」
私の思っている通りの答えがエレナ団長から返ってきた。
アレイラ戦争で大きな戦果をあげた私が冒険者に戻れば、勧誘してくるパーティは山ほどいるだろう。けど、この戦いと同等の経験を得るにはランクの高い依頼をこなせる者たちのみに限られる。
加えて、今の私が普通の冒険者パーティに馴染めるとも思えない。
「先ほど読んだ議事録に『各国合同の模擬演習』という案が出ていたので、その概要が出次第かなと考えていました」
「……そんなの書いてあったっけ?」
「ありましたよ。えーっと」
私は模擬演習の資料をエレナ団長に見せるため、片付けた紙束を漁ろうと立ち上がると、エレナ団長はそれを止めた。
「やめてよ。休憩したばっかりなのに仕事の話はしたくないわ」
「そうですか。まあ、それまでは副団長として仕事を手伝いますよ」
「そう」
彼女の訴えを聞き、私はソファに座った。
私とエレナ団長の仲はここ数日で修復された気がする。彼女とのやり取りが出来なくなるのが寂しいと思えるまでに。
「元アレイラ帝国の始末もあらかた終わったし、実戦任務が入ってこないかしらねえ」
「エレナ団長はすぐ外へ出る理由を探していますね」
「そらそうよ。こういう事務はぜーんぶザリウスがやってたんだから」
「へえ。そういえば、ザリウスはアレイラの復興に尽力しているんでしたよね」
「そうよ。家出皇子で戦時中に私たちを裏切ったけど、長年、カーザフ王国に仕えていたからね。ホースデン国王はアレイラの復興にあいつを任命したわ。あっちの情勢が落ち着いたら、こっちに顔を出すかもね」
ザリウスがいない今、その役割が私に代わったということか。とはいえ、私はいずれここを辞める身。それまでにエレナ団長が人並みに事務処理が出来るよう目を光らせておかないと。
アレイラ戦争が終結した後、ザリウスはアレイラ六世の下で帝国再建を補佐している。
戦後、アレイラ帝国はカザーフ王国の領土になった。とはいえ、アレイラの治安はまだ混乱したままだ。その上で、カザーフ王国の法律を土台とした新体制の国家を作らなければならず、ホースデン国王は両国の事情に詳しいザリウスを補佐役に任命した。
「帝国復権!とかいって、ザリウスに出し抜かれないといいけど」
「あはは……」
アレイラ戦争の前科もある。エレナ団長の冗談を聞き、ザリウスならやりかねないと私は思った。
コンコン。
私とエレナ団長が雑談をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
私は壁時計を見た。ホースデン国王との謁見の時間が近づいている。部屋の外にいる部下が、それを知らせるためにノックしたのだろう。エレナ団長もそれに気づいたようで、カップの紅茶を飲み干しソーサーの上に置いた。
「そういえば、時間じゃない?」
「そうですね」
「あー、ちょっと身支度してから行こっか」
「私は先に行ってますよ」
「え!? なんでナオは身支度が終わってるのよ!」
「エレナ団長と違って、サボっていませんから。空いた時間で整えたんです」
「ふんっ! 先、行ってなさいよ」
私は席を立ち、エレナ団長に余裕の笑みを浮かべ、団長室を出た。
ホースデン国王は私とエレナ団長を呼び出した。戦後処理も落ち着き、各国の意見も出揃ったため、アレイラ帝国へ視察へ行くつもりなのだろうか。そうなれば、宮廷警護団が国王の護衛として同行しなくてはならない。
玉座の間まで、国王に呼び出された理由を想像しながら歩いた。その間、すれ違った人たちから視線を感じる。呼び出されたことが城内で広まっているのだろう。
「ナオ殿、エレナ殿は?」
「もう少ししたら来ます」
玉座の間の前にいる兵士に声を掛けられ、私は聞かれたことに答えた。
しばらくその場で待っていると、駆け足でエレナ団長が来た。約束の時間の数分前だ。
エレナ団長の呼吸が落ち着いたところで、私たちは玉座の間に入った。
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