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✼••┈第15話┈••✼ (終戦)
しおりを挟む各国の軍人を説き伏せたエレナ団長は、翌日から行動に出た。
まず、待機しているアレイラ帝国軍に書面を送った。書面の内容は、交渉の場を設けたいという提案と、その期日だ。
一日後、向こうから「交渉を受け入れる」と返事が返って来た。
そして、交渉当日。
私はエレナ団長と数十人の連合軍の兵士と共に、トナナ村とアレイラ帝国軍がいる場所の間にある小高い丘に向かった。
少数にしたのは、大勢で訪れると、アレイラ帝国軍を刺激するかもしれないとエレナ団長が判断したからだ。私は彼らと面識がある、という理由で同行する事になった。
トナナ村を出発して二時間。私たちは交渉の場所に到着した。
「あなたたちと戦争を終わらせる交渉をしに来たわ」
エレナ団長は、待っていたアレイラ帝国軍の兵士と帝国軍の軍師を見るなり、そう言い放った。
「書面でも書きましたが、我らがそれに応じるかは内容次第です」
帝国軍の軍師は、胸を張り、余裕ぶった態度のエレナ団長をとても警戒しているように見える。
あの軍師はザリウスと対話した時、後ろにいた人だ。それを思い出した私は、エレナ団長の隣に立ち、厳しい表情の軍師に頭を下げた。
「ああ、あなたでしたか。確か――」
「ナオです。隣にいるのは私の上官です。先日まで王都ベルサールにおり、不在だったため、前回の対話では部下の私が代理で出席しました」
「そうでしたか。では――」
私がエレナ団長の素性を軍師に伝えると、彼の警戒心がいくらか和らいだ気がした。軍師は私とエレナ団長を交互に見ていた気がする。私の顔を見つめていたので、決め手となったのは私だろう。
「ナオ、傍で待ってなさい」
「はっ」
交渉は、数人しか入れない小さなパビリオンテントの中で行われるようだ。
エレナ団長は私を指名し、パビリオンテントへ入った。
テントへ入ると、エレナ団長と帝国軍の軍師が向かい合うように座った。私はエレナ団長の真後ろに立ったまま話に耳を傾けた。
「で、交渉とはいかに――」
「私たちと手を組んでアレイラ六世を救い出し、この戦争を終わりにしないか、って話よ」
「……我々に同胞を裏切れという意味ですか」
エレナ団長が強気なのは、アレイラ帝国軍が劣勢で、こちらの提案を飲むしかない立場だと分かっているからだろう。
エレナ団長の提案に、軍師は眉間にしわを寄せた。判断に苦しむ内容をまっすぐ持ちかけられたためか、明らかに嫌な反応をしている。私だったら尻込みしてしまうだろう。
「このままやりあっても、戦死者を増やすだけよ。なら、この提案を受け入れて状況を変える方がいいと思わない?」
「……」
追い打ちをかけられた帝国軍の軍師はエレナ団長の言葉に黙り込んだ。彼もこのまま戦っても勝ち目がないことが理解できているようだ。
「この戦争はどちらかが負けを認めないと終わらないの。このまま貴方たちが戦っても、諸外国と連携した私たちに勝てるはずないわよ」
「しかし、……」
兵数も戦術も私たちの方が優れている。再び侵攻して持久戦に持ち込んでも、今のアレイラ帝国軍では勝ち目はない。ただ、今、敗戦を宣言し、終戦へ進めるべきか判断が難しいところだろう。
「交渉に乗らないのであれば、貴方たちはこのままよ。私たちはいずれアレイラ帝国を滅ぼすわ」
「……考える時間を頂きたい。後日、書面で返答することにします」
「良い返事を待っているわ」
交渉は保留となった。
エレナ団長は席を立ち、外へ出ていった。私は彼女の後を追う。
後日、アレイラ帝国軍の軍師から手紙が届いた。そこには、アレイラ帝国軍がエレナ団長の提案を前面的に受け入れる旨が書かれていた。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼
「帝都内で戦闘になるかもしれないから、魔法兵・遊撃隊中心の構成かしらね」
