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✼••┈第13話┈••✼ (再会)
しおりを挟む私たちは対話することを選んだ。
こちらが指定する場所で少人数で行うのなら、という条件をつけて。
アレイラ帝国軍の返事は即日返って来た。
そうして、私はザリウス元団長、もといザリウスと対面している。
「……生きてらっしゃったんですね」
顔合わせが終わり、私はザリウスにこの言葉を放った。
私の後ろで警護をしている宮廷警護団員も同じことを思っているだろう。
私たちは対話の前にザリウスの取った行動について、本人の口から説明して貰わないと先へ進めない。
何故、死を偽装しアレイラ帝国軍の指揮官になっているのか、と。
「よく、私たちの前に現れることができましたね」
ザリウスが行っていることはカザーフ王国への反逆行為。
カザーフ王国軍の内情を把握し、それをアレイラ帝国軍に流したのだから。
きっと今回の戦闘も、長年、カザーフ王国軍に所属していた経験から、兵が手薄になる頃合いを予測して仕掛けたに違いない。
「あなたがやってることは、国家への反逆行為です。許されるものではありません」
私は皆が思っているだろうことをザリウスにぶつけた。
「まずは、いままでの経緯から話すか」
ザリウスが口を開いた。
「俺はアレイラ皇帝の五番目の息子だ」
それは手紙で”アレイラ”と名乗っていたから予想がつく。
私が気になるのはその先だ。
なぜ、五番目の皇子が身分を隠し、カザーフ王国で一般兵から成り上がることになったのか。
これからザリウスが語るだろう言葉を、私は黙って聞く。
「十四の時、アレイラ帝国の帝都マールーンを飛び出し、カザーフ王国へ亡命した」
「跡継ぎなどの陰謀に巻き込まれて、ですか?」
「いや、あの時の俺は祖国のあり方が嫌いだったんだ。いわゆる反抗期、というやつだな」
亡命の可能性として、王族ならば跡継ぎなどの陰謀に巻き込まれて国を出た、というのがある。
ザリウスの場合は、アレイラ帝国の国家体制が受け入れられず、自分の意志で国を出たみたいだ。
「考えもせずカザーフ王国へ来た俺は、生活費を稼ぐために”なんでも”やった。それでカザーフ軍に捕まり、身分がばれてしまった」
「でも、あなたはアレイラ帝国へ送還されず、身分を隠し、カザーフ王国で宮廷警護団の団長まで成り上がりましたよね」
「それは、俺の祖父、先代のアレイラ五世がカーザフ王国に掛け合ってくれたからだ」
「……そうなんですね」
「俺のことは、軍の上層部とカザーフ王国の王族くらいしか知らない。身分を伏せて貰えたことには感謝している」
ザリウスが少年だった頃はカザーフ王国とアレイラ帝国の関係は友好的だった。だから、別国の王族でも条件さえ良ければ迎え入れることが出来たのだろう。
「死を偽装しないといけなくなったのは、ザリウスさんをスパイだとカーザフ王国のホースデン国王が疑ったからですね」
「……そうだ」
「私がホースデン国王でしたら、そう思いますから」
ザリウスが宮廷警護団長として”アレイラ戦争”で功績をあげたとしても、ホースデン国王の疑念は晴れないだろう。
「スパイ疑惑を助長させたのは……、司令部が奇襲されたこと、でしょうか」
私が”ガルーダの羽根”という二つ名を得るきっかけとなった出来事。
カーザフ王国軍の地方司令部を奇襲することが出来たのは、軍の内情を知る者の手引きがあったから、と推測されてもおかしくはない。
手引きをした人物は誰なのかと考えた場合、アレイラ帝国とゆかりのあるザリウスが真っ先に浮かぶだろう。
「その後から、俺に対するカザーフ王国の監視の目が厳しくなった」
「……」
「俺はこの戦争の最中、アレイラ帝国の人間と接触したことはない。軍部の情報を漏らしてもいない。だが、潔白を証明するものを何も持っていなかった。時間が経つごとに、俺をスパイだと決めつける奴も現れた。処刑すれば結論は出る、と、ほざく奴までいた」
「身の危険を感じたわけですか」
「その通りだ。十二年もカザーフ王国軍に尽くしてきた俺を、信じてくれる奴はいなかった」
ザリウスを処刑しろ、という声まで出てきた。
