ある時計台の運命

丑三とき

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王都

可能性

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少し話が逸れてしまった後は授業の本筋に戻る。科目は「外国」だ。

元の世界に比べて国同士の交際が希薄なこの世界において、隣国・ストネイトとウッデビアの関係は非常に先進的らしい。
両国は一番交流があり、輸出入もあるのだとか。

「この国が樹木を生活の基盤としておるように、ストネイトでは石を掘削して町を形成し、人々は石の中に住んでおる」

当たり前のようにありえないことを話す先生。
先生の授業が面白いのは、どこか僕にとって現実味が無く、まるでファンタジー映画のあらすじを聞いているような気になれるからと言う理由もあると思う。

「天然の鉱物を使った顔料の質は非常に高く、ストネイトのインクや絵具は最近この国でも売られ始めた。少々値は張るがのぅ」

町が形成できるような大きな石に、天然鉱物。

一体どんな国だろう。

自然の大きさが自分の想像を遥かに超えてくることなんて知ってるから、想像を巡らすのは辞めておこう。
いつか自分の目で確かめたい。

先生は外国へ行ったことがあるのだろうか。それを聞く勇気は振り絞れなかった。
もし行ったことがあるとして、その理由に”戦争”の可能性が1%でもあるのなら、僕にはとても聞くことはできない。


先生の優しい声は、僕に少しずつ眠気を与えながら愉快なファンタジー物語を繰り広げてくれた。










「ユリ、これってもしかして……」

「ええ。その通りです」


朝の勉強を終えたところにユリが迎えに来て、宮廷に案内してくれた。
宮廷は、軍城の北に位置する大きなお屋敷(医務室や講義室などがある建物)から繋がる渡り廊下で、さらに北に歩いたところにある。

王宮というからにはさぞ豪華な建物だろうと想像していたが、渡り廊下の先には城の屋敷より二回りほど小さく、綺麗だけどシンプルな白い建物があった。

額縁のように周りを囲う生垣や花たちが、宮廷をより凛々しく見せている。

階は3つか4つほどだろうか。屋根はえんじ色で、中央三分の一ほどが三角屋根。両脇の屋根は真横にスッと伸びていて、レトロな雰囲気が少し可愛らしくもある。
えんじ色と白色とのバランスは美しく、王様のイメージにぴったりだ。

そして何よりも存在感を放つのは、三角屋根の上に気高く建つ四角柱の塔。その塔の正面にある文字盤は、二本の針が11時を指していた。

「これ、時計台なの?」

「はい。ウッデビアの時計台というのは、この宮廷そのものなんです」

「気がつかなかった……こんなに近くにあったんだね」

「こちらまで来ない限り、城の屋敷に隠れて見えませんからね。ではアキオ様、参りましょう」


外観の観察もほどほどに早速ユリの魔法で転移した先は、王都に到着した日に目を覚ました客室に似ていた。
あの時寝かせてもらったベッドは無く、代わりに大きなソファとテーブルが部屋の中央に置かれている。そしてその先には相変わらず美しく清廉な雰囲気を纏う王様が立っており、王様の一歩右後ろにはジルさんくらい上背のある男性がひとり、姿勢良く佇んでいた。



バッッ!!

「国王陛下。アキオ様をお連れしました」



誰だろうと考える間も無く、ユリが王様に向かって勢いよく跪いた。

自分も続かねば、と焦ってたじろぐと杖が邪魔をして思うように体を動かせない。なんとか失礼の無い体勢をとろうにもそれが何か分からず、結局手足のおさめどころを失ってわなわなしてしまう。格好悪い。

「あ、っわ」

「ユリッタ、それ・・はいいと言っただろう。アキオ殿が気を遣ってしまう」

「アキオ様!申し訳ございません!」

そう言ってすぐにユリが立ち上がって支えてくれたので、この前みたいに転びそうにならず済んだ。格好悪い。

「アキオ殿、気楽にしてくれ」

「はい…ありがとうございます」

はあ、格好悪い。

僕だって男だし、格好良い人たちに囲まれてこんな調子じゃ、劣等感の一つや二つ感じてしまうものだ。


「まったく。公の場以外で礼儀作法など無しだ。さあ、2人とも掛けて。
お前も、いつまでそんなところに立ってるんだ」

「はい」


王様は斜め後ろに立つ男性にも声をかけ、僕とユリが隣同士に、向かいには王様と男性が腰掛けた。

「紹介する。こいつはウッデビア国現宰相のケーノス・サザだ。今後を考え、彼にも全てを話してある」

「宰相のケーノス・サザと申します。挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。諸事情で顔を出せずにいました。
勝手ながらアキオ様の事情はお伺いしております。城でお困り事などありましたら、如何なることでもお申し付けください」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

