【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

文字の大きさ
157 / 176
続編その②〜魔力練習編〜

27.キュートアグレッション

しおりを挟む
「そうだ。あとね、今日嬉しいことがあったんだ」

「嬉しいこと?」

厚い胸から顔を上げて彼を見上げると、こてんと首を傾げながら聞いてきた。

「うん。夢の中にパネースさんとイザベラとウラーさんが出てきたんだ」

「おや、その三人が……」

「そう。なんか扉の隙間からこっちを覗いてて、それで僕、幸せな気持ちになって三人の笑顔を見ながら眠ったの。夢の中でも眠るなんて、本当に僕は寝坊助だよね」

フレイヤさんは微笑みながらも少し考える素振りを見せ、

「もしかすると、それは夢じゃなかったのかもしれないよ」

と言った。

「え?」

「あの三人のことだ。君のことが心配で、クールベ叔父上の言いつけを破ってこの部屋を覗きに来たんだろう」

「そうかなあ」

「ああ。おそらくイザベラあたりが発端で、パネースもああ見えて乗せられやすい性格だからね。ウラーはただの興味本位だろう」

微笑みながら三人の様子を脳内でシミュレーションするフレイヤさんは、穏やかで——。

「ふふっ」

 僕は無意識に笑っていた。

「どうしたんだい、ハルオミ」

「だって、フレイヤさんはクールベさんが自分の叔父さんだって知らなかったり、ウラーさんがクールベさんの伴侶だって知らなかったり、あまり周りに興味がない感じもあったけど……やっぱり一人ひとりのことはちゃんと見てるんだなって思って」

僕は彼の胸に顔を埋めた。

「最近は特に、イザベラとパネースさんにも僕の様子を話してくれてるみたいだし」

「あの二人が君に会いたがっている様子は見ただけでわかるからね」

 フレイヤさんは僕の髪を撫でた。

「イザベラには『ハルオミにあまり無理をさせないように』と釘を刺されたよ」

「そうなの?」

フレイヤさんが側仕えたちと話しているところを頻繁に見るわけじゃないけれど、こういう僕の外出禁止期間には、イザベラとパネースさんに僕の体調や様子を伝えてくれているようだ。
 それは嬉しいけれど——。

「どうしたんだい、ハルオミ?」

「ううん、今すごく変なこと考えちゃったから、言わないでおく……」

 脳裏に浮かんだことを振り払うように首を振ると、フレイヤさんの手が僕の両頬を包んだ。

「思ったことがあるなら言った方がいい。それに、どんなに変なことだって、君が思ったことなら聞きたい」

「………いや、違うんだ」

 僕は視線を逸らした。

「フレイヤさんがイザベラとパネースさんと仲良くなればなるほど、僕は嬉しいんだけどね——なんか、前みたいな、ぼ、僕だけ、みたいなフレイヤさんも良かったなーって……思ったり、思わなかったり」

 我ながら子供みたいなことを言っている。弟が生まれた長男のような、幼稚なヤキモチの焼き方。情けない。

「やっぱり、聞かなかったことにして」

「いいや、もっと言ってくれ」

彼は僕の顔を包んだまま、もっと顔を近づけてきた。

「ん? イザベラたちと話す私に、なんだい? 何と思うことがあると言ったんだい?」

「む……意地悪」

「仕方がないじゃないか。君があまりにもいじらしく口を尖らせるから、つい追求したくなるんだ」

鋭く、それでいて優しい目に見つめられたら、僕はもう彼の思う壺だ。

「やきもち、焼いたの……別にいいでしょ?」

観念して小さく呟くと、フレイヤさんの目が一瞬見開かれ——次の瞬間、彼は僕を強く抱きしめた。
「……っ、フレイヤさん?」

「ああ、ごめん」

 彼の声が、少し震えていた。

「素直に認める姿が想像を遥かに超えるほど可愛くて」

「え……」

「それに嬉しいんだ」

 フレイヤさんは僕の耳元で囁いた。

「君が、私に嫉妬してくれるなんて」

「だ、だって……」

僕は恥ずかしくて、彼の胸に顔を埋めた。
胸の振動から、彼の言葉が伝わってきた。

「それに、私だって小さな嫉妬をよくしているよ」

「え、そうなの?」

「ああ。例えば、君の夢に出てきたのがその三人だったこととかね」

「え……」

わ、フレイヤさんちょっと悲しそうな顔してる。
えっ、ここまで僕の話を聞いておいて、まさかの序盤に嫉妬してたの?

「えっ、かわい……」

むりむりむり、可愛すぎる。
僕の夢に出てきたのがフレイヤさんじゃなかったからやきもち妬いたの?やきもち妬きながら僕の話を聞いてたの?

……かわいいちゅーしたい。

僕が実践するよりも先に、彼は僕の顔を持ち上げて、額にキスをした。

「もう……僕がしようと思ってたのに」

「君の目が蕩けてしまいそうだったから、思わず」

「だってフレイヤさんが可愛すぎるんだもん。ねえ、約束してね?」

「約束?」

「うん。そんな可愛い感じになるの、僕の前だけにしてね。イザベラとかパネースさんとか、ウラーさんにも見せちゃダメだよ」

「私を可愛いなどと言ってくれるのはハルオミくらいだから、心配はいらないよ」

「違うよ!フレイヤさんは可愛いの!とっても!だからここの屋敷の人たちだけじゃなくて、他の地域の魔祓い師様たちとかにもダメだからね?」

「問題ないよ、他の地の魔祓い師たちとは、そうそう一緒にはならない。かなりステージの高い魔物が出た時に協力するくらいだ」

「だから、その時に可愛くならないでねって言ってるの。フレイヤさんがこんなに可愛いの知られたら、他の人にとられちゃう……」

一応言っておくと、発情期で感情がいつもより昂っている。それが故の言動であることを今一度わかってほしい。

僕だって、フレイヤさんがホイホイ誰かについていくとは全く思ってない。
でもやっぱり、こんなにかっこよくてこんなに可愛いから、最悪の中の最悪の場合も想像してしまうというものだ。

それを彼も察してくれたようで、僕が何度も何度も釘をさすと、「わかった、わかった」と言って何度も顔にキスをしてくれた。

「約束だからね?可愛くなるのは僕の前だけだからね?」

「はい。約束しますよハルオミ君」

「ふふん、よろしい」

なにごっこなのかもよく分からない遊びを終えると、僕は意気揚々と日課のマッサージの体勢に移った。

どこかのお姫様にでもなったつもりで、フレイヤさんの膝に頭をのせ、心地よい時間を楽しむのだ。



ちなみに発情期が終わって正気を取り戻すと、毎回毎回、このような言動についての羞恥と後悔から1日を始めることになるのである。


しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。 ✻✻✻ 2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36) 低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。 諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。 冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。 その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。 語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

処理中です...