【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

文字の大きさ
156 / 176
続編その②〜魔力練習編〜

26.診察

しおりを挟む


発情期に入って数日が経ち、症状も落ち着いてきた頃、クールベさんの診察が入った。

地獄のような禁欲療法は皮肉にも効果があったようだ。前回よりもスムーズに(僕にとっては全然スムーズじゃないけど)発情期が訪れたことを、クールベさんは喜んでいた。

「で、今後も続けられそうか?」

僕たちの部屋のテーブルで、出されたお茶には目もくれず僕の症状に興味津々といった様子のクールベさんが尋ねた。

「我慢しなきゃいけないのは、だいぶ辛かったけど……これを続ければ、だんだん周期が安定してくるんですよね?」

「ああ。今回の様子を見る限り、それは間違いないと言っていい」

クールベさんは顎に手を当てて頷いた。
「しかし、思ったより効果が出たな。最初のうちはもっと難航するかと思っていたが」

穴が開きそうなほど僕を見つめるクールベさんに、フレイヤさんが口を開いた。

「ハルオミが教えてくれた『耳ツボマッサージ』が、良かったのでしょうか」

「耳ツボ?」

 クールベさんが首を傾げる。

「ええ。耳には神経が集中しています。ハルオミの世界では、刺激することで体調を整える効果があると言われているそうで、専門の施術者もいるとのことです」

「耳、ねえ……」

クールベさんが考え込む様子を見て、僕は慌てて付け加えた。

「フレイヤさん、耳ツボマッサージって言っても医療じゃないし、気休め程度に思ってる人もいるから、そんな大した効果はないと思うよ」

「いや……良いかもしれんな」

意外にも、クールベさんが肯定的な反応を示した。

「フレイヤの言う通り、耳には多くの神経が集まっている。『耳ツボ』とやらは調べてみんと分からんが、耳に走る迷走神経は刺激すると性的快感に似た効果を体に与えるんだ」

クールベさんは目を輝かせた。

「なるほどな。無理に禁欲ばかりするより、微妙な刺激で発情を促す方が効果的な可能性もあるってことか……んじゃこの理論で行くと——」

クールベさんは何かを思いついたように、鞄から手帳を取り出してメモを取り始めた。

「他の部位でも同様の効果が期待できるかもしれねぇな。感覚器官の密集する場所を刺激して、さらに貞操帯で物理的抑制を加えれば……」

「クールベ叔父上」

フレイヤが静かに声をかけた。

「あ?」

「ハルオミを実験台にするのはお控えください」

「……はいはい、分かっておりますとも」

 クールベさんは不満そうに手帳を閉じた。

「んじゃ、診察を続けるぜ。発情期中の症状についてだが、眠気はどうだ?」

「最初の二日くらいは、ずっと眠かったです。でも、今はだいぶマシになりました」

「そうか。食欲は?」

「あんまりなかったけど、フレイヤさんが食べさせてくれるので……」

僕はフレイヤさんの方を見た。彼は穏やかに微笑んでいる。

「体温の変化は?」

「熱っぽくて、汗もたくさんかきました」

「典型的な症状だな。まず問題ねえ」

クールベさんは頷いた。

「フレイヤ、お前の方はどうだ? 祓魔の副作用は?」

「問題ありません。ハルオミのおかげで、いつも以上に調子が良いです」

フレイヤは自信を持って答えた。

「そうか。なら、当分はこのままで様子を見よう」

 クールベさんは立ち上がった。

「次の診察は、明後日だ。それまでに何か異変があったら、すぐに連絡してくれ」

「はい、ありがとうございます」

フレイヤさんと一緒に頭を下げた。

「では、失礼する」

クールベさんが部屋を出ていくと、僕はほっと息を吐いた。

「お疲れ様、ハルオミ」

フレイヤさんが僕の頭を撫でた。

「ありがとう。でもお疲れなのはクールベさんだよ。僕の発情期のたびに屋敷まで来てくれて。大切な研究もあるのに」

フレイヤさんは眉を下げて困ったように優しく笑った。

「私の目には、叔父上の研究対象が魔物からハルオミに移っている気もするが」

「そうかな」

「ああ。それより……少し休むかい?昨日も無理をさせてしまったから、体が痛いだろう」

彼が申し訳なさそうな顔をすると、不謹慎なことに僕の胸がキュンキュンして無意識に銀髪を撫でてしまう。

「ううん、大丈夫だよ。それに、このちょっと筋肉痛がある感じ、ほんとはね、少し好きなんだ」

意を決して照れながらも正直にそう言うと、フレイヤさんは慌てた顔をして両手をわきわきさせながら捲し立てた。

「き、筋肉痛があるのかい、やはり私が無理な体勢にしたせいだろうか。こちらの世界では温めるといいと習うのだが、君の世界ではどうだろうか。私たちと同じ方法で対処していいかい?ああ、その前に寝台へ行こう。安静にした方がいい」

「大丈夫大丈夫!本当に気にしないで。なんかね、何もしてなくてもフレイヤさんを感じれて、心がじんわりして、体全体から幸せを感じれるの」

ちょっと変態チックな言い回しにはなってしまったが、これは本音だ。このちょっとした痛みが、僕にとってはこの上なく幸せなのだ。

それに、いつも思う。
僕にはこうやってほんのちょっとの痛みしかないけど、魔祓い師の人たちは常に心身を賭けて魔物と戦ってくれている。
体を蝕むと分かっていて仕事をするってどんな感じなんだろう。側仕えがいるとはいえ、頭痛吐き気や幻覚や幻痛、そんなものが毎日襲うなんて絶対に辛いはずだ。でも、魔祓い師がいないとこの世界は成り立たない。

「フレイヤさん、いつもありがとうね」

どうしようもない気持ちを、彼の胸の中でつぶやく。後頭部に大きな手の温もりを感じながら、大好きな香りを肺いっぱいに吸った。








しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。 ✻✻✻ 2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36) 低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。 諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。 冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。 その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。 語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

処理中です...