赤羽根の白魔導士

Remi‘s World

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✼••┈第12話┈••✼ (手紙)

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 目覚めると、私はトナナ村にいた。
 そう分かったのは、目覚めた直後に見えた天井が研究施設のものだったからだ。
 私はすぐに起き上がり施設を出た。

「戦況は、戦況はどうなっていますか!?」

 私は大声で叫んだ。
 叫んだ後で気づいたが、周りの兵士たちは散乱した瓦礫を片付けていた。
 兵士たちは私の声に気づき、作業の手を止め、こちらへ駆け寄って来た。

「ナオ様! 目覚めましたか」

 兵士たちは私が気を失ったことを随分心配していたみたいだ。

(目覚める前より、気分が落ち着いている)

 意識が途切れたことで、いにしえの薬の効果も切れたようだ。
 薬を服薬し過ぎたせいで体が青白い光を帯び、魔力が体の外へあふれ出る感覚があったけれど、それが無くなっている。

「アレイラ帝国軍は撤退しました」
「だから、俺たちは宮廷警護団員の指示に従って、後片付けをしております」
「門の外は死体であふれておりますので」
「放っておけば、疫病やグール化してしまう恐れもありますから」

 兵士たちの話によると、私が気を失っている間は宮廷警護団員の命令に従っていたようだ。
 宮廷警護団はアレイラ帝国軍が撤退したことを確認した後、敵兵の死体の処理を命じていた。
 今回の戦いはトナナ村の付近で起こった。このまま死体を放置しておくと疫病の要因になりかねない。
 また、生に執着の強いものはグール化し、人に襲い掛かる場合もあると聞く。
 トナナの村人の被害を抑えるためにも、死体の処理は重要だ。

「ナオ様、聖水は持っていないでしょうか」
「はい、ちょっと待ってください」

 私は研究施設からワインボトル一本分の聖水を持ってくると、兵士に渡した。
 トナナ村周辺を清めるだけであれば、これで足りるだろう。

「アレイラ帝国軍の埋葬方法は土葬ですが、それについては――」
「火葬せよ。と命じられました」

 一人の兵士が応えた。
 火葬を選んだのは正しい。
 アレイラ帝国式の弔い方は出来なかったが、魂が天を登り来世へ転生できるよう私は祈った。

「すみません。こちらの死傷者や死者は――」
「死体は一室に安置し、負傷者も一か所に集めております」
「ありがとうございます。すぐに蘇生・治癒へ向かいます」

 兵士たちは、私が白魔法を唱えることを考えて、死体と怪我人を一か所に集めてくれたようだ。
 研究施設で癒すよりも、集まっている場所へ向かったほうが早やそうだ。

「状況を教えて頂きありがとうございます。引き続き処理を行ってください」
「はっ」

 私は兵士にお礼を言うと、仕事へ戻るよう指示を送った。
 兵士たちは返事をし、それぞれの役割へ戻っていった。

「治療をしなきゃ……」

 私は研究施設に行き壁に掛けてある復活の杖と、置いてあるキャメルリュックを背負い、教えてもらった死体が安置されている場所へ向かった。
 安置所となっているのは村長の家だ。
 死体を多く並べられる屋内の建物がここだった、という理由だろうが、許可なく使って大丈夫なのだろうか。
 後で村長の罵声が飛ぶかもと心の中で苦笑しながら、私は村長の家に入った。

「ナオ様」
「事情は聞いています。死者に蘇生魔法をかけます」

 私の姿を見るなり、兵士は状況を説明しようと口を開いた。私はすでに状況を聞いていたので、兵士の言葉を止め、死体に蘇生魔法を唱え始めた。
 蘇生魔法をかけられた死体が、次々と生き返ってゆく。

 魔力回復薬を三回口に含んだ頃には、安置所から死体が無くなっていた。

「これで全員ですか?」
「はい」
「小隊ごとに点呼をして下さい。行方不明者がいたらすぐに捜索すること」
「承知しました」
「では、負傷者の治療へ移りますので、これで失礼します」

 味方兵の蘇生が終え、私は次に負傷者の集められている部屋へ向かった。
 負傷者も死者と同様、私の白魔法で次々に回復させていった。
 重症の兵士から優先して癒し、その後、自然治癒でもよさそうな軽傷者も癒していった。
 私が目覚めて二時間と経たない出来事だ。

「ナオ様!」

 宮廷警護団の団員の声だ。

「意識をを失っている間、兵士たちへの指示をありがとうございました」
「当たり前のことだ。気にしなくていい。それより、すぐに来てほしい」
「治療ですか? それならたった今終わらせましたが――」
「いや、アレイラ帝国軍の件だ。兵士には知らせてない内容でな。別の場所で話がしたい」
「分かりました。では、すぐに向かいます」