ザリウスは、軍人として十二年もカーザフ王国に尽くしてきたのに、スパイとして疑われ、強い憤りを感じたようだ。
「とうとう、ホースデン国王は俺に刺客を差し向けた」
「……」
「暗殺者を返り討ちにした俺は、身の危険を感じ、偽装工作をすることにした」
「それがあの焼死体、というわけですね」
私の言葉にザリウスは頷いた。
思惑通り、焼死体はザリウスであると認められた。
「そのあと、俺は祖国であるアレイラ帝国へ帰った」
ザリウスが死を偽装した背景は分かった。
次はアレイラ帝国で指揮官をしている理由だ。
「そこでも色々あったわけだが……、ナオにそれを語っても”言い訳”に過ぎないだろう」
「そうですね。私たちにアレイラ帝国軍を仕向けたのは事実ですから」
「俺がアレイラ帝国軍を指揮したのは、民の犠牲を減らすためだ」
アレイラ帝国の情勢が不安定だということは知っている。
始めは情勢を立て直そうと、ザリウスは王族という立場を使って奮闘したかもしれない。
でも、帝国の指揮官として私の目の前に現れたのだから、敵国側での苦闘を今ここで語ったとしても、アレイラ帝国軍をトナナ村に仕向けた事実は変わらない。元カザーフ国王軍、宮廷警護団団長としての経験を生かした戦術を行っただろうし。
「アレイラ帝国軍の本部の戦略計画は、はっきり言って時代遅れだ。なかなか戦果が出ず焦ってもいた。俺が指揮官を名乗り出なければ、更に被害が広がっていただろう」
「被害がどうであれ、カザーフ王国の軍人としての経験を活かし、アレイラ帝国軍に指示を送った……、それは許されざる行為です」
「……そうだな」
「そこまではザリウスさんも覚悟の上だったと思います。カザーフ王国を裏切る行為をしてまで、成し遂げたかったことがあるんですか?」
「ああ。ナオと……、いや、カザーフ王国と対話をするためだ」
「そうですか」
「俺の名を出せば、話し合いに応じて貰えると思った」
ザリウスの名が出ても、私たちは”罠”じゃないかと疑っていた。
死体が偽装であるかもしれない、という仮定に辿り着かなければ。
私があの場にいなければその疑念が生まれる事すらなかった。この対話は破棄されていたかもしれない。
今回は連合軍の本隊も支援に来るため、トナナ村でアレイラ帝国軍の攻撃を防ぎ続けることが出来る。対話をしてもこちらには旨味がない。きっとエレナ団長や宮廷警護団員なら戦争を続けていたはずだ。
もしかして、ザリウスはトナナ村に私がいることに賭けていたのだろうか。
「俺はホースデン王国にアレイラ帝国の現状を伝えたい。この戦争は無意味だということをな」
「無意味……、この戦いを終わらせたい、と」
「そうだ」
「そちらが白旗を揚げたということは、アレイラ帝国は”降参”でいいんですね」
「……ああ。降参だ」
私は承諾する前に、深呼吸をした。
アレイラ帝国軍の降参。これはアレイラ戦争の”終戦”を意味している。
その大事な決定をこの場の最高権力者である私が下す。
『わかった』、その一言を言うまでに、今までにない重みを感じる。
「分かりました」
私は緊張を吐き出した。
「アレイラ帝国第五皇子の身柄は連合軍で引き取ります。残りのアレイラ帝国軍は……、ど、どうすれば」
「副団長、しっかり締めてくれよ」
「すみません」
残されるアレイラ帝国軍はどうしたらいいのだろう。つい、声に出してしまった。
後ろにいた宮廷警護団員が私の締まりのない発言を聞き、嘆息していた。
ザリウスの身柄は連合軍に引き渡す決断が付いたのだが、残りのアレイラ帝国軍を全員捕虜にすることは出来ない。
少し考えて、私はザリウスと共に来たアレイラ帝国軍の軍師に命令した。
「トナナ村から離れた場所で待機させること。帰国は認めません。帰国する行動、もしくはこちらに反撃をする行動を見せた場合、降参は無効とし、ザリウス第五皇子を即斬首とします」
多分、エレナ団長だったらこう命令しているはず。
私は、その文言を紙に書き、自分の名を記した。
「こちらにサインを」
私はザリウスにサインを促す。
ザリウスはそこに自身の名を記した。
私たちはザリウスの身柄を拘束し、これでカザーフ王国軍とアレイラ帝国軍との対話を終えた。
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