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東の祓魔師と側仕えの少年
31.家族会議①
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◆
視線が痛い。
夜になった。僕は食事会場である大広間に向かっている。
今日は一日中フレイヤさんとお部屋でのんびり過ごした。昨日は寝るのが遅かったから夜伽ができなかったけど、今日は一日中チャンスがあるので僕はフレイヤさんを何度か寝台で襲ってみたりした。だけど結果は惨敗。
いつものように抱き込まれて頬や瞼を撫でられているうちにお昼寝してしまった。不覚。イザベラやパネースさんはきっと側仕えとしての役目をきちんと果たしているだろうに、その間僕はなんとぐっすり眠っていたのだ。
劣等生の僕がフレイヤさんのお父さんに会うなんて、どんな顔したらいいか分からないよ……と落ち込んでいると、調子が優れないと勘違いしたフレイヤさんが僕を抱き抱え、そのまま部屋の外に出て廊下を歩き大広間に向かい始めたのである。
周りの視線が、痛い。
「フレイヤさん、僕ひとりで歩ける」
「いいからじっとしていなさい」
「はい……」
このやりとり、なんか前もやった気がする。
お城の執事さんや軍人さんに見られてる。ああヒソヒソされてる。これアレだ。異世界人ごときが魔祓い師様の手を煩わせてるんじゃねえよ的なアレだ。
恥ずかしくて周りを見れなくなり、フレイヤさんの首元に顔を埋めて、一刻も早く到着してくれと祈った。
——ガチャ、キィィー
扉を開く音が聞こえて、顔を上げた。
ようやく着いたと分かりフレイヤさんの腕から降りようとするも、彼のとてつもない腕力で封じ込められ叶わなかった。
「遅い。何をしていたフレイヤ。私たちはお前に呼ばれて集まったのだが?」
重厚感のある声に緊張が走る。見ると、大きなテーブルの上座に男性二人が、イザベラとパネースさんも、それぞれ隣に男前を携えて座っていた。
どれが誰だろう。
イザベラとパネースさん以外の人物が分からないけど、皆一様に驚いた顔をしていた。もしかして遅刻しちゃったのかな。
「まあまあいいじゃないかギュスター。フレイヤも初めての側仕えで色々と気持ちが弾んでいるんだろ。して、その腕の中の小さな君がフレイヤの側仕えかな?」
どこかフレイヤさんに似た柔らかい雰囲気のイケメンが、隣に座る精悍な面構えの大きな男前をたしなめ、僕の方に声をかけてきた。
「あ、は、はい。半間晴臣と申します。どうぞ、よろしくお願いします……、っ、ねぇ、ちょっと、フレイヤさんおろしてよ」
きちんとした姿勢で挨拶がしたかったのに、身を捻るもびくともせず、フレイヤさんにコソッと苦言を呈す。
「仕方ないね。それでは私たちも席に着こう」
ああ、やっと解放され——
「って、僕一人で座れるから」
席に着いたフレイヤさんの膝の上に座らされ、その様子を見た全員が目を点にしている。当たり前だ。こんなちゃんとした場でお膝抱っこなんて行儀悪い。
しかしフレイヤさんは口ごたえしてきた。
「ダメだ。ハルオミ、君は少し疲れているだろう? 顔を見れば分かる。一人で座って倒れたらどうするんだい?」
「倒れないよ。僕疲れてないもの」
いや疲れてるけど、すっごく疲れたけど、それは皆に注目されるから恥ずかしいやら居心地が悪いやらで気疲れしただけだ。
「フ、フレイヤ兄さん……?」
「どうしたビェラ」
イザベラの隣に座っている爽やかな好青年が絶句したような顔でフレイヤさんを呼んだかと思うと、目を凝らして疑るように言った。
「ほんとに、ほんとうにフレイヤ兄さんかい……?」
「間違いなく私だが、どうかしたのかい?」
フレイヤさんが答えると、次はパネースさんの隣に座る凛々しい感じの男前がありえないといった表情で言う。
「いやお前、いやいやいや」
「? ニエルド兄さんまで何だ。私の顔に何か付いているのかい? ハルオミ、取っておくれ」
