赤羽根の白魔導士

Remi‘s World

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✼••┈第14話┈••✼ (妙案)

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 私は対話を終え、トナナ村へ帰還した。
 帰還すると、連合軍の本隊が到着しており、各国の兵士たちが交流を深めていた。

「ナオ!」
「エレナ団長」

 エレナ団長が私に声をかけてきた。
 連合軍の本隊を率いていたのはエレナ団長である。

「話は宮廷警護団員から聞いたわ。トナナ村を少ない兵力でよく守り抜いたわね」
「……大変でしたよ。黒魔法が扱える団員を王都へ帰還させなければ、苦戦しなかったかと」
「見ない間に嫌味も言えるようになったようね。副団長として少しは成長したんじゃないかしら」

 人の苦労も知らないで、さも当然のようにトナナ村の防衛を話題に出してきたので、私は文句を言った。
 エレナ団長は私の文句を嫌味で返してきた。

「そう、裏切り者を連れてきたわけ」

 エレナ団長はザリウスに向かってそう言い放った。氷の様に冷たい声と、軽蔑の視線を送っている。元上官だった情はとうに捨てているようだ。
 私はエレナ団長の質問に「はい」と肯定した。
 私の態度が気に食わなかったようでエレナ団長はその場でため息をついた。

「まあ、私がいなかったときに決めたことだからいいけど、今からここの最高権力者は”私”でいいわよね?」
「分かりました」
「ひとまず、裏切り者は拘束したまま監視を。ナオは私に現状を報告」
「はい……」

 エレナ団長はすぐにザリウスを拘束している宮廷警護団員と私に指示を送った。
 エレナ団長の指示通り、私と宮廷警護団員は動く。
 報告する場所として、この近くにある作戦会議所が選ばれた。
 エレナ団長は、会議所に入ると長テーブルの上に持ってきた荷物を無造作に置き、私と向かい合うように立った。

「トナナ村が襲撃されたことは合流した宮廷警護団員から聞いたわ。私が知りたいのは、ザリウスの話の内容と、彼がどんな要求をしてきたかってこと」
「お話します」

 私は対話の概要を簡潔にエレナ団長に話した。
 私が話したのは、アレイラ帝国軍の指揮は統率できておらず、ザリウス本人が前線に出ざる負えない状況だったということと、ザリウスが率いたアレイラ帝国軍にはもう戦意はなく、投降したことだ。

「なるほどね」
「残兵は離れた場所で待機させています。動向は数十人の連合軍が監視し、反撃、もしくは逃亡するそぶりを見せたら、ザリウスを処刑すると告げてきました」
「腐っても第五皇子ね。兵を引き留める力はあるか」

 エレナ団長にこれまでの経緯と現状の説明を終えた。
 エレナ団長は不満な点はあるものの、やり方には納得したようだ。

「あっちにも話を聞いてくるわ」

 私の話が終わると、エレナ団長は外に出ていった。
 どうやら、ザリウスの話を聞きに行ったらしい。両方の意見を聞いて、次の行動を考えるみたいだ。

(エレナ団長はどう動くつもりなんだろう)

 私はトナナ村を死守し、アレイラ帝国軍を指揮していたザリウスを捕らえた。
 指揮官を失ったアレイラ帝国軍は、現在、連合軍の監視下にある。妙な動きをしたらザリウスを斬首し、見せしめにすると脅した。
 アレイラ帝国軍の行動は二つ考えられる。

 一つ目は、警告を無視してトナナ村を再び攻めること。その場合、ザリウスを斬首し、連合軍が返り討ちにする。問題のあった兵力差は連合軍の本隊が到着したことですでに解決している。

 二つ目は、私の指示通り、その場で待機していること。そうすれば、この戦いを停滞させることが出来る。

 私としては指示通りの行動をしてほしい。そうすれば、エレナ団長も帝国兵を攻撃しないだろう。
 連合軍の指揮権はエレナ団長に移った。エレナ団長は私とザリウスの話を聞いて、次の行動へ移るつもりだ。
 エレナ団長の性格からして、攻めの作戦になると思う。
 作戦の内容は今日中にエレナ団長の口から告げられるだろう。無茶な作戦じゃないといいけど。

✼••┈┈••✼••┈┈••✼

 夕方。エレナ団長から、村長の家へ集合するよう声が掛かった。
 私は集合時間よりも早く到着し、聖水を少しずつ各部屋に撒いていった。
 遺体安置所として一度使われていた場所のため、低級霊を引き寄せていないか、各国の軍隊長が揃う前に確認しておきたかったのだ。
 低級霊がいないと分かったところで、私は席に着く。
 少し経ち、各国の軍隊長たちが空いている席へ座っていった。最後に作戦概要を書き記したであろう紙束を持ったエレナ団長が現れた。

