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東の祓魔師と側仕えの少年
30.過保護な朝
しおりを挟む————————Side Haruomi———————
◆◆翌朝
「ハルオミ、まだ眠たいんじゃないのかい? まだ朝は早い、好きなだけ眠りなさい」
「ハルオミ、君の肌はなんて繊細なんだろうね」
「指も細い。こんな小さな手で魔法も使わず料理をしていたのかい? 今日は私が用意するから君は座っていなさい」
「膝の上においで。食べさせてあげよう」
「ハルオミ、こっちへおいで。君の綺麗な黒髪を梳かしてあげよう」
フレイヤさんに朝から世話を焼かれている。
本来であればフレイヤさんはすでに仕事に行っている時間。なぜ一緒にのんびり過ごしているのかというと、彼ら三兄弟は昨日の応援でいわゆる"残業"的なことをしたので、今日は"有給"的なアレらしい。ちゃんと休みが取れるなんてホワイトだ。
ホワイトたる所以は"フリーの魔祓い師"の存在が関係しているとのことだ。
フレイヤさん達のような屋敷に住む魔祓い師はいわゆる国家公務員のようなもので、一定の期間は国の命令で働いた後、屋敷を出てフリーになれる。
フレイヤさんのお父さんであるギュスター様などのようなフリーの魔祓い師たちは、国家公務員の穴埋め要員を担ってくれることもあるそうだ。つまり今日の三兄弟の業務はギュスター様たちが代役を務めている。従ってフレイヤさん、ニエルド様、ビェラ様は本日、各々有給休暇を謳歌しているらしい。
そして僕はなぜかフレイヤさんに世話を焼かれているのだった。
まずフレイヤさんが魔法で一瞬で作った朝ごはんを食べた。
あのたくさんの食材はウラーさんではなくフレイヤさん自らが使っているようだ。「ハルオミの料理を食べ後だと、なんだかおいしくないね」なんて言うけど、僕は彼の料理が好きだ。
「ううん、とっても美味しいよ? ありがとう」
「そうかい? 今までは腹に入れば何でもいいと思っていたけれど、君といると食事がこんなにも特別な時間になるんだね」
僕だって、フレイヤさんといるといつも特別な時間が流れている。それは多分フレイヤさんから漂う特別な香りが原因だと思う。
この世界に来てからはたっぷり眠れているので、フレイヤさんに触れるだけで速攻夢の中なんてことは無くなった。けれどそれでもきちんと眠気が来るのが非常に嬉しい。でも不思議だ。なんで彼の匂いってこんなに入眠効果があるんだろう。
あなたの匂いで眠たくなるので嗅がせてください、とは言えないので、僕はいまだにひっそりとフレイヤアロマを楽しんでいるのだ。
ご飯を食べ終えたら髪を梳かされ着替えさせられた。
過保護な親でも18歳の男子にここまでしないだろうというくらい、フレイヤさんは世話を焼くのが好きだ。
最初はおどろいたけど、僕はされるがまま、流されるままに世話を焼かれることにした。
さて、昨日のことだけれど。
「フレイヤさんを何とかする」という、とんでもなく無責任で抽象的で楽観的なことを言ってしまったが、具体的にどうしたらいいかなんてことは全く1ミリも分からない。
フレイヤさんもそれは同じようだ。なぜならば、彼はステージ5の魔物を討伐してからこちら、5年間それを誰にも相談していなかったからだ。
「まずは父らに相談してみようと思う」
ということで、本日の夜急遽家族を集めて全てを打ち明けることにしたらしい。
伝説級のステージ5を討伐したとあらばそれ相応の事態になるに違いない。どうしよう、フレイヤさん屋敷から追放されたりしたら。それならまだいいんだ。魔物になる前に例えば彼を殺す……とか、そういうことになったら……いや、絶対にそんなことにはならないように僕が……
無理だ。僕にできることが何にも浮かばない。
それもそうだ。たった数日前にこの世界に来た何にも知らない異界人なのだから。
「ハルオミ、眉間に皺が寄っている。なにか難しいことでも考えているのかい?」
僕に服を着せたフレイヤさんが眉間を指ですりすりとさすってきた。
「う、ううん、何でもない。えっと……フレイヤさんのお父さん、どんな方なのかなあって考えてた。今日フレイヤさんたちの代役を務めているのは、お父さんと、その御兄弟、とか?」
緊張を誤魔化すために言う。
一旦別のことを考えて落ち着こう。
「父に兄弟は居ないよ。今日行っているのは、父と、祖父と、曽祖父だ。高祖父にもお願いしたんだけどね、高祖母とデートの予定が入っていたらしく断られたよ。まあ父達は皆強いから、3人で充分だろう」
ん?
父、祖父、曽祖父……
ちょっと待って。一旦整理しよう。
父=おとうさん
祖父=おじいちゃん
曽祖父=ひいおじいちゃん、
高祖父=ひいひいおじいちゃん?
「……フレイヤさんの家系は、長生きなんですね」
フレイヤさんは首を傾げた。
「そうかい? 特に普通だと思うけど」
………あー、なるほど、呼び方が僕の世界と違うのか…な?
「ちなみに……皆さんおいくつですか?」
「どうだったかな。父は50代半ばだった気がするな。祖父は70代、曽祖父は100手前で、高祖父は120くらいだったと思う。みんなまだまだ若手だろう?」
「………この世界の人間の寿命って何歳ですか」
「だいたい300歳くらいだ。ハルオミのところとは違うのかい?」
……これまでも世界の違いを実感することはたくさんあった。魔法が使えたりとか魔物がいたりとか。
寿命まで違うとは。
「僕のところは、90歳生きれば長い方かなと。100歳の人なんて実際に会ったことないし……」
「えらく短命なんだね。、っ!、も、もしかして、ハルオミもそうなのかい?」
「もちろん」
フレイヤさんは何か考え込んだ。
僕も少し切ない気持ちになった。
しょうがない。寿命が違うなら、僕の方がフレイヤさんの何百年も前に先立つのだから。
「もし私の魔力をハルオミに与えられるようになって、その時ハルオミも気が変わっていなかったら、私は何が何でも君に魔力を与えなければならないことになった」
フレイヤさんは意を決したように呟いた。
「僕の気が変わることは無いけど、どうしてそう思うの?」
「異世界の者に魔力を与えれば、その人間はこの世界の人間と同じ体質になる。つまり君に魔力が宿り、寿命も私たちと同じになる」
「え。そう……なの?」
「ああ。言ってなかったかな?」
フレイヤさん、やっぱり報連相がなってない。
まあでも、フレイヤさんの呪いを解いてここに居続けるためなら何でも受け入れるって決めたし、そんな大したことじゃないか。
この時の僕は、とてもとても大切なことを忘れていたことに気が付かなかった。
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