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湖畔の孤児、祓魔師の愛を悟る
14.お出かけ③
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「思ったより人が多いな……はぐれるなよ、パネース」
「は、はい!」
恥ずかしがっている場合ではない。街を歩くなど、ほとんど経験がないのだ。しっかり繋いでいないと、本当に迷子になってしまう。
とはいえ——。
「ねえ、あの方……魔祓い師様じゃない?」
「本当だ。ヴィーホット家ご長男の、ニエルド様だ」
「ニエルド様? まさか……本当だ!」
「ニエルド様が、なぜこんな場所に」
「しかも、隣にいるのは誰だ?」
「側仕えじゃないか?」
「ニエルド様にはまだ側仕えがいないという噂だが」
「じゃあ、あれは一体……」
道ゆく人々の視線が、こちらに注がれている。とても目立っている。思わず下を向きたくなる。けれど、今日は前を向いて歩くと決めていた。
ニエルドさんにもらった服を着て、ニエルドさんの隣を歩いて、何だか少しだけ自分に”自信”があるのだ。
今までこんな感覚になったことはない。この自信も、ニエルドさんからもらったものだから、大切にしなければ。
「パネース、お前は果物のジュースが好きだったよな? あの店で買ってみるか? 人気みたいだぞ」
ニエルドさんが指したのは、少し列のできている飲み物屋だった。看板に果実の絵が描かれている。
「はい……飲んでみたいです!」
勇気を出してした返事は、少し声が裏返ってしまった。それでも自分の意思をちゃんと伝えることができた。
「よし、じゃあ並ぶか」
ニエルドさんは私の手を引いて、列の最後尾へと向かった。
前後には、若者たちが並んでいる。彼らは皆、綺麗な服を着て、楽しそうに笑い合っている。
私は場違いではないだろうか。そんな不安がよぎったが、ニエルドさんが私の手を握る力を少し強めた。
「緊張してるか?」
「……少し」
「大丈夫だ。」
その言葉に、私の胸が温かくなった。
列は少しずつ進み、やがて私たちの番が来た。
「いらっしゃいませ! 何になさいますか?」
店員の明るい声に、私は少し怯んだ。
「パネース、何がいい?」
ニエルドさんが優しく聞いてくれる。
「えっと……あの、これ……」
私は看板の一番目立っているメニューを指差した。「季節の果実ミックス」と書かれている。
「じゃあ、それを二つ」
ニエルドさんが注文してくれた。
「かしこまりました! 少々お待ちください」
店員は手際よく果物を切り、ジュースを作り始めた。色とりどりの果物が、透明なグラスの中で混ざり合っていく。
「綺麗……」
思わず呟くと、ニエルドさんが笑った。
「お待たせしました!」
店員が、二つのカップを差し出した。
色々な果物が層になっていて、とても美しい。
「ありがとう」
ニエルドさんが代金を払い、私にカップを渡してくれた。
「飲んでみろ」
「はい……」
ストローを口に含み、ゆっくり吸う。
——甘い。
果物の甘さと、ほんの少しの酸味が口の中に広がった。
「美味しい……!」
「そうか、良かった」
ニエルドさんも嬉しそうに笑った。
私たちは歩きながらジュースを飲んだ。
街の喧騒、人々の笑い声、色とりどりの看板。こんなに賑やかな場所を、私は初めて楽しいと思った。
それはニエルドさんが、隣にいてくれるからに他ならない。
「ニエルドさん」
「ん?」
「ありがとうございます」
「何がだ?」
「こうして、一緒に街を歩いてくださって」
私が言うと、ニエルドさんは少し驚いたような顔をした後に、優しく微笑んだ。
「礼を言うのは俺の方だ」
「え……?」
「実は俺もあまりこういう場所に来ることはなくてな。お前と一緒なら楽しいかと思ったんだんだ。想像以上に浮き足立っている」
その言葉に、私の胸が熱くなった。
ニエルドさんも楽しいと思ってくれているのだ。
「ふふふっ、じゃあ、次はどこへ行きましょうか」
私が尋ねると、ニエルドさんは少し考えた。
「そうだな……お前、本は好きか?」
「本……ですか?」
「ああ。この街には大きな書店がある。お前が勉強で使う本ももっと買っておいた方がいいだろう」
「……はい!」
私は嬉しくなって、頷いた。ニエルドさんは私の手を引いて歩き出した。
こんなに幸せな時間が、あっていいのだろうか。
「は、はい!」
恥ずかしがっている場合ではない。街を歩くなど、ほとんど経験がないのだ。しっかり繋いでいないと、本当に迷子になってしまう。
とはいえ——。
「ねえ、あの方……魔祓い師様じゃない?」
