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王都
運命の日
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部活動には入ったことが無いので何かの試合に出たことも無いし、試験や就職活動もなんとなくやってきた僕にとって、人生初めての「運命の日」というやつを迎えた。
午前中のお勉強の時間にも、そわそわしているのをオグルィ先生に見透かされて笑われてしまった。
もしかしたら、ジルさんにも変に思われているかもしれない。でもきっとユリがうまく説明してくれているだろう。
夕方、僕は食堂の厨房にいた。
包丁は奥が深い。
少し集中を疎かにすると全く思わぬ方向に刃先が向いて野菜は想定外の形に仕上がってしまう。さらに僕の場合、足のバランスも考えなきゃいけない。手に力を入れすぎると下半身にもブレが伝わってよろけそうになる。
一回一回丁寧に手元に向き合い、お願いだから真っ直ぐ切れてくださいと思いを乗せながら程よく力を込める。
———サクッ
「おぉ!ずいぶん上手くなってるじゃねぇかアキオ殿!」
「朝からちょっと、イメージトレーニングを」
「はっはっはっ!そりゃ大事なことだ!」
そう。僕は今日、朝起きた瞬間からイメージトレーニングでダンボール1箱分の野菜を切り刻んでやったのだ。そのおかげもあってか、今のところ野菜たちを賽の目切りにすることに成功している。本当は1センチ角くらいにしたかったけど、目標より少し大きめなのは愛嬌。
包丁に向き合いすぎて人参(もどき)を1個切り終えた頃には20分が経過していた。
ガシモワ料理長は「ゆっくりでいい」って笑いながら見守ってくれる。
結局、全ての野菜の下拵えが終わったのは、厨房に入って約1時間が経過した頃だった。
「ふぅ……」
「やるじゃねぇか!!昨日と比べてえらい上達っぷりだ」
「ありがとうございます。ガシモワさんのおかげです」
僕の姿勢や包丁の握り方を見て、「気持ち左側を向いて」「押さえる方の手はもうちっと力を抜いて」などアドバイスをくれ続けたガシモワさんのおかげで、無事全ての野菜とケソ茸をきれいに切ることができた。
さすがプロ。
助言ひとつで僕のパフォーマンスは段違いに良くなった。と思う。
安心できたのも束の間、勝負はこれからだ。
一口水を飲んで休憩し、いよいよスープを作る工程に取り掛かる。
ガーの肉は、旅の途中に寄った町で買った塩漬けを使うことにした。塩味が程よくあるので、難しい味付けをせずとも出汁の旨味と合わさって良い味になるらしい。
鍋に塩漬けのスライス(スライスも僕がした!)とケソ茸を入れてしばらく煮る。
そしたら全ての野菜を入れて玉ねぎ(もどき)がトロトロになるまで煮る。
ただ鍋に入れて放っておくだけなんて思っていたら大間違い。火の調節だって僕にとったら大仕事だ。
ぶくぶく激しく沸騰しようものなら、鍋に怒られているみたいで慌ててしまうし、逆に鍋の中が静まりかえっていたら本当に火が入っているのか心配になってしまう。
落ち着きのない僕を見てガシモワさんが「大丈夫だアキオ殿。食材と自分の力を信じて待ちな」なんてカッコいいこと言った。
ちょうどぷくぷく静かに沸騰するくらいの火加減に調節して、美味しくなれ、美味しくなれと念じながら鍋を見守ることにした。
ジルさんも、こうやってまじないをかけながらスープを作ってくれたのかな。
………いや、それは無いか。
午前中のお勉強の時間にも、そわそわしているのをオグルィ先生に見透かされて笑われてしまった。
もしかしたら、ジルさんにも変に思われているかもしれない。でもきっとユリがうまく説明してくれているだろう。
夕方、僕は食堂の厨房にいた。
包丁は奥が深い。
少し集中を疎かにすると全く思わぬ方向に刃先が向いて野菜は想定外の形に仕上がってしまう。さらに僕の場合、足のバランスも考えなきゃいけない。手に力を入れすぎると下半身にもブレが伝わってよろけそうになる。
一回一回丁寧に手元に向き合い、お願いだから真っ直ぐ切れてくださいと思いを乗せながら程よく力を込める。
———サクッ
「おぉ!ずいぶん上手くなってるじゃねぇかアキオ殿!」
「朝からちょっと、イメージトレーニングを」
「はっはっはっ!そりゃ大事なことだ!」
そう。僕は今日、朝起きた瞬間からイメージトレーニングでダンボール1箱分の野菜を切り刻んでやったのだ。そのおかげもあってか、今のところ野菜たちを賽の目切りにすることに成功している。本当は1センチ角くらいにしたかったけど、目標より少し大きめなのは愛嬌。
包丁に向き合いすぎて人参(もどき)を1個切り終えた頃には20分が経過していた。
ガシモワ料理長は「ゆっくりでいい」って笑いながら見守ってくれる。
結局、全ての野菜の下拵えが終わったのは、厨房に入って約1時間が経過した頃だった。
「ふぅ……」
「やるじゃねぇか!!昨日と比べてえらい上達っぷりだ」
「ありがとうございます。ガシモワさんのおかげです」
僕の姿勢や包丁の握り方を見て、「気持ち左側を向いて」「押さえる方の手はもうちっと力を抜いて」などアドバイスをくれ続けたガシモワさんのおかげで、無事全ての野菜とケソ茸をきれいに切ることができた。
さすがプロ。
助言ひとつで僕のパフォーマンスは段違いに良くなった。と思う。
安心できたのも束の間、勝負はこれからだ。
一口水を飲んで休憩し、いよいよスープを作る工程に取り掛かる。
ガーの肉は、旅の途中に寄った町で買った塩漬けを使うことにした。塩味が程よくあるので、難しい味付けをせずとも出汁の旨味と合わさって良い味になるらしい。
鍋に塩漬けのスライス(スライスも僕がした!)とケソ茸を入れてしばらく煮る。
そしたら全ての野菜を入れて玉ねぎ(もどき)がトロトロになるまで煮る。
ただ鍋に入れて放っておくだけなんて思っていたら大間違い。火の調節だって僕にとったら大仕事だ。
ぶくぶく激しく沸騰しようものなら、鍋に怒られているみたいで慌ててしまうし、逆に鍋の中が静まりかえっていたら本当に火が入っているのか心配になってしまう。
落ち着きのない僕を見てガシモワさんが「大丈夫だアキオ殿。食材と自分の力を信じて待ちな」なんてカッコいいこと言った。
ちょうどぷくぷく静かに沸騰するくらいの火加減に調節して、美味しくなれ、美味しくなれと念じながら鍋を見守ることにした。
ジルさんも、こうやってまじないをかけながらスープを作ってくれたのかな。
………いや、それは無いか。
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