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旅路
約束①
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「アキオ、王都に着いたら桜を見せてくれ」
普段と何ら変わりない真っ直ぐな声で言われ反射的に「はい」と返事をしそうになるが、よく考えると全く意味のわからない文言にポカンとする。さらに背後から漂よう良い匂いに気を取られたりして、頭の中は戸惑いで溢れかえった。
これは…ジルさんなりの、冗談?
いやいや、まさか。ジルさんが冗談とか…。
写真もスマホもカメラも持たず身ひとつでここへ来たのに、どうやって見せればいいというのだ。
1から育てようにも桜の苗も無い。
やっぱり冗談?どう返そう。「いや見せられるかい」と突っこもうか。すごく変な空気になりそうだ。でも真面目に返したら返したで、せっかくのユーモアを冷たくあしらう感じになってしまうのでは。
どちらを選択しても変な空気になる確率は半々だ。
迷った末、本能に従うことにした。
「えっと、どうやって…?」
ジルさんは動じる事なく
「アキオに描いて欲しい」
と返す。
予想していなかった答えにますます困惑する。
ツリーハウスで過ごしている時、気に入った料理の名前がわからなくてそれとなく描いて見せた事がある。
ジルさんは優しいから「上手いな」って褒めてくれた。
でもあんなのはメモ書き程度であって本格的な絵となると話は別だ。
「アキオ君、絵が描けるの?」
身を乗り出して外を見ていたいたメテさんは車内を覗き込んで興味深そうにしている。
ジルさんの芸術が大爆発している絵に比べたら多少写実的ではあるかもしれないけれど、そこら辺の紙やノートにしか描いたことないし、レベルの高いものを求められているのならとても頷けない。
「描けると言っても、上手な訳ではありませんから…」
「いや。君の絵は非常に魅力的だ。見ているだけで心が洗われる。王都には画材も揃っているだろう。私に桜の絵を描いてはくれないか?」
遠回しにお断りすれば、さらに追い討ちをかけるように切願された。
どうしたものか…。
ジルさんのせいで急速に上がってゆくハードルを越えられるとは思えない。
どんなものを期待されているのか分からないけど、もしその期待に応えられなかったらと考えると足がすくむほどの怖さがある。
でも今までジルさんに何かをお願いされたことが無かったから、同時になんだかとても愛くるしい気持ちが僕の中に芽生えているのだ。
これまでにも何度か「何でも教えてほしい」「自由になって欲しい」と望まれたことはあるが、あれは僕を思って言ってくれたことであって、彼自身の望みを聞くのはこれが初めて。
そしてその望みはきっと僕にしか叶えられないことだというのが限りなく嬉しい。
また、はじめての感情だ。
愛くるしくて嬉しくていてもたってもいられないけど、とても怖い。不安も大きい。でも僕の心は間違いなく喜んでる。
これも恩返しのになるのなら、答えはたったひとつだけ。
「…分かりました」
背後から伝わる吐息には、かすかに満足げな笑い声が混じっていた。
「あ、でも完成度はあまり期待しないで下さいね」
「君が描いてくれるものなら、たとえ枯れ果てた木だって美しいだろう」
聞いてるこっちまで恥ずかしくなるような台詞を至って真面目な顔して言うジルさんは、例によって僕だけにダメージを与えて当の本人は優雅に外を流れるフロクスの鑑賞を続けるのであった。
その後はイガさんが用意した昼食を食べたり、屋台で買ってきたお菓子を食べながら一息ついた。
昼食は馬車を降りてイガさんも一緒にと思っていたのだが、ここはやはり先を急ぐことを優先するらしい。
進む馬車の中で広げたお弁当は鶏肉のオンパレードで、メテさんは真っ青になりながらも笑顔で「おいしいです、おいしいです」とうわ言のように言いながら頬張っていた。
なんだかやけくそって感じだった。
普段と何ら変わりない真っ直ぐな声で言われ反射的に「はい」と返事をしそうになるが、よく考えると全く意味のわからない文言にポカンとする。さらに背後から漂よう良い匂いに気を取られたりして、頭の中は戸惑いで溢れかえった。
これは…ジルさんなりの、冗談?
いやいや、まさか。ジルさんが冗談とか…。
写真もスマホもカメラも持たず身ひとつでここへ来たのに、どうやって見せればいいというのだ。
1から育てようにも桜の苗も無い。
やっぱり冗談?どう返そう。「いや見せられるかい」と突っこもうか。すごく変な空気になりそうだ。でも真面目に返したら返したで、せっかくのユーモアを冷たくあしらう感じになってしまうのでは。
どちらを選択しても変な空気になる確率は半々だ。
迷った末、本能に従うことにした。
「えっと、どうやって…?」
ジルさんは動じる事なく
「アキオに描いて欲しい」
と返す。
予想していなかった答えにますます困惑する。
ツリーハウスで過ごしている時、気に入った料理の名前がわからなくてそれとなく描いて見せた事がある。
ジルさんは優しいから「上手いな」って褒めてくれた。
でもあんなのはメモ書き程度であって本格的な絵となると話は別だ。
「アキオ君、絵が描けるの?」
身を乗り出して外を見ていたいたメテさんは車内を覗き込んで興味深そうにしている。
ジルさんの芸術が大爆発している絵に比べたら多少写実的ではあるかもしれないけれど、そこら辺の紙やノートにしか描いたことないし、レベルの高いものを求められているのならとても頷けない。
「描けると言っても、上手な訳ではありませんから…」
「いや。君の絵は非常に魅力的だ。見ているだけで心が洗われる。王都には画材も揃っているだろう。私に桜の絵を描いてはくれないか?」
遠回しにお断りすれば、さらに追い討ちをかけるように切願された。
どうしたものか…。
ジルさんのせいで急速に上がってゆくハードルを越えられるとは思えない。
どんなものを期待されているのか分からないけど、もしその期待に応えられなかったらと考えると足がすくむほどの怖さがある。
でも今までジルさんに何かをお願いされたことが無かったから、同時になんだかとても愛くるしい気持ちが僕の中に芽生えているのだ。
これまでにも何度か「何でも教えてほしい」「自由になって欲しい」と望まれたことはあるが、あれは僕を思って言ってくれたことであって、彼自身の望みを聞くのはこれが初めて。
そしてその望みはきっと僕にしか叶えられないことだというのが限りなく嬉しい。
また、はじめての感情だ。
愛くるしくて嬉しくていてもたってもいられないけど、とても怖い。不安も大きい。でも僕の心は間違いなく喜んでる。
これも恩返しのになるのなら、答えはたったひとつだけ。
「…分かりました」
背後から伝わる吐息には、かすかに満足げな笑い声が混じっていた。
「あ、でも完成度はあまり期待しないで下さいね」
「君が描いてくれるものなら、たとえ枯れ果てた木だって美しいだろう」
聞いてるこっちまで恥ずかしくなるような台詞を至って真面目な顔して言うジルさんは、例によって僕だけにダメージを与えて当の本人は優雅に外を流れるフロクスの鑑賞を続けるのであった。
その後はイガさんが用意した昼食を食べたり、屋台で買ってきたお菓子を食べながら一息ついた。
昼食は馬車を降りてイガさんも一緒にと思っていたのだが、ここはやはり先を急ぐことを優先するらしい。
進む馬車の中で広げたお弁当は鶏肉のオンパレードで、メテさんは真っ青になりながらも笑顔で「おいしいです、おいしいです」とうわ言のように言いながら頬張っていた。
なんだかやけくそって感じだった。
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