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王都〜第二章〜
誕生日パーティー
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幸せな幸せな誕生日が終わってしまった。
次の日起きたら隣にジルさんはいなかった。いつも通りの朝。不思議と全く寂しさはなくて、僕の心はぽかぽかと明かりが灯ったような気持ちで満たされていた。
布団を出てまずはじめに、ベッド脇の台に置いてある懐中時計を首にかけた。
それからソファに腰掛けてぼーっとしているとユリが迎えに来た。どこからか僕の誕生日を聞きつけたユリがイガさんとメテさんを誘ってお菓子パーティーを計画してくれたらしい。
いつものようにイガさんのお部屋に行くと、一昨日の出来事を知っているのか2人は心配そうな顔をしていた。けれどすぐに「おめでとう」と笑顔を見せてくれて、なんだかくすぐったくて暖かい気持ちになった。この「おめでとう」の意味が単に誕生日だけでないと気づいたのはおお菓子を2、3口食べた頃だ。
みんなからの期待の視線に負け、僕は色々な、それはもう色々な報告をした。何から何まで全て話した。
ジルさんからの口付けに、顔から火が噴き出しそうなほど緊張してしまうことも、何もかも。
3人とも話を引き出すのがうますぎてつい乗せられてしまった。
ここまでくるともう何も恥ずかしくない。
「はぁ……やはり何も起きなかったか。司令官の理性の壁は思ったよりも分厚い」
「ん? ユリ、何か言った?」
「いえいえなーんにも!あっ、すぐお茶のおかわりを用意して参りますから少しお待ちくださいね」
「ありがとう」
「すみませんユリッタさん。お客さんなのにお茶の準備をさせてしまって」
「何をおっしゃいますイガ隊員。こういうのは給仕のわたくしにお任せください」
僕の話をひととおり聞いたユリは何かを呟きながらお茶の準備をしに部屋を出て行った。
「いやぁしかしアキオ君、やっぱり君はやる男だ。本当に司令官を落とすとは。俺の目に狂いはなかったということだね」
「何を自分の手柄みたいに」
イガさんは得意気なメテさんに苦言を呈す。
「そう言うイガさんだって、実はめちゃくちゃ嬉しいくせに」
「当たり前でしょう。アキオ君が幸せそうが顔を見せてくれて私まで幸せでいっぱいです。
本当に、よく頑張りましたね」
「みなさんが支えてくださったおかげです。感謝しています。本当にありがとうございます」
僕1人ではこんな幸せは掴めなかった。
改めて2人にお礼を言うと、とても優しい顔をしていた。いやはや、ほんとイガさんとメテさんって癒される。僕は心の中でベストカップル賞を贈呈した。
「いや~~しかしこんな日が来るなんてね。町の宿であんな話やこんな話をしてたのが懐かしいよ」
「ええ、なんだか感慨深いというか」
2人は思い出に浸るように言う。
あの日は修学旅行の夜みたいでほんとに楽しかったな。
僕のまとまりのない話を根気強く聞いてくれて、気持ちに整理をつけてくれたのはこの2人に他ならない。
城に来てからはユリやオグルィ先生にも相談に乗ってもらって、僕の今の幸せはみんながいなければ成り立たなかったものだと身に染みて感じる。
「またしたいです」
「ええ、もちろん。いろんなお話をしましょうね」
「アキオ君の奮闘記、これからもじゃんじゃん聞かせてもらうよ」
「奮闘記……?」
メテさんが意味深な声色で言った。
奮闘記って、僕はこれからもなにか奮闘しなければいけないのか。ジルさんとはもう思いが通じたのに一体何を?
考えていると、当たり前のような顔でメテさんがこう言った。
「アキオ君、もしかしてもうゴールだと思ってない? いい? ここからがスタートだからね」
………………
スタート……
そっか。確かにそうだ。
昨日ずっとソワソワどきどきがおさまらなかったのはこういうことだったのか。つまり恋人同士になったら毎日ハグとかキスとかいう密接なスキンシップをとるわけで、いちいち心臓が大変なことになるわけで。
昨日は一日中心の中が幸せとドキドキでしっちゃかめっちゃかだったけど、これからは毎日これが続くということ……
え、どうしよう。困る。
「あ、メテ。そろそろお昼が来てしまいますけど時間は大丈夫ですか?」
「うわ、もうこんな時間か」
「メテさん、今日何かあるんですか?」
「俺今日当直当なんだ。もっと色々聞きたかったけど、残念!アキオ君、この話はまた今度ね」
「はい、また今度」
「すみませんメテ。私のせいで皺寄せが」
「何言ってるんですかイガさん、 当たり前のことでしょう。もし次そんなこと言ったら……」
「っはいはい、分かりましたから。さっさと行ってください」
しっしっ、とメテさんを手で払う。
「辛辣なイガさんも好きだなあ~」
メテさんはほんの一瞬だけ厳しい顔をしたけど、イガさんの辛辣なお見送りを受けいつも通りの笑顔に戻り、では!と言って部屋から出て行った。
と思ったらすぐに引き返して来て、
「イガさん、ちゃんとあったかくして寝てくださいよ!」
「はいはい、分かってますから」
「それじゃ行ってきます!」
「いってらっしゃい」
ドタバタとイガさんを気遣いながらメテさんはお仕事に行った。
僕の頭の中には、メテさんの言い残した言葉がずっと残っていた。
奮闘……
奮闘、しなくちゃね。
それにしても、イガさんはメテさんに何を謝っていたのだろう。
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