礼儀正しく頭を下げたサザさんに習い、僕もペコリと深いお辞儀をする。

サザさんはまさに“大人”って感じの雰囲気で、ユリや王様とまた違った魅力のある人だ。
オールバックにして後ろで一つに結んだ深緑色の髪とメガネが、内から出る知性にさらに拍車をかけている。


「さて本題に入るが、アキオ殿。宮廷を見たか?」

「はい。この宮廷そのものが時計台だったのですね。今まで気がつきませんでした」

「その通りだ。まさに今私たちの頭上で時を刻んでいる。異世界から人間を召喚できるとすればここからのはずなんだ。しかし、アキオ殿は遠く離れた僻地に居た。その理由はまだ分かっていない」

怪異な現象への不満感を、歪めた眉に込める王様。

「しかし色々と調べるうち、疑問と可能性が浮かんだ。
アキオ殿、ひとつ問うてもいいだろうか」

「……はい。何でしょう」


ひと呼吸起き、彼はこう始めた。


「なぜ私たちは、意思疎通ができる?」


その質問が耳に馴染むのに、数秒かかったかもしれない。


「アキオ殿の世界とこちらの世界は、同じ言語を扱っているのだろうか。よく考えれば、古代、つまり召喚が行われていた始祖の時代、人々は始祖たちとどのように意志の伝達をしていたのだろうか。それを知ろうにも古文書にある古代文字は誰にも解読できない。
アキオ殿はジルとの会話に当初から筆談を用いたと聞いた。その文字はアキオ殿が元の世界で使用していたものと同じか?それならとんでもない発見だ。違うなら、なぜこちらの文字がわかる?こちらの世界へ来て学ぶ時間など無かったと見受ける。もし学習により身につけたのなら、言語の違いにはどのような法則がある?
それは私たちにも学べるものだろうか」

「ヴェイン様、落ち着いてください。質問がひとつではなくなっています。アキオ様が混乱されていますよ」

「うるさいお前はっ……いや、そうだな。すまないアキオ殿、つい」

矢継ぎ早に繰り出される質問は、しっかりと頭が理解していた。

そうだ。なんで疑問に思わなかったんだろう。
いや、思ったことは思ったんだけど、書く文字がニョロニョロとお洒落な模様みたいなのも、知らないはずの文字が書けてそれを僕の親しんだ言語で理解できるのも、『魔法だから』で疑問を全て解決したつもりでいた。
でもよく考えてみれば、僕の中に魔力は無い。


「僕の世界とこの世界の言葉は、おそらく全く違います。おそらくというのは、元の世界には少なくとも三千以上の言語があって、全てを知っている訳ではないからです。
でも、僕が母国で使っていた言葉とは全くもって別物であることは確かです」

「三千以上…!」

隣でユリが驚きの声を上げた。
向かいに座る二人も、静かに驚いているようだ。


「この世界に来てから、僕の常識ではあり得ないことがたくさん起こったり、あり得ない話をたくさん聞いたりしました。
いちいちそれに驚いてもキリがないと思って、『魔法がある世界だから』で納得してたんです。
でも僕に魔力は無い。よく考えたら、本当に不思議です。言語が理解できるのは僕の中で完結する現象だから、そこに他者が介入していないのなら、僕……何で言葉が、わかるんでしょう……」

自分で整理をつけるうち、なんだか怖くなってきた。
最初の頃の何も考えていない時と違って、今は何かを考えられる心の余裕ができたから。



そういえば、王様は疑問と可能性が浮かんだって言っていた。

「王様、“可能性”というのは?」


「………サザ」

「はい」

少し俯いた王様に目配せをされたサザさんは、テーブルに何かを差し出した。

「アキオ殿。これを見てくれ」

サザさんが差し出したのは、一冊の古びた本。大きさは単行本より一回り大きいくらい。厚みはそれほど無く表紙の文字は少し崩れてて読みにくいけど…



「『巨大樹日記(案文)』……?」



「っ!アキオ様!?」

隣からユリの驚く声がする。
ユリだけじゃない。皆の動揺で部屋の空気が一気に変わった。
その原因が間違いなく自分にあるのが分かるけど、なぜ皆が驚いたのかがわからなくて気まずくなる。
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