「本当だ。ヴィーホット家ご長男の、ニエルド様だ」
「ニエルド様? まさか……本当だ!」
「ニエルド様が、なぜこんな場所に」
「しかも、隣にいるのは誰だ?」
「側仕えじゃないか?」
「ニエルド様にはまだ側仕えがいないという噂だが」
「じゃあ、あれは一体……」
道ゆく人々の視線が、こちらに注がれている。とても目立っている。思わず下を向きたくなる。けれど、今日は前を向いて歩くと決めていた。
ニエルドさんにもらった服を着て、ニエルドさんの隣を歩いて、何だか少しだけ自分に”自信”があるのだ。
今までこんな感覚になったことはない。この自信も、ニエルドさんからもらったものだから、大切にしなければ。
「パネース、お前は果物のジュースが好きだったよな? あの店で買ってみるか? 人気みたいだぞ」
ニエルドさんが指したのは、少し列のできている飲み物屋だった。看板に果実の絵が描かれている。
「はい……飲んでみたいです!」
勇気を出してした返事は、少し声が裏返ってしまった。それでも自分の意思をちゃんと伝えることができた。
「よし、じゃあ並ぶか」
ニエルドさんは私の手を引いて、列の最後尾へと向かった。
前後には、若者たちが並んでいる。彼らは皆、綺麗な服を着て、楽しそうに笑い合っている。
私は場違いではないだろうか。そんな不安がよぎったが、ニエルドさんが私の手を握る力を少し強めた。
「緊張してるか?」
「……少し」
「大丈夫だ。」
その言葉に、私の胸が温かくなった。
列は少しずつ進み、やがて私たちの番が来た。
「いらっしゃいませ! 何になさいますか?」
店員の明るい声に、私は少し怯んだ。
「パネース、何がいい?」
ニエルドさんが優しく聞いてくれる。
「えっと……あの、これ……」
私は看板の一番目立っているメニューを指差した。「季節の果実ミックス」と書かれている。
「じゃあ、それを二つ」
ニエルドさんが注文してくれた。
「かしこまりました! 少々お待ちください」
店員は手際よく果物を切り、ジュースを作り始めた。色とりどりの果物が、透明なグラスの中で混ざり合っていく。
「綺麗……」
思わず呟くと、ニエルドさんが笑った。
「お待たせしました!」
店員が、二つのカップを差し出した。
色々な果物が層になっていて、とても美しい。
「ありがとう」
ニエルドさんが代金を払い、私にカップを渡してくれた。
「飲んでみろ」
「はい……」
ストローを口に含み、ゆっくり吸う。
——甘い。
果物の甘さと、ほんの少しの酸味が口の中に広がった。
「美味しい……!」
「そうか、良かった」
ニエルドさんも嬉しそうに笑った。
私たちは歩きながらジュースを飲んだ。
街の喧騒、人々の笑い声、色とりどりの看板。こんなに賑やかな場所を、私は初めて楽しいと思った。
それはニエルドさんが、隣にいてくれるからに他ならない。
「ニエルドさん」
「ん?」
「ありがとうございます」
「何がだ?」
「こうして、一緒に街を歩いてくださって」
私が言うと、ニエルドさんは少し驚いたような顔をした後に、優しく微笑んだ。
「礼を言うのは俺の方だ」
「え……?」
「実は俺もあまりこういう場所に来ることはなくてな。お前と一緒なら楽しいかと思ったんだんだ。想像以上に浮き足立っている」
その言葉に、私の胸が熱くなった。
ニエルドさんも楽しいと思ってくれているのだ。
「ふふふっ、じゃあ、次はどこへ行きましょうか」
私が尋ねると、ニエルドさんは少し考えた。
「そうだな……お前、本は好きか?」
「本……ですか?」
「ああ。この街には大きな書店がある。お前が勉強で使う本ももっと買っておいた方がいいだろう」
「……はい!」
私は嬉しくなって、頷いた。ニエルドさんは私の手を引いて歩き出した。
こんなに幸せな時間が、あっていいのだろうか。
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再開にもコメントいただけるなんて、胸がいっぱいで涙が出そうです。
本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
丑三とき
すいません!番外編で言っているの見逃してました!
完結おめでとうございます!すごくいい話でした!もしよければなんですけど、パネースとイザベラの過去?側仕えになった時の話を書いてもらえたらと思います!よかったらでいいのでよろしくお願いします!
ame様
コメントいただきありがとうございます!!
パネースとイザベラの過去編気になってくださって本当に嬉しいです🥰🥰✨
ぜひ待っていてください♪♪
丑三とき拝