【完結】眠れぬ異界の少年、祓魔師の愛に微睡む

丑三とき

文字の大きさ
31 / 176
東の祓魔師と側仕えの少年

30.過保護な朝

しおりを挟む

————————Side Haruomi———————

◆◆翌朝

「ハルオミ、まだ眠たいんじゃないのかい? まだ朝は早い、好きなだけ眠りなさい」

「ハルオミ、君の肌はなんて繊細なんだろうね」

「指も細い。こんな小さな手で魔法も使わず料理をしていたのかい? 今日は私が用意するから君は座っていなさい」

「膝の上においで。食べさせてあげよう」

「ハルオミ、こっちへおいで。君の綺麗な黒髪を梳かしてあげよう」


フレイヤさんに朝から世話を焼かれている。
本来であればフレイヤさんはすでに仕事に行っている時間。なぜ一緒にのんびり過ごしているのかというと、彼ら三兄弟は昨日の応援でいわゆる"残業"的なことをしたので、今日は"有給"的なアレらしい。ちゃんと休みが取れるなんてホワイトだ。

ホワイトたる所以は"フリーの魔祓い師"の存在が関係しているとのことだ。

フレイヤさん達のような屋敷に住む魔祓い師はいわゆる国家公務員のようなもので、一定の期間は国の命令で働いた後、屋敷を出てフリーになれる。

フレイヤさんのお父さんであるギュスター様などのようなフリーの魔祓い師たちは、国家公務員の穴埋め要員を担ってくれることもあるそうだ。つまり今日の三兄弟の業務はギュスター様たちが代役を務めている。従ってフレイヤさん、ニエルド様、ビェラ様は本日、各々有給休暇を謳歌しているらしい。


そして僕はなぜかフレイヤさんに世話を焼かれているのだった。

まずフレイヤさんが魔法で一瞬で作った朝ごはんを食べた。

あのたくさんの食材はウラーさんではなくフレイヤさん自らが使っているようだ。「ハルオミの料理を食べ後だと、なんだかおいしくないね」なんて言うけど、僕は彼の料理が好きだ。

「ううん、とっても美味しいよ? ありがとう」

「そうかい? 今までは腹に入れば何でもいいと思っていたけれど、君といると食事がこんなにも特別な時間になるんだね」

僕だって、フレイヤさんといるといつも特別な時間が流れている。それは多分フレイヤさんから漂う特別な香りが原因だと思う。

この世界に来てからはたっぷり眠れているので、フレイヤさんに触れるだけで速攻夢の中なんてことは無くなった。けれどそれでもきちんと眠気が来るのが非常に嬉しい。でも不思議だ。なんで彼の匂いってこんなに入眠効果があるんだろう。

あなたの匂いで眠たくなるので嗅がせてください、とは言えないので、僕はいまだにひっそりとフレイヤアロマを楽しんでいるのだ。



ご飯を食べ終えたら髪を梳かされ着替えさせられた。

過保護な親でも18歳の男子にここまでしないだろうというくらい、フレイヤさんは世話を焼くのが好きだ。

最初はおどろいたけど、僕はされるがまま、流されるままに世話を焼かれることにした。



さて、昨日のことだけれど。
「フレイヤさんを何とかする」という、とんでもなく無責任で抽象的で楽観的なことを言ってしまったが、具体的にどうしたらいいかなんてことは全く1ミリも分からない。

フレイヤさんもそれは同じようだ。なぜならば、彼はステージ5の魔物を討伐してからこちら、5年間それを誰にも相談していなかったからだ。

「まずは父らに相談してみようと思う」

ということで、本日の夜急遽家族を集めて全てを打ち明けることにしたらしい。

伝説級のステージ5を討伐したとあらばそれ相応の事態になるに違いない。どうしよう、フレイヤさん屋敷から追放されたりしたら。それならまだいいんだ。魔物になる前に例えば彼を殺す……とか、そういうことになったら……いや、絶対にそんなことにはならないように僕が……

無理だ。僕にできることが何にも浮かばない。

それもそうだ。たった数日前にこの世界に来た何にも知らない異界人なのだから。

「ハルオミ、眉間に皺が寄っている。なにか難しいことでも考えているのかい?」

僕に服を着せたフレイヤさんが眉間を指ですりすりとさすってきた。

「う、ううん、何でもない。えっと……フレイヤさんのお父さん、どんな方なのかなあって考えてた。今日フレイヤさんたちの代役を務めているのは、お父さんと、その御兄弟、とか?」

緊張を誤魔化すために言う。
一旦別のことを考えて落ち着こう。

「父に兄弟は居ないよ。今日行っているのは、父と、祖父と、曽祖父だ。高祖父にもお願いしたんだけどね、高祖母とデートの予定が入っていたらしく断られたよ。まあ父達は皆強いから、3人で充分だろう」



ん?

父、祖父、曽祖父……
ちょっと待って。一旦整理しよう。


父=おとうさん
祖父=おじいちゃん
曽祖父=ひいおじいちゃん、
高祖父=ひいひいおじいちゃん?


「……フレイヤさんの家系は、長生きなんですね」

フレイヤさんは首を傾げた。

「そうかい? 特に普通だと思うけど」


………あー、なるほど、呼び方が僕の世界と違うのか…な?

「ちなみに……皆さんおいくつですか?」

「どうだったかな。父は50代半ばだった気がするな。祖父は70代、曽祖父は100手前で、高祖父は120くらいだったと思う。みんなまだまだ若手だろう?」

「………この世界の人間の寿命って何歳ですか」

「だいたい300歳くらいだ。ハルオミのところとは違うのかい?」

……これまでも世界の違いを実感することはたくさんあった。魔法が使えたりとか魔物がいたりとか。

寿命まで違うとは。

「僕のところは、90歳生きれば長い方かなと。100歳の人なんて実際に会ったことないし……」

「えらく短命なんだね。、っ!、も、もしかして、ハルオミもそうなのかい?」

「もちろん」

フレイヤさんは何か考え込んだ。
僕も少し切ない気持ちになった。
しょうがない。寿命が違うなら、僕の方がフレイヤさんの何百年も前に先立つのだから。

「もし私の魔力をハルオミに与えられるようになって、その時ハルオミも気が変わっていなかったら、私は何が何でも君に魔力を与えなければならないことになった」

フレイヤさんは意を決したように呟いた。

「僕の気が変わることは無いけど、どうしてそう思うの?」

「異世界の者に魔力を与えれば、その人間はこの世界の人間と同じ体質になる。つまり君に魔力が宿り、寿命も私たちと同じになる」

「え。そう……なの?」

「ああ。言ってなかったかな?」

フレイヤさん、やっぱり報連相がなってない。

まあでも、フレイヤさんの呪いを解いてここに居続けるためなら何でも受け入れるって決めたし、そんな大したことじゃないか。



この時の僕は、とてもとても大切なことを忘れていたことに気が付かなかった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

ユッキー
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。 ✻✻✻ 2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36) 低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。 諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。 冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。 その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。 語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

処理中です...