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旅路
のんびりお風呂タイム
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ワープして樹木上部の切り口に移動したらしい。
「アキオ、顔が真っ青だ」
そんな気がします。
なんだか体だけじゃなくて精神的にもどっと疲れが押し寄せて、もう一歩も動くことが出来なくなり結局ジルさんに抱えられてしまった。かなり抵抗したのだが、「もう傷は塞がっているから大丈夫だ」だそうだ。
精霊の遺伝恐るべし。
立派な木造の宿に到着して、僕とジルさん、イガさんとメテさんにわかれて部屋に入る。
僕は抱えられたまま部屋に入り、ベッドに寝かされた。なんだかツリーハウスでの生活を思い出す。
「ジルさん、ごめんなさい。怪我痛いのに」
「気にするな。二人と少し明日のことについて話してくる。ゆっくりしていなさい」
そう言ってジルさんは部屋を出て行った。
イガさん、一日中馬車を引き続けて疲れただろうな。
メテさんもほとんど座らずに満員電車風の不安定な体勢で外を見張っていた。
ジルさんはあんな重傷を負っているのに僕のことばかり気にかけてくれた。揺れは平気か?体は痛くないか?外の空気を吸うか?声を聞くだけで包まれているような安心感がある。
ジルさんに厚かましく説教したあの時、僕がここにいる本当の経緯を話すことを決意した。したものの、なんとなく怖くて馬車の中でずっとソワソワしていた。
そんな心の中を見透かしたようにただ寄り添い、温かい視線を送ってくれた。
馬車の中では、ついに言い出すことができなかったが、今日のうちに切り出すつもりでいる。
ああでも、彼も疲れているからすぐに寝たいかもしれない。しかしこのタイミングを逃したらズルズルと誤魔化し続ける僕に逆戻りしてしまうだろう。
考え込んでいると、ドアがガチャっと開いてジルさんが帰ってきてしまった。
「アキオ、今日の夕飯はどうする?」
夕飯か。せっかく町に来たけど、今日はもう胃が受け付けそうにない。
「今日はもう、何も入らないかもしれません」
「そうだろうな。顔がまだ青白い」
「ジルさん、お二人と一緒に食べてきてください」
「私も、今日はどちらかと言うと疲れを取りたい。飯は明日の朝にしよう。風呂はどうする?しんどいようなら今日はもう休むか?」
ジルさんあんなに食べるのに、夜抜いて大丈夫なんだろうか。もしかして僕に合わせてくれた?それだったら申し訳ない。申し訳ないんだけど、今、お風呂という単語が聞こえた気がする。そこにしか気がまわらなかった。
ジルさんは以前「町へ行けばゆっくりと湯船に浸かれる」と言っていたような・・・。
「湯船、ありますか?」
「ある」
なんと・・・!
湯船に浸かれると聞いた途端体調が良くなった気がする。シャワーも良かったけど、湯船に入れるチャンスがあるのならこの機会を逃す手は無い。ゲンキンな日本人丸出しにして
「入りたいです」
と訴えた。
部屋に一つずつある浴室には、全て湯船がついているらしい。
元の世界では欧米のように湯船に浸からないスタイルの国も多いから、この世界ではどうなんだろうと気になっていたけれど、お風呂文化は日本に近いようだ。
「湯の用意をしてこよう」と言って大きな手が頭を優しく包んだ。
僕が24歳だと知ってなお、以前と変わらぬように扱ってくれている。なんだか後ろめたいけど、嬉しい気持ちがまさるのでつい甘えてしまう。
◆
つい「っひょー」と奇声が飛び出そうになった。数ヶ月ぶりの湯船は後光が差したように輝いて見える。
しかもとても広い。
「頭痛に響いてはいけないので、少しぬるめにしておいた」
ジルさんて・・・何というか、軍人というより執事みたい。
そういえば腹の傷は塞がったと言っていたけど、深かったし、きっとまだ痛いはずだ。なのにこんなに働かせてしまった。
そうだ。労いの意味も込めて背中を流すのはどうだろう。もしかしたら傷の影響で動きにくいかもしれないし、頭も洗ってあげようか。
今まで色々してくれたお返しにしてはあまりにささやか過ぎるけど、ちょっとでも感謝の気持ちを示したい。
「ジルさん、一緒に入りませんか?」
僕の提案に目を丸くし、あっけにとられている彼は「いや、しかし」と言いながら困った様子を見せる。
やはりおこがましかっただろうか。
「駄目ですか?」
「駄目では無い!そうだな。せっかくだから一緒に入ろう」
よし。無事、入浴権を獲得した。
ゆっくりと起き上がる間も、お風呂までの道を杖をついて歩く間も、服を脱ぐ時も、ずっと背に手を添えてくれていたジルさん。
あれ、僕が24歳ってこと、本当に覚えてるのかな?
