【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

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東の祓魔師と側仕えの少年

19.魔力の授受

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「何でだ……」

「何故でしょうね……」


二人と"練習" した後、僕はイザベラの部屋のシャワーを借りてさっぱりした。

「あの、シャワーありがとう」

ほかほかに温まって気分良く風呂を上がると、二人が頭を抱えている場面に遭遇したのだ。

「……はぁ、風呂上がりもちゃんとエロいのに、何でだ!」

ちゃんとって何だ。でも今の僕にとってその言葉は救いだった。

「何でこんなハルオミに手ぇ出さないのか、ほんと謎だよなフレイヤ様」

「ええ、何故でしょうね……あの方のお考えになっていることは昔から分かりません」

二人はずっと頭を捻っている。

「ありがとう。でも僕、今日こそフレイヤさんをぎゃふんと言わせてやるんだ……」

拳をギュッと握って標的を頭に思い浮かべる。

「ふふふっ、ハルオミ君、楽しそうですね」

「……そうかな?」

「ええ。とても楽しそうですよ、その調子です。自分が楽しまなきゃ主を癒すことなんてできませんから」

「そっか、じゃあ今日もたくさん楽しむ。二人のおかげで何とかなりそう。本当にありがとう」

「当たり前だろ、俺が練習してやったんだ。ちゃんと実践しろよハルオミ」

「うん!」



時は過ぎ、夜。この日僕は二人と一緒に夕飯を食べた。異世界の食べ物の話をしたり、この世界のことを教えてもらいながら食べるご飯はおいしかった。二人にも今度アップルパイを作ってあげよう。

そして意気揚々と部屋に戻り、側仕え用の襦袢に着替え部屋の明かりを落とし、寝台で待機した。イザベラのアドバイス通り、少しだけ服をはだけさせて露出多めに着用。さてどうするフレイヤさん、こっちはいつでも準備おっけーだ。どんとこい!




数十分過ぎた頃だろうか。窓から見える月にも飽きてきた頃、待ち望んだ人物が目の前に現れた。突然現れたらびっくりする。この瞬間移動的なやつは "転移魔法" というらしい。

「お帰りなさい、フレイヤさん」

「ただいまハルオミ」

彼は、はぁ、と疲れたようなため息を吐いて僕に覆い被さってくる。

「フレイヤさん?」

「ハルオミに会いたくて最速で帰ってきたよ。私を癒してくれるかい?」

「うん、もちろん……!」

よし。まかせなさい。
ついにこの時が来たと意気込んでいると、彼はじぃ、っと僕の体全体を見つめて動かなくなった。

ふふふ、ありがとうイザベラ、君のアドバイスはとても的確だったようだ。フレイヤさんこんなに興味津々に、ほら、すぐに手が伸びてきた。脱がされ…

「こんな格好をしていたら風邪をひいてしまうだろう。ほら、きちんと前を閉めなさい。布団も首までかけて。夜は冷え込むから気をつけなさい」

違った……!
え、手強っ。露出大作戦でもダメなのか。
よし、こうなったら別の手で反撃だ。

「フレイヤさん」

「ん? どうしたんだい?」

「ねえ見て、これイザベラに貰ったんだ」

僕はかけられた布団を剥がして襦袢をめくり、太ももをさらけ出した。フレイヤさんの髪の色とお揃いの印章があかりに反射して微かに光った。

「印章を貰ったんだね。イザベラがどうしても自分が選びたいと言うから任せたんだ。私なんかよりもきっと感性がいいだろうからね。ハルオミによく似合っている」

フレイヤさんは僕の太腿に嵌められた印章を撫でている。いけそうだ。

「フレイヤさん、ここにフレイヤさんの魔力をちょうだい?」

渾身のおねだり。どうだ。僕は自信満々に胸を張る。




「っ、それは……できない」



返ってきたのはあまりにも想定外の言葉で、どうにも反応ができなかった。今、もしかして断られた? 

でもフレイヤさんの魔力が無いと……

その時、彼の魔力がなければ魔物に襲われてしまうとか悪い人間に狙われてしまうとか、そんなことどうでもよくて、彼に拒否をされたこと自体に物悲しさを感じている自分に気がついた。

「……どうして?」

恐る恐る聞くと、彼は姿勢を正してベッドの脇に座り、その膝の上に僕を毛布ごと抱えて抱き込んだ。身体中に彼の香りが充満する。

「君が異世界人だからだ」

異世界人だから、なんなんだ。
異世界人を側仕えにしたのはそっちじゃないか。


今まで生きてきて、誰から拒否されても悲しさなんて感じたこと無かった。中学生のとき同級生に仲間はずれにされた時も、父に無視をされた時も、なんにも悲しくなかった。

なのに、この気持ちは何だろう。
フレイヤさんの言葉にひどく落ち込んでいる自分がいる。

「どうして、異世界人はダメなの?」

「異世界人だからダメなのでは無い。君だから、できないんだ」

「よくわからない。どういうこと、だろう……」

僕が聞くと、彼はとても複雑そうな表情をしてしばらくの間黙り込んだ。僕は彼が何と言うかずっと待っていた。




しばらくして、辛そうな顔をして口を開いた。

「……私はなんて傲慢なんだろうね。君が何も知ることなく、ただただ私のそばから離れなければいいなんてひどく自分勝手なことを思っている」

言葉が出なかった。

そばを離れないで欲しいなんて言われたことなかったから。


——いや違う。一度だけ言われたことがあった。13歳の時、いつものように母のお見舞いに行った。いつも気丈に振る舞って「母さんは元気よ、将来マッチョになるんだから」と冗談ばかり言っていた母は、その時僕の去り際に一言、「晴臣がずっとそばにいてくれたらいいのに」と言った。

母さんの悲しそうな顔を見たのはそれが最初で最後だった。助けてあげなきゃ。そう思ったのに、何もできなかった。何もできないまま次の日の早朝に母さんは死んだ。

助けてあげなきゃ。
フレイヤさんを助けてあげなきゃ。

僕は無意識のうちに彼の首に抱きつき、離すものかと力を込めた。

「傲慢じゃないよ。だって僕そう言われて嬉しいもの。僕が嬉しいなら自分勝手じゃないでしょ? お願い、謝らないでフレイヤさん。僕はフレイヤさんを癒してあげたいけど、フレイヤさんが今じゃないって思っているのなら、きっと今じゃないんだと思う……でも、僕……」

何でこんなに切ないのか自分でも訳がわからなかった。
フレイヤさんを癒したかったのではなく、自分がただただフレイヤさんに触れたかったのだと気がついた。

「ああハルオミ、本当にすまない。君に悲しい顔をさせてしまった。私は君の主失格だ……」

彼もまた、何かに傷ついているようだった。
それはおそらく自分自身に対する葛藤の末に生まれた傷らしかった。

僕はフレイヤさんを思い切り抱きしめた。

「ううん、そんなことない」

撫でた銀色の髪の毛は、月明かりに照らされて幻想的に僕の目に反射した。

しばらくそうしていた。
撫でたそばから香りが漂う。この時間がずっと続いて欲しい。

フレイヤさんの魔力がもらえなくても、フレイヤさんにそばにいて欲しいって思ってもらえるだけでいいと思った。
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