 私は宮廷警護団員とディラード隊長が集まっている場所へ案内された。

✼••┈┈••✼••┈┈••✼

 案内されたのは、民家の一室。
 ここを作戦会議所として使っているようだ。

「ナオ様、目覚めましたか」
「ディラード隊長、私をここまで運んで頂きありがとうございます」
「こちらこそ、我らが後先考えず、突き進んでしまい申し訳けありません。あなたの導きが無ければ我らはアレイラ帝国軍によって全滅していたでしょう」

 気を失った私を、トナナ村まで運んでくれたディラード隊長にお礼を伝えると、ディラード隊長は、自軍の行動について私に謝罪した。

「ディラード隊長、連合軍として連携を図りましょう。その点は、私も反省しなくてはいけません」

 あの時、私はディラード隊長に作戦の全容を聞かずに別の事へ意識が向いていた。
 最高権力者として戦況全体を見ていないといけなかったのに。
 戦況を把握し、各兵士たちに的確に命令する能力、それがエレナ団長より私は劣っている。

「ところで、用件とは一体」

 私がここへ呼び出された用件を聞くと、宮廷警護団員の一人が私に一枚の手紙を渡した。
 紙の手触りからして、アレイラ帝国軍が寄越したものだと分かる。

「こ、これは!?」

 私は手紙の内容を見て目を疑った。
 見慣れた文字の書き方。癖字が”あの人”と同じだった。
 手紙には短く、こう書いてある。

 ―― 我々は【対話】を求める ――

 私を驚かせたのは、手紙を書いた人物の名である。

 ザリウス・ヴァンシタット・メイガン・アレイラ。

「ザリウス元団長の……、手紙?」
「ナオ副団長が気を失っている間に、アレイラ帝国軍の兵士が白旗を掲げてこっちに来たんだ」

 手紙はアレイラ帝国兵が寄越したものだという。敵兵から門の外で受け取り「返答は二日後に出す」と伝え、帰したらしい。
 この手紙の件は、連合軍やカーザフ王国兵には伏せたそうだ。余計な考えを持たせず、死体の処理をさせたかったのだろう。

「副団長、どう思う?」
「文章の雰囲気はザリウス元団長ととても似ています。癖がある部分も同じです」
「二日後の返答をどうするべきか、考えていたんだ」
「そうですね……」

 罠かもしれない。
 それはこの場にいる皆が思っていることだろう。だから私に指示を仰いでいるのだ。

「ザリウス元団長は亡くなったはずです」
「だよなあ……」
「ですが、あの遺体は本人だと分からない状態でした」
「た、確かに」
「もしかしたら、あれがザリウス元団長ではない可能性があるのか」
「私が蘇生出来ていれば、答えが分かったのですが……」

 焼死体となったザリウス元団長を蘇生できなかった。

「あ、以前、ザリウス元団長と雑談した際――」

 私はあることを思い出した。
 ザリウス元団長に質問されたことがある。
 『お前に癒せないものはあるのか?』と。
 その時、私は、酷い火傷は癒せないです。と答えていた。変質してしまうと治癒が難しいことをザリウス元団長には伝えていたはずだ。

「酷い火傷は癒せない、そう答えた気がします」

 ザリウス元団長が死んだ時、私の白魔法は皆に注目されていた。
 何でも癒せる。だから、焼け死んたザリウス元団長を癒せる、と。
 このことを知っていたのは、ザリウス元団長だけ。
 焼死を利用すれば、死を偽装することが出来てしまうことが判り、鳥肌が立った。

「ザリウス団長は私たちを欺いた、かもしれません」
「生きてるかもしれねえってことか」
「それは嬉しいんだけどな」
「よりにもよって敵軍にいんのかよ」
「ザリウス団長はカザーフ王国の宮廷警護団長を務めていた方だと聞きます。団長に就任される前は、カザーフ王国の為に数々の武勇をあげた方だと。その方が何故、アレイラを名乗っているのでしょうか」

 ディラード隊長が会話に加わってきた。
 ディラード隊長の言う通り、ザリウス元団長はぽっと出の実力者ではなく、軍人として実績を詰んで宮廷警護団の団長の地位に上り詰めた人だ。軍人の経験年数は私よりも長い。そんな人が何故、王族のみしか名乗ることを許されない”アレイラ”の名を使っているのだろうか。

「疑問は、会わなければ解けないと思います」
「だけど、向こうの罠かもしれないぜ」
「なら、話し合いの場はこちらで指定すればいい。向こうが応じなければ、罠だと判断し【対話】は断念しましょう」
「私はナオ様の判断に従います。二日後には連合軍の本隊が到着します。兵力もそれで補えるかと」

 罠だとしても、二日後にはそれに対抗できる兵力が来る。

「なら、条件付きで【対話】に応じましょう。それでいいですね」

 私はザリウス元団長かもしれない人物と【対話】することを決断した。
 難色を示す者もいたが、反対意見が無いので、私は返事の手紙を綴った。

✼••┈┈••✼••┈┈••✼

 そして二日後

「久しぶりだな」
「お久しぶりです。ザリウス……、さん」

私はザリウス元団長と対面を果たした。

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