それはさておき、包帯を解いてガーゼを取ると、傷は本当に塞がっていた。
塞がっていると言っても表面はまだ瘡蓋にもなっていないので血は滲んでいるし、所々炎症みたいになっていて、縫いたてほやほやという感じ。
これお風呂入れるのかな?
そういえば、傷の周りを透明な膜みたいなのが覆うあの不思議な技があるんだった。
腹筋はもちろんのこと、胸筋や腕の筋肉までムキムキでバキバキで、僕の貧相な体をずっと洗わせていたのかと思うと情けなくなってくる。
浴室に入ると、とても広いという事以外は特に日本のお風呂と変わりは無かった。
ツリーハウスのシャワーヘッドはただの枝だったから使い方がわからなかったけど、幸い見慣れたシャワーヘッドがしっかりと着いていたので安心。
枝からどうやってお湯が出ていたのか気になって聞いてみたことがあるのだが、どうやらあれは人感センサーじゃなくて魔法らしい。
お湯が出たりワープできたり、木はこの世界の人の生活に欠かせないものなんだろうな。
このシャワーは魔力がなくても使えるのだろうか。
蛇口のレバーをひねってみると、ちゃんとお湯が出た。サイドについたハンドルで温度も調節できる。わお、魔法いらないじゃん。シャワーは魔力がないと使えないものだと思っていた。
「これ、魔法なくても使えました」
自分の力で湯が出せた喜びを伝えると、
「近頃の生活用品などは魔法が使えなくてもいいような仕組みのものが増えている。始祖人全盛期から段々と人間の魔力が弱くなっているからな。人間は基本的に、どんなに僅かであっても皆魔力を保有しているが、それを魔法として使えない人間も全体の4割ほどいるらしい」
と教えてくれた。
良かった。この先魔法が使えなくて困る場面にたくさん遭遇するんだろうなと構えていたが、そういうことなら普通に生活できそうだ。
「アキオ、顔が真っ青だ」
そんな気がします。
なんだか体だけじゃなくて精神的にもどっと疲れが押し寄せて、もう一歩も動くことが出来なくなり結局ジルさんに抱えられてしまった。かなり抵抗したのだが、「もう傷は塞がっているから大丈夫だ」だそうだ。
精霊の遺伝恐るべし。
立派な木造の宿に到着して、僕とジルさん、イガさんとメテさんにわかれて部屋に入る。
僕は抱えられたまま部屋に入り、ベッドに寝かされた。なんだかツリーハウスでの生活を思い出す。
「ジルさん、ごめんなさい。怪我痛いのに」
「気にするな。二人と少し明日のことについて話してくる。ゆっくりしていなさい」
そう言ってジルさんは部屋を出て行った。
イガさん、一日中馬車を引き続けて疲れただろうな。
メテさんもほとんど座らずに満員電車風の不安定な体勢で外を見張っていた。
ジルさんはあんな重傷を負っているのに僕のことばかり気にかけてくれた。揺れは平気か?体は痛くないか?外の空気を吸うか?声を聞くだけで包まれているような安心感がある。
ジルさんに厚かましく説教したあの時、僕がここにいる本当の経緯を話すことを決意した。したものの、なんとなく怖くて馬車の中でずっとソワソワしていた。
そんな心の中を見透かしたようにただ寄り添い、温かい視線を送ってくれた。
馬車の中では、ついに言い出すことができなかったが、今日のうちに切り出すつもりでいる。
ああでも、彼も疲れているからすぐに寝たいかもしれない。しかしこのタイミングを逃したらズルズルと誤魔化し続ける僕に逆戻りしてしまうだろう。
考え込んでいると、ドアがガチャっと開いてジルさんが帰ってきてしまった。
「アキオ、今日の夕飯はどうする?」
夕飯か。せっかく町に来たけど、今日はもう胃が受け付けそうにない。
「今日はもう、何も入らないかもしれません」
「そうだろうな。顔がまだ青白い」
「ジルさん、お二人と一緒に食べてきてください」
「私も、今日はどちらかと言うと疲れを取りたい。飯は明日の朝にしよう。風呂はどうする?しんどいようなら今日はもう休むか?」
ジルさんあんなに食べるのに、夜抜いて大丈夫なんだろうか。もしかして僕に合わせてくれた?それだったら申し訳ない。申し訳ないんだけど、今、お風呂という単語が聞こえた気がする。そこにしか気がまわらなかった。
ジルさんは以前「町へ行けばゆっくりと湯船に浸かれる」と言っていたような・・・。
「湯船、ありますか?」
「ある」
なんと・・・!