フレイヤさんが僕に向かって聞いてきたので、「ううん大丈夫。何にも付いてないよ。でもココとココに傷がある。痛くない?」と美しい顔を指で確かめながら答えてみた。
「ちっとも痛くないよ。ハルオミは優しいね」
優しく笑いかけてくれる彼のおかげで、少しだけ緊張が和らぐ。しかし、直後のどよめきに戸惑いを隠せなくなる。
「フレイヤ兄さんが、笑った……」
「我が子にこんなこと言うのもおかしいけれど、なんだか奇妙な感じだ。ね、ギュスター……」
「ああ、実に不気味だ」
「フレイヤお前、側仕えを置いてから機嫌が良いとは思っていたけどよ。まさか生きているうちにお前の笑みが見れるなんてな……兄として感慨深いぜ」
なんだか、みんな口を揃えてフレイヤさんが普段笑わないみたいに言う。彼はわりと感情表現豊かだと思うけどな。
「ハルオミと言ったな。私はフレイヤの父であり、現在は名ばかりの当主、ギュスター・ヴィーホットだ。以後よろしく頼む」
低音の声が僕を呼び、自己紹介をしてくれた。遅刻したことを怒られなくて安心した。
「は……はい。よろしく、お願いします」
「俺は母のムーサ・ヴィーホットだ」
「ハルオミです。よろしくお願いします」
ギュスター様もムーサ様も、こんな大きな息子がいるとは思えないくらい若々しい。ギュスター様はちょっと貫禄あるけど、ムーサ様なんてさわやか大学生じゃん。
そしてやはり、この場に女性は居なかった。ムーサ様もおそらく雌雄同体なのだろう。中性的といえば中性的だけど、明らかに男性と分かる声と体格をしている。
「俺はフレイヤの兄のニエルド・ヴィーホットだ、よろしく頼む。しかし驚いたな、あのフレイヤがまさかこんなに柔和な人間になろうとは」
そんなにこのフレイヤさん変かな?
「僕はビェラ・ヴィーホット。いつもイザベラと仲良くしてくれてありがとうね。今日も一日中、君が小動物みたいに可愛いって話をたくさん聞いたよ」
「なっ……おい、それは言うなって言っただろ!」
イザベラが頬を赤らめて反論する。そっちこそ小動物みたいで可愛い。
視線が痛い。
夜になった。僕は食事会場である大広間に向かっている。
今日は一日中フレイヤさんとお部屋でのんびり過ごした。昨日は寝るのが遅かったから夜伽ができなかったけど、今日は一日中チャンスがあるので僕はフレイヤさんを何度か寝台で襲ってみたりした。だけど結果は惨敗。
いつものように抱き込まれて頬や瞼を撫でられているうちにお昼寝してしまった。不覚。イザベラやパネースさんはきっと側仕えとしての役目をきちんと果たしているだろうに、その間僕はなんとぐっすり眠っていたのだ。
劣等生の僕がフレイヤさんのお父さんに会うなんて、どんな顔したらいいか分からないよ……と落ち込んでいると、調子が優れないと勘違いしたフレイヤさんが僕を抱き抱え、そのまま部屋の外に出て廊下を歩き大広間に向かい始めたのである。
周りの視線が、痛い。
「フレイヤさん、僕ひとりで歩ける」
「いいからじっとしていなさい」
「はい……」
このやりとり、なんか前もやった気がする。
お城の執事さんや軍人さんに見られてる。ああヒソヒソされてる。これアレだ。異世界人ごときが魔祓い師様の手を煩わせてるんじゃねえよ的なアレだ。
恥ずかしくて周りを見れなくなり、フレイヤさんの首元に顔を埋めて、一刻も早く到着してくれと祈った。
——ガチャ、キィィー
扉を開く音が聞こえて、顔を上げた。
ようやく着いたと分かりフレイヤさんの腕から降りようとするも、彼のとてつもない腕力で封じ込められ叶わなかった。
「遅い。何をしていたフレイヤ。私たちはお前に呼ばれて集まったのだが?」
重厚感のある声に緊張が走る。見ると、大きなテーブルの上座に男性二人が、イザベラとパネースさんも、それぞれ隣に男前を携えて座っていた。
どれが誰だろう。
イザベラとパネースさん以外の人物が分からないけど、皆一様に驚いた顔をしていた。もしかして遅刻しちゃったのかな。