「現在の状況と作戦内容を話します」

 エレナ団長は皆にそう告げた後、紙束をテーブルの上に置いた。

「現在、私たちはアレイラ帝国第五皇子、ザリウスを捕虜とし、彼が率いた兵士たちを無力化させています」

 エレナ団長は、私が報告した内容を軍隊長たちに伝えた。

「捕虜の話を聞いて分かったことがあるわ」

 次に、ザリウスから聞いた話を私たちに話してくれた。

 軍事大国であるアレイラ帝国は、軍事費の増大が徐々に経済をむしばんでいき、資金が治世にまわらず、経済恐慌に陥った。
 暴徒化した国民が各地で内乱を起こし、それを皮切りにアレイラ新党という極右政党が政権を握った。
 アレイラ新党は「強国であった頃のアレイラ帝国を取り戻し、経済を立て直す」という思想を掲げ、独裁色を強めていった。そしてついに、アレイラ帝国はカーザフ王国への侵攻を開始した。

 これはカザーフ王国のスパイから聞いたものと同じだ。

 ザリウスはスパイからは得られていない情報、現政党の内情がどうなっているかを話してくれた。
 アレイラ戦争の元凶であるアレイラ新党は、強国思想を実現するため、兵力の増強に励んでいる。しかし、戦争に勝つための具体的な戦略は当時のまま、これではただ兵士を死地に行かせているだけだという。
 トナナ村の防衛戦も、ザリウスの指揮がなければ私たちに全滅させられていただろう、と語っている。
 一〇倍以上の兵力差をつけても負けるかもしれない、と周辺国に言わせた当時のアレイラ帝国の軍事力は、今や無いに等しい。

「……というのがアレイラ帝国の現状らしいわ」

 エレナ団長は内部情報から、アレイラ帝国軍は兵士の数が多いだけで、崩壊しているに等しいことを私たちに力説した。

「私は、アレイラ戦争を止めるために――」

 やはり、エレナ団長はアレイラ帝国を攻めるようだ。
 トナナ村でアレイラ帝国の猛攻を防いでいれば、アレイラ戦争は終わるというのに。
 エレナ団長は私とは違う方法でアレイラ戦争を終わらせるようだ。

「ザリウスが連れてきたアレイラ帝国兵を味方につけ、アレイラ帝国に攻め入るわ!」
「っ!?」

 突然のエレナ団長らしくない言葉に、私を含め、各国の軍隊長たちが驚いた。
 すぐに、一人が反論する。

「ザリウスの言葉は真実であるとは思えません。我々を欺く罠ではないか?」
「なんですと!アレイラ帝国兵を自軍に引き入れるですと!? 裏切ったらどうするつもりだ」
「アレイラ帝国に攻め入れば、トナナ村の警備が手薄になります。そこに漬け込まれたら――」

 次々と反対意見が飛び出して来た。
 周りを見ると、エレナ団長の作戦に反対という意見の人たちが多いように見えた。私もその一人である。ここで防衛していれば、勝てる戦なのに、何故、アレイラ帝国軍を味方につけないといけないのか。

「ザリウスが真実を話しているとは私も思いません」
「でしたら!」
「彼が嘘を言っているとしても、ザリウスと私の目的は一致するのです。アレイラ戦争を”早急”に終戦へ進める、という点に関してはね」
「その目的のためなら、ザリウスは我々の利益になる情報を流すと」
「ええ」

エレナ団長は作戦に反対する者たちを説き伏せる”材料”を持っていた。
反対意見を言っていた者たちも、エレナ団長の意見に耳を傾ける。

「アレイラ帝国は現在、アレイラ新党の独裁下にあります」
「それが――」
「アレイラ新党には皇帝であるアレイラ六世の意志はない」
「……新党が皇帝の意志に反したことをしている、ということか?」
「アレイラ六世は帝都マールーンのマールニカ城、地下三階に投獄されています。皇帝が牢獄に閉じ込められ、軍上層がアレイラ新党の独裁下にある事は帝国軍の兵士にも知れ渡っているそうよ」
「それは……、ザリウスの情報か?」
「ええ。私はこの情報だけは嘘ではないと思うわ」

 アレイラ戦争にアレイラ六世の意志はない。
 アレイラ六世が投獄されているという情報はスパイでも得られなかったものだ。
 エレナ団長の言う通り、この情報だけは真実だろう。

「アレイラ帝国軍に”アレイラ六世を解放する”という条件を付きだせば、彼らは私たちの味方になる。そう、私は確信しています」
「アレイラ六世が新党から解放されれば、アレイラ戦争が終わる……」
「敗戦後の交渉もやりやすくなるでしょう」

 話を聞き終え、エレナ団長の作戦に反論する者はいなくなった。
 皆に作戦内容を納得させ、統率する力は悔しいけどエレナ団長の方がはるかに上だ。

「ザリウスはどうするんですか?」

 私は一つエレナ団長に質問した。
 エレナ団長は私の質問に即答した。

「ザリウスは捕虜のまま、王都へ引き渡すわ。ザリウスはまだ人質としての価値がある。少なくともトナナ村付近で待機しているアレイラ帝国軍にはね」

 エレナ団長はザリウスを捕虜として王都へ送還しつつも、アレイラ帝国軍には私と交わした約束を継続させるつもりのようだ。

「交渉は私がやります。向こうが交渉に応じなかった場合、連合軍はアレイラ帝国に向かって進軍するわよ!」

 エレナ団長は私たちにそう宣言した。
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