湯船に浸かれると聞いた途端体調が良くなった気がする。シャワーも良かったけど、湯船に入れるチャンスがあるのならこの機会を逃す手は無い。ゲンキンな日本人丸出しにして
「入りたいです」
と訴えた。
部屋に一つずつある浴室には、全て湯船がついているらしい。
元の世界では欧米のように湯船に浸からないスタイルの国も多いから、この世界ではどうなんだろうと気になっていたけれど、お風呂文化は日本に近いようだ。
「湯の用意をしてこよう」と言って大きな手が頭を優しく包んだ。
僕が24歳だと知ってなお、以前と変わらぬように扱ってくれている。なんだか後ろめたいけど、嬉しい気持ちがまさるのでつい甘えてしまう。
◆
つい「っひょー」と奇声が飛び出そうになった。数ヶ月ぶりの湯船は後光が差したように輝いて見える。
しかもとても広い。
「頭痛に響いてはいけないので、少しぬるめにしておいた」
ジルさんて・・・何というか、軍人というより執事みたい。
そういえば腹の傷は塞がったと言っていたけど、深かったし、きっとまだ痛いはずだ。なのにこんなに働かせてしまった。
そうだ。労いの意味も込めて背中を流すのはどうだろう。もしかしたら傷の影響で動きにくいかもしれないし、頭も洗ってあげようか。
今まで色々してくれたお返しにしてはあまりにささやか過ぎるけど、ちょっとでも感謝の気持ちを示したい。
「ジルさん、一緒に入りませんか?」
僕の提案に目を丸くし、あっけにとられている彼は「いや、しかし」と言いながら困った様子を見せる。
やはりおこがましかっただろうか。
「駄目ですか?」
「駄目では無い!そうだな。せっかくだから一緒に入ろう」
よし。無事、入浴権を獲得した。
ゆっくりと起き上がる間も、お風呂までの道を杖をついて歩く間も、服を脱ぐ時も、ずっと背に手を添えてくれていたジルさん。
あれ、僕が24歳ってこと、本当に覚えてるのかな?
それはさておき、包帯を解いてガーゼを取ると、傷は本当に塞がっていた。
塞がっていると言っても表面はまだ瘡蓋にもなっていないので血は滲んでいるし、所々炎症みたいになっていて、縫いたてほやほやという感じ。
これお風呂入れるのかな?
そういえば、傷の周りを透明な膜みたいなのが覆うあの不思議な技があるんだった。
腹筋はもちろんのこと、胸筋や腕の筋肉までムキムキでバキバキで、僕の貧相な体をずっと洗わせていたのかと思うと情けなくなってくる。
浴室に入ると、とても広いという事以外は特に日本のお風呂と変わりは無かった。
ツリーハウスのシャワーヘッドはただの枝だったから使い方がわからなかったけど、幸い見慣れたシャワーヘッドがしっかりと着いていたので安心。
枝からどうやってお湯が出ていたのか気になって聞いてみたことがあるのだが、どうやらあれは人感センサーじゃなくて魔法らしい。
お湯が出たりワープできたり、木はこの世界の人の生活に欠かせないものなんだろうな。
このシャワーは魔力がなくても使えるのだろうか。
蛇口のレバーをひねってみると、ちゃんとお湯が出た。サイドについたハンドルで温度も調節できる。わお、魔法いらないじゃん。シャワーは魔力がないと使えないものだと思っていた。
「これ、魔法なくても使えました」
自分の力で湯が出せた喜びを伝えると、
「近頃の生活用品などは魔法が使えなくてもいいような仕組みのものが増えている。始祖人全盛期から段々と人間の魔力が弱くなっているからな。人間は基本的に、どんなに僅かであっても皆魔力を保有しているが、それを魔法として使えない人間も全体の4割ほどいるらしい」
と教えてくれた。
良かった。この先魔法が使えなくて困る場面にたくさん遭遇するんだろうなと構えていたが、そういうことなら普通に生活できそうだ。
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