「まあまあいいじゃないかギュスター。フレイヤも初めての側仕えで色々と気持ちが弾んでいるんだろ。して、その腕の中の小さな君がフレイヤの側仕えかな?」
どこかフレイヤさんに似た柔らかい雰囲気のイケメンが、隣に座る精悍な面構えの大きな男前をたしなめ、僕の方に声をかけてきた。
「あ、は、はい。半間晴臣と申します。どうぞ、よろしくお願いします……、っ、ねぇ、ちょっと、フレイヤさんおろしてよ」
きちんとした姿勢で挨拶がしたかったのに、身を捻るもびくともせず、フレイヤさんにコソッと苦言を呈す。
「仕方ないね。それでは私たちも席に着こう」
ああ、やっと解放され——
「って、僕一人で座れるから」
席に着いたフレイヤさんの膝の上に座らされ、その様子を見た全員が目を点にしている。当たり前だ。こんなちゃんとした場でお膝抱っこなんて行儀悪い。
しかしフレイヤさんは口ごたえしてきた。
「ダメだ。ハルオミ、君は少し疲れているだろう? 顔を見れば分かる。一人で座って倒れたらどうするんだい?」
「倒れないよ。僕疲れてないもの」
いや疲れてるけど、すっごく疲れたけど、それは皆に注目されるから恥ずかしいやら居心地が悪いやらで気疲れしただけだ。
「フ、フレイヤ兄さん……?」
「どうしたビェラ」
イザベラの隣に座っている爽やかな好青年が絶句したような顔でフレイヤさんを呼んだかと思うと、目を凝らして疑るように言った。
「ほんとに、ほんとうにフレイヤ兄さんかい……?」
「間違いなく私だが、どうかしたのかい?」
フレイヤさんが答えると、次はパネースさんの隣に座る凛々しい感じの男前がありえないといった表情で言う。
「いやお前、いやいやいや」
「? ニエルド兄さんまで何だ。私の顔に何か付いているのかい? ハルオミ、取っておくれ」
フレイヤさんが僕に向かって聞いてきたので、「ううん大丈夫。何にも付いてないよ。でもココとココに傷がある。痛くない?」と美しい顔を指で確かめながら答えてみた。
「ちっとも痛くないよ。ハルオミは優しいね」
優しく笑いかけてくれる彼のおかげで、少しだけ緊張が和らぐ。しかし、直後のどよめきに戸惑いを隠せなくなる。
「フレイヤ兄さんが、笑った……」
「我が子にこんなこと言うのもおかしいけれど、なんだか奇妙な感じだ。ね、ギュスター……」
「ああ、実に不気味だ」
「フレイヤお前、側仕えを置いてから機嫌が良いとは思っていたけどよ。まさか生きているうちにお前の笑みが見れるなんてな……兄として感慨深いぜ」
なんだか、みんな口を揃えてフレイヤさんが普段笑わないみたいに言う。彼はわりと感情表現豊かだと思うけどな。
「ハルオミと言ったな。私はフレイヤの父であり、現在は名ばかりの当主、ギュスター・ヴィーホットだ。以後よろしく頼む」
低音の声が僕を呼び、自己紹介をしてくれた。遅刻したことを怒られなくて安心した。
「は……はい。よろしく、お願いします」
「俺は母のムーサ・ヴィーホットだ」
「ハルオミです。よろしくお願いします」
ギュスター様もムーサ様も、こんな大きな息子がいるとは思えないくらい若々しい。ギュスター様はちょっと貫禄あるけど、ムーサ様なんてさわやか大学生じゃん。
そしてやはり、この場に女性は居なかった。ムーサ様もおそらく雌雄同体なのだろう。中性的といえば中性的だけど、明らかに男性と分かる声と体格をしている。
「俺はフレイヤの兄のニエルド・ヴィーホットだ、よろしく頼む。しかし驚いたな、あのフレイヤがまさかこんなに柔和な人間になろうとは」
そんなにこのフレイヤさん変かな?
「僕はビェラ・ヴィーホット。いつもイザベラと仲良くしてくれてありがとうね。今日も一日中、君が小動物みたいに可愛いって話をたくさん聞いたよ」
「なっ……おい、それは言うなって言っただろ!」
イザベラが頬を赤らめて反論する。そっちこそ小動物みたいで可愛い。
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