アレイラ帝国へ同行する連合軍の構成はエレナ団長と帝国軍の軍師が決めた。潜入方法は帝国軍の軍師から勧められたものを採用した。
もちろんこの作戦に否定的な連合軍の者たちもいる、連合軍の大隊でアレイラ帝国を制圧してしまえばいい。そういう考えの者たちはトトナ村で待機となった。
「我々がトトナ村を制圧したことにして、アレイラ帝国へ帰還するのです」
初めは疑心的だったのにエレナ団長の提案を、受け入れると覚悟を決めた途端、素直なほど協力的になった。国民の気質なのだろうか、自国の後始末を行うなら自分たちで徹底的にということみたいだ。
アレイラ帝国軍と手を取った私たちは、準備を重ね、アレイラ帝国軍の帰還に合わせ、帝都へ向かった。
アレイラ帝国、帝都マールーン。
私たちはこれから”捕虜”として潜入する。
私たちを引き連れた帝国軍の軍師が、アレイラ帝国軍の本部長に偽りの報告を行った。
「我が軍はトトナ村の制圧に成功しました」
「そこの敵兵は?」
「捕虜でございます」
「何故連れてきた? その場で殺せば良かっただろう」
「カーザフ軍を指揮していた者たちです。カーザフ王国と交渉をする場合、都合の良い駒になると考え……」
「……うむ。報告にあった『規格外の白魔導士』もいるな。確かにお前の言う通りだ」
アレイラ帝国軍本部の本部長は始めは懐疑的であったが、軍師の意見と私たちの姿を見るなり納得したようだった。
本部長の身体から血の廻りの速さが感じとれる。帝国兵が命を賭けて戦っているにも関わらず、この人はお酒を飲んでいたのだろう。ザリウスが彼らの戦略は時代遅れだと言ったのが、なんとなく透けて見える。
「ザリウスはどうした」
「……残念ながら、殉職されました」
「そうか。威勢だけだったな。計画通りに遂行していれば、そうはならなかっただろうな」
本部長は嘘を信じ、ザリウスの悪口を言った。弔いの言葉を向けないのは、軍部に首を突っ込んでくるザリウスをうっとおしい存在だと思っていたからだろうか。
「捕虜を投獄しろ」
「はっ」
計画通り、帝国軍の軍師が私たちを投獄する。
「皆さん、後は作戦通りにお願いします」
「ええ。城内の案内は頼んだわよ」
「はい」
地下牢に入ると、軍師は私たちに声を掛けた。
エレナ団長が詠唱する。途端に私たちの拘束具が外れた。
私は手首を軽く振り違和感を払うと、味方のアレイラ帝国兵から癒しの杖を受け取った。
エレナ団長は衣服の中に隠していた魔力水晶を取り出す。
「アレイラ皇帝を救いにいくわよ!」
「はいっ」
エレナ団長の一言で、アレイラ六世の救出作戦が始まった。
エレナ団長の黒魔法は狙ったところにすごい速度で飛んでいく。黒紫に輝く光の刃が警備兵に突き刺さると、声も出せず倒れていく。
エレナ団長は見える範囲の警備兵をあっという間に倒してしまった。地下牢という閉鎖的な空間なので、警備をしていた者たちの警戒心も薄く、対応できなかったようだ。
私たちはアレイラ六世のいる牢獄の鉄格子を開け、最奥にいるアレイラ六世と対面した。
「別国の兵士の方々、私をここから解放してくれたこと、礼を言う」
アレイラ六世は私たちに頭を下げた。
「私たちの願いは、アレイラ新党が引き起こした戦争……、アレイラ戦争を終わらせること。力を貸して頂けないでしょうか」
「……あなたの願い受け止めました。私が責任をもって叶えましょう」
アレイラ六世はエレナ団長の願いを受け入れた。アレイラ帝国が今の民主制をやめて、皇帝がもう一度国政に戻れば、この戦争は本当の意味で終結する。
(私の目的が、やっと果たされるんだ……)
私は二人のやりとりを見て、胸をぎゅっと締め付けられた。
その後、私たちと共に帝都へ帰還したアレイラ帝国軍が、軍師の指示のもとマールニカ城を制圧し、アレイラ新党の党首や軍上層部の者たちを次々と拘束していった。
こうして、二国の間で巻き起こったアレイラ戦争は幕を